※※※
──ポーカー。
配られた5枚のカードを一度だけ交換して相手より良い役を揃えようとするゲーム。
しかしゲームに「賭け」の魅力が加わると一変して複雑な心理戦が始まるゲームでもあるッ!!
(──チッ、まーたブタだニャ。折角小遣いを倍に増やしてやろうと思ったのに、この体たらくだニャ)
トランプを握りながら爪を齧るマタビ。
これでは、ポーカーフェイスもあったものではない。
選択は当然「フォールド」。ゲームから降りの一択である。
そんなわけで鳴かず飛ばずが続いていたのであるが──そこでゲームに変化が訪れる。
「──途中参加、良いか?」
空いていた卓に座る人影。
それを見て──マタビは更に顔を蒼褪めさせた。
座したのは見覚えしかない飛竜落とし。
「ラ、ラグナ……ッ!?」
「よーうマタビ。朝っぱらからカジノに入り浸ってやるポーカーは楽しかったかよ?」
3分後。
しわしわの顔になったマタビはラグナに連れられてカジノを退場していた。
「ったく、しょうのねぇヤツだ! こちとらクエストを受けてきたから皆に説明してたってのによ。道理で居ねえと思ったぜ。オマエには飯の買い出し頼んでたはずだ」
「いやー、やっぱやめられないとまらないってヤツなのニャ」
「スナック菓子感覚でカジノに行くんじゃねえ」
市場で買いこんだ食料を抱きかかえながらラグナは呆れた顔。
しかし、ラグナは知っている。こういう時、マタビは大抵色んな情報を持って来てくれることを。
「そんで? なんか進展はあったか」
「カジノに居たハンターが、妙な事を言ってたのニャ。最近──モンスターの焼死体をよく見るって」
「焼死体ィ?」
「そうだニャ。狩場に行くと小型モンスターが焼け死んでいるのが見えるんだそうニャ。そして不思議と──捕食された痕が無いんだそうだニャ」
「どこで起きてる?」
「ところが、場所はまちまち。あまりにも離れすぎているのニャ。同一モンスターの仕業とは思えねーけど……飛竜種なら話が別だニャ」
「ワイバーンなら飛べるからな」
「……ラグナ。これってやっぱり、あの黒い飛竜の仕業かニャ?」
「……」
ラグナは押し黙る。
こうだ、と確定できる事があるわけではない。
尤も、モンスターの死体を見なければ確実な事は言えないのであるが──焼かれたモンスターが捕食されていないのは極めて不自然だ、と考える。
「……モンスターが相手を殺す理由は縄張り争いか捕食だ。しかし、よっぽど満腹とかじゃなけりゃ大抵死んだモンスターは食われるモンだ。考えられるのは──いや、考えたくないが……古龍の仕業の可能性もある」
「こ、古龍!?」
「古龍は鉱物食のモンスターも多い。肉を食わねえ種類も珍しくはない。だけど同時に──生態系で絶対的強者の古龍は、他のモンスターに頓着しないし手を出したりしないんだ」
「……つまり、雑魚に喧嘩は売らないってことかニャ」
「そうだ。そうなると、古龍の可能性は低くなる。だが俺の知る限り、火が使えるモンスターで肉食じゃねえモンスターは……早々いない」
ラグナは思考を巡らせる。
古龍がポートヴァインの管轄の狩猟区域に出没している可能性を考えるとゾッとする。
そんな中捨てきれないのは──未だに直接姿を現していない黒い飛竜の存在だ。
「とにかく、この件は一度保留だ。次のクエストは焦土樹林で行う」
「焦土樹林? って事は火山地帯かニャー!? 熱いのイヤだニャー……」
「文句を言うんじゃねえ。これも良い装備作りの為だ」
「……装備作りの為に死ぬ目に遭うのは割に合わねーのニャ」
「安心しろ。そんなオマエの為に朗報だ。この採掘はアンジャナフの狩猟も兼ねている」
「あんじゃ……猶更よくねーのニャ!! んじゃあ俺様は採掘だけやってるのニャ!!」
「んなモン許すわけねーだろ。採掘はヒマリと俺がやる。オマエとアジサイがアンジャナフの狩猟だ」
「トホホー……ん? ラグナが採掘するのニャ?」
「護衛役という観点で見た時、大剣で守れる俺の方が適任だ。それにアジサイは俺と同じくらい強いんだぞ。アンジャナフくらい一人でも訳ねえだろ」
(──って、アジサイが言ったんだよな……)
実際ラグナはこの人選に対して異論は無い。
狩猟役に適しているのは索敵も攻撃も逃走も全て一人でこなせる身軽なアジサイで、護衛役に適しているのはガードが出来る上に不測の事態への対応力に長けたラグナだ。
しかし──問題は組む相手は他でもない、あのヒマリだ。
昨晩の風呂での一件以降、ヒマリはラグナと1対1になると気まずそうに目をそらしてしまうようになってしまった。
そして、それを見てアジサイは──何処かヤキモキしているようにすら見える。
(独占欲の強いアジサイが……妹ちゃんと俺をくっつけようとしているのが解せねえんだよな)
ラグナには、自分自身の恋というものが分からぬ。
体を重ねるのは性欲を発散するためであり、一種のスポーツのように捉えていた節があるのは否定できない。
彼自身の人間関係に対する諦念もあり、本気で好きになれた相手というものが今まで居なかったのである。
(こういうゴタゴタがあるから──惚れた腫れたって好きじゃねえんだよな……はぁー)
「ラグナ? どうしたのニャ?」
「いや……何でもねえ」
贅沢な悩みなのは理解している。
だが、女を両手に抱えるハーレムライフすら夢見ていたはずのラグナは──今は、たった一人の女に心を乱されていた。
しかし、狩場で私情を挟む者は例外なく早死にする。
それがモットーのラグナは、頬を叩き──気合を入れ直した。
今やるべき事は──アンジャナフ狩猟と鉱石採掘の準備なのだから。
「マタビ。一応モンスターの焼死体の件はアジサイとヒマリにも伝えておいてくれ」
「わ、分かったのニャ!」
※※※
──数日後。
馬運車と船での移動を繰り返した先は──焼け焦げた樹木の広がる火山地帯。
中央には未だに煙を吹いている活火山が見えている。
焦土樹林の異名は、この噴火活動によって燃え焦げた木々が朽ちずに広がっていることから名づけられた。
海岸沿いは冷え固まったマグマによって広がっている。
「……着いたな。それじゃあ手筈通りに行くぞ」
「導蟲が既にアンジャナフの痕跡を追跡する態勢に入っています」
「そっちは任せた」
「任されたました」
「あー……クソダルいのニャ……今からユーウツなのニャ」
「んじゃあ、ヒマリは俺と一緒に採掘だ。万が一の事があったら俺がしっかり守る」
「……う、うんっ」
鉱石を大量に運ぶための荷車を引くラグナとヒマリは鉱山のある採掘ポイントに。
そして、アジサイとマタビは導蟲の示した痕跡を追ってアンジャナフの下に向かうことになっている。
「だ、だいじょーぶかな、ねーね……」
「危なくなったら即座に撤退するように言ってある。引き際は間違えねえよ、オマエの姉ちゃんは」
「……その割には心配そうじゃない?」
「うるせー、さっさと行くぞ」
顔に出ていたか、と後悔しながらラグナは兜を深く被った。
ヒマリを連れながら、鉱山洞窟のある方へラグナ達は足を進めるのだった。
──それからしばらく、洞窟の中を進んだだろうか。
ヒマリはオニガ島の人間ということもあり、険しい岩道の中も軽々と進んでいく。
そんな彼女を危なっかしそうに見守りながら、ラグナは辺りを警戒していた。
今の所、モンスターの姿は見えない。
(……不自然なくらいに静かだ)
ラグナがおっかなびっくりに注意深く周囲を観察する。
火山地帯らしからぬひんやりとした空気が流れる中、すんすん、とヒマリが鼻をひくつかせている。
「こっち! こっちから良いニオイがする!」
「ッ……本当に分かるのか!?」
「うん! 多分、ドラグライト鉱石の集まりがあるよ!」
ヒマリの指差す方に向かうラグナ。
早速彼女がピッケルで鉱石の塊を掘り出している間に、ラグナは彼女に背を向け、モンスターが来ないか警戒する。
しばらくすると──嬉しそうにヒマリが叫んだ。
「あっ、採れた採れた! これでしょ!?」
欠けた鉱石の欠片をラグナに見せる。
緑色を帯びた原石。確かにそれが目当てのドラグライト鉱石であることは確かだった。
本来なら何か所か採取スポットを回って1個か2個見つかるかどうかの稀少な鉱石なのだが──それを最初から見つけてみせた辺り、ヒマリの「嗅覚」が確かなものであることをラグナは確信するのだった。
「すげえ、本当だった……!! オマエが居たら稀少鉱石掘り放題じゃねえか……」
「んまあ、そう言う場所って危険なモンスターが居るから、あたし一人じゃゲット出来ないんだけどね……後、単純にこのチカラを信じてくれる人がなかなか居なくて」
「アジサイの身体能力もそうだが、オニガ島ってのは、そういう特別な力を持つ人が多いのか?」
「うん。多分、島の外の人には驚かれちゃうくらい皆力が強いんだ。後、五感のうちのどれかが突出して優れてる人が多いんだ」
その中でもヒマリは「嗅覚」、それも鉱石を嗅ぎ分ける力に優れているというわけである。
世の中には自分の知らない天才が居るんだな、とラグナは改めて世界の広さを噛み締めるのだった。
「よーし、この調子で残りの鉱石も集めちゃおう!」
「……いや、待ちな」
ラグナは喜ぶヒマリを制した。
導蟲が騒ぎ出している。そして、洞窟の広い壁に集っているのだ。
「ど、どうしたの? これってまさか、アンジャナフの痕跡?」
「……ッ」
壁に刻まれた大きな爪の痕。
それは確かにアンジャナフのものだ。
周囲には岩が焼け焦げた痕跡が残っている。
「縄張りを示すマーキングだ」
「この近くにアンジャナフが居るってこと!? 逃げなきゃ!!」
「……いや待て。おかしいぜ。アンジャナフの匂いは確かに導蟲に覚えさせていた。もしこいつがアンジャナフなら、もっと早くに反応しているはず」
ラグナは──焼け焦げた石を拾い上げた。
そして、それを見て炎によるものではない、と確信する。
「……やっぱり。さっさと逃げるぞ」
「どういうこと!?」
「……とんだ食わせ物だ。痕跡の主はアンジャナフだが──アンジャナフじゃねえ」
「──ゴォオオオオオオオオオーッッッ!!」
答え合わせをするように──咆哮が洞窟を揺さぶる。
どしん、どしん、と地面を踏み鳴らす音。
そして暗がりから光るは一対の瞳。
※※※
「……し、しんでる……!!」
アジサイは言葉を失い、立ち尽くしていた。
痕跡を追った先には、横たわったアンジャナフと思われる死体だった。
【獣竜種”蛮顎竜”アンジャナフ】
骨が剥き出しになってしまっており、無惨な有様になっているものの、辛うじて原型は留めている。
虫が集っているそれを前に鼻を摘みながら、アジサイは検死を行った。
焦げた死肉を採取する。
「……ニャ、ニャ、肉が焦げたニオイがするのニャ……!!」
「炎に強い皮膚を持つアンジャナフが、炎に焼かれるとは考えにくいですね」
首元をアジサイは観察した。
鋭い歯型が幾つも残っている。
それは──他でもないアンジャナフ自身の歯形と一致している。
「共食い……? いや、これは……!」
そして、歯形と共に焼け焦げたような痕を見て──アジサイは確信する。
導蟲が新たなる痕跡を探知し、道を示した。
アジサイはその方を見て、冷や汗を垂らした。
「……アジサイ、何か気付いたのニャ……!?」
「これは……亜種……ッ!!