ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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記念すべき50話!!いつも応援ありがとうございます!!


第五十話:運命の分岐点

 怒りは無い。

 憎悪も無い。

 復讐心も無い。

 ただ、それともう一度相まみえる為にハンターを続けてきた。

 その為ならば死んでもいいと思っていた。

 研鑽を続け、モンスターの事を学び続け、古龍を屠り、造竜を斃したその先に立っても尚──

 

(理解が出来ない、コイツの事が理解出来る気がしない──ッ!!)

 

 ──突然変異、という言葉ではあまりにも乱暴すぎる進化を遂げた生物。

 黒い火球が地面に着弾すれば、青と赤の竜巻が巻き起こり、マタビを高くカチ上げた。

 物理法則すら無視したその攻撃を前にして、ラグナの脳が理解を拒む。

 拒むが──それは引き下がる理由にはならない。

 

「閃光ォ!!」

 

 空中に吹っ飛ばされたマタビのランチャーから閃光爆弾が放たれ、爆ぜた。

 光が辺りに満ち満ちて、黒い飛竜が仰け反る。

 

「──こなくそォッ!! テメェがどんな技を使ってこようが、所詮は寄せ集めだろがァッ!!」

 

 ラグナが跳びかかり際にヴォルガベルを飛竜の柔らかい脳天に捻じ込んだ。

 そしてグリグリと傷口を抉るようにかき回すと、そこから鮮血が噴き出す。

 ラグナは剣を引き抜き、飛竜の背中を蹴って飛び越えた。

 

「テメェがリオレイアのカタチをしてる限り、弱点は頭部ッ!! 傷がつきやすいッ!!」

 

 目を真っ赤に染めて鬼人化したアジサイが一気に距離を詰める。

 

(鉄蟲糸技──”集中弱点攻撃”──ッ!!)

 

 火炎弾を吐き、続けて噛みつこうとする黒い飛竜。 

 しかし、艶やかに身を翻し、翔蟲で空へと駆け上がる。

 

 

 

(──”櫓越え【春雷】”ッ!!)

 

 

 

 そのまま己の身体を車輪のように回転させながら飛竜の脳天、そして背中を斬り刻んだ。

 すれ違い様にラグナも飛竜の翼を斬り刻む。

 

「か、完璧な連携だニャ!!」

 

 マタビが歓喜しながら叫んだ。

 流石に堪えたのか、ぐぇぇ、と低く吼えた飛竜は大きく羽ばたき、空へと飛び去って行く。

 それを見てラグナもアジサイも武器を納刀するのだった。

 

「……いったん逃げられたか」

「方角は南西。ベースキャンプからは遠ざかっているのが救いでしょうか」

 

 追いかけようとするアジサイをラグナが肩に手を置いて引き留める。

 

「ちょい待ち。いったん武器を研いでからだ」

「あ、そうですね」

「……怒涛の連続で心が休まらねーのニャ……」

 

 砥石で武器を研ぐ。

 その間にラグナはアジサイに問うた。

 

「どう思う、アイツ」

「閃光も罠も効く。正直、()()()()()()()()()()()()()()としか思えません」

「……そうか」

「こう言っては悪いですが、拍子抜けとしか言いようがありません。古龍や造竜種の後に戦うモンスターとしては。あれが本当に秘境を焼いた犯人なのでしょうか」

 

 そりゃあ無防備な飛行船は落とせるでしょうけど、とアジサイは続ける。

 

「ボクとしては、秘境を焼いた犯人は別にいるのではないでしょうか。考えたくはないですが、それこそ古龍とか」

「……実は同じ事は俺も思った。だけど──ところどころ異様なところはあったぜ」

 

 携帯食料を頬張り、ラグナは思い返す。

 

「先ず──奴は全力を出し切っては居ねえ。確実に」

「……」

「その証拠に、明らかに科学では説明出来ねえ攻撃が幾つかあった。黒い炎が着弾して、その後意味不明な竜巻が巻き起こっただろ。アレは多分龍属性エネルギーによるものだと思うが──」

「……確かにその時点で異常に気付くべきでした。竜巻を自力で起こせるのはそれこそ古龍の所業。しかも、たかがいち飛竜種が火に加えて龍の属性エネルギーを同時に使えるなんて」

「それに加えて、あの熱線だ。グラビモスがどうやって熱線を吐いてるか知ってるか?」

「知らねーのニャ」

 

 目を真っ白にしながらマタビが答える。

 呆れたようにアジサイが続けた。

 

「グラビモスの主食は爆発性の鉱物。そして溶岩はドリンクです。その為、常に熱とガスが体内に溜まるんです。その為、熱線や高熱ガスの噴射は排熱行動の一貫とされてます」

「じゃあアレはグラビモスにとってゲップみてーなもんってことかニャ……ウゲえ」

「そこだ。逆に言えばグラビモスと言えど溶岩やガスを常時溜め込んでねえとあの熱線は撃てねえ。だがさっきの飛竜を見たか。どう見てもリオレイアみてーな姿してんのに、なぁーんで鉱物食なのかって話だ」

 

 古龍ならまだ分かるんだけどな、とラグナは続ける。

 グラビモスの身体は鉱物を食べて、熱を溜め込むのに特化した進化を遂げている。

 だが、肉食性のリオレイアでは鉱物を噛み砕いて咀嚼し、消火してエネルギーに変える事が出来ないのだ。

 

「では、あの飛竜は鉱物食ということでしょうか? 古龍も肉食に見えて鉱物食の種類も居ると聞きます」

()()()()()()()()()そうかもしれねえな……だが、見た目は完全に飛竜……それもよりによって飛行に特化した()()()()()()()()それが出来るのかって言うと俺はかなり不自然な進化に見えて仕方ねえ」

 

 思い返せば思い返す程、ラグナは例の飛竜の不自然さに学者として理解に悩んでくる。

 

「だー、クソ!! 考えれば考える程、頭が痛くなってきやがるぜ! 奴は何なんだ本当に!? 普通なら生態から行動パターンがおおよそ割り出せるってのに、全然割り出せる気がしねえぞ!!」

「この口ぶりで、コイツが一番の頭脳派ってことあんのかニャ」

 

 学術院出は伊達ではないのである。

 

「考えていても仕方ありません、古龍であれ飛竜であれ斬れば死にます。単純明快な真理でしょう?」

 

(この口ぶりで、コイツが一番のバカってことあんのかニャ)

 

 飲んだくれは伊達ではないのである。

 しかし、此処でうっかり口に出すと十中八九酷い目に遭う気がしたので、内心に留めたマタビであった。えらい。

 

「とにかく。理屈をこねくり回すなんてラグナさんらしくないです。内心怖がっているのではないですか?」

「こねくり回す胸も無いヤツが何言ってんだ」

 

 ラグナの頭にハンターナイフが突き刺さって噴水のように血が出ているが、ハンターなので命に別状はない。

 

「……ラグナさんは死にませんよ。ボクが居ますから」

「その本人に殺されかけたけどね? 良かったな相手が俺で」

「貴方に怖気づかれたら、ボク達はどうするんですか」

「全くだニャ」

 

 違う、とラグナは言いかけた。

 怖いのは自分が死ぬことではない。

 

「何言ってんだ、ビビってなんかねーよ。俺は──飛竜落としのラグナ様だぞ」

 

 燃え盛る飛行船の中に──アジサイとマタビが重なって見えた。

 ラグナは目を擦り──首を横に振る。

 

(俺が怖いのは、きっと……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──清流の秘境、エリア10。

 此処はまだ焼かれてはおらず、比較的自然に近い形が残っている。

 だが、その生物に怖気づいたのか周囲には他に気配がない。

 その中で──その生き物は羽根を休め、ただ──待つ。

 エネルギーを補給するための捕食をするでもなく。

 

 ──来た。

 

 そして、自らに挑む者の姿を感じ取り──翼を大きく広げるのだった。

 

「居ましたッ!! UNKNOWNですッ!!」

「……あの野郎……今度こそ逃がさねえぞ!」

 

 咆哮し、バックジャンプする黒い飛竜。

 そして──その目が徐々に赤く染まっていき、炎のような残光を空中に残す。

 

 

 

「──ギュルルルリオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 

 

 

 背筋が凍るような咆哮が轟いた。

 この世のモノではないような、そして決して相容れられないような。

 そんな確信をラグナは持ってしまうのだった。

 地面に降り立った黒い飛竜は全身から黒い稲光を迸らせ、地面に両翼をつけて叫ぶ。

 

 

 

「ヴッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 

 

 

 

 この時。

 飛竜の中の「ナニカ」が変わった、とラグナは確信した。

 

 だが、それでも。それでも──ラグナは腹の底から叫ぶ。

 

「──来るぞッ!! 腹ァ、括れッ!!」

 

 ラグナとアジサイ目掛けて、黒い火炎弾を次々に撃ち放ちながら迫る。

 飛竜の軌道を綺麗に避ける二人。

 だが、真ん中に立つのはマタビだ。

 獲物を見定めたのか、飛竜はマタビ目掛けて鉤爪を振り下ろすが──

 

「バーカ!! 俺様は囮だニャ!!」

 

 飛竜が飛び降りた先には、ラグナが予め仕掛けていた落とし穴。

 マタビは大きく前方に飛び込み、飛竜の攻撃をすんでで躱す。

 そして着地した飛竜の重みで落とし穴が作動し、自重で飛竜は落下する──はずだった。

 

「ギュルルルルアアア!!」

 

 落とし穴を踏んだ瞬間、飛竜は大きく羽ばたく。

 ラグナは目を疑った。飛竜が落とし穴を誤作動させて空振りさせる瞬間を。

 

(おいおい嘘だろ……! そりゃあ古龍のやることだぞ!?)

 

 結果、方向転換した飛竜は空中で火炎弾を吐き出し始め、ラグナ達はそれを避けるのに必死になるのだった。

 

「飛び始めましたよ!! あれでは攻撃どころではありません!!」

「さっきから時間が経ってる──閃光が効くはずだ!!」

 

 振り向きざまにスリンガー閃光弾を撃つラグナ。

 しかし──飛竜はそれを全く物ともせずに突っ込んでくる。

 つぅ、とラグナは嫌な予感がしたが、2発、3発、と閃光を撃ち込んだ。

 飛竜は落ちる様子が全くない。そればかりかラグナ目掛けて飛び降り、尻尾で薙ぎ払うのだった。

 

「がっはぁっ!?」

 

 ラグナは吹き飛ばされ、大樹に叩きつけられる。

 腹には鎧を貫通した毒針が多数突き刺さっており、傷口から燃え滾るような痛みが走る。

 すぐにそれを引き抜き、漢方薬を飲み干す。痛みは直ぐに引いたが──体に空いた穴はまだ塞がっていない。

 秘薬を噛み砕かなければ鎧の下から流血が止まらない。そればかりか、桁違いの膂力で吹き飛ばされた衝撃で上手く呼吸できない。

 さっきの漢方薬を咽て吐いてしまいそうだ。

 

(野郎──どういうことだ、閃光も罠も効かなくなってやがる!!)

 

「ラグナさん!?」

「ラグナッ!!」

 

 ラグナを気遣う二人。

 しかし、そんなものなどお構いなしに黒い飛竜は大きく飛び出し、旋回を始めるのだった。

 黒い炎を噴き出しながら辺りの木々を焼き払う飛竜。

 よろめきながらもそれを避けていくハンターたち。

 そして──大きく旋回しながら辺りを火の海へと変えた飛竜は高く高く舞い上がり──勢いよく地面に落ちる。

 岩盤に罅が入り、亀裂が入ってめくれ上がる。

 そして、赤い紫の稲光が周囲に迸るのだった。

 あまりの速度で放たれた龍気を避けることが出来ず、アジサイも、マタビもそれを受けて転倒してしまうのだった。

 

「し、しまっ……!!」

「キョ、キョーレツだニャ……!!」

 

 立ち上がることができないアジサイとマタビ。

 そして、そんなアジサイ目掛けて黒い飛竜は間合いを取り、あの禍々しい黒炎弾をぶつける。

 灼熱が二人を襲い、そして──麻痺毒が筋肉の自由を奪った。

 

「あっぐぁ……!!」

 

 最早アジサイもマタビも口をまともに開くことすら出来なかった。

 神経毒の効果は一時的だが、それが命取りとなる。

 

 

 

「ファァァアアウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ」

 

 

 

 黒い飛竜は──両翼に龍属性エネルギーたる稲光を迸らせ、地面に叩きつけるのだった。

 

「まさかアレは──!!」

 

 ラグナは一気に走る。

 走りながら秘薬を噛み砕く。

 アジサイの前に立ったラグナは得物を抜刀した。

 前方に龍気を集中させて解き放つ黒い飛竜。

 

「バッカ野郎が──ッッッ!! 何でもアリか、クソッタレ!!)

 

 地面が捲れ上がると共に大爆発が次々に起こり、龍気が波となってラグナに襲い掛かった。

 

(冗談じゃねえ──()()()()()()()()()()()使ってきやがるのかよ!!)

 

 廃坑跡で戦った鎖刃竜の大技。

 それと全く同じ──否、威力も規模も大幅に跳ね上がったそれをラグナは真正面から大剣で受け止めた。

 腕が痺れ、全身に龍気が蝕んでいく。

 その凄まじさにラグナは膝を突いてしまうのだった。

 

(前に戦った、あ、あいつのよりも、強ェ……!! 体に力が入らねえどころか、

衝撃で骨を何本か持ってかれた──!!)

 

「ギュリィイイイイイオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 

 そうして膝を突いたラグナ目掛けて、首を大きくもたげ上げる黒い飛竜。

 その口には龍気を帯びたこれまでのどれよりも熾烈な炎が滾っていた。

 だが、今の龍気の爆轟を正面から受け止めたことで、ラグナの体力は底を尽きかけていた。

 手からヴォルガベルが零れ落ち、転がった。

 

(ハ、ハハ、恐れ入ったぜ……こいつ、最初っから全然本気を出してなかったのか!!)

 

「ラグナ……ッ!!」

 

 体が痙攣しているマタビは、最早粉塵を撒くことすら出来なかった。

 ラグナが正面から焼き殺されようとしているのを黙ってみていることしかできない。

 指は動いている。もう少しで麻痺毒は抜ける。だが──その僅かな時間の間に、恐らくあの熱線は放たれる。

 

「に、げろ、お前ら……!!」

 

 辛うじて絞り出すようにラグナは呟く。

 漸くラグナは理解した。

 この飛竜は、古龍や造竜等よりも余程──始末に負えない存在だったのだ、と。

 古龍のように老獪で、造竜よりも頑強で、これまでのどの飛竜の技も使いこなす──悍ましいナニカ。

 何故それが、リオレイアの姿を取って現れたのか、どうして今になって現れたかなど、最早些末な問題であった。

 

 この炎に焼かれれば、自分の命が確実に尽きるであろうことを──そして、この飛竜は触れてはいけない存在だったのだ、とラグナは察していたからである。

 

 

 

 ──火球が放たれる。

 

 

 

 熱と光が眼前を覆ったが──ラグナはその前に何かに突き飛ばされた。

 転がった彼は、名前を呼び掛ける前に──

 

 

 

「ぐっっっああああああああああ!?」

 

 

 

 ──火球の爆ぜた衝撃でごろごろと転がるのだった。

 勢いよく投げ出されたことで彼は咳き込む。

 目の前がチカチカとしてよく見えない。

 黒煙が大風で掻き消される。

 飛竜が──羽ばたいたのだ。

 

「アジサァァァイッ!!」

 

 マタビの甲高い叫びで、ラグナは我に返った。

 

 黒いナニカが──目の前で激しく燃え盛っている。

 

 塊だ。

 

 轟々と唸りながら火を上げる()()()が何なのか理解するまで、ラグナはしばし時間がかかった──

 

 

 

「アジ……サイ……?」

 

 

 

 そして。

 黒い塊に──ラグナは声をかけて漸く現実に引き戻されたのだった。

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