太陽勇士ソルレオン『俺が小学生ヒーローの変身アイテムに!?』   作:ワタリ3@ぼちぼち浮上

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1-1 獅子の転生  

 ヒーロー? そんなものは、テレビの中の絵空事だ。姉は「ヒーローになる!」と夢を追い続けたが、道路に飛び出した子供を助けて死んだ。

 18年前、母の泣き声でその事実を知った時、俺の心にぽっかり穴が開いた。姉の夢を引き継ごうと彼女が目指していた消防隊に入隊したが、現実は理想を容赦なく叩き潰した。

 パワハラ上司、潰れる同期、救えなかった命。ヒーローなんて、所詮子供の幻想だ。

 

 今、32歳。獅子崎翔、ただのフリーター。コンビニのレジ打ちでクレームに耐える毎日を送っていた。心のどこかで、姉の声が響く。

 

 ”また諦める気、翔?”と。

 

  脳裏に浮かぶあの明るい笑顔が、俺を嘲笑ってるみたいだ。

 朝から夕方のシフトを終え、心がすり減った俺は、夢緒町の商店街をフラフラ歩く。夕焼けが空を赤く染め、すれ違う家族連れやカップルの笑顔が眩しい。幸せそうな奴らを見るたび、俺の惨めさが胸を刺す。別に彼らは俺を嘲ってるわけではない。分かってるけど、心が擦り切れていると、全部が敵に見えてしまう。

 ふと、ゲームセンターの前に貼られたヒーローのデータカードダスゲームのポスターが目に入る。様々なヒーローが全員集合しているポスターだ。

 

 「……“ヒーロー”ねぇ」

 

 苦笑いが漏れる。姉が生きてたら、このポスター見て「カッコいい!」って騒いでただろう。いつもヒーローごっこで俺を巻き込んで、変身ポーズをキメていた。あの頃は俺も、姉みたいにヒーローになれると信じてた。

 

 (バカだったな)

 

 スマホがブブッと震え、母さんからの通知が目に入る。

 

 母:たまには顔を見せなさい。

 

「……実家か」

 病死した父の葬式以来、帰ってない。勤務先のコンビニから歩いて行ける距離なのに、足が重い。姉の部屋の前を通るたび、あの”ライオンペンダント”と彼女の遺影が俺を責める。夢を諦めた俺を、笑顔で刺す。

 

「まぁ、行くだけ行くか。ついでに母さんのメシでも食おう」

 

 軽い気持ちで商店街のスーパーに寄り、惣菜を買い、懐かしい通学路を歩く。街灯がオレンジに揺れる道。昔、姉とヒーローごっこで走り回った。

 

 『黙れ、“口うるさ怪人”! ハイパーレオン、参上!』

 

 姉の変身ポーズ、名乗り、必殺技名。王道……いや、正直全部クソダサい。けど、あの笑顔には敵わなかった。今思い出すと、再び胸が締め付けられる。

 

 曲がり角を抜けた瞬間――ドン!

 

 「うお!?」

 

 柔らかい塊にぶつかり、俺は一瞬フラつく。

 見下ろすと、オレンジ色の髪の子供が尻もちをついてた。ギラギラ光る髪が、まるで小さな太陽みたいだ。

 

 「うわっ! ご、ごめんなさい!」

 

 子供は慌てて立ち上がり、ペコペコ頭を下げる。近所の小学生か?

 

「おい、大丈夫か? 怪我は?」

「あ、はい! すいません、急いでたんで……って、あわわ! 不味い!」

 

 子供がバタバタ手を振って叫ぶ。

 

「ママの雷! 遅れたら終わりだぁ!」

「ママの雷? 何だそりゃ?」

 呆気に取られる俺を置いて、ガキはロケットみたいに走り去る。オレンジの髪が夕陽に揺れ、姉の笑顔と一瞬重なったが「いや、錯覚だろ」と自分に言い聞かせる。

 

雰囲気は似ていた…が、錯覚だ。姉の幻を追いかけてるだけだろ。

 

 気を取り直して歩き続け、実家の門をくぐる。「ただいまー」と玄関を開けるが、シーンとしてる。電気が消えてて、母さんの気配もない。

 

 「買い出しでも行ったか?」

 

 スマホを確認すると、「ちょっとスーパー行ってくるわ」とメッセージ。入れ違いか、タイミングが悪い。惣菜を冷蔵庫に突っ込み、2階の自分の部屋に向かおうとする。

 

 けど、足が止まる。姉の部屋だ。

 

 扉が半開きで、薄暗い廊下に白い光が漏れてる。母さんが掃除した後、開けっ放しにしたんだろか?

 18年間、触れなかったあの部屋。心臓がドクンと高鳴る。

 

 「……入るか」

 

 懐かしさに釣られ、そっと中へ。ヒーロー雑誌が積まれた棚、色褪せた制服、家族写真。勉強机には、姉の遺影が笑ってる。太陽みたいな笑顔。俺をいつも引っ張ってくれた、あの笑顔。

 そして、遺影の前――キラリと光るあの”ライオンのペンダント”と一枚のイラスト。

 

 「これ、姉貴の……」

 

 ペンダントを手に取ると、冷たい金属が掌に食い込む。高校の美術の授業で姉貴が作ったやつだ。イラストには、真っ赤で獅子の顔を持つ戦士。姉貴のオリジナルヒーロー『ハイパーレオン』

 

『じゃじゃーん! ハイパーレオンの変身アイテム! 選ばれし者しか着けられないんだから!』

 

 ペンダント自慢していた姉のドヤ顔が脳裏に蘇る。あの頃は呆れて笑ったけど、今は胸が苦しい。

 

「ヒーロー、か……」

 今日二度目の呟き。姉は本気だった。俺も、昔はそう思っていた。消防隊に入れば、姉の夢を継げるって。でも、現実は違った。同期がパワハラで壊れ、火事で仲間を救えなかった俺に、ヒーローなんて資格はねぇ。

 ペンダントを握る手に力がこもる。

 

「姉貴……俺、なにやってんだろな」

 

 遺影の姉貴は、まるで「まだ諦めるなよ」と笑ってる。母さんが帰るまでここにいよう。ペンダントを胸ポケットにしまい、窓を開ける。夜風がカーテンを揺らし、遠くで街のざわめきが聞こえる。

 ふと、近所のヤチヨ公園の方向に目をやる。妙に暗い。電灯がチカチカ点滅して、まるで何か隠してるみたいだ。

 

 「気味が悪いな……ん?」

 

 胸のペンダントが、ほんの少し熱を持った気がした。いや、気のせいか?

 

 

 実家の門を出て、夜の街を歩く。母さんの手料理で腹は満たされたが、胸のモヤモヤは消えない。ペンダントが胸ポケットの中で妙に重い。

 

 ふと、ヤチヨ公園の看板が目に入る。

 

 「……あ」

 実家を出る前、母さんの忠告が脳裏をよぎる。

 

『ヤチヨ公園は通らないで。今年で3人もあそこで自殺したって、ニュースで……』

 

 スマホで確認すると、確かに記事が。1ヶ月前の最新の事件、遺書には「絶望した」とだけ書かれてた。

 

 「おいおい、ホラーかよ」

 

 公園の入り口は黄色いテープで封鎖されてる。20時過ぎの暗い道、電灯がチカチカ点滅して不気味だ。背筋がゾクッとする。

 

 「遠回りすっか」

 

 踵を返そうとした瞬間――公園の奥で、ガサッと音がした。

 

 「ん?」

 

 目を凝らすと、電灯の下に人影。

「……神林さん!?」

 近所の神林菊子さん、60代の婆ちゃんだ。2年前に旦那さんを亡くし、今は一人暮らしのはずだ。こんな夜中に、立ち入り禁止の公園で何してんだ!?

  嫌な予感が背中をゾワッと這う。心配になり俺はテープを跨ぎ、公園の門をくぐる。

 

 瞬間――ドクン!

 

 心臓が跳ね、頭がキーンと痛む。胸の奥で黒い何かが蠢く。姉の血に染まった笑顔、消防隊の同期が泣き崩れる姿、『お前、気づかなかったのか?』と責める声。全部が最近のことのようにフラッシュバックする。

 

「くそっ、なんで今更!?」

 

 額に汗が滲む。ペンダントがジリジリ熱を帯びる。けど、すぐにスッと体が軽くなる。まるで何事もなかったように。

 

 「……幻覚か?」

 いや、そんな場合じゃねぇ。神林さんが先だ。公園の中央、でかい木のそばに彼女はいた。

 

「神林さん!」

 

 彼女の姿に息を飲む。痩せこけて、目はクマだらけ。虚ろな瞳で、椅子に立ってる。木からロープが垂れ、輪がユラユラ揺れてる。

 

 自殺!?

 

 心臓がバクバク鳴る。

 

「神林さん、そこで何を!? 降りてください!」

「翔くん?」

 

 彼女の声は掠れて、まるで幽霊だ。

 

「逝かせて……あの人の元に」

 

 ロープに手を伸ばす彼女。

 

 「待て! やめろ!」

 

 俺は駆け出す。けど――

 

 ドン!

 

 体が宙を舞う。

 

「――!?」

 

 一瞬の浮遊感。次の瞬間、地面をゴロゴロ転がる。肋骨がミシミシ鳴り、口に血の味が広がる。

「っが……!?」

 何だ!? 何にやられた!? 体が痛い!

 

 暗闇から、ドシ、ドシ……と重い足音。

 

 「邪魔をするな」

 

 くぐもった声。公園の男性の石像が動いてる?そう思った瞬間、顔がひび割れ、髑髏の顔がニヤリと現れる。眼窩の奥が赤く光り、口から黒い煙のような物がモクモク漏れる。体はゴツゴツした岩の鎧、腕から鎖みたいに伸びる。

 

 「な、なんだこいつ!? 特撮の怪人か!?」

 

 冗談で誤魔化そうとしたが、恐怖で膝がガクガク震える。特撮のスーツではない、確かな存在感と威圧感。

 

「こいつの死で、我が王の『絶望のネガルマ』が満たされる」

 

「ネガルマ? 王? 何を言ってんだ!?」

 

 頭が混乱する。

 

「神林さん、早く逃げて!」

 

 体の痛みをこらえ叫ぶが、彼女はロープを見つめたまま動かない。

 

「逝くんだ……あの人の元に」

 

 髑髏の目がギラリと光る。

 

「さぁ、老婆よ。心して死ね。向こうで伴侶が待ってる」

 

 鎖の腕が神林さんに伸びる。

 

 「やめろ!」

 

 痛みを無視して立ち上がるが、喉からゴボッと血が溢れる。

 

 「っげほ!」

 

 地面に赤い水たまり。内臓がズタズタだ。さっきの一撃で、俺の体はもう限界らしい。

 

「神林さん、頼む! 孫がいるだろ! 京介って子、いつも婆ちゃんに会うの楽しみにしてるって!」

 

 京介はコンビニでよくお菓子を買いに来るガキだ。お行儀がよく、接客で擦れた心を癒してくれた。神林さんの話をする時の笑顔は忘れられない。

 

 「京介……」

 

 彼女の目が一瞬揺れる。

 

 「姉貴を失った俺は、家族の悲しみを知ってる。だから、生きてくれ!」

 

 消防隊で救えなかった命が、頭をよぎる。あの時、俺は無力だった。でも、今は――!

 

 「翔くん……私、なにを……ひぃ!?」

 

 やっと気づいた彼女が、髑髏怪人の存在に悲鳴を上げる。

 

「ちっ、余計なことを!」

 

 髑髏が舌打ちし、鎖で神林さんを掴む。

 

 「離せ!」

 

 最後の力を振り絞り、突っ込む。けど――

 

 ガキン!

 

 鎖が俺の腹を貫く。

 

「――あ」

 

 視界が真っ赤に染まり、地面に崩れ落ちる。

 

「くそっ……俺は、ヒーローじゃ……」

 「ふはは! 貴様の絶望も頂くぞ!」

 

 髑髏の口が開き、黒い煙が俺を包む。姉の血、消防隊の同期の泣き顔、『お前、気づかなかったのか?』と責める声。全部がなん度もリピートする。

 

 「姉貴……母さん……すまねぇ……」

 

 意識が遠のく。けど、胸ポケットのペンダントが――ギラリと光った。

 

「な、っく! この力は、まさか!?」

 

 髑髏が後ずさる。

 

 「姉貴……?」

「何故この世界に!」

 

ペンダントが胸ポケットから飛び出し、ライオンの咆哮が響く。

 

『ROAR!!!!』

 

光が怪人を包み、まるで蒸発するように消滅した。

 

「な、にが……神林さん……」

 

 神林さんは地面に倒れ、気を失ってる。無事、か?

 意識が遠のいていく。寒い。これが死か。母さんを置いていくのは心残りだが、もうどうしようもねぇ。

 

 「姉貴……俺、ダメだったよ……」

 

 脳裏に響くライオンの咆哮。不思議と体が温まる感覚に包まれる。

 

 

 

「ここは……天国か?」

 目を開くと、俺は星空みたいな空間に浮いてた。無限に広がる光の海、まるで宇宙だ。死んだ後の世界って、こんなキラキラしてんのか。

 

『獅子崎翔』

 

 目の前に、ライオンの頭をした真っ赤な戦士が現れる。姉のイラストそのまんまの姿。

 

 「ハイパーレオン!?」

 

 姉が考えたヒーローだ。こんな現実離れした姿、姉貴の頭の中から飛び出してきたとしか思えねぇ。

 

「まさか……姉貴?」

 

 ライオンは静かに首を振る。

 

『すまない。混乱を避けるため、君の姉”獅子崎明美”のイメージを借りた』

 

 声は低く、雷みたいに響く。けど、どこか姉の優しさに似てる。

 

「お前、何者だ!? ここはどこだ!? 俺は――」

 

『君は死んだ。絶望の”ネガロイド”に殺された』

 

 ズシンと胸に刺さる言葉。腹の痛みがフラッシュバックする。

 

『だが、君の魂は獅子崎明美のペンダントに宿った。ここは、その中だ』

「ペンダントの中!? ファンタジーすぎんだろ!」

 

 姉のペンダントがこんなオカルトじみたもんだったなんて、知らなかったぞ!

 

『時間が無い。単刀直入に言う。この世界は危機に瀕している。君の力を借りたい』

「あ?俺の力? コンビニのレジ打ち以外、なんもできねぇぞ」

 

 消防隊でもヒーローになれなかった俺だ。こんな得体の知れねぇ存在に何を期待されても、ムリだろ。

 

『私……いや、私たちの力を扱える『ヒーロー』を探してほしい。『太陽の輝き』を持つ者だ』

「ヒーロー? そんなもん、現実にいねぇよ!」

 

 姉も俺も、ヒーローになんかなれなかった。現実の壁に叩き潰されたんだ!

 

『語弊があった。ヒーローに『なり得る者』だ。君なら、見つけられる』

 

 ハイパーレオンの姿が薄れ、光が強くなる。

「おい、待て! もっと説明しろ! 姉貴とどう関係が――!」

 

 『獅子崎翔! 太陽を探せ! 時が来たら、また話そう!』

 

 

 バチッ!

 

 

 目も眩む光が爆発し、意識が途切れる――。

 

 ハッと目を開ける。朝焼けのヤチヨ公園。鳥のさえずりが遠くで響く。

 

 『うぅ……なんなんだ、一体。』

 

 頭がボーッとして、意識がはっきりしない。体が軽い。いや、軽すぎる。視線も妙に高い。

 公園前の建物の窓ガラスに、俺の姿が映る。

 

 『な、なんじゃこりゃー!?』

 

 手のひらサイズのシルバーでメカニカルなライオンヘッド。その姿は姉貴のペンダントのライオンのチャームにそっくり。まるで特撮ヒーローの収集アイテムみたいな姿。体はなく、ただ宙に浮く頭だけ。

 

 『姉貴のペンダントが……俺をこんな目に!?』

 

 混乱する頭で、ハイパーレオンの言葉が響く。

 

 ”太陽の輝きを持つ者を探すのだ”

 

『太陽の……輝き?』

 ふと、夕陽にギラギラ光るオレンジ髪のガキが脳裏に浮かぶ。「ママの雷!」と叫んで走り去ったガキだ。

 

『まさか……な? いや、バカバカしい』

 

 あのガキがヒーロー候補? ありえねぇだろ。けど、姉の笑顔と重なるあの目は、なんか引っかかる。

 

 『そういえば、神林さんは!?』

 

 怪人に襲われてた彼女の安否が気になり、公園のでかい木の元へ急ぐ。

 

 その光景に、頭の混乱はさらに悪化した。

 

『うそ……だろ……“俺”?』

 

 木の前の広場。そこには腹を貫かれ、血まみれの俺の死体が横たわっていた。

 

 『ほ、本当に……死んだのか。俺は。』

 

 母さんの顔が浮かぶ。姉貴の後、俺まで失って、母さんはどうなる? 胸が締め付けられるが、こんな姿じゃどうしようもねぇ。

 

『ハイパーレオン……お前、俺に何をさせたいんだ?』

 

 朝焼けに輝く町を見下ろしながら、俺は呟いた。太陽の輝き、か。どこにいるんだよ、そんな奴。

 

 

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