ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第八話:縛鎖のアルシュベルド

 ──鎖刃竜・アルシュベルド。

 それは、とうの昔に絶滅した生き物だとラグナは聞いていた。

 しかし、ここ数年で東地域を起点としてアルシュベルドが再度発見。

 飛行能力は低く、東地域に居座っていることが殆どだが──持ち前の生命力の強さから、稀にこうして遠路はるばる別地域に遠出してくる個体が発見される。

 

「ッ……コイツは、マズい」

 

 そして同時に。

 ラグナは理解した。

 あの衰弱死していたリオレウスのサイズは、他個体のそれを優に上回る。

 言わば──開闢の山林のヌシとでも言うべき個体であったことは間違いない。にも拘わらず、アルシュベルドは容易くそれを下してみせた。

 開闢の山林の頂点に立ったのは──この鎖刃竜だ。

 今の装備でまともに戦えば──苦戦は必至となる。

 

「ヴッッッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」

 

 重機でも鳴らしたかのような凄まじい咆哮が辺りに響き渡った。

 エネルギーを吸収し終えたアルシュベルドは、既に用は無いと言わんばかりに体毛に覆われた翼を広げて飛翔する。

 ラグナ達の事は取るに足らない小さな生き物としか見ていないようだった。

 

「……うっひゃぁ、魅せてくれるねえ」

 

 その様を、ラグナは只々眺めて見ることしか出来なかった。

 しかし、妙な興奮が彼の心をくすぐる。威風堂々と振る舞う古代の飛竜。

 それを目の当たりにして──「敵に回したくないな」と強く願う。

 

(あんがとよ、見逃してくれて。俺も……出来れば戦いたくはねーからな。そのまま……誰にも迷惑かけねえところまで飛んでいってくれ)

 

「……アレ、どうするんですか」

「アルシュベルドが近隣の生態系に影響を及ぼすのは確定事項だ。ギルドには報告しねーといけねえだろ」

「でも、一匹だけなら問題ねーんじゃねーかニャ?」

 

 横たわったリオレイアの死骸から皮や鱗を剥ぎ取り終えたラグナは──懸念を示す。

 

「……ギルドの資料によると……アルシュベルドは、()()()()が可能な疑惑がある、とされている」

「た、単為生殖!?」

「状況証拠によるものだけどな」

 

 アジサイが驚く。マタビは頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいた。

 ラグナは「あー、つまりだなー」と兜を掻いた。

 

「……人間や普通のモンスターはオスメスが揃って交配……つまりエッチして子供が生まれるだろ」

「いきなり何言い出すんですか!?」

「うるせーな事実だろが、俺もオメーも両親がスケベして生まれたんだよ、現実を見やがれ」

「そ、そうかもしれませんが……!!」

 

 顔を真っ赤にするアジサイに──ラグナは「うるせー真面目な話だ」と続ける。

 

「アルシュベルドは……オスメスの交配の必要なく、タマゴを産める。個体全部がメスでも繁殖できるんだよ」

「じゃあ、一匹アルシュベルドが居たら……それを起点にしてどんどん増えるってことですか!?」

「推測だがな」

「リオレウスを倒せるようなヤツがポンポコ増えたら大変だニャ!! むしろ、そんな生き物がどうして絶滅したって言われるくらい数を減らしてたんだニャ!?」

「簡単だぜ。単為生殖で増えるってことは……遺伝子的な多様性も失われるってことだ」

「多様性……?」

「そうだ。俺達や他のモンスターは数えきれないくらいの種類の遺伝子を持っていて、それを交配で混ぜこぜしながら増えていく。だから急激な環境の変化にも適応できる。特定の病気に対し弱いA集団が全滅しても、その病気に強いB集団が生き残れば種として生存できる」

  

 しかし──単為生殖は、自分と全く同じ遺伝子を持つクローンを増やすということ。

 完成された生物のアルシュベルドは──それ以上の進化が見込めないということでもある。

 

「病気……急激な気候変動。どんなに強い生物でも、絶滅する時は絶滅してしまうんですね」

「ラグナオメー……ヤリチンの癖に頭良いのニャ」

「とはいえ、あいつを放っておくと……山林の生態系は大変な事になるだろうな。この辺にはリオレウス以上の強いモンスターは居ねえ」

 

 マタビの両こめかみをぐりぐりと拳骨で折檻しながら──ギルドの判断を仰ぐしかない、とラグナは考えた。

 大型モンスターともなれば、ただちに人間の住む地域に影響を及ぼす場合でない限りは勝手に狩猟することが出来ないのだ。

 

「そもそも、他所からソイツの意思でモンスターが流れ込んできたってんなら、俺達がそれを止める義理は無い。先ずは経過を観察する。それだけだろ」

「飛竜種である以上、飛んで生息域を移動するのは当然の事ですからね……」

「それに、幾らアルシュベルドが強いっつっても、種として定着するかは話が別だからな」

「ところで……残る群生種のイャンクックはどうするんですか?」

「……そうだ、忘れてた。クエスト……」

 

 ちらり、とラグナは森の奥深くに視線を向けた。 

 今あの中に入れば、アルシュベルドとカチ合う可能性は非常に高くなる。

 かと言って、このまま中途半端にクエストを終えるわけにもいかない。

 

「他のエリアを探してみよう。他のチームが狩猟してるくらいだし、まだ他にも居るんじゃねえか」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 案の定、イャンクックはもう一匹見つかり──ラグナ達は特に苦もなくそれを狩猟。

 そのままベースキャンプの場所まで下山するのだった。

 するとそこには、先程出会った教会の面々の姿があった。

 ラグナはにんまりと笑みを浮かべると、すぐさまローズマリーに駆け寄る。

 

「おおっと、麗しきローズマリーさん!! またお会いできて光栄だぜ!! やっぱりこの後食事でも──」

「この人は……」

「いだだだだ」

 

 アジサイはラグナの耳を引っ張る。ナンパする為にもう一度声をかけたのか、と。

 

「あら、ラグナ様。これからもう一度、調査に出向こうとしていたのですけども──」

「いや、それは止めといた方が良いぜ」

 

 ラグナは経緯を話す。

 アルシュベルドの事、そしてそれをギルドに報告する旨だ。

 非常に危険な飛竜の為、不用意に山林に近付かない方が良い──ということを伝えると、ローズマリーは納得するように頷いた。

 

「まあ! それは危ないですわね……ご忠告頂き、ありがとうございますわ!」

「……良いって事よ。麗しのシスターさんの顔に傷が付いたら大変だからな……」

「やめてくださいマジで、相手は大司教様なんですよ」

「恥ってもんがねーのかニャー……」

「ところで……それは何運んでんだ?」

 

 聖騎士達が荷馬車に白い像のようなものを運んでいる。

 それは──龍を象った2メートルほどの石膏像だった。

 龍の背には天使のような羽毛の生えた翼が生えており、その顔にも白い羽毛が左右に生え揃っている。

 

「ああ、これは……我らが”白龍教”の崇高なる()()()()ですわ! 狩猟の際は必ず、この石膏像をベースキャンプに置くようにしてますの! 言わば願掛けですわ!」

「ハクシ……様?」

「そうです! ”ルートゥに灯りを点けし時、ハクシ様の祈りが世界を救う”……これが白龍教の唯一の教えですの!」

「……ルートゥって何ですか?」

「このランタンのことですわ!」

 

 そう言ってローズマリーは腰からぶら下げたランプをラグナ達に見せた。

 とても緻密で精巧な装飾品だ。白い蔓が幾つも穴の開いた球形に絡み合っている。

 所謂「象牙多層球」と呼ばれる形状である。

 

「いつかこの世にハクシ様が降臨される時のことを願い、私達は慈善事業や福祉活動に力を入れていますの!」

「へぇ、偉いじゃないか」

「皆様も興味があれば是非! 白龍教に!」

 

 そう言って、ローズマリーはパンフレットをラグナに手渡す。

 どうやら布教活動にもしっかり力を入れているようだ。

 

「はは、悪いな。生憎──信じるのは自分の腕だけって決めてるんでよ」

 

 そう言ってラグナはカバンの中にパンフレットを仕舞うのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 それから数日。

 バラージュにラグナ達は無事帰還した。

 クエストは無事に達成。報酬も受け取り、改めてラグナはディシプリンにアルシュベルドの事を話していた。

 

「……アルシュベルド、ねえ」

「見たことは?」

「無いな。絶滅種か……興味深い」

 

 クエストの経緯を報告すると、ディシプリンは大きな腹を揺らしながら唸った。

 

「モンスターの生息範囲が……変わってきている。群生種だけじゃない。何か大きな異変が起こりつつある」

「今回の件は──」

「前例からしても一旦様子見、ということになるだろうな。アルシュベルドが山林の新しいヌシになるか……そうじゃないかは、これから自然が決めることだろ」

「……そうか。ところでよ、ディシプリン」

「何だ?」

 

 ラグナは気になっていたことを彼に問うことにした。

 

「白龍教について、何か知ってることはあるか?」

「さあな。町で慈善事業をやっている。その為の資金で教団の団員から献金を受けているようだが……その使い道は福祉だ」

「……あのローズマリーって子は……」

「教団は代々、あの子の一族がやっている。今はあの子だけだがな」

 

 尤も、あの子と言ってもローズマリーは年齢をゆうに100歳は超えている竜人族だ。

 人間であるラグナやディシプリンと比べても長命であるのは明白である。

 

「……何か気になる事でも?」

「……いや」

 

 ラグナは──ローズマリーたちが運んでいた石膏像の事を思い出す。

 

「……何でもねえよ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──アルシュベルド、討伐完了しました」

「御苦労」

 

 

 

 ──山林の奥地で、息絶えたアルシュベルドから白い鎧を身に纏った騎士達が爪や牙を剥ぎ取っていた。

 その周辺には、同じく息絶えた騎士たちの骸が散らばっていた。

 

「……殉職者は?」

「3名です……」

「……彼らはハクシ様の遣いになったのです。ルートゥに灯りを」

「ルートゥに灯りを」

 

 彼が生きていた証を、何一つ残さぬように彼らはアルシュベルドだったものを解体していく。

 ハンターは狩った獲物を少しだけ剥ぎ取り、残りは自然に返す。それが掟だ。

 

「ギルドに悟られる前に撤収するのです。痕跡を残してはいけません。良いですね?」

「ハッ」

 

 しかし白い騎士たちは──アルシュベルドの身体を残さず回収し、そのまま荷車に詰め込んでいく。

 ルートゥでアルシュベルドだったものを照らし──その場を監督していたローズマリーは呟いた。

 

 

 

「……アルシュベルド。古代の民が蘇らせた絶滅種。貴方の命は……ハクシ様の糧になるのです」

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