──ディシプリンの依頼を受けた後、ラグナ達は作戦会議の為に宿へ止まる事になった。
本来、飛竜祭の参加ハンターは依頼人であるディシプリンから宿泊費の手当が出ることになっている。
しかし、まだラグナは正式な参加者ではないので、宿泊費を払わなければならない。
故に彼は──町の郊外にキャンプを張り、携帯コンロで火を焚いて生肉を焼いていた。
「ウルトラ上手に焼けました~♪」
こんがり焼けた肉を頬張るラグナに、アジサイは呆れた視線を送る。
ラグナを1人にしておくと何をしでかすか分からないので、付いてきたのだ。
「何で娼館でお金を使いきっちゃったんですか、貴方って人は……」
「まあまあ良いじゃねえか、星空の下でキャンプってロマンあふれるだろ?」
「ったく、シケてやがんのニャ。寒空が毛皮に染みるのニャ」
「元はと言えばテメーが俺の財布盗んだからだろが!!」
「それでラグナさん、頼まれていた狩猟道具買ってきましたよ。スリンガーとか導蟲とか」
「おう、サンキュー」
「お金返してくださいね、後で」
「しかも女の子に道具買わせるとか、とんだヒモ野郎だニャ」
「オメーが金盗まなきゃこんな事になってねーんだよ!!」
ぐにぐに、とマタビの頬をゴムのように引っ張るラグナ。
その後ろでは心底呆れた様子でアジサイが肩を竦めるのだった。
「それで? アクラ・ヴァシムとはいったい何なんですか? ボクの住んでいた地域には居ないモンスターです」
「全身を結晶に包んだ甲殻種だ。ダイミョウザザミやショウグンギザミと同じグループだな」
「あの蟹と同じですか」
「おっとナメたらダメだぜ。あいつの装甲の結晶は、とてつもなく硬い上に属性も状態異常も通さねえ。罠での捕獲も不可能だ」
「そんなに」
「ハンマーや狩猟笛なら結晶を簡単に破壊出来るんだが……結晶を剥いだ後の甲殻は打撃武器では破壊出来ず、今度は剣で傷をつけなきゃいけねえ」
「え、じゃあ、それって二つの種類の近接武器を使い分けなきゃいけないってことですか」
結晶を破壊出来るのはハンマーなどの打撃武器。
そして、甲殻を破壊できるのは大剣などの斬撃武器。
このように、段階によって部位を破壊出来る武器が違うのがアクラ・ヴァシムの攻略を難化させる要因であるとされている。
その上、罠も状態異常も閃光玉も一切受け付けないので、そこらの甲殻種とは段違いに討伐が難しいとされているのだ。
「ってのが、以前までの常識だ。まあ見てろ、何とかする」
「……本当に大丈夫なんですか?」
「今回オマエはサポートに回れ。どの道、俺のテストなんだからな」
不敵に笑みを浮かべるラグナ。しかし──その背後で、更にマタビが不敵な笑みを浮かべていた。
(クククッ!! 笑ってられるのも今のうちだニャ!! 今に痛い目見せてやるのニャ!!)
※※※
その日の晩。
ラグナの隣の寝袋で寝ていたマタビは、するりと起き上がった。
そして、狩猟道具や回復アイテムなど、売れば金になりそうなものを片っ端からかき集め始めたのである。
所詮は盗人で畜生。そこに良心等というものは存在しない。ひと通り換金できそうなものを集めたマタビは──そのまま町の出口たる関所まで向かった。
「ニャハハハッ!! 大量大量──」
「よォ、何処へ行くんだ?」
「へ?」
次の瞬間、マタビの首根っこを掴んだのは──他でもないラグナであった。
彼の顔は笑っていた。目は笑っていなかったが。
「ニャ、ニャニャニャ、どうして俺様の居場所が──」
「オメー、導蟲の効果を知らねえのか?」
マタビのゆらゆら揺れる尻尾、そして足には緑色の光がともっていた。
そして、マタビの走ってきた地面にも同じような緑色の光がずっと付着している。
導蟲は特定の匂いや物質に反応して群がる性質を持つのだ。
「……こんな事もあろうかと、導蟲にオメーの匂いを記憶させておいたんだよ。オメーが何処に逃げようが、痕跡を追えばこうして捕まえられるって寸法だ」
「いやー、これは一時の気の迷いで──」
げ ん こ つ
※※※
──泥濘の湿原。
それは、バラージュから数キロ程離れた場所に位置する巨大な湿地地帯。
エスピナスの主食たるドクガスガエルも数多く生息しており、本来ならば採取に困る事は無い。
しかし──湿原に突如として現れた狼藉者により、生態系は崩れつつあった。
ラグナ達はアクラ・ヴァシムの確認されたポイントの付近に歩を進めていた。
今回は本格的な狩猟ということもあり、アジサイも重装備で全身を固める。
オロミドロの素材で作ったオロミドシリーズだ。猫耳のような装飾品が付いたフードに金属質の鎧と、なかなかあざといデザインであり、ラグナは最初二度見してしまうのだった。
(……俺の好みからは外れるが、フツーに可愛いんだよなコイツ……)
(またボクの事を子供っぽいとか思ってるんだろうな、この人……)
一方のラグナは引き続き、武骨なリオレイアの防具一式。大剣もいつもの骨大剣を担いでいる。
顔も全部隠れてしまうのでパッと見では誰なのか分からなくなってしまうのだった。
「……見てくださいラグナさん。ドスフロギィと、フロギィの群れです」
【鳥竜種”毒狗竜”フロギィ】
【鳥竜種”毒狗竜”ドスフロギィ】
沼地の真ん中を陣取るのは橙色の身体を持つ小型の肉食竜たち。
そして、その中でもひときわ大きなリーダー個体がドスフロギィと呼ばれるボスである。
その中央にはアプトノスと思われる生き物が息絶えており、フロギィ達はそれに群がっている。
小さいと言えど彼らは皆毒を持つ生き物。集団で攻撃してくるので、こんなところで相手取りたくはない、とラグナ達は身を顰める。
「フロギィの毒は気化して滞留する。それを吸って弱った獲物を集団で仕留める。あんまり近付かねえほうがいいんだが──」
「あ! アレを見るニャ! キラキラした結晶だニャ!」
「あんなの、さっきまでありました?」
頭に大きな瘤を作ったマタビが指差した方には──多角形の水色の結晶が生えている。
採掘すると鉱物素材が取れる鉱石のように見えるが、問題はさっきまであの場所には無かったという点だ。
鉱石はこんな短い時間で簡単に取れるものではないのである。
「……オメーら、ビックリして声上げるなよ。来るぞ」
ラグナが言った瞬間であった。
アプトノスを貪っていたドスフロギィの足元から、何かが飛び出して来た。
それは巨大な鋏のようなもので、ドスフロギィの後ろ脚を掴んで離さない。
ギャッ、と悲鳴を上げて藻掻くドスフロギィだったが、あっという間にぬかるんだ地面の中へと引きずり込まれてしまうのだった。
リーダーに起きた異変に対し、フロギィ達は激しく騒ぎ立て始めるが──しばらくして、地面から生えていた水色の水晶が蠢き出す。
「……あれで採取中のハンターを殺したのか」
ぬかるんだ沼地からそれは姿を現した。
黒光りした甲殻に守られた身体、そして長い尾の先から生えた水色の水晶。
巨大な二つの鋏には、先程捕まえたドスフロギィが掴まれていた。
ドスフロギィは既に地中で窒息したのかピクリとも動いておらず、変わり果てた群れのボスを見たフロギィ達は巨大な蠍に向けて仇討と言わんばかりに毒を吐きかける。
しかし、そんなものは尾晶蠍と呼ばれるこのモンスターの甲殻の前では全く意味を成さない。
【甲殻種”尾晶蠍”アクラ・ヴァシム】
「キシャァァァァァァーッッッ!!」
群がるフロギィ達を食事の邪魔と判断したのか、アクラ・ヴァシムは尾から体液を圧縮してフロギィ達に噴きかける。
体液はたちまち冷え固まり、フロギィ達の身体を結晶で覆っていく。
そして、動けなくなった哀れな毒狗竜に対し、とても長く、そして太い尾が鞭のように振り回され、次々に吹き飛ばしていくのだった。
膂力があまりにも違い過ぎる一撃を受けたフロギィ達は次々に息絶えて動かなくなっていく。
そうしてフロギィの群れを蹂躙したアクラ・ヴァシムは、一心不乱にドスフロギィの死骸を貪り始めるのだった。
「いよう、食事中失礼するぜ──ッ!!」
そこに──頭上から襲い掛かるのはラグナだ。