ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第五話:素晴らしき絆パワー

 アクラ・ヴァシムの脳天に骨剣が突き刺さり、結晶に薄く罅が入る。

 

「キシャァァァァーッ!?」

 

 そうして後に続くようにしてアジサイがセツ=Dを握り締め、舞い踊りながらアクラ・ヴァシムの脚を切り刻んでいく。

 脚には結晶が纏わりついていない。従って、斬撃が普通に通るのだ。しかし──アジサイは違和感を感じていた。

 刃が装甲の表面を切るばかりで、致命的な一撃を与えられていないのだ。

 

(いつもより手応えが薄い──ッ!! 甲殻は属性を全く通さないって言ってたから、やっぱりボクの武器じゃ相性が悪い!!)

 

 そしてアクラ・ヴァシムもやられっぱなしではない。

 尾から先程の圧縮した体液を噴き放ち、頭上に乗っていたラグナやアジサイを狙う。

 あまりにも素早い攻撃に、アジサイは体液を受けて吹き飛ばされてしまう。ラグナもまた、アクラ・ヴァシムの頭部から飛び降りるが──

 

「アジサイッ!!」

 

 思わず叫んだ。

 彼女の身体には結晶が纏わりついている。

 それが彼女の武器や関節で硬化し、動きを封じているのだ。

 

「う、動けな──」

「キシャァァァァーッッッ!!」

 

 叫びながら飛び掛かるアクラ・ヴァシム。

 狙いはアジサイ。その体躯で押し潰すつもりなのだ。

 どすん、と巨体が沼地に沈み込む。そして押し倒した獲物を鋏で啄もうとするアクラ・ヴァシムだったが、既にアジサイはその場には居なかった。

 

「危な、かった……!!」

 

 翔蟲を飛ばして受け身を取っていたのだ。

 体は動かなかったが、無理矢理翔蟲に引っ張って貰ったのである。

 そうして身体が沈み込んだアクラ・ヴァシムの頭部に再びラグナが飛び乗り、更に頭部を足場に再び跳ぶ──

 

(エリアルスタイル──)

 

 振り上げた剣に力を籠める。

 何度も振るった溜め斬り。

 体の中に刻み込まれた完璧なタイミング。

 甲殻を覆う結晶に骨剣を()()()()()

 

 

 

(──()()()()()()!!)

 

 

 

 重い一撃が脳天に叩きこまれ、アクラ・ヴァシムの態勢が崩れ落ちた。

 そして、結晶の表面に一気に薄い罅が入る。

 そこに手ごたえを感じ取ったラグナだったが、アクラ・ヴァシムの尻尾が彼を薙ぎ払い、叩き落としてしまうのだった。

 

「ゴホッ、ゴホッ……後もうちょいなんだが……!! おいマタビ!! オメー、オトモなら何か支援を──」

 

 

 

「オラーッ!! やっちまうのニャ、アクラ・ヴァシムーッッッ!! オメーには大量の掛け金が掛かってんのニャーッ!!」

 

 

 

 岩陰に隠れながら叫ぶのはマタビだ。

 何故か黒い眼帯をつけており、明らかにアクラ・ヴァシムを応援している。

 ──時は、出発の日の朝に遡る。 

 酒場で朝から飲んだくれているならず者たちの元にマタビは現れ、こう言った。

 

 ──さあさ皆さん、お立合い!! 凄腕ハンター・ラグナと、アクラ・ヴァシムの勝負がもうじきに始まるのニャ!!

 

 ──ラグナァ? 誰だソレ。

 

 ──俺聞いた事ある!! ”飛竜落とし”のラグナだろ!!

 

 ──ああ、あのヤリチンでスケベで有名な……。

 

 ──そうニャ、そうニャ、もうじき依頼でラグナがアクラ・ヴァシムと戦うのニャ、皆さん、どっちが勝つのかかけてほしいのニャー!!

 

 ──じゃあ俺ラグナで!!

 

 ──いやいや幾ら飛竜落としっつっても、アクラ・ヴァシムは無理だろ! 俺、アクラ・ヴァシムに賭けるわ!

 

 ──俺もアクラ・ヴァシムで!

 

 ……斯くして、賭けは始まった。

 掛け金は酒場のマスターに預けられており、マタビはチケットを握っている。

 予想は、ラグナのバラージュでの知名度の低さもあってか圧倒的にアクラ・ヴァシム派が多数である。

 

「何やってんだテメーッッッ!!」

「ニャハハハハハハーッ!! 悪いニャ、ラグナ。俺様はまだ死にたくねーのニャ。オメーが勝ったらアクラ・ヴァシムに賭けた奴らに俺様がボコボコにされる未来が見えてんのニャ。此処でオメーらには湿原の藻屑になってもらうのニャ!!」

「見損なったぞー、マタビーッ!! コソ泥だった時と何にも変わらねえじゃねえか!!」

「コソ泥をオトモにした貴方を見損ないましたよ!!」

 

 言うが早いか、アクラ・ヴァシムは地中に穿孔する。

 地面には、あの結晶の生えた尻尾だけが見えているが──

 

「尻尾の長さは想像以上だ!! あいつ、俺達の足元まで追いかけてきているぞ!!」

「は、はいっ!!」

 

 ──地中から迫ってくる音はアクラ・ヴァシムの迫る音。

 恐怖が迫りくる。もしも捕まったが最後、自分達も地中に引きずり込まれて窒息させられる未来が見えているからだ。

 二人は同時に地面を蹴り、地面に向かってダイブした。

 ほぼ同じ瞬間に地中から二つの鋏が飛び出し、間もなく本体も姿を現す。すんでのところで回避できたのである。

 

「キシャァァァーッ!!」

「クソッ、心臓に悪すぎる奴だ……!!」

「チッ!! しぶとい奴らだニャ!!」

「……ところでラグナさん。アイルーやメラルーって地面に潜って逃げるんでしたよね」

「……あっ」

 

 ラグナは岩陰でアクラ・ヴァシムの応援をするマタビに目を向けた。

 それが意味するのは、地中に引きずり込まれた程度ではアイルーやメラルーは死なないということである。

 

「ボクが鉄糸でアイツを拘束します!! その間にッ!!」

「ああ、分かった!!」

 

 すかさずラグナはアクラ・ヴァシムの前に立ち、骨剣で鋏の攻撃をいなしながら立ち回る。

 一方、翔蟲を使って飛んだアジサイはマタビの首根っこを掴むのだった。

 

「げぇっ!! 拘束するってまさか、アクラ・ヴァシムじゃなくて俺様かニャーッッッ!?」

「貴方は一度、反省しなさいッ!!」

 

 持ち込んでいた大樽爆弾Gを用意したアジサイは、鉄糸でマタビをぐるぐると巻きつけて拘束して縛り付ける。

 

「アジサイッ!! アクラ・ヴァシムが潜った!!」

「了解ですッ!!」

 

 再び穿孔するアクラ・ヴァシム。

 走り回るラグナ。そこに、マタビを縛り付けた大樽爆弾Gをアジサイが投げ込む。

 

「ほぎゃーッッッ!? オメーら正気かニャーッ!?」

「正気も正気だ、テメーらネコ獣人は地面に潜っても長い事息を止められるし最悪自力で脱出出来るだろ、多分死なねえから囮になれ」

「鬼ーッッッ!! 悪魔ーッッッ!! ラージャンンンッッッ!!」

 

 ごろごろと転がった大樽爆弾はその場に制止した。ぬかるんだ泥濘の上では勢いがそがれてしまったのだ。

 そして、アクラ・ヴァシムのターゲットは当然、動き回っているラグナではなく──沼の上で止まったマタビに向く。

 地中から鋏が飛び出し──大樽爆弾G諸共マタビを引きずり込んだ。

 

「テメェらマジで覚──」

 

 マタビの声は聞こえなくなった。

 そして、数秒後──炸裂音が地中から響き渡る。大樽爆弾が地中で爆ぜたのだ。

 

 

 

「たーまやーッッッ!!」

 

 

 

 地中からアクラ・ヴァシムが勢いよく飛び出し、そしてダウンしてしまうのだった。

 

「見たかァ!! これが俺達の絆パワーッ!! コンビネーションアタックだッ!!」

 

 頭がアフロのようにモジャモジャになったマタビもゴロゴロと転がってくるが、何も言わなかった。

 ラグナはアクラ・ヴァシム目掛けて飛び掛かり、アクラ・ヴァシムの装甲を覆う結晶に骨剣を突き立てる。

 

 

 

(集中弱点攻撃──”集中貫通斬り”!!)

 

 

 

 剣を思いっきり食い込ませ、そして駆け抜けるラグナ。

 同時に音を立ててアクラ・ヴァシムの結晶が砕け散るのだった。

 

「弱点への集中攻撃で……結晶を砕いたッ!!」

「狩りってのはなァ!! 時代と共に進化するもんなんだぜッ!!」

 

 衝撃で引っ繰り返るアクラ・ヴァシム。

 そこにラグナとアジサイは、追い打ちと言わんばかりに更に攻撃を叩き込むのだった──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──近年、打撃武器のみで破壊出来るとされていたアクラ種の結晶は、傷がついた状態での弱点集中攻撃で破壊出来る事が発覚。

 これにより、アクラ・ヴァシムの結晶の破壊は飛躍的に楽になったとされている。

 それでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の結晶は破壊出来ない程に堅牢とされており、旧来通りのセオリーを踏まなければならないとされているが──モンスターの性質や強さが地域によって異なるのはよくあることである。

 ともあれ、ラグナは結晶を破壊してダウンしたところを攻撃するのを繰り返し、甲殻が脆くなったところで尻尾を切断。

 そのままアジサイとの連携で畳みかけ──見事、アクラ・ヴァシム討伐に成功したのである。

 

「ほうれ、依頼品のドクガスガエルと……アクラ・ヴァシム討伐の証の素材だ」

「やってくれやがったかー……流石ってところだなァ」

 

 ディシプリンは感心したようにアクラ・ヴァシムの甲殻や尻尾といった素材を見て嘆息するのだった。

 こうして、泥濘の湿原の平和は守られたのである。

 

「ところでよ、そのメラルー……何で黒焦げになってんだ?」

 

(しゃ、社会の厳しさってモンを思い知ったのニャ……)

 

 もう二度と主人を使って賭け事はしない、と誓ったマタビであった。

 ラグナという男はやられたらきっちりやり返す。それも──何をしでかすか分からない。

 

「んじゃあ約束の報酬金と……ラグナとマタビ。オマエらを正式に飛竜祭の参加者として認める。ピーちゃんの餌も確保できるし、アクラ・ヴァシムも居なくなった。俺から文句はないよ」

「っしゃあ!! やったぜ!!」

「ハ、ハイ……なのニャ……」

「おいどうしたマタビ? もっと喜べよ? な?」

 

 そしてマタビは──とんでもないヤツに喧嘩を売ったことを激しく後悔した。

 今後、たとえ逃げたところで何処までもこの男が追い回してくることは確定だったからである。

 

「さぁてと、この素材を使えばいい加減、このヘンピな骨剣から卒業──」

「……ラグナさん。その前に、ボクにお金を返さないといけないんじゃないですか?」

「……はい」

 

 結局、アクラ・ヴァシム1匹から取れる素材の数などたかが知れており。

 全部素材は売り払い、今後の活動資金に使われることになった。

 フックスリンガーや導蟲、更に高級なキャンプセットなど、狩猟に必要な道具は買いそろえれば買いそろえる程高くなるものなのだ。

 おかげで装備の更新をするほどの余裕は無いことが発覚したのである。

 

「だぁぁぁー、クソ疲れた……結局手元に残った金はこれっぽっち、これじゃあ娼館に通うどころじゃねーぜ」

「ホントだニャ!! あんな無茶をさせられるなんて」

「貴方がまともにオトモの仕事をしていれば、こうはなってないんですよ。……此処のお酒、美味しい」

「飲み過ぎんじゃねーぞ」

「分かってますけど、最近飲んでなかったので……」

 

 そして、3人は酒場でささやかだが宴をしていた。

 酒を飲んで料理を喰らい、互いをねぎらう。

 狩猟の後のお決まりであり、お約束だ。

 

「つ、次からはちゃんとサポートするのニャ……俺様、盗みばっかりやってたから、オトモの事とか何にも分かんねーのニャ……」

「やっと懲りたか。ちゃんと給料は払ってやるから、ちゃんと働けオメーは!!」

「働く……ッ!? ギャンブルで勝てば一晩で大儲けなのにニャ……!?」

「勝ったことねーだろテメーは!!」

「……くぴ。まあ、いいじゃないですか。取り合えず、勝ちは勝ちですからぁ」

 

 ラグナは嫌な予感がしてアジサイの手元を見た。

 いつの間にか非常に度の強い酒の瓶が注文されており、それが半分近くまで減っている。

 少し目を離した隙に、またしても彼女は勝手に酔っぱらったのである。

 

「オメー、なんでこんな強い酒ばっかり頼むんだよ!!」

「らってぇ……もう我慢できなくってェ……えへへ、ラグナしゃぁん、しゅき……ボクの命の恩人……♡ らいしゅきぃ……」

 

 すりすり、とラグナの隣ですり寄ってくるアジサイ。

 手を頬に当てて、その温もりを確かめてくる。普段の彼女からは考えられない変わりようであった。

 

「うげぇ、コイツ酒に弱い癖に強い酒が好きなのかニャ!?」

「おい、逃げるぞマタビ。こうなったら酷い事になる……!!」

「は? ボクの酒がぁ、飲めないんですかぁ……?」

 

 次の瞬間、ラグナの口に酒瓶が突っ込まれた。

 

「おぶぅ!? ゴボボボボボボ!!」

「ほらぁ、いっぱい飲めるじゃないれすかぁ、ラグナしゃぁん」

 

 火をつければ燃え上がると言われる酒であり、常人では飲んだ瞬間に酔いつぶれてしまう代物だ。

 一瞬でラグナはダウンしてしまう。恐れ戦いたマタビも逃げようとするが──アジサイは即座にその尻尾を掴んで離さない。

 

「ニャギャギャギャーッ!?」

「ほらぁ、マタビしゃんもぉ、おしゃけぇ……♡」

「おぶぅ!? ゴボボボボボボッッッ!!」

「あれ? 二人共寝ちゃったのかな? 仕方ないれすねぇー、ボクが代わりにお会計しちゃおーっと」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──翌日。

 

「あッッッたま痛ェ……」

 

 宿屋のベッドでラグナは目を覚ました。

 隣を見遣る。

 案の定、そこには生まれたままの姿のアジサイが丸まって寝ていた。

 

「ハ、ハハ、まさか、また同じオチ……」

「……おはよーだニャ」

 

 その声で思わずラグナは振り向く。

 枕元には──すっかり涙で目を濡らしたマタビの姿があった。

 サァッとラグナの顔から血の気が引く。自分にその気は無いはずだったのに。

 幾ら酒で意識を失っていたと言えど、獣人にまで手を出す趣味は無いはず、と。

 

「……えーと、マタビ君?」 

「……()()()()

 

 拗ねた様子でマタビは言った。

 

「お、俺様……ハ、ハジメテ、だったのに……()()()()()()を、弄んで……酷いのニャ……ッ!! 鬼畜だと思ってたけど、此処までとは思わなかったのニャ!!」

「おいマタビ。オメー、まさか……!!」

「覚えてねーのかニャ!? ラグナ、ヤバかったのニャ!! 最終的に俺様もアジサイも成す術なし、されるがままだったのニャ!!」

 

 そう言えばマタビの性別を聞いていなかった、だとか──そもそも倫理的に色々アウトな行為に及んでしまったのではないか、とか──ぐるぐる頭で駆け巡るラグナ。

 

(メスだったのかコイツ!!)

 

 だが、そのうち彼の頭の中でも昨晩の痴態の記憶がよみがえってくる。結局二人まとめて”お仕置き”してしまったことを。

 仕方がないのでラグナは今自分が出来る精一杯のフォローをすることにした。

 

「……マタビ。オメー、可愛い所あるんだな!!」

「ニャッ……忘れるのニャ、昨晩の事はーッッッ!!」

「ほぎゃーッッッ!!」

 

 マタビが即座にラグナに引っ掻きを見舞う。

 そんな事は知らぬと言わんばかりに寝息を立てるアジサイ。

 ラグナは──少しだけマタビに優しくしよう、と決めた。

 

 

 

「後、オメーは酒禁止だアジサイーッッッ!!」

「ふぇっ!? なんれすかぁ!?」

 

 

 

 そして、アジサイにはもっと厳しくしよう、と決めるのだった。

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