ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第四十二話:脳破壊RTA

 すぐさま客の迷惑にならないように店の外に雪崩れ込むラグナ達。

 

「落ち着いてくださいヒマリ、あの頃の貴女は大概ちんちくりんだったから男の子と誤解されても仕方ないでしょう」

「ねーねは今もちんちくりんの癖に!!」

「おっと喧嘩ですか? 先ずはその無駄に育った脂肪から部位破壊しますか」

「あだだだだ!! ごめん!! 悪かった!! あたしが悪かったからァ!! 許してェ!! もげちゃう!!」

 

 姉に巨峰を鷲掴みにされて折檻され、失意のままに手を地面に着くヒマリ。

 漸く落ち着いたようである。

 

「あたしの敗けだよラグナにーに……あたしはハナから異性として見られてなかったんだね……おっぱいが大きい女の人が好きって噂は悪質なデマだったんだ……」

 

 それについてはデマではないのであるが、言えばアジサイが鬼人化しかねないので口を噤んだ。

 

「ヒマリ。まさか貴女の初恋がラグナさんだったとは……しかし憧れは理解から一番遠い感情と言います。こんなチンカスではなく貴女はもっと真っ当な男と付き合うべきです」

「じゃあ勝ち誇ったように腕を組むのやめないかなァ!?」

「これもう一番の被害者俺だろ」

「もういいもん! しーらないっ! ねーねはにーにと結婚でも何でもすれば良いんだ、絶対式には出てやらないもんねッ!! ふーんっっっ!!」

 

 目を真っ赤に腫らしたヒマリは、製錬炉を始めとした仕事道具を乗せた荷車を引っ張ると、そのまま走り去ってしまうのだった。

 

「……全く。とんだことになりましたね。ヒマリから貴方の事なんて聞いたことありませんでしたよ」

「昔は引っ込み思案だったって言ってたし、案外初恋の事はずっと胸に秘めてたんじゃねーかニャ」

「おいどーすんだよ、折角妹ちゃんと再会できたのにえらいことになっちまったぞ」

「ラグナさんの所為ですよ。本当に罪な男です。……まさか妹まで誑かすなんて」

「あのな、俺ァあの子には一切手を出してねーぞ」

 

 意外そうにアジサイは目を丸くした。

 

「うぇ……どうして? 自分で言うのもなんですが、ボク達別に……付き合ってるってわけではないし──」

「相棒のオメーに心配かけてんのに、俺だけ楽しむわけにはいかねーだろが。それとも何か? 俺はどんだけクズ野郎だって思われてんだ」

「……」

「妹ちゃんには無人島に探されてたところを助けて貰ったんだ。んまあ積もる話もあるし──今日の所はいったん宿を取るか」

「あのっ……」

 

 アジサイがラグナの手を取る。

 そして──潤んだ目で膝を突いた。

 改めて、目の前のラグナが本物であること、そして彼が無事に帰って来てくれたという実感が湧いてきたのである。

 

「本当に……帰ってきてくれてよかったぁ……ボク、ボク、ラグナさんが死んじゃったかと……ッ」

「あれくらいで死なねーよ俺は。でも──心配かけてごめんな」

「そんなこといって、定期的に死にかけてんのニャ」

「うるせーうるせー、助かったから良いだろが」

 

 そうしてひと段落したところで、ラグナ達は手ごろな宿を取った。

 そこでラグナは此処までの経緯を話す。

 そしてポートヴァイン付近の小さな無人島に流された事、そこにはロアルドロスも上陸していたこと、そしてそこでヒマリと協力して狩猟を行った事を詳しく話す。

 アジサイは妹が無人島で特訓をしていたことに成長を感じながらも、運良くそこにラグナが流れ着いたことに運命の悪戯を感じずにはいられなかった。

 

「ヒマリは俺の事をずっと覚えてたんだろうな。俺の顔を覚えていたってのが驚きだが」

「”飛竜落とし”の噂は地域によってまばらのようだからニャ。ポートヴァインだと、割とラグナの噂は広がってるようだニャ。特に、先月の飛竜祭の件もあってニャ」

「ですがヒマリは2ヵ月近く無人島に引きこもっていたはずです。飛竜祭の事は知らないかと。となると──以前からラグナさんの情報を、ずっと細々と集めていたんでしょうね」

「あのナリで執念深い女なのニャ……」

「妹は──あれで思い立ったら一直線です。脇見を振るということを知りません」

「オマエはどうなんだよ」

 

 ラグナは怪訝そうにアジサイを見つめた。

 

「……どう、とは」

「……仲が良さそうだったからよ。不本意だが俺の所為で喧嘩みたいになっちまったし……」

「ボクはラグナさんを手放すつもりはありませんから。たとえ相手がヒマリでも、それは同じです」

 

 彼女はムスッとした。相手が妹とはいえ、否──むしろ妹だからこそラグナを渡したくないのだ。

 

「とはいえ──オニガ島の人間は皆このように教育を受けるんです。”欲しいものは力ずくでも掴み取れ”──と」

「怖ァ……」

「これしきでヒマリが折れるようなら、所詮は淡い初恋だったということです。ラグナさんの事は綺麗サッパリ忘れてまともな男と恋愛してもらった方が良いでしょう」

「酒任せに俺を襲ったヤツが言うと説得力が違うな」

 

 蘇る最悪のセカンドコンタクト。

 アジサイに唐突に過る黒歴史の数々。彼女は腹を捲り上げ、剥ぎ取り用ナイフを突き立てる。

 

「──露と落ち 露と消えにし我が身かな」

「俺が悪かった!! 悪かったからノーモーション辞世の句はやめろ!!」

「スイッチが入ると悪い方向にアクセルをべた踏みするところが姉妹ソックリだニャ……」

 

 数分後。

 落ち着いたアジサイがホットワインを飲んでいるのを見て、ラグナは冷や汗を袖で拭った。

 すっかり機嫌がよくなった彼女に──ラグナは問いかける。

 

「そういやアジサイ。妹ちゃんが住んでる場所、お前知ってるのか?」

「少し前に手紙で教えて貰いました。どうやら──女の子の友達とルームシェアしているようです」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ふーんだ、ふーんだ、いいもんいいもんっ!! にーにも、ねーねも、しーらないっ!!」

 

 ぷんすこと頬を膨らませながらヒマリは2ヵ月ぶりの自宅──三等マイハウスに辿り着く。

 

(……たっぷり愚痴ってやるっ! 慰めてもーらおうっと!)

 

 ヒマリの頭には、ルームシェアしている友人の顔が浮かんだ。

 ポートヴァインで出会い、意気投合して仲良くなったハンター志望の女の子だ。

 一緒に生活し、ついでに彼女の武器もヒマリはしばしば作っていた。

 

(……あれ?)

 

 もう、外はとっぷりと日が暮れつつあった。しかし、家は不用心にも鍵が開いている。

 不審に感じつつも、ヒマリは中に入る。リビングの電気は消えている。そうなると、後はダブルベッドを置いている個室だけなのだが──扉が少し開き、光が漏れている。

 

「……ちょっと! 鍵開いてたんだけど──」

 

 そこに居るはずの友人に注意するべく扉を開けようとして、ヒマリはその手を止めた。

 扉の隙間から──二人、気配がする。思わずヒマリは隙間を覗き見た。

 片方は友人。もう片方は──見知らない若い男だ。

 だが二人共薄着で、オマケに部屋からは──噎せ返るような性臭が漂ってくる。

 

「おい? オマエのルームメイト、確かヒマリちゃんだったっけ? そろそろ帰ってくるんじゃないのかァ?」

 

 見知らぬ男が、友人の腰に手を回した。

 

「いーのよ、あの子は。もうしばらく帰って来ないんじゃなかったっけ? 忘れたけど」

「それにしても悪いヤツだなオマエは。ルームシェア相手が居ない間に、俺を住まわせるなんてな。おかげでたっぷりしけこめたぜ」

「誘ってきたのはどっちなのよ……でも、こんな生活もヒマリが帰ってくるまでの間だし。そうなると、あんたとイチャつける時間が減るわ」

「なあ、そのヒマリって子……どんな子だ?」

「加工屋よ。安く仕事を受けてくれるけど、裏に作業場置いてるから、カンカンカンカン音がうるさいのよ。便利だから一緒に住まわせてたけどさあ」

 

(はァ!? そんな風に思ってたの!? 友人だから格安で仕事受けてたのにその言い草は無いでしょ!?)

 

 とんでもない本音にヒマリは歯ぎしりする。

 友情が音を立てて崩壊していく。

 

「いっそのこと3人で楽しまねえか?」

「は? イヤよ。あんたにはあたしだけ見て貰いたいのッ!!」

「そりゃあ残念」

 

 そう言って友人は──普段、ヒマリが使っているベッドに男を押し倒す。

 間もなく──ベッドが軋む音。嬌声。そして、水音が聞こえてくる。

 重なる二つの影を前にヒマリはへたり込み──そして這うように、マイハウスを出た。

 

(うううううッッッ!! あたしは邪魔物扱いッ!? しかも本人が居ない場所で酷い謂れよう!! オマケにあたしの帰ってくる日忘れちゃうなんて!! しかもあのベッド、あたしも寝るのに……もう使えないじゃんッッッ!!)

 

 仕事道具を乗せた荷台を引っ張り、ヒマリは当てもなく町を彷徨い続ける。

 そうして気が付けば──海岸で膝を抱え、彼女はべそをかいていた。

 そのうち、どうして自分がこんな理不尽な目に遭うのか悲しくなり──海に向かって叫んだ。

 

 

 

「……どいつもこいつも色ボケしてーッッッ!! 二度と帰ってやるもんかーッッッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──次の日の朝。

 ラグナ達はヒマリの住んでいるという三等マイハウスを訪れていた。

 古びたログハウスで、裏には作業場らしきものが置かれている。

 アジサイが玄関の扉をノックすると、若い女が姿を現した。

 

「え? 帰ってないわよ、ヒマリは。てかあの子、帰ってたんだ。てっきりもう1週間くらい先かと……」

「……そうですか」

「てか、貴女ヒマリのお姉さん!? ”鬼姫”アジサイ!? 飛竜祭の活躍、聞いてます! ラオシャンロンを斃したって聞きました!」

「それはボク一人の活躍じゃありませんよ。それより、妹を探してるんでまたの機会に」

 

 アジサイは少し落胆しながら三等マイハウスを後にした。

 外で待っていたラグナとマタビにアジサイは釣果が無かったことを伝える。

 

「ハズレか」

「……ショックで家に帰れなかったとかニャ?」

「心配です。どこに行ったのでしょうか?」

「まあ待てよ。妹ちゃんの行先を探す方法があるぜ。導蟲だ」

 

 ラグナは虫かごに入れた光る蟲たちを見せた。

 彼らは先ず、昨日訪れた酒場の前に立つ。

 そこには車輪の跡が残っていた。そこに光蟲を集らせると痕跡となって光り輝く。

 それを追っていくと──辿り着いたのは、さっきの三等マイハウス。アジサイが首を傾げた。

 友人はヒマリが帰ってきていないと言っていたが──

 

「あれ? 帰ってきてたんでしょうかヒマリ」

「いや待て。痕跡をよく見ろ。一度マイハウスに帰ったようだが、何故か回れ右して出ていってるぜ」

「とにかく追ってみるのニャ!」

 

 痕跡は町から段々外れていき、海辺にまで続いていく。

 そして痕跡を追っていくと──海岸の防波堤に荷台が置かれていた。

 その上で膝を抱えて項垂れる見覚えしかないブロンド髪の少女。

 

「居たっ!! ヒマリですっ!!」

「やっぱ落ち込んでたのか」

「でもなんか変じゃねーかニャ?」

 

 くるり、とヒマリが此方に気付いたのか振り返った。

 その顔は──涙と鼻水塗れだったのである。そしてアジサイの方目掛けて飛び掛かってきたのだ。

 

「ねぇぇぇーねーっ!! アジサイねーねぇぇぇぇぇーっっっ!!」

「うわああ、どうしたんですかヒマリ!?」

「ごめんなざぁぁぁい、帰る場所がぁ、ヒック、無くなっちゃってぇぇぇ!!」

「どうやらあの後、何かあったみてーだな……」

 

 しばらく嗚咽で説明どころではなかったヒマリだったが、しばらくしてぺしょぺしょになりながら事情を話す。 

 かいつまむと──こういう事であった。

 

「ルームシェア相手が彼氏を連れ込んで、寝室をヤリ部屋にしていたァ!?」

「オマケに、本人が居ないのを良い事に文句を言い放題……と。普通に最悪でしたね……人でなしです」

「知らない男が寝たベッドなんて使いたくないよーッ!! てか、何に使われたか想像もしたくないしーッ!!」

「災難極まるのニャ……不憫だニャ……まるで俺様を見てるようだニャ」

「オメーのは大抵自業自得だから良いんだよ」

「コイツもたいてい人でなしだニャ」

「よしよし、ヒマリ。辛かったですね……」

 

 妹の身に降りかかったあ災難に対し、流石に同情心しか湧いてないアジサイであった。

 それはそれとして、ルームシェア相手の友人とやらの顔面に一発お見舞いしてやりたい衝動に駆られる。

 

「うああああん、どーしよぉぉぉ!! あたし、家無いよーッ!! かと言って宿暮らしできるような貯金もないしーッ!!」

 

 年頃の少女がこんな町中で住む場所も無いのはあんまりである。

 色々考えた末に──ラグナは提案する。

 

「よし、妹ちゃんがOKってんなら──しばらく一緒に住むか!」

「え?」

「……ちょっとラグナさん、大丈夫なんですか」

 

 心配そうに言ったアジサイに対し、ラグナは笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

「オマエも妹ちゃんをこのままにしておけねーだろ? 買おうと思ってた特等マイハウス、二人と一匹でも広すぎてな」

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