「その後、わたしはすべての者にわたしの霊を注ぐ。あなたがたの息子や娘は預言し、老人は夢を見、若者は幻を見る。」
ヨエル書の預言(ヨエル3:1)
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暖炉の火が真っ赤に燃えていた。
赤い光に照らされた椅子の上で、母さんは小さな本を持っていて、その前でぼくとイザベラは一緒に毛布に包まっていた。
赤と白色の毛皮は小さな僕らの体をぶかぶかに覆う。
「むかし、むかし、はるかむかし。そこには一人の魔法使いがおりました。その魔法使いはーーーーー」
語る声とくっつく肩が温かい。
母さんがいつも語る魔法使いの話はぼくらのお気に入りだった。
それは、ひとりぼっちの魔法使いが友達と出会って、旅をして、苦しいことがあって、楽しいことがあって、そうして、いつか幸せになるお話。
ひどくちんけで、だけど幸せな、そういうお話。
「魔法使いは言いました。ねぇ、きみ、ぼくのーーーー」
母さんは優しい笑顔で話した。
ぼくらはただ静かに何度も聞いたはずの魔法の旅路をなぞった。頭のなかにちっぽけな魔法使いとその仲間たちが夢のように描かれる。
まだ、本当に小さい僕ら。
おとぎ話にわくわくと声を輝かせるぼくら。
あの時は、まだ。
「ねぇ、いつかさ」
「いつか、」
「いつか、ぼくらも魔法が使える?」
幼い声で尋ねる。
すると、母さんは少し黙って困ったように答えた。
「………………ええ」
「きっと、つかえるわ。2人が良い子にしていたら」
その温かい声にきゃっきゃっと喜んで二人で笑った。
今考えれば、おためごかしだ。
僕は、また一つ、自分が嫌いになった。
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風が強く吹いている。
視界いっぱいに広がった草っぱらと遠くの海岸に沈む夕日。
真っ白の美しい髪をなびかせて、イザベラは黄金色の景色の中で歩いている。
逆光が彼女の細い体を黒く隠す。
太陽と海を背にして彼女は笑った。
「ねぇ」
「こんなにも、妖精がいっぱい。」
彼女の歩きになんとかついて行った僕は、その言葉に少し詰まって、なんとか声を返した。
若干上擦った声と焦る心拍音。
「あぁ、そうだね」
「ようせいが、いっぱいだ」
少しの潮の匂いと、吹き付ける強い風。草のざわめきき。
この音に紛れて、ぼくの声が掻き消えればよかった。
彼女に、伝わらなければよかったのに。
「そうよね、すっごいきれいな景色!」
弾む声。黄金色の中にいるワンピースを着た少女。
イザベラは「ようせい」たちのなかで、綺麗に笑っていたのだろう。
でも、
それでも、
僕には、ようせいはみえなかった。