TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】   作:畑渚

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第17話 平和な鍋と忍び寄る影

「それじゃあ、乾杯っす!」

 

 グラスがぶつかりあい、宴がはじまる。

 といっても家で行われる、俺達4人だけの宴だが。

 

「セナさん、試験お疲れ様でした」

 

「莉子会長も、付き添い人してたんだっけ」

 

「はい。といっても私のところでは問題は起きなかったので、本当について行っていただけですけど」

 

「結局うちの班だけか、奥の階層に迷い込んだのは」

 

 詳しくは調査中とのことだが、俺達は3層よりも深い階層に迷い込む道を進んでしまっていたらしい。協会側も把握していないルートだったようで、付き添いだった秋は連行されていった。

 

「で、何を見たっすか?」

 

「見たもなんも、鉱石ゴーレムくらいだよ」

 

「ひゃあ、面倒な敵引いたっすね」

 

「硬かったな。それに突進攻撃を避けないと致命的だな」

 

「鉱石ゴーレムはランク4の精鋭で太刀打ちできるレベルっすよ……。もしかして倒したっすか?」

 

「……まあ、もちろん」

 

 由希たちが離脱したのを確認して機甲に着替えた俺は、鉱石ゴーレムに正面から挑んでみた。

 

「む、鉱石ゴーレム。解析したかった」

 

「小春ちゃんって鉱石とかにも興味があるのか?」

 

「もちろん。アレだけの硬度が宿主を失うと消えるというのは不可思議だと思わないかい?」

 

「たしかにそう言われれば気になるな」

 

 鉱石ゴーレムというほどだ。希少な鉱石が含まれていたら、それが消えてしまうのはもったいないと感じてしまう。

 

「で、どうだっだっすか、鉱石ゴーレムは」

 

「うーん、掘削?」

 

「まさかとは思ってたっすけど、あれを正面からぶん殴ったんすね……」

 

 何度も叩けばヒビが入って、そこを広げるように殴って核まで到達。

 あとは決めの一撃を打ち込んで核を壊した。

 

「何はともあれ、無事で良かったです」

 

 鍋の具材をとりながら、莉子会長は言う。

 

「セナさんといえど、知らない敵相手に不意をつかれないかはわからないものですよ」

 

「ま、まあな」

 

 皆を心配させないように、朱音を救出したときの一幕についてはぼかして伝えている。

 あの戦いは、俺の数少ない敗北記録として脳内に刻み込まれている。次はああはならないようにしてみせる。

 

「さぁ、そろそろ出来上がりっすよ。いっぱい食べるっす」

 

「よっしゃ、鍋だ鍋!」

 

 今は目の前の鍋に集中しよう。

 

「あっ!俺の肉!」

 

「へへっ、甘いっすよ」

 

 こうして今日も、平和な時間が流れていった。

 

 

<=>

 

 

「ちっ、まだ見つからねえのかよ」

 

 男は荒々しく机に足を乗せて、調査資料に目を通す。

 

「まったく、そこまで執着しなくてもいいだろうに」

 

「馬鹿野郎、せっかくのチャンスなんだぞ」

 

「そんなに急いては事を仕損じるぞ。現役ランク5探索者、牙門くん」

 

「うるせぇぞ、ハク。てめぇは俺に従うのが仕事だろ」

 

「はいはい、仰せのままに、わが主」

 

 幼女の姿をした何者かは、そう言って牙門の影に溶け込んでいった。

 

「ったく、どういうことだ。あのリビングアーマーは何しに外に出てきやがった……?」

 

 当初の彼の想定では、街で暴れ始めたリビングアーマーの元へ急行してぶっ飛ばす予定だった。

 

 しかし蓋を開けてみればどうだ。あれから音沙汰がない。少なくとも、『あの日』のように外で暴れるのが目的ではなかったと考えるのが妥当だ。

 

 だとしても何の目的で……

 

 そこで思い当たる。自分のテイムしているモンスターについてだ。

 

 彼女は影を司るフェンリルの末裔。

 先程は幼女の姿をしていたが、その実体は牙門が乗ってもビクともしない巨体の狼である。

 

 つまりは、幼女の姿と狼の姿の2形態が少なくとも存在する。

 ダンジョンモンスターでも、劣勢に追いやられた際に形態変化する個体が確認されていたりもする。

 

 ということは、だ。あのリビングアーマーにも別形態があるのではと推測するのはトンチンカンな話でもなかった。

 

「くそ、だからなんだって言うんだ」

 

 もし人型というのであれば、この都会の街並みから探し出せというのは、森で木を探す行為に等しい。

 なにかしらとっかかりがあればいいものの、その情報は何も回ってこない。

 

「……仕方ねぇ。おいハク」

 

「なんですかな、我が主」

 

「散歩に行くぞ。適当な強そうなヤツ見繕ってくれ」

 

 もちろんただの散歩ではない。

 強い奴目当ての、スパークリング相手探しだ。

 

「じゃあこんなのはどうかな」

 

 端末をすすっと移動させて、ハクは一人の生徒データを表示させる。

 

「おい、ハクの好みだから拝みに行きたいだけだろ」

 

「まあそれもあるけれど……」

 

 ハクは人差し指を顎にあてて、すこし言うのを悩んだ。しかしその数秒は牙門には耐えきれるものではなかった。

 

「なんだ、言ってみろ」

 

「ああ、ゴーレムをね、ただの低層ゴーレムだけど、一撃で殴り倒した疑いがある」

 

「……ほぅ?」

 

 その情報を聞いた瞬間、牙門の口角が吊り上がった。

 

「どうしてそんな情報隠していやがった」

 

「だって見た目がボク好み何だもの。牙門の毒牙にかかってほしくなかったよ」

 

「嘘つけ。お前の獣の性はそんな生温くねえだろ。伝わってくるぜ。強者を前に胸が躍ってる様子がな」

 

「いやはや。隠し事ができなくて困るね」

 

 ハクはぶるりと体を震わせる。

 すると姿が捻じ曲がり、大狼が現れる。

 

「行こう、我が主」

 

「ああ、愉しい愉しい散歩の時間だ」

 

 窓を明け放ち、摩天楼に飛び出す。

 影から影へと飛び、目的地までほぼ一直線に、背に主を乗せた白銀の狼が駆け抜けた。

 

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