TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】 作:畑渚
――都内某所。ランク5専用トレーニングルーム――
「やぁ。精が出るね、牙門くん」
「……皇。ここにくるなんて珍しいじゃねえか」
現にここを利用するのは専ら牙門くらいだった。
「なに、深夜に施設利用申請が出てるのを見かけてね。仕事の休憩がてら覗きに来ただけさ」
「趣味が悪ぃな」
「君ほどじゃないさ」
皇はバサリと手に持っていた書類を、わざとらしく落としてみせた。
そこには、アクセスログとともに、証拠となる写真が数枚含まれていた。
「データベースの無断利用、不正アクセス、そして……」
追加で1枚の写真を投げ捨てる。
そこには、先ほどの空き地での戦闘がばっちりと映っていた。
「ランク5に認定された際に言われただろう。私闘は禁じると」
「なんだ、俺を糾弾しにきたのか?」
「やだなぁ、血の気が多いねぇ」
拳を構えた牙門に、皇はやれやれと手を広げて見せた。
「なに、僕も気になるのさ。彼女の強さが」
「じゃあ交換条件だ。教える代わりにお咎めなしにしろ」
「元よりそのつもりさ。この証拠も元データは消してきた」
「……俺がお前をボコせば隠蔽できるってことか」
「できるのかい?君に、この僕が」
「……ちっ。交換条件は成立ってことでいいか?」
「うん、それで構わないよ」
牙門はサンドバッグから離れて水を手に取る。
大粒の汗をタオルで拭き取ってから、ベンチに座り込んだ。
「0回だ」
「ゼロ?」
「俺があいつを殺せたと感じた瞬間はゼロだった」
「ほう、使い魔を使った君をしてか」
「すべての攻撃を見切られて、躱し、受け流された」
「ほう。それで、君は?」
「俺自身が死んだのは、1回、時間切れギリギリの最後の一発だけだ」
「……ふむ、なるほど」
「用が済んだならあっちにいけ。強者の匂いは今はウンザリなんだ」
「くくく、高ぶって仕方がないって感じだね」
「当たり前だろ。あんなにも強いやつが世界にはまだいんのか」
「あれほどはなかなかいないだろうね」
「……っふう、また高ぶってきやがった。どうだ、一回だけ」
「いやだよ。今君と戦うと全力を出さざるを得なくなる。そうしたらこの施設ごとお釈迦だ」
「ちっ」
「それに、また戦う機会はすぐに来るだろうさ」
「……対抗戦か」
「数少ない、ランク5同士が戦う機会でもあるんだ。楽しみで仕方がないだろう?」
「へへ、よくわかってんじゃねえか」
「なに、僕も期待しているのさ」
皇は端末に映るセナの姿を見て、微笑んだ。
「彼女がゲームチェンジャーになることをね」
皇はそれだけいうと、それじゃあとすぐに立ち去ってしまった。
残された牙門はふぅと息を入れ直すと、ふたたびサンドバッグの前に立って、拳を振り始めた。
頭の中に残るあの幻影の速さに追いつくために。
<=>
ちゃぽーん
それほど広くはない湯船に身体を預けながら、俺は物思いにふけっていた。
もちろん先ほどまでの戦いについてだ。
俺は最後、自身の制御を失い、本気の一撃を繰り出そうとしていた。
もしそうなっていたら、あそこが訓練場から事故現場になっていただろう。
「はぁ」
「なに、食えない顔をしているんだい」
「ふ、ふぇ?」
俺の影から、ばしゃりと音をたてて、巫女装束の女の子が飛び出してきた。
「えっと、確かハクだったっけ」
「そのとおり。私はハク、牙門の使い魔だ」
「え、いやどうしてここに、てかここ風呂場!」
「おお、すまない。場所に適した格好になるべきだな」
そういって彼女は手をすっと殺ったかと思うと、巫女装束は消えすっぽんぽんの……
「ってまて~い!」
「ん?なにか間違えたかな?」
「いや、いいのか?いやよくないだろ、なんで裸になるんだよ!」
「そりゃ風呂の中だからだけど」
「そうだけど!そうじゃなくて!一般男性の目の前で……」
そこまでいいかけて、俺が今一般男性の見た目をシていないことに気が付く。
「よくわからんが、まあ裸の付き合いってやつよ」
がははと笑う幼女に、俺は頭を抱えそうになった。
「それで、牙門の使い魔が何の用だ」
「何、少し確認をな」
そういってハクは俺の首元に顔を近づけ、何度かスンスンと匂いを嗅いだ。
「やはり、お主、モンスターの匂いが濃すぎるぞ」
「えっ何を言って」
「何、隠さなくても良い。私だって、モンスターの端くれ。外の世界に出ている珍しい仲間っていうもんさ」
「……」
そう言われると、俺はつい黙り込んでしまった。
自分が何者かだなんて、わかっていたことだ。この生まれでこのスペックで、人間と同じわけがないと。
「安心せい。私は誰かに漏らしたりはしないさ。我が主にもな」
そういうと風呂場の窓を開けスルリと出ていった。
「じゃあの、ダンジョン産の人型。また会おう」
夜の影に溶け込むように、ハクは消えていってしまった。
「……ダンジョン産のヒトガタ、ね」
俺は自分の手を眺める。精巧な作りはまるで自分が人間ではなく、人形であるかのように感じてしまう。
「ううん、よくないな」
俺は俺の意識で動いてる。人間に仇なすつもりもない。
俺は俺である限り、なにがどうであったって、人間であるつもりだ。
そんなことを再確認しつつ、のぼせる前に風呂場を後にした。