ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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新章開幕!! しかし、目覚めた先は──


チャプター3「恐火が凶禍となる刻」
第三十九話:水に流される良い男


「う、うーん、ここは……」

 

 

 

 ラグナ・オークロックが目を覚ましたのは白い砂浜であった。

 ざざーん、と波を打つ音が何処からともなく聴こえてくる。

 全身がバラバラになったような痛みを感じながら、ラグナは──ごろん、と空を仰ぐ。

 

「ねーねー、おにーさん、だいじょーぶ?」

「んぁ?」

 

 目の前に映ったのは──たわわに実った大きな果実。

 そして、ずいと下がると丸っこい碧目がラグナの顔を見つめていた。

 左右で結ったブロンドの髪。そしてこんがりと焼けた小麦色の肌。

 

(……んだ? おっぱいの天使が……最後に俺を迎えに来てくれたのか……?)

 

 まとまらない思考をまとめながら、ラグナは起き上がる。

 そして──全身の痛みでこれが現実だと察した。

 

「あ、起きた! 良かったぁ!」

 

 ラグナを覗き込んでいたのは見知らぬ少女。

 たわわな胸を赤い布で縛り、その上から袖の無い薄手のジャケットのようなものを羽織っている。

 だが、そんな軽装とは裏腹に、何やら大掛かりな荷物を背負っている。

 ぱちくり、とラグナは目を瞬かせた。身長は──アジサイと然程変わりない。そして幼い声色から、まだまだ子供なのではないか、と判断する。

 だが、とにもかくにもラグナは今自分の置かれている状況を理解する必要があった。

 当然だが──傍には仲間らしき影もない。

 穏やかで長閑な海岸だけが広がっている。

 

 

 

「確か、どうしてこうなったのかと言うと──」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 ──それは、丸一日前に遡る。

 

 

 

 黒い飛竜を追い、旅を続けるラグナ一行。

 彼らは、とにかく南に歩を進めるため、港町から出発した客船に乗り込んだのである。

 その行く先は──

 

「──港湾都市ポートヴァイン。ハンターたちも多く立ち寄り、更に船でいろんな場所に行ける──まさに拠点にはうってつけの場所です」

「詳しいんだな」

「詳しいも何も──実は、妹がポートヴァインに住んでいるんです」

 

 ラグナとマタビは顔を見合わせた。

 アジサイから家族の話を聞くのは初めてだったからである。

 客室に荷物を下ろし、大剣を立てかけたラグナは「続きを聞こうじゃねえか」とアジサイに促した。

 

「……どうしたんですか、そんな顔をして」

「いや、お前から妹の事なんて聞くとは思わなくってよ」

「大分年が離れていますけどね。確か6つくらい下で」

「んだよガキじゃねーか」

「ええガキですよ。絶対手ェ出さないでくださいね」

「分かってるって」

「ショージキ、ラグナさんに妹は会わせたくないんですが……紹介しないというのも変ですし」

「何でだよケチな奴だな」

「良いから約束してくださいね? 約束」

 

 目を赤く光らせたアジサイが詰め寄ってくる。流石のラグナもその辺りは弁えている。

 彼の好みはあくまでも年上のお姉さんなのだ──それをアジサイに言ったが最期、彼女の得物の双剣が脳天に飛んでいくのであるが。

 

「……飛竜祭が終わったら、元々ポートヴァインに行くつもりだったんです、あの子一人では色々心配なので」

「そりゃあ年の離れた妹が一人暮らししてるとなるとな」

「ええ。どっかの誰かみたいな悪い男に引っ掛かっていないか心配で」

「へぇーそりゃあ誰だろな」

「オメーの事だろがニャ」

「どっちにしても目的地は決まったな」

 

 ふかふかのベッドに寝そべり、ラグナはポートヴァインでやるべきことを思い描く。

 客船の費用は軽く数10万zは超えていたが──それでもはした金に感じる程度には今のラグナは懐が温かい。

 そうなれば後は、全ハンターの夢であるマイハウスを拵えよう、と考える。

 飛竜祭の一件だけでラグナの手元にはそれが実現できるだけの資産が溜まっていたのだ。

 

(旅をするにしたって、いつでも帰って来れる場所はあった方が良いからな……武器の予備を置いたり、素材を置いたり、色々役にたつだろ)

 

「さぁーてと、そうと決まればポートヴァインまでゆっくり休むとしようぜ」

「あっちに遊技場があるらしーのニャ! 俺様、スロットやってくるのニャー!」

「お小遣い全部スるんじゃねーぞー」

「全くマタビさんは相変わらずですね……」

 

 アジサイは思わず、全財産を管理している小型金庫の中身を確認した。

 ラグナとマタビに触らせると風俗、あるいは賭博に全額溶かしかねないということでパーティの財布は実質彼女が預かっているのだ。

 

「流石にパーティの金を勝手に持ち出さなくなったのは成長でしょうか」

「よくもまあそんなヤツを仲間にしたよなぁ」

「貴方ですよ仲間にしたのは」

 

 呆れながらアジサイは金庫をカバンに仕舞い、鍵を自分のロケットペンダントに格納した。

 普段はこうして、開けられないようになっているのである。

 

「……それじゃあボク──シャワーでも浴びてきますね」

「おっと待てよ。シャワーは後で良いだろ」

「? 何でですか」

 

 後ろからアジサイの蜂のような腰を抱き寄せ、ラグナは自分の膝に座らせた。

 軽い。あの双剣を振り回しているにしては、相も変わらず綿菓子のように軽すぎる。

 年齢も立派な成人のはずなのだが、相変わらず少女と言っても遜色ない見た目をしている所為でどうしても幼い印象を受けてしまう。

 だが──腰に手を這わすと、一転して色っぽい声を漏らした。

 下腹部を指で押さえてやると、その奥にあるものを意識してしまうのか──アジサイは頬を赤らめる。

 

「……えっち。マタビさんが居なくなった瞬間、すぐこれです」

「こないだは散々にしてやられたからな」

「だったら覚えてないとは言わせません。あの後、ゲッソリやつれてたじゃないですか」

「良いかアジサイ。弱った獲物を襲って、勝ったつもりになってるのはド三流だ。今の俺は体力も回復してるし──たっぷり飯も食ってる。こないだとはちげーんだよ」

 

 ラグナはこれでも根に持つ方なのだ。

 自分の発言が悪かったとはいえ、目覚めて早々アジサイに比喩抜きで三日三晩搾り取られたのは彼のプライドを著しく傷つけた。

 

「……怒ってるんですか?」

「怒ってはねえよ? ただ──鬼姫様が屈服するところを見てえだけだ」

「……本当に、サイテーのケダモノです。女の子を犯すことしか頭にないんですね」

 

 インナーを脱がすと、傷だらけの白く華奢な腹が露わになる。

 何度も身体を重ねているとはいえ、素面だと恥じらいはあるのか、アジサイは胸を手で隠した。

 

「んだよ、何度も見てるじゃねえかよ」

「あの──やっぱり、シャワー浴びさせてください。汗臭いかも、ですから」

「良い匂いしかしねえよ」

「……ッ変態」

 

 頬を赤らめ、アジサイは目を逸らした。

 だがそれでも悪い気はしないのか──ラグナの期待を煽るように続けた。

 

「……ラグナさんも一緒に浴びるんです。ダメ、ですか?」

 

 いじらしいお願いに、思わずラグナはアジサイを抱きしめるのだった。

 勿論「一緒にシャワー」で終わるはずがない。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──陽もとっぷりと暮れた頃。

 

 

 

「どッッッわぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 急激な揺れでラグナは目を覚ました。

 同時に、部屋の扉が勢いよく開き──ランタンの中の光蟲が輝いて灯りが点いた。

 入ってきたのは激しく動揺したマタビだった。

 

「大変だニャ、大変だニャ!! ラグナ!!」

「マタビか……何事だよ!?」

 

 起き上がったラグナの上半身は何も身に纏っていなかったが、最早そんなことは些事だと言わんばかりにマタビは叫ぶ。

 

「船の甲板に──モンスターが上がって来やがったのニャ!! デカい海竜種のモンスターだニャ!!」

「何ィ!?」

 

 ラグナはベッドから降りる。

 半身だけインナー姿の彼は、すぐさま上のインナーを羽織り、防具を身に着けてボーンブレイドに手を掛けた。

 こんな事もあろうかと、万が一の時の備えは万全だ。回復薬を始めとした狩猟道具もポーチに入っている。

 しかし、ベッドから起きてこないアジサイを不審に思ったのか、マタビは叫ぶ。

 

「ちょっと、何でアジサイは寝てやがんのニャ!! まさか、まーた酒をしこたま飲んだのかニャ!?」

「いや、ちげーんだよ……それが──」

 

 ラグナはシーツを引き上げて、アジサイの身体を隠してやった。

 激しい行為を物語るように白い肌にはたっぷりと虫刺されの痕が出来ている。

 

「……ちょっと、激しく抱き潰しちまって……気絶しちまってる……」

「オメーの所為かニャーッッッ!?」

「しかもモンスターが出てんのは甲板だろ? あんまり大人数で出て、うっかり誰か落っこちても助けてやれねーからな」

「そりゃあそうかもしれねーけどニャ……」

 

 結局、アジサイを寝かせたまま部屋を出るラグナ。

 途中で何人も逃げ惑う客に出会ったが、彼らはラグナを見るなり「早く!! 甲板へ!!」と叫ぶ。

 

「航路は安全だったはずだ。大型モンスターの生息域からは大きく外れている」

「何でこうなったのか分かんねーのニャ……!!」

「モンスターの生息域が何らかの理由で変わったんだろうな」

 

 ラグナが扉を開き、甲板に足を踏み入れた。

 外は鉛色の雲が覆っており、雨が激しく降りしきっている。

 そこで、船員たちに咆哮するのは──襟首周りに黄色い海綿体を大きく膨らませた竜だった。

 

「ハンターが来たぞ!! あのメラルーの言うとおりだった!!」

「下がれ下がれーッ!!」

 

 ラグナを見るなり、最低限の武器で応戦していた勇敢な船員たちは皆逃げていく。

 

「おらおら、飛竜落としのラグナ様の御出ましだ!!」

 

 ラグナとしても後は任せろと言わんばかりに前に出るのだった。大型モンスターの相手はハンターの仕事である。

 

「──ロアルドロスか……ッ!! たまに居るんだよ、激しい海流の流れで沖まで流されてきちまうヤツがな!!」

「ルルルゴオオオオオオオオオオオオオオウッ!!」

 

 

 

     【海竜種”水獣”ロアルドロス】

 

 

 

 海を支配する竜、それこそが海竜種。

 その中でもロアルドロスは半水生の生き物として知られている。

 故にこうして、船に上がり込んで被害を出すこともあるとされているのだ。

 ぶるぶると大きく身体を震わせたロアルドロスに対し、ラグナはボーンブレイドを引き抜いて飛び掛かるのだった──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──その頃、操舵室にて。

 

「折角の航海なのに、甲板に上がり込んじゃったモンスターが居るんですよ~」

「なぁぁぁにィィィ!? やっちまったなァ!?」

 

 操舵輪を握り締めながら操縦士は思いっきり舵を切る。

 モンスターが甲板に上がり込んだならば、思いっきり舵を切って振り落とせば良い。シンプルイズベストな回答だ。

 

 

 

「男は黙って、取舵一杯ッッッ!!」

 

 

 

 ──ただし、甲板の上の人命を著しく軽視していることに目を瞑れば、であるが。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ぎゃあああああああああ!? 何だあああああああああ!?」

 

 

 

 思いっきりラグナが跳び出した矢先に船が大きく傾いた。

 体重が重いロアルドロスは自身の滑りで滑り落ち、柵を突き破って海へと落ちていく。

 問題は、そのロアルドロスにラグナが跳びかかっていたことであった。

 エリアルスタイルはモンスターに飛び乗って始動する。従って、ラグナも諸共に海へ落ちていくわけで──

 

「ラグナーッッッ!?」

「クッソ!! 落ちて堪るかよ!!」

 

 すかさずラグナはフックスリンガーを船の柵に引っかけようとする。

 だが、雨風でフックスリンガーは大きく煽られて虚しく空を切った。

 ラグナの身体は──真っ暗な海の中へとそのまま吸い込まれていったのである。

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