ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第四十三話:夢のマイハウス

 ──それからしばらくしただろうか。

 ポートヴァインの不動産屋が管理している特等マイハウスに、パーティメンバーを引き連れて堂々と豪奢な飾りつけのマイハウスに入場するのだった。

 

「あ、あのさ、あたし桁数ちゃんと見なかったんだけど、あの物件幾らだったっけ……」

「値段は考えない方が良いですよ、気が遠くなるんで」

「い、いいの、あたしこんな家に住まわせて貰って……?」

 

 姉の言葉にドン引きしながらヒマリが辺りを見渡す。

 見てくれは綺麗な煉瓦仕立ての洋館。中に入れば大きな暖炉とシャンデリア、そしてテーブルの置かれたリビングが出迎える。

 階段を登ると、二階は幾つもの個室の扉がついている。

 果たしてこの家に何人住めるのだろうか、とヒマリは頭を抱えそうになった。

 ラグナとアジサイ、そしてマタビの3人だけでは広すぎるという言葉にも納得する。

 

「ねーね……? 飛竜祭でどんだけ稼いだの……? あたしまだ飛竜祭の記事はちゃんと読めてないんだけど……」

「マガイマガド、アルシュベルドだけで相当な金額を貰っていますが……一番はラオシャンロン討伐への報酬と手当です」

「はぁ!? にーにとねーね、古龍倒したの!?」

「俺ら以外のハンターも相当な数加担したけどな」

 

 それに加えて飛竜祭で討伐したワイバーン達の分も報酬、更に──バラージュ地下で起きた造竜事件の鎮圧の報酬。

 どうやら口止め料も兼ねているらしく、この件の報酬は小切手で支払われた。

 この小切手のおかげで、マイハウスを買っても当面は心配しなくても良い程度の蓄えをラグナ達は手に入れられたのである。

 

「だとしても! これ──もう豪邸だニャーッ!?」

「るっせーな、よく見ろ雰囲気だけで一軒家サイズだぞ。俺の実家はこれの4倍くらいデケーかんな」

「オメーはどんな家に住んでたのニャ……!? 感覚がマヒしてんのニャ……!?」

「予算内にもきっちり収まってるし、部屋も沢山ある。家具まで準備してもらってるたぁ、サービスも良い。立地も完璧だ。ポッキリ一括払いで買うぞ。良いよな?」

 

 有無は言わさない、とばかりにラグナは不動産屋に目配せした。

 驚愕の表情で頷く不動産屋。テーブルには、アジサイの持っていた金庫から取り出された小切手や札束が置かれていた。

 

「お、お買い上げありがとうございまァァァす!!」

 

 ──斯くして、特等マイハウスが手に入ったのである。

 内見(という名の一発購入)が一段落した後、リビングの四角いテーブルに座る各々。

 そして、怪物でも見るような目でラグナを見遣るヒマリ。

 彼の活躍は新聞やギルドのニュースで知っていたが、2ヵ月ほどポートヴァインを留守にしている間に彼が文字通りの「英雄」になっていたことに畏れ多さすら感じていた。

 

「……ねえ、ラグナにーにってさ……ひょっとして文字通りのモンスターハンター……? 凄いのは知ってたけど、此処までじゃなかったよね……?」

「流石にラグナさんの報酬だけでは買えませんよ。ボクの分と合わせて折半です」

「でもそれ、アジサイねーねも同じくらい稼いでるってことだよね……? 何をしたの? 二人共……?」

「俺様の事も忘れんじゃねーのニャ」

「細かい事は良いじゃねえか。夢のマイハウス!  先ずは盛大に荷物を運びこもうじゃねえか」

「アレェ!? 俺様の活躍も細かい事扱いだニャ!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 それから慌ただしい荷解きが続いた。

 マイハウスはハンターや、それに同行する加工屋が買うことを想定したシェアハウス住宅である。

 従って、裏には工房に使えそうなスペースもあり、ヒマリはそこに製錬炉などの仕事道具を設置する。

 そして持ってきた荷物を搬入した収納スペースに入れ、諸々の煩雑な手続きを終わらせた後──解放感と共にラグナはリビングで両の手を挙げたのだった。

 

「っしゃーっっっ!! これで拠点の完成だぜーッッッ!!」

 

 家具の揃った邸宅を前にラグナは達成感を感じていた。

 黒い飛竜という目的すら今だけは忘れてしまいそうになってしまうほどだった。

 何なら此処から更に家具を入れても余裕があるくらいにリビングは広い。

 個室もバラージュの高級宿屋を遥かに上回る快適性だ。

 武器や防具を置く倉庫も広く、今所持しているものを置いてもまだまだ余裕がある。

 外には菜園まであり、狩猟に必要な道具の材料となる植物も栽培できる。

 

「個室に寝室、作業部屋も完備。お風呂もしっかり整備されてますよ」

 

 バスルームはシャワーのみならず巨大な浴槽まで備え付けられている。

 3人くらい一緒に入ってもまだ足が伸ばせるほどだ。

 

「へぇー、確かに広い。しかも風呂の本場ユクモ仕立てと来たか。こりゃあ楽しみだな」

 

 じと、とアジサイがラグナの顔を見上げる。

 

「……今えっちな事考えましたね?」

「いやまだ何にも言ってねーよ」

「あ、あたし、家賃払った方が良いかな……? 二人の労力にタダ乗りしたらダメだよね……?」

 

 目を白黒させながらヒマリが言った。

 荷解きを終えたのは良いが未だに現実味が湧かないらしい。

 

「そんな事心配しなくて良いんですよ。ボク達姉妹なんですから」

「ね、ねーねの優しさが今は染みる……」

「此処に住んでる間だけでも良いから、俺ら専属の加工屋になれよ、妹ちゃん。タダで住まわせてやる代わりだけどよ」

「それ、あたしにとっては願ったり叶ったりだけど、そんな都合の良い事あっていいのかなぁ!?」

「オマエ、腕は確かだからな。加工屋なんざある程度のレベルになると何処も頭打ちだけど──その年で”ある程度のレベル”になってるのは十二分に上澄みだぜ」

 

 ヴォルガベルを振るえば、ヒマリが加工屋として優秀であることは言葉を尽くさなくとも伝わってくる。

 勿論、バラージュのベテラン職人に比べれば作りが甘い所もあるが──今後の期待も込めれば、十分及第点だ。

 

「あと、報酬はきっちり払うからな。俺は技術の買い叩きはしねえ。俺が相手だからって値引くとかナシだからな」

「……あ、うん……分かった……」

「人って贅沢のキャパシティを超えると魂が抜けてしまうんだニャー」

「そうと決まれば風呂の準備でもすっか! いやー、汗が流せるぞーう」

「ま、待って! ……その前に行かなきゃいけないところがあるからっ!」

 

 豪華なマイハウスに圧倒されつつも、ヒマリは我に返り──玄関から外に飛び出していくのだった。

 それを見送ると、ラグナは首を傾げた。

 

「あいつ、何処行くんだ?」

「多分、元のルームメイトの所じゃないですか。流石に同室解消するにしたって一言入れた方が良いでしょう」

「一緒に行かなくて良いのか?」

「……あれでも芯は強い子なので」

 

 そっか、とラグナは返す。過保護に見えて、アジサイなりに妹を信用しているということだろう。

 

「ところでラグナさん。この家に即決した理由は何ですか。ヒマリなんて腰を抜かしてましたよ。最初からこれ以外選択肢が無いとでも言わんばかりでしたが」

 

 アジサイが真意を問うようにラグナに投げかけた。

 マタビが向こうではしゃぎながら「ネコをダメにするクッション」に向かってダイブしている。

 

「……んまあ、拠点としての機能に文句はありません。今更変えろとも言いませんけど。ただ、理由を聞いてなかったな、と」

 

 正直、管理のしやすさも考えれば一等マイハウスで良かったのではないか、とアジサイは考えていたのだ。

 この広さでは不在の間にハウスキーパーに世話をしてもらわなければならない。

 ラグナは──ソファに腰を下ろした。そして、遠い目でシャンデリアを見つめた。

 

「実家に似てたから、じゃねーか」

 

 アジサイは口を噤んだ。

 ラグナは貴族の家柄だが──両親の死を契機に没落してしまったのである。

 その原因となったのが、他でもない黒い飛竜。旅行中の飛行船を襲って墜落させた──ラグナの因縁の相手だ。

 

「実家は両親が死んだあとに売り払うことになったんだ。子供の俺一人じゃ広すぎるし管理出来ねえから。財産も親戚に没収されちまってな。それ自体に文句はないけど──でも、寂しかったな」

 

 ラグナは目を閉じる。

 彼の心の中では、今でも飛行船が燃えている。

 だが──この家の雰囲気の中では、不思議とその炎が穏やかになっていく気がした。

 

 ──ラグナおにーちゃん! 子供扱いはやめてって言ってるでしょ!?

 

 ──もう、ラグナったら。妹と喧嘩しちゃダメよ。仲良くしなさいな。

 

 ──ははは、ラグナは勉強熱心だな。将来は──学者さんかな?

 

 在りし日の家族の声が聞こえてくるような、そんな気がするのだ。

 

「……ちょっとだけ、家族に会えたような気分になるからよ」

「……ごめんなさい」

「何で謝る? ……むしろ謝るのは俺の方だ。ワガママに付き合わせちまった。慣れねえだろうが──個室はユクモ仕立てに改装もできるらしいし」

 

 フォローを入れたラグナだったが、落ち込んだアジサイの顔を見るに妙な気を使わせてしまった、と後悔した。  

 言わずにはぐらかしておけばよかったか、と思ったが──相手が気心の知れた彼女だったので、つい口が滑ってしまったのだ。

 ラグナとして新居を買って早々、アジサイを暗い気持ちにさせたくはない。

 

「ヒマリが帰ってきたらパーティでもしようぜ。良いワインを買ってんだけど──」

「ワイン!!」

 

 アジサイが目を輝かせた。今日だけは特別である。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……あれ、ヒマリ帰ってたんだ! おかえり!」

 

 

 

 三等マイハウスの呼び鈴を鳴らすと──少し意外そうな顔で友人が出迎える。

 

「ねえ、遅かったじゃん! 一週間後に新しいクエストに出ようと思ってて、武器の調整をお願いしたいんだけど──」

「やんないよ」

 

 それを前にして、ヒマリはムスッとした顔で告げるのだった。

 要件は唯一つ。

 

「あたし、此処を出て行くからねッ!!」

「……え?」

 

 友人は意味が分からない、とばかりに目をぱちくり、とさせる。 

 しらばっくれる彼女に対し、ヒマリはこの間の件を持ちだす事にしたのだった。

 

「あたしが居ない間に彼氏を連れ込んでたでしょ!! お、オマケにあたしのベッドで好き放題……ッ!!」

「ま、待ってよ!! あんたまさか、覗いてたの!?」

 

 友人の顔が蒼褪めていく。全部覗かれていたのは想定外だった、と言わんばかりに。

 

「そーだよ!! 鍵掛かってなかったよ、よっぽど浮かれてたんだね!!」

「わ、悪かったってヒマリ……! ベッドはしっかり洗ってあるから……」

 

 そう言う問題ではない。

 捲し立てているうちに、怒りボルテージが上がってきたのかヒマリは足を踏み鳴らした。

 

「それにカンカンカンカンうるさいって──誰の装備を修理してたと思ってんの!? 明日の狩猟で使うからって頼んできたから徹夜してたのに!!」

「ア、アハハハハ……あ、アレはその場の勢いで……」

「とにかくっ!! その家は彼氏と使ってよね!! あたしは出て行かせてもらいますッ!! じゃーねサヨナラ!!」

 

 踵を返しその場を後にしようとするヒマリ。

 しかし──友人はと言えば、言われっぱなしで腹が立ったのか後ろから投げかける。

 

「あ、あんたこそ、その無駄にデカい胸で彼氏の一人でも作ればいーんじゃない!? むしろ何で居ないのよ!! コソコソ人の事を覗いて、そういうところに人間性が出てんじゃないの違う!?」

 

 それを最後に玄関がピシャリと閉まった。

 ヒマリの脳裏にはラグナの顔が過る。

 初恋の相手の為に何年も取っていた気持ちを踏みにじられたような気分になった。

 

「知らないっっっ!! 絶交だーっっっ!!」

 

 ヒマリは船着き場に来ていた。

 その右手にはルームシェアをしたての頃に、ヒマリが作ったお守りが握られている。

 お揃いだねー、と友人と笑い合ったのも今や昔。

 ヒマリは目に大粒の涙を溜めながら、海に向かってお守りをフルスイングで投げ捨てた。

 

「こんなの、もう要らないっ!! ぽーいッッッ!!」

 

 そうしてお守りが海に沈んだのを見届けると、ヒマリはスッキリした様子で帰路につくのだった。

 

 

 

「あんなヤツ、モンスターの炎で黒焦げになっちゃえば良ーんだ、ふーんっ!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「やっほー、にーに! ねーね! バッチリ縁を切ってきたよーっ!」

 

 るんるん顔で新居に突入するヒマリ。

 しかしリビングに入るなり、強烈なアルコール臭が鼻を突いた。

 まさか、とテーブルの上を見ると──涎を垂らして臥せている姉の姿があったのである。

 ラグナは何処かホッとした様子でヒマリの方を見た。

 

「あ、ああ、妹ちゃんか……コイツ、晩飯の前にワインの瓶を空にしやがった……」

「暴走しねぇだけマシなのニャ。寝てるうちに寝室に運びこむのニャ」

「……ねーねったらぁぁぁーっ……」

 

 ラグナが酔っ払いをベッドにブチ込み、呆れた様子で帰ってくる。

 そして──肩を竦めるのだった。

 

「悪いな妹ちゃん。オマエの姉貴──実家でもあんなんだったのか?」

「あんなんだった……特訓の時以外、ほぼ毎日お酒をたっぷり飲んでて……特訓のストレスを解消しようとしたのが始まりでさ」

「あーでも分かる、俺もストレス解消で娼館通ってたし」

「俺様もストレス解消でギャンブルしてたニャ」

 

 ひょっとしてこの中でまともな人間は自分しかいないのではないか、と不安になるヒマリ。

 それはある意味では正しい。此処にいるのはチンカスと酒カス、そしてコソ泥だからである。

 だが、今は考えないでおくことにした。

 

「それでも集落の若い子の中では一番強いから、怖がられてたよ。何であんな飲んだくれが……って」

「別の意味で恐れられてるな……」

「……でも最近、アジサイのヤツ、あんまり自分から酒を飲んでなかったのニャ」

「マジで!? あのねーねが!?」

 

 驚いたようにヒマリが問うた。

 

「……信じらんない……」

「んまあ、酔っぱらいは放っておいて、積もる話でもしようぜ。飯も用意してあるからな」

 

 アイルーの宅配便でデリバリーされてきた豪華な盛り付けのオードブルセットがテーブルの上には盛られていた。

 これを食べられないとはつくづく悲しい人だ、と姉の酒癖の悪さを憐れむヒマリであった。結局、アジサイ抜きの3人で晩餐が始まったのである。

 骨付きソーセージを頬張り、ビールで押し流すラグナ。

 彩り豊かなサラダの味を楽しむヒマリ。オムレツをフォークで刺して咀嚼するマタビ。

 しばらくは少し気まずい空気が漂っていたが、徐々に打ち解けてきたか──食事をある程度各々が楽しんだところでヒマリは切り出した。

 

「にーには今後どうしようとか決めてるの?」

「俺は今、追ってる獲物が居るんだ。ただ──行方を掴めていねえ」

 

 ここ数日、空いている時間でポートヴァインのハンターズギルドに足を運んだラグナ。

 彼は、南下したはずの黒い飛竜の目撃情報が無いか調べていたのであるが、恐ろしい事に手掛かりが一切見つからなかったのである。

 ギルドの調査員は優秀なはずなのだが、この地方で大型飛竜種モンスターは発見されておらず、もしも発見されればたとえそれがリオレイアであっても大騒ぎになるとのことだ。

 それほどまでにポートヴァイン周辺は「安全な地域」として認識されている。そんな安全な地域でありながら航路で危険な狩猟地帯へ簡単に乗り出せるのがポートヴァインの強みなのである。

 

「とはいえ、どっちみち狩りの拠点はポートヴァインにしようと決めていた。しばらくは装備作りに専念してぇ」

「それならあたしに任せてよ。加工屋だもんっ」

「そうだな。どの道、武器や防具作りはオマエに任せようと思ってた。数こなした方が経験にもなるだろ。流石に破軍装備じゃあキツい」

「ネコちゃんの装備もバッチリ作れるよ! 期待しといて!」

「それで俺様……なぁーんでオマエの膝に乗せられてんのニャ?」

「あたし、ネコちゃん大好きなのっ! モフモフ! どんなシャンプー使ってんの!?」

 

 ぎゅう、とマタビを抱きしめるヒマリ。彼女はアイルーやメラルーに目が無いらしく、完全にペットを愛でるノリでマタビを可愛がっている。

 当然そんな扱いに納得のいかないマタビであったが、普段ラグナやアジサイから受ける雑でぞんざいな扱いに比べれば幾分かマシだった。

 尤もこう書くとマタビが不憫に見えるが、そのような扱いを受ける理由は大抵マタビ自身にあるので悪しからず。

 

「でも、ビックリした。にーにがこんなにすごいハンターになってるなんて。最初っからにーには、あたしの手には届かない所に居たのに……身の程知らずだったね」

「そんな事ァねーよ。俺はオマエの実力は買ってる。オマエと同い年であれだけの加工ができる職人は居ない」

「あたしは──オニガ島の人間だから。人より力が強いから、それで頑張れただけ」

「だとしても、続けられるのは偉いだろ」

「にーにのおかげだよ。にーにがあの時──道は他にもあるって言ってくれたから。あたしは──無理せずやって来れた」

 

 それに、とヒマリはリビングに飾られたヴォルガベルを見て微笑む。

 初恋の相手に、自分の打った武器を使って貰える──と言う夢は叶ったのだ。これほど嬉しい事はない。

 だが──それは、彼女が満足する理由にはならない。彼女は幼くも職人だ。

 満足と言う言葉は己の足を止めてしまう。故に──

 

「あたし、もっとすごい武器を打てるようになりたい。そして、あたしの作った武器や防具を使うハンターが絶対に帰って来れるような加工屋になりたい。それが、あたしの戦いだから」

「……そう言ってくれて助かるぜ。だけど、あんまり力入れ過ぎんなよ」

「なんで? 武器も防具もハンターにとっては命同然だよ」

「それは事実だ。だけど──結局、どんなに武器や防具が良くたって死ぬ時ゃ死ぬ」

 

 ラグナは──ラオシャンロンの狩猟で死んでいったハンターたちの事を思い出していた。

 彼らは決してラグナと比べて実力が劣っていたわけではない。

 別チームの貴族会組や学会組にはラグナに並ぶ実力者が選定されていたのである。

 しかし、それでも生き残った者は生き残ったし、死んだ者は死んだ。時に運命は残酷で無情だ。

 

「んまあ変な話、気負い過ぎるなってことだよ」

「わ、分かった……」

 

 アジサイの食べる分を残して取り分けたラグナは──風呂場を親指で指す。

 

「そんじゃあ、俺ァ先に風呂入ってくるわ。アジサイがもし起きたら料理が残ってるって言ってくれ」

「う、うん」

「オトモ用のお風呂も完備されてて助かるのニャー♪」

 

 ウキウキで風呂場へと向かうラグナを見送りながら──ヒマリは呟く。

 

「……死なせたりなんて、しないもん」

 

 二度とないチャンスだ。

 気負うな、と言われて気負わない方が変である。

 目の前にいるのは──”飛竜落とし”のラグナ。

 これまで何匹もの古龍級生物を屠ってきたれっきとした怪物級ハンターなのだから。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(……いやぁー、極楽極楽!! 風呂だけユクモ地方仕立てにしたって言ってたけど大正解だわ!! 実家のシャワールームの何倍も広いぜ!!)

 

 

 

 蒸気機関によって沸かされたお湯は程よく、身体の疲れも汗も全部流してしまう。

 ユクモの文化に倣って掛け湯したラグナはナイロンのタオルで全身を泡立てて洗う。

 

(革命だよなァ。ユクモ地方から広がった風呂の文化はよォ。それまで皆シャワーで済ませてたらしいが、そんな時代には戻れねーよ)

 

 湯船につかるのを心待ちにしながら、ラグナがもう一度泡を流そうとしたその時だった。 

 ガラガラ、とバスルームの透かし硝子が開いた。ギョッとして振り向くと、そこには──

 

 

 

「にーにー♪ 背中流したげるーっ!」

「のわーッッッ!?」

 

 

 

 暴力的に暴れる乳。眩しすぎる小麦色の肌。

 一糸纏わぬ姿で乱入してきたのは──ヒマリだった。

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