ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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BGM「森を牛耳る蛮顎の竜/アンジャナフ」


第四十六話:白い暴れん坊、手に負えない

 ※※※

 

 

 

 ──獣竜種とは、二本脚で直立する肉食竜の総称だ。

 飛竜と違って空は飛べないが──地上での戦いは無敵。

 ラグナとヒマリの眼前に現れたのは全身を白い毛皮に包んだ巨大な獣竜。

 頭部は黄色い皮膚に覆われており、血管のように黒い縞が寄っている。

 大きく開かれた大口の奥からは青白い電光がパチパチと音を鳴らしていた。

 

「あれアンジャナフ……!!」

「いや、あれは……アンジャナフ亜種だ……!!」

 

 

 

 

「ゴロロロゴオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 

 

 

     【獣竜種”雷顎竜”アンジャナフ亜種】

 

 

 

 ぽたり、ぽたり。雫が顎から滴り落ちる。

 そして背中からは絶えず電気が迸り続けている。

 獲物を発見したアンジャナフ亜種は大顎を地面に向かって振り下ろすと、そのまま重機の如く地面をえぐり取りながら突っ込んでくる。

 それも、全身から電気を迸らせながらだ。それを真正面からラグナは大剣で受け止める。

 だが、流石に大型獣竜の膂力には押し負けてしまうのか、足は押し出されてしまい、堰き止めるので精一杯だ。

 

「チッ……事後報告になっちまうが……安全確保のためアンジャナフ亜種を狩猟するッ!! ヒマリ、後ろにッ!!」

「う、うんっ……!!」

 

 ヒマリはすぐさま逃げ、岩陰に隠れた。

 ロアルドロスとは比べ物にならない迫力。

 迸り続ける青白い電光。そして、踏み鳴らされる体重。

 その様を前に、ヒマリは体の震えが止まらない。繰り広げられる命のやり取りに、死が迫ってくる音を感じさせる。

 

「ゴォオオオオオオオオシュルルルルルルルーッッッ!!」

 

 ガチン、ガチン、と顎が鳴る音。

 牙が嚙み合わされる度に青白い電気が暗い洞窟に残る。

 だが、咬撃を回転して躱すとラグナは飛び掛かり様に大剣で後ろ脚を殴りつける。

 当然獣竜種にとって命とも言える脚への攻撃は致命傷に繋がりかねない。

 アンジャナフ亜種も強烈な後ろ蹴りをお見舞いするが──

 

(エリアルスタイル改──”相殺撃墜斬り”ッ!!)

 

 ──それに合わせ、ラグナが跳びあがって大剣を振り下ろす。

 衝撃はぶつかり合い、アンジャナフ亜種は大きく音を立てて倒れ込んだ。

 そこにスリンガーを撃ち込んだラグナは自分の身体を引っ張って間合いを一気に詰め、更に追撃の十字斬りを見舞う。

 圧倒的サイズ差にも拘わらず、互角かそれ以上の狩りを見せるラグナに、ヒマリは思わず見入ってしまうのだった。

 

(……にーにの狩りを見るのは、これで二回目……でも、相変わらず淀みがない……!!)

 

 しかしアンジャナフ亜種とてやられてばかりではない。

 軸足を支えにして立ち上がると──鼻を隆起させ、更に背中から二枚の巨大な鰭を飛び出させ、怒りの咆哮を洞窟中に轟かせる。

 

 

 

「グッゴロロロロロロオオオオオオオオオオオッッッ!!」

 

 

 

 その姿を見て思わずヒマリは岩にしがみついた。

 あまりにも悍ましく、生理的嫌悪を感じさせる姿だったからである。

 ぼこぼこ、と鼻から盛り上がった肉塊に紫電が迸る。

 そして、ラグナを目掛けて地面全部を喰らう勢いで突貫する。

 先程までとは比べ物にならない勢い、そして電気を思いっきり放ちながら。

 おまけに、その先には──ヒマリが居る。

 

「ッ──!!」

 

 ヒマリは振り返り走り出した。

 正面からアンジャナフ亜種を大剣で受け止めたラグナ。

 しかし──先程の比ではない紫電が襲い掛かり感電。

 全身の力を失った彼は、勢いよく空中にカチあげられてしまう。

 そのままアンジャナフ亜種の勢いは止まる事を知らず、壁目掛けて思いっきり突っ込み、そして──大量の紫電を爆発させるのだった。

 じゃりじゃり、と岩を噛み砕くとそれを吐き散らしながらアンジャナフ亜種は再び振り向く。

 

「いッッッでぇぇぇ……!!」

 

 その先には全身が感電して動けないラグナ。

 ヒマリは思わず叫んだ。

 彼は避けようと思えば今の攻撃は避けられたはずだ。

 しかし、ヒマリが逃げる時間を確保する為に自ら盾になったのである。

 

「にーにっ!!」

「来るんじゃねえッ!!」

 

 だが、それでもラグナは──鉱石剣・ヴォルガベルを杖代わりにして立ち上がる。

 目はチカチカしており、身体も痺れている。

 それでも秘薬を噛み砕き、全身に無理矢理活力を漲らせて立つ。

 今自分が退けば、確実にヒマリは死ぬことを理解しているからだ。

 

「これは──俺の狩りだ。命のやり取りに水差すんじゃねえ!!」

「ッ……」

 

 ヒマリは己の無力さをイヤと言うほど理解させられた。

 自分は姉ではない。従って、この場で彼の力になる事は出来ない。

 いるだけで彼の立ち回りを歪めてしまう足手まといなのだ、と思い知らされる。

 すぐさま安全な場所を探す。そして、今度こそアンジャナフが簡単に入って来れ無さそうな岩陰に入り、身を小さくするのだった。

 それを見届けたラグナは安心したように口角を上げた。

 

「ゴロロロロロロゴォオオオオオッ!!」

「……そうだ、それで良い。オメーの獲物は俺──”飛竜落とし”のラグナ様だ!!」

 

 口から滴らせた涎をばら撒くアンジャナフ亜種。

 それがラグナの破軍の鎧に付着すると音を立てて溶け始める。

 防具破壊(アーマーブレイク)──強烈な胃酸が防具を溶解させ、防御力を低下させるのだ。

 いよいよラグナは、このアンジャナフ亜種の攻撃をまともに喰らえば命は無いと確信した。

 尤も──それならば当たらなければ良いだけの話であるのだが。

 

「グッゴオオオオオオオオオオオッッッ!!」

 

 電気を纏わせた噛みつきが頭上からラグナを襲う。

 それを前転して躱し、迸る電光から走って逃れるラグナ。

 そのままアンジャナフの顎が届かない後ろ脚を斬りつけ、切りつけ、また殴りつける。

 ラグナを踏み潰し、喰らおうとするアンジャナフ亜種だが、的が小さいが故になかなかその攻撃は当たらない。 

 

「グルルルゴオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 

 怒り狂ったアンジャナフ亜種は見境なく放電を始め、ラグナを狙って尻尾を振り回す。

 そしてそれも当たらないと悟ると、体全部で体当たりを見舞うが──それすらも尻尾と後ろ脚の間をくぐられて躱され、反撃の一刀を加えられてしまう。

 

「グッ、ゴォォォ……!!」

 

 やがて、呻き声を上げたアンジャナフ亜種は踵を返して洞窟の奥へと姿を消そうとする。

 放電のし過ぎでエネルギーを使い切ってしまったのだ。

 栄養を補給するため、獲物を求めてアンジャナフは逃走を図る。

 しかし──突如、闇の奥から鉄糸が伸びてアンジャナフを絡め捕った。

 翔蟲。それを操るのは──アジサイだ。

 

「──アジサイッ!?」

「──ラグナさんッ!? 丁度良かった──操竜いきます!! 避けてくださいッ!!」

「あ、ああ!!」

 

 アジサイに乗っかられたアンジャナフ亜種は振り落とそうと暴れ狂うが、そのまま壁に無理矢理激突させられてしまい、よろめく。

 

「一回ッ!!」

 

 そうしてぐらついたアンジャナフを引っ張り上げ、再び壁に叩きつけるアジサイ。

 

「二回ッ!!」

 

 二度の脳へのダメージでふらつくアンジャナフ亜種。

 それを制御しながら──アジサイは雷顎竜を思いっきり反対側の壁に激突させる。

 

「三ッッッ回ッッッ!!」

 

 それがトドメとなり、アンジャナフは悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。

 そこにラグナが跳びあがり、脚部目掛けて大剣を振り下ろす。

 

(エリアルスタイル──空中溜め斬り!!)

 

 肉に思いっきり大剣が食い込んだ。

 部位破壊が決まったのである。

 強烈に硬い皮膚を持つアンジャナフの後ろ脚であるが、一度破壊されてしまえばそこが弱点となる。

 ふらふらと立ち上がったアンジャナフは足元目掛けて放電しながら噛みつきを見舞うが──既に危険を察知していたラグナは引き下がってしまうのだった。

 そこに──隆起した鼻目掛けてマタビが飛び掛かりゲネポス銃剣を突き刺した。

 

「──オラッ!! これでも喰らうのニャッ!!」

 

 麻痺毒が一気に回り、全身を痙攣させるアンジャナフ亜種。

 それを合図にして、ラグナとアジサイはトドメを刺すべく飛び掛かる。

 

(──鉄蟲糸技──”螺旋斬”!!)

 

(エリアルスタイル改──”空中真溜め斬り”ッ!!)

 

 アジサイが鉄糸で間合いを詰め、頭部に斬撃を繰り出す。

 そして立て続けにラグナが脳天目掛けて大剣を突き刺した。

 雷顎竜は痙攣しながらのたうち回り、そのまま動かなくなったのである。

 アンジャナフ亜種が絶命したのを確認したラグナは振り向き、アジサイに小走りで向かっていく。

 

「まさか痕跡を追いかけていたら、ラグナさんと合流できるなんて!」

「助かったぜ。お前が来てくれれば百人引きだな!」

「アンジャナフ亜種の生息地は、この洞窟だったんだニャ……! 通常種と争って共食いしてたのニャ!」

「……そういうことか。じゃあ待て、肝心のアンジャナフは──」

「……食われてて、毛皮を採取するどころじゃなかったのニャ……」

 

 あちゃあ、とラグナは顔を手で押さえる。

 結果的にアンジャナフ亜種は討伐できたものの、これは本来のターゲットではない。

 あくまでもクライアントが求めているのはアンジャナフ原種の毛皮だからだ。

 

「一応交渉してみるか……」

「それにしても、アンジャナフ亜種ってこんな暑そうな所にも居るんだニャ……!?」

 

 絶命したアンジャナフ亜種を前に、マタビが驚いたように声を上げる。

 しかし、ラグナはそれを特段不思議には思わなかった。

 

「いや、アンジャナフ亜種は非常に環境適応性が高い。寒冷地だけじゃなく温暖地帯にも姿を現す。要は滅茶苦茶移動するんだよ。だからこうして今回、原種とカチ合って争いになったんだろ」

「……とはいえ圧倒的な力を持つ個体でしたね。亜種の攻撃性、凶暴性は原種のそれを上回るのでしょう」

「ああ。ヒマリを守りながらだったからな。ヒヤヒヤしたぜ」

「待って下さい。肝心のヒマリは!?」

「あそこ」

 

 ラグナが指差した。

 三人は駆け寄っていく。

 そこには、頭を押さえて震えるヒマリの姿があった。

 

「ヒマリ。ヒマリ。大丈夫ですか」

「だ、だいじょーぶ……って、ねーね!?」

「アンジャナフは死んだぞ、もう危険はねえよ」

「ボク達が来た方からも大型モンスターが入ってくる様子は無かったです。洞窟の中にモンスターが他に居なければ、安全に採掘が出来るかと」

「取り合えず、ハイメタ装備の材料だけでも集めて帰りてえが──怖いだろヒマリ。ベースキャンプまで送っていくぜ」

「やる!! 最後までやるッ!!」

 

 立ち上がり、ヒマリは──涙目で叫んだ。

 

「……だって、足手まといになりたくないもん……!! 折角来たのに、にーにの装備が作れないまま帰るのはイヤだ!!」

「ヒマリ。だけど……」

「にーには、言ってくれたよね。モンスターと戦わない人のおかげで自分はハンターができてるんだ、って。……あたしは、ねーねみたいに……にーにと一緒に戦う事は出来ないけど……加工屋には加工屋の戦いがあるんだよっ!!」

 

 羨ましそうに姉に目を向けると、ヒマリはピッケルを握り締めた。

 

「まだ、ハイメタ装備の材料は集まってない! 今のうちに沢山集めて帰ろ!」

「……だってよ。強いな、オメーの妹は」

「……ヒマリ。無理をすることは──」

「大丈夫。守って貰ったお返し、したいんだ。ありがとうって言葉だけじゃ、伝えきれないもん」

「よしッ! それなら俺様達も採掘頑張るのニャ! 荷物、持てるだけ持つのニャ!」

「ネコちゃん……!」

「ピッケルなら俺達も持ってるぜ。今日は全員炭鉱夫だ」

「ええ、勿論です」

 

 全員はピッケルを握り締め、採掘を始める。

 折角鉱石地帯に来たのだから、ということで──持てるだけの鉱石素材を集めていく。

 そして、帰るころには荷台に大量の鉱石が積まれていた。それを引っ張るヒマリとマタビ、そして護衛の為に前後を守るハンター二人。

 無事に彼らは必要な素材、そしてそれ以上の戦果を持ち帰ることが出来たのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「結局、依頼人が焦土樹林の獣人族ってことで直接交渉したんだけどよ。亜種の毛皮は原種のそれよりも稀少って事で、酷く喜ばれたよ」

「ハプニングこそありましたが……無事に終わりましたね、今回のクエストも」

「そうだな」

「……すー、すー」

「にゃー……」

 

 馬運車の中で寝息を立てるヒマリ。そして、ヒマリに抱き締められて眠るマタビ。

 それを微笑ましく見守りながら、ラグナは腕を組んだ。

 

「……それにしてもこんなに早く採掘が終わるとはな。俺が前に同じ装備作った時は、1ヵ月以上かかったからよ」

「今回は行き来込みで一週間ですか。ヒマリは役に立ったでしょう?」

「……なあ、アジサイ」

「どうしました?」

「オマエの妹ちゃんは、つえーよ。心が強い。それは確かだ。だけど……だからこそ」

 

 ラグナは──思う。

 これ以上、ヒマリを危険な目に巻き込みたくない、と。

 そしてそれは、ヒマリがラグナにとって庇護するべき存在だからだ。

 

「アジサイ。オマエ……俺と妹ちゃんをくっつけようとしてんだろ」

「……ッ」

「何でそんな事するんだよ。オメー、自分で言うのもなんだが──」

 

 ラグナが言い終わらないうちに──アジサイは呟いた。

 

「役得でしょう? 自分を慕う女の子が増えるのは」

「……そうかもしれねーけど」

「女好きの貴方には願ったり叶ったりじゃないですか。それに、もしもボクが死んでも……貴方の重石になってくれる人が居れば安心です。貴方は……すぐに何処かへ飛んでいってしまうから」

「……オマエは勘違いしてる。俺の重石になれるのは──」

 

 その先の言葉を言いかけて、ラグナは──自分にそれを言う資格が無い事に気付く。

 アジサイはそれを見て、何かを察したように笑みかける。

 

「……いや、何でもねェよ」

「あの子の気持ちに決着をつけてあげられるのは、ラグナさんだけですよ。どうするかはラグナさんに任せます」

「……ああ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──ポートヴァインに戻ったラグナ達は鉱石を自宅の作業場に運び込み、そしてギルドに報告を済ませた。

 報酬を受け取り、改めて今回のクエストの総括を行う。

 

「ギルドの結論は最近出ていたモンスターの焼死体はアンジャナフ亜種の仕業と言う事になった」

「……にしては捕食痕が無いのが気になりますが」

「だけど、あれだけの広範囲を移動できるモンスターだ。それ以外に考えられないんだと」

「キナ臭いなあ。ギルドは昔からそうやって隠し事をしたがるからさぁ」

 

 ラグナもアジサイもマタビも気まずくなった。

 彼らは、まさにその「隠し事」の当事者だからである。

 

「コ、コホンッ。とにかくお疲れだったな。しばらくゆっくり休んで──」

 

 

 

「報告ッ! 報告ーッ!」

 

 

 

 慌てた様子で誰かがギルドに駆け込んでくる。

 見た所、恰好からしてハンターのようだった。

 その穏やかではない様子に、他のハンターたちも駆け付ける。

 

「……何だ、何事だ!?」

「数日前に”清流の秘境”に旅立ったパーティが全滅した……! 任務自体はプケプケの討伐で大したことは無かったらしいんだが……全員死体で発見されたらしい……ッ!!」

 

 ハンター全滅の訃報にラグナ、そして──ヒマリが反応した。

 アジサイは意外にもシビアで「そういうこともあるだろう」という様子であったが──

 

「そのパーティてのは──」

「中堅ハンターの4人組だ。名前は……」

 

 そして。

 ハンターが告げた犠牲者の名前を一人ずつ聞いていくうちに──ヒマリは顔色を変えていく。

 すぐさま、そのハンターに掴みかかった。

 

「あのッ!! そのハンターたちって……ッ」

「な、なんだ嬢ちゃん!?」

「えと、そのうちの1人が……友達と名前が同じなんです!! そのハンターたちの死体は──ッ」

「今、ポートヴァインに運び込まれた……らしいけど」

「ッ……案内してくれませんか!?」

 

 血相を変えたヒマリに対し、ただ事ではないと察したラグナ達は頷き合うのだった。

 

「お願いです!! 遺体の身元を……確かめさせてくれませんか……ッ!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「こいつぁ酷ェ……!!」

 

 

 

 集会所の裏に運び込まれた棺に入った死体を見て、ラグナは思わず顔を顰めた。

 死臭すら匂わなかった。ただただ、焼け焦げた炭の匂いが満ちていた。

 

「当然だがプケプケの仕業じゃねえな」

 

 ラグナが言った。

 プケプケは毒を尻尾から噴き出す比較的小柄な鳥竜種だが──亜種を含めて、人を跡形もなく焼き殺せるような炎を噴けるモンスターではない。

 

「ガ、ガイコツになっちまってるのニャ……!!」

「こんなの見たこと無いです……人体を白骨化させるなんて、どれだけの火力があれば……!」

 

 遺体は完全に白骨化しており、黒い煤塗れの骸になっている。 

 そして防具も剣も、いずれも高温で溶けてしまっていた。

 並大抵のモンスターの火では有り得ない温度で焼かれた、とラグナは考える。

 だが──問題は、遺体の一つを前にして膝を突くヒマリだった。

 彼女は防具に着いた煤を祓っていき、首を横に振った。

 

「ウソだよ。ウソだよ、そんなの……ッ」

「ヒマリ……っ」

「あたしね。作った防具に必ず名前を刻むんだ」

 

 そのハンターは顔こそ白骨化していたものの、防具は比較的原型を留めていた。

 しかし、留めていたが故に──残ってしまっていた。

 小さく刻まれたヒマリの名前が──

 

「まさか、ヒマリ。そのハンターは……ッ」

 

 アジサイの問に──ヒマリは目を開きながら──呟く。

 彼女の脳には喧嘩別れしたばかりのルームメイトの顔がこびりつき、消えない。

 

「武器も、防具も、あたしが作って、あの子に合わせたヤツだ。こんなの着てるの……一人しかいないよ」

 

 彼女は土を握り締める。

 

「ねえ、ウソだよね……? 絶交って言っちゃったけどさ……何で……ッ!!」

「なぁ……こりゃあ何だ?」

 

 ラグナが棺の中から小さな鎖の付いたチャームを拾い上げる。

 焼け焦げてしまって何が何だか分からないが、護石のようなものだということは分かった。

 それをヒマリは勢いよくひったくる。

 

「あの子……あたしと喧嘩したのに、付けてたんだ……この、お守り……」

 

 ヒマリはそれを握り締める。

 最後に喧嘩別れをしたあの日。

 友情の証を──ヒマリは海に投げ捨てた。

 そして海に向かって叫んだのである。

 

 

 

 ──あんなヤツ、モンスターの炎で黒焦げになっちゃえば良ーんだ、ふーんっ!

 

「あ、ああ……ッ」

 

 

 

 

 後悔の念が沸いて出てくる。

 口を衝いて出てきた言葉が──そのまま帰ってきてしまったことを。

 そして、それが現実になって、もう取り返しがつかないことを。

 

 

 

「あ、あたしの、あたしの所為だ……あたしが、あんなこと言って、願ったから……ッ」

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