ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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BGM「UNKNOWN(モンスターハンター・フロンティア)」


第四十九話:襲撃・UNKNOWN

「──名目上、調査としましたが……危険性が高い場合、その場で狩猟の判断を下して構いません」

 

 

 

 ──ギルドマネージャーはそう言っていた。

 戦ってきて良い、飛竜落としのラグナならば任せて良い。

 そう背中を押されたのだ。

 だがラグナはどうも──気が進まなかった。

 何故なのかその時はラグナ自身にも分からなかった。

 ずっと追い求めていた相手のはずだ。喜ぶべき場面のはずなのに。

 

 黒い飛竜と出会うのは、もっと先だと思っていた。

 竜を殺す剣技を極め、極めたその先。自分の人生の果ての果て。

 その先で出会い、相まみえると思っていた。

 何故自分がそう思っていたのか、ラグナは今思い知ることになる。

 

 断じて、この黒い飛竜と出会うのを待ち望んでいたわけではなく──心の何処か、もっと言えば本能に最も近い場所でラグナは避けていたのだ。

 

 言ってしまえば生存本能。

 出くわせば二度と無事では帰れはしない。

 幼少期の飛行船から見たあの日からずっと、彼の脳裏に黒い飛竜は刻み込まれ続けている。

 

 それは只のトラウマではない。

 飛竜と人間が現来より隔絶した生き物であることなど分かり切っている。

 

 だが、今こうして目の当たりにして実感した恐怖は果たしてそんなチャチなものだろうか。

 ラグナは狩人だ。

 熟練の、歴戦の狩人だ。

 

 何度も死にかけた。だが同時に、何度も何度も数えきれない程飛竜は殺した。

 

 姿かたちのよく似たリオレイアなど、飽きるほど殺した。

 

 だからこそ彼は分かる。理解出来てしまう。

 

 自分は出会いたくなかったのだ、と──この黒い飛竜、UNKNOWNに。

 

(ンなバカな訳あるかっ!! ビビってるのか、俺は!!)

 

 それをラグナは自ら否定するため、地面を蹴る。

 そんなはずはない。あってはならない。

 今の今まで、どうして剣を振るってきたのか。どうして鍛えてきたのか。

 この日の為ではなかったのか──

 

(だが、この違和感は一体──)

 

 

 

「ギィオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 

 

 この世のものとは思えない程に悍ましく、そして身の毛をよだたせる叫び。

 ラグナはそれを大剣のガードで弾いたが──黒い飛竜の瞳を見て、改めてそれが理解不能な生き物であると悟る。

 何匹ものモンスターを相手にして来たラグナは、たいていモンスターの目を見ればおおよその感情は察することができる。

 だが、この飛竜の瞳を見ても何も感じ取ることができないのだ。

 黄色い眼球の奥には、吸い込まれるような深い深い深淵があるのみ。

 そのまま見つめていれば飲み込まれてしまうのではないか、と思ってしまうような──深淵。

 ラグナは強風に煽られながらも走り出すのだった。

 

「ギャオオオオオッ!!」

 

 そんなハンターたち目掛けて、黒い飛竜は漆黒の火炎弾を吐き出す。

 ラグナ、アジサイ、そしてマタビ。それぞれを狙って三連撃だ。

 それを軽々と躱す彼らだったが、後ろで火炎弾が爆ぜ、その爆風に煽られたことで、改めて目の前の敵が規格外であると察する。

 だがそれでも──とラグナは違和感を感じた。

 今背後で爆ぜた火炎弾程度の火力では、木々を焼き払う事も大型モンスターを焼き殺す事も出来ない。

 

(まさかこいつ、まだ力を温存してるのか……!!)

 

 すかさずラグナとアジサイは後ろ脚を武器で攻撃し始める。

 飛竜種は尻尾による薙ぎ払いが強力だ。それ故に、足元がお留守となる。

 だが、それを察すると黒い飛竜は飛び上がり──空中でサマーソルトキックを見舞う。

 狙いはラグナ。赤く染まった毒針付きの尻尾で相手をカチ上げる、リオレイアの最大の必殺技だ。

 しかし──そんなものはもう、腐る程ラグナは見てきた。

 

(──”相殺斬り上げ”ッ!!)

 

 踏み込む時間を最小限に抑え、タイミングを完璧に合わせた相殺。

 黒い飛竜の身体は弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 そしてラグナはスリンガーを撃ち込み、追撃を見舞う──が、じりじりとした焦燥感のようなものを徐々に感じつつあった。

 

(おかしい)

 

 動き、動作、息遣い。

 その全てが──これまで戦ってきたリオレイアと全く同じだ。

 だが、どんなに斬りつけても、どんなに攻撃しても、全く響く様子が無い。

 肉質も全く同じなのだが──幾ら斬っても泥を叩いているのではと錯覚するような不快さが込み上げてくる。

 

「どんなものかと思っていましたが……拍子抜けです! これではただの色違いのリオレイアではないですか!!」

 

 頭部に螺旋斬を浴びせながらアジサイが言った。

 更に、飛竜の身体が痙攣して動かなくなる。

 マタビが足元にシビレ罠を仕掛けていたのだ。

 

「こいつ、罠も普通に効くのニャ!!」

 

(おかしい)

 

 そんなはずはない、とラグナは断じる。

 木々を此処まで焼き尽くし、一方的に大型モンスターの群れを屠った飛竜が──この程度なのか? と疑問が浮かんでくる。

 何かがおかしい。

 動き。

 息遣い。

 行動。

 その全てが、リオレイアと全く同じだ。

 

 にも拘らず、ブレスの威力だけが凄まじく高い事にラグナは違和感を感じていた。

 

 そのブレスですら、湿地帯の耐火性が非常に高い樹木を焼くには不十分だと断じた。

 

 それでも──飛竜が動けない間に、ラグナは脳天に真溜め斬りを叩き込む。

 ありったけの最大火力だ。

 それを浴びて、起き上がった黒い飛竜の口からは黒い煙がもくもくと立ち込めている。

 

 

 

 ──遊んでほしいのか?

 

 

 

 そんな声が、何故か聞こえた気がした。

 ボコボコ、とラグナの中に未だ潜んでいる造竜の細胞が疼いた気がした。

 

 

 

「ギュリィイイイイイオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 

 

 

 

 怒りではない。

 己の存在を誇示するためのような咆哮。

 大きく後ろに羽ばたいた飛竜は距離を取ると、口を勢いよく開ける。

 

「ッ──まさか」

 

 黒い飛竜の顔が急激に熱され、赤みを帯びていく。

 鱗は罅割れ、ぼこぼこと何かが粟立つ。

 

「避けろッ!! 散開だッ!!」

 

 ラグナが叫び、アジサイもマタビも左右に避けた。直後──真直線上に熱線が解き放たれ、地面を薙ぎ払うのだった。

 

「い、今のって──グラビモスの熱線ですよね!?」

「流石に優等生だな……! よく知ってるじゃねえか! 問題は、何でそれをリオレイアに似たコイツが使えるのかってことだけどよ!!」

 

 火山の番人と呼ばれるモンスター・グラビモス。

 それが放つ熱線のようなブレスは「ビーム」と呼ばれ、ハンターからは警戒されている。

 つぅ、とアジサイの額に汗が伝った。

 地面は抉られており、赤黒い炎が立ち込めている。

 

「直線方向を吹き飛ばす熱線──これ、通常の火炎弾のモーションと見極めるのは苦労しそうだぞ……!!」

 

 当然、発生速度は先程までの火炎弾とは比べ物にならない。

 更に地上で爆発したそれは強烈に嫌な臭気を放ち始める。

 言ってしまえば刺激臭。吸うだけで意識が遠のいてしまいそうな代物だ。

 

「これ、エスピナスの──ッ!!」

 

 一度操竜で見た事があるアジサイは、刺激臭の正体に即座に勘付いた。

 毒だ。

 体内で生成された強烈な毒が火炎袋の中で化合し、毒を含んだ炎となって噴き出されているのである。

 受けてしまえば火傷と共に毒が体を蝕むのは目に見えていた。 

 黒い飛竜は攻撃の手を止めることなく、飛び上がると黒い火球を次々に放つ。

 

「こんなのかすっただけでお陀仏だニャ!!」

「絶対ブレスには当たるんじゃねーぞ!!」

「は、はいっ!!」

 

 ラグナは──焼き殺されたハンターたちの最期が目に浮かんできた。

 ハンターとは超人だ。

 生まれつきの体質、あるいは後天的な訓練でモンスターへの攻撃にある程度の耐性を身に着ける程度には頑強な怪物だ。

 火炎弾を受けたところで、回復薬を飲んでウチケシの実を噛み砕けば、死にはしないのである。

 それが何故、あそこまで無抵抗に殺されたのかを理解していた。

 ただただ目の前の飛竜の火力が強すぎたから、と当初ラグナは考えていたが──火炎弾に「毒」が含まれていたならば話は変わってくる。

 

(エスピナスの毒には、神経毒も含まれている!! 炎上しながら身体が麻痺して回復が間に合わずに死んだって報告事例もあるくらいだ!!)

 

 目の前のモンスターの放つ火炎弾がエスピナスのそれと同じという確信はない。

 しかし、警戒することに越したことはない。

 もしも受けてしまえば、丸焼きのまま無防備を黒い飛竜に晒す事になるのだから。

 だが、いずれにせよ脅威的なのはブレスだ。

 マタビが閃光弾を放つ。それを受けた黒い飛竜は目が潰れたのか地面にあっさりと落ち──その間にラグナ達は一気に距離を詰める。

 しかし、すぐさま飛竜は起き上がり──首を大きくもたれ上げるのだった。

 

「ギュオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 強烈な臭気と共に凄まじい勢いでガスが溢れ出し、ラグナもアジサイも吹き飛ばされてしまう。

 同時に、防具が音を立てて表面が溶解し始めた。

 それが何なのかラグナは瞬時に理解する。酸化──防具破壊(アーマーブレイク)だ。

 

「これは、グレンゼブルの……!!」

「もうそれは知らねー飛竜だニャ!!」

「今は知らなくて良い、重要な事は唯一つ、だ。こいつ……力を徐々に解き放ち始めたんだ! 色んな飛竜の技を使ってきやがる!!」

 

 ゲホゲホ咳き込みながら、ラグナは大剣を地面に突き刺す。

 得体が知れない。底が知れない。

 目の前の飛竜を唯一つの種としてとらえた時、どうしてこのような進化を遂げたのか、何に打ち勝つためにこのように発達したのかが全く理解が出来ないのだ。

 

「ギュオオオオオオオオ!!」

 

 そうして散らばったラグナ達を仕留めるべく、飛竜が尾を大きく振る。

 尻尾から赤い棘が飛び、散乱した。

 

「あ、危ないヤツですね!」

「さっきとは行動パターンが全く違ェ……!」

 

 突き刺さると、そこから激臭を放ち始める。

 周囲は棘から滲み出した紫色の液体で汚染されていく。

 更に棘の抜けた尾からは、残弾は幾らでもあると言わんばかりに棘が次々に何本も生えていくのだった。

 

(近付いたら酸の毒霧、距離を取ったら火炎弾とビームの二択──上等じゃねえか!! こんなヤツ、幾らでも相手にしてきたぞ!!)

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