TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】   作:畑渚

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第18話 訓練

 それは唐突に訪れた。

 

 日が落ちた頃に突然現れたそれは、聖域を突き破り、制止の声も聞かず、そこへ現れた。

 

「よお、セナとやら。いっちょ俺と遊んでくれねえか」

 

 だがその男は間違えた。

 

 紬の制止を振り切ったことか

 

 莉子が駆けつけられたことだろうか

 

 小春が不審者対策グッズを持ってきたことだろうか

 

 

 否、そのどれも違う。

 

 

 男が間違えたのは

 

「な、な、な……」

 

「ん?」

 

 ゆるやかに弧を描く肩。白色灯で照らされて輝く柔肌。富んではいないものの確かに存在する胸。ギリギリ間に合った下半身の布地。

 

「なに着替え中に入ってきてんだぁ!」

 

 最強生物のセナの着替え中に入ったことだ。

 

 

<=>

 

 

「我が主も悪気や下心でやったわけではない。どうか許してほしい」

 

「……」

 

 男の仏頂面を隣の白髪ロリが無理やり下げさせる。

 

「ダメっす!女の子の着替え覗くなんて!」

 

「うむ、漫画やアニメでは許しても私たちは許さないよ」

 

「そもそも女子寮に侵入するなんて大事ですよ。牙門さん」

 

 3人は口々にそう言って、男を弾劾しようとする。

 

「それはその……すまねえと思ってる。つい強者の匂いに高ぶっちまった」

 

「でも、それでもっす!」

 

 なんかこのままだと話が進まない気がしたから、憤ってる3人をなだめることにした。

 

「まあまあ、紬ちゃん。小春ちゃんと莉子会長もそのくらいにしとこう、な?」

 

「セナちゃんはホントに大丈夫なんすか!?見られたんすよ、裸を!」

 

「あぁ、いや恥ずかしいけどさぁ」

 

 俺は頭をかきながら男の頬を指さす。

 

「もう制裁はしたし区切りをつけたと言うか」

 

 牙門の頬には、すでに真っ赤なもみじマークが付いていた。

 

「ま、まぁ本人がそう言うならいいっすけど……」

 

「俺は大丈夫だから」

 

 3人が落ち着いたところで、改めてちゃぶ台を囲む。

 

「それで、俺と戦いたいと」

 

「ああ、噂になってるらしいじゃねえか。俺様直々に力を測りにきた」

 

「あー、まあそうだなぁ」

 

 いつぞやの配信でのゴーレムワンパンは、どうやら彼の耳にも入ったようである。

 

「でもランク3に成り立てだぞ、俺」

 

「ランクなんて関係ねえ。強いかどうかだ。そしてオレには分かる。お前は強い」

 

「まあスパークリングくらいなら俺は望むところなんだが……」

 

 ちらりと隣を見る。

 

 莉子会長は俺からの視線に気づきニコリと笑い、そして首を横に振った。

 

「牙門さん。探索者同士の私闘は禁止されているはずですが」

 

「だからこれは私闘じゃねえ、訓練だ」

 

「そんな屁理屈を……」

 

「だが止める道理はなくなっただろう?」

 

「っ!そうですが、しかし」

 

「なあ莉子会長」

 

 思い悩む莉子会長に俺からも頼み込む。

 

「怪我しないようにはするからさ、頼むよ」

 

「……どうなっても私は止めませんからね」

 

 こうして俺達は戦うことが決定した。

 

「止めようと思っても、私じゃ止められないでしょうし」

 

 なにか莉子会長が呟いた気がしたが、その時はよく聞こえなかった。

 

 

<=>

 

 

 訓練所とは名ばかりの空き地で、俺はランク5探索者、牙門と向き合って立っていた。

 

 空き地の端では、心配か興味か、うちの学園の3人が静かにこちらを見守っていた。

 

「なあ、ルールはどうする」

 

「ルール?必要か?」

 

 そう聞き返した牙門に、俺は手を広げて答える。

 

「必要だろ。じゃなきゃ俺がミンチにされちまう」

 

「そんなじゃないだろうによく言う」

 

「わかった。致命傷禁止で15分間のみってのはどうだ」

 

「軽いな」

 

「武器ないと体格差で俺がきついし、時間制限がないとやめ時を見失いそうだからな」

 

「まあいいぜ。お前のチャレンジマッチだ。好きにしろ」

 

「じゃあもう一つだけ」

 

「なんだ」

 

「こっちも武器を使うんだ。そっちも出し惜しまずに来てよ」

 

「ふん、生意気いうやつだ」

 

 牙門は鼻息を荒くすると、荒れ地の端にいたハクを指さす。

 

「あれは俺の異能。つまりは武器の一部だと言ったら?」

 

「へえ、意外と可愛らしい異能してんのな」

 

「は?」

 

「いやほらだって、ねぇ」

 

 筋骨隆々な大男が、テイマーだなんて見た目詐欺にも程があると思わないか?

 

「ふふふ、くはははっ!」

 

「うおっいきなりなんだよ」

 

「決めたぞ、お前は15分で雑巾にしてやる。来いハク!」

 

 呼ばれた使い魔は、やれやれという素振りを見せた後、牙門の影へと飛び込む。

 

 すると、目の前の男の影が、そしてその影に従うように男の身体自体が、大きく、鋭くなっていく。

 

「殺しはしねぇように気をつけるから、安心しろよ」

 

「はは、とんだチャレンジマッチだこと」

 

 籠手をつけて構えた俺に対して、牙門はくいっと手を寄せて見せた。

 

 

 ならば見せてやろう、最速の拳を。

 

 

 俺は、地面を蹴って牙門へと急接近した。

 

 

<=>

 

 

「まずいな」

 

 口からそう漏れ出た。

 お互い、致命傷はまだない。いくつか生傷はあるものの、決定打に欠けていた。

 

「これ以上はちょっと、力入れらんないしな」

 

 俺は力の制御にリソースを割かなければいけなかった。

 なんていったってゴーレムを破壊する拳だ。よくわからない異能で強化されているとはいえ、人体に撃ったらどうなるかわかったものでもない。

 

 しかし、手抜きをしてさばき切れる相手でもなかった。

 

「っとあぶね!」

 

「身体に見合ってすばしっこいやつだなぁ!」

 

 鋭く尖った爪が頬を掠めた。戦闘本能がどくどくと脈を打ち、今か今かと力の解放を期待してくる。

 それを必死に抑えながら、しかし避けることには本気で、そんなちぐはぐな動きをしていた。

 

「お前、強いな」

 

「へへっそっちこそ」

 

「だが、俺ほどではないなぁ!」

 

 よ、避けきれねぇ!

 

 上からの爪による薙ぎ払いに俺はとっさにガードの体勢を取った。

 しかし、その動きは読まれていた。

 

 横に衝撃を感じた時、俺は自分が蹴られて倒れたことに、少し遅れて気がついた。

 

 あっけに取られていると、牙門は地を蹴り、接近してくる。

 

 

 やられる?

 

 

 馬鹿、やられる前にやるんだよ!

 

 

 反射的に飛び上がり、突っ込んできた牙門に、手加減のない拳を叩き込むべく大きく振りかぶった。

 

「やめ!」

 

 大きく響いた声に、拳を急停止する。

 牙門も動きを止めて、声の主の方を見た。

 

「15分経ちましたので終わりです。牙門さん」

 

「ちっ」

 

 牙門は変身を解いて、普段の姿に戻る。そして大狼形態になったハクに乗って、静かに去っていった。

 

「ふ、ふぅ。なんとか終わった」

 

「大丈夫ですか!」

 

「ああ、莉子会長。ありがとな」

 

「いえ、なんのことでしょうか」

 

 そういう莉子会長の手には時間を計っていたスマホが握られている。時間は14分30秒で止まっている。

 

「はー疲れた。また風呂に入り直さないとな」

 

「おつかれっす」

 

「おつかれ。籠手の消耗具合を調査させてくれ」

 

「小春ちゃんは相変わらずだなぁ」

 

「当たり前だろう?世にも貴重なランク5との戦闘結果なんて、垂涎ものだよ」

 

 小春ちゃんに籠手を渡して、洗面所に舞い戻る。

 

 服を脱いでるときに、牙門に覗かれたことを思い出す。

 

「……別に」

 

 ちょっと熱くなった頬をパンと叩き、俺は服を脱ぎ捨てた。

 

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