TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】   作:畑渚

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第23話 『俺』

「誰ってそりゃ俺……」

 

 そう答えようとした。

 

 しかし、何かが決定的に欠けていた。

 

 いや、欠けていたのではない。むしろ多すぎた。

 

「俺……いや、僕……?私?な、なにが起きてるんだ」

 

 自分でも何が起きているのかわからない。

 

 以前までの自分を思い出そうとする。

 

 

 会社に縛られ、上司に頭を下げ、客に媚びへつらい、毎朝満員の通勤電車に揺られる俺。

 学校という檻に適合できず、不登校を繰り返し、いずれ家からも居場所を失った僕。

 夢を追いかけて無理も承知で上京し、そして無理がたたり夢すらも破れたれた私。

 

 

 他にも多くの記憶が、整合性もなく混ざり合って、俺、僕、私を構成している。

 

「考えたことなかったかい?自分の生まれについて」

 

「何を言いたいんだ」

 

「君は、君を君たらしめてる『俺』というなにかは、君を構成する部品の一部にしか過ぎないのさ」

 

「嘘だ。だって俺は……親の顔さえ……」

 

 意に反して顔が歪む。

 

 思い出せないわけではない。

 

 思い出せすぎるのだ。

 

 『俺』が知らない親たちの顔が脳内を埋め尽くす。

 

「君はすでに『君』だけではない。わかったかい?」

 

「……」

 

 認めたくはない。現に目覚めてから今日まで、俺は『俺』を核にして生きてきた。

 

「まったく、まだ認めないのかい」

 

 そういうとヤツはこちらに歩み寄ってくる。

 俺は距離をとることすら忘れて、呆然としてしまっていた。

 

 肩にヤツの手がポンと乗る。

 

「『君』は、どんな性格だったか思い出してごらん」

 

 俺?俺は……日々に絶望し、目の光を失いながらも、そのことに抗うことすら思いつかないような、社会の歯車の……

 

 

 それが本当に俺か?

 

 

「『君』は、君だけをもとに性格が形作られていない。そうだろう?」

 

「俺は……何なんだ……」

 

「だから言ってるだろう?」

 

 ヤツは再び台座に座って、足を組んだ。

 

「君は、僕が生み出した、ダンジョンの階層主、フロアボスさ」

 

 身体がどんなに人と乖離していようと、

 

 どんなに戦闘に優れていようと、

 

 心意気は人間のままであるつもりだった。

 

 

 だがそのココロすら、寄せ集めのマガイモノだった。

 

 

「あぁ……」

 

「まあそう絶望するなよ。別にだからと言って君をどうこうしようとする気はないんだから」

 

「どういうことだ」

 

「もともとはフロアボスとしてダンジョンクリア……つまりはダンジョンの終焉を防ぐ要になってもらうつもりだったんだけどね」

 

 ヤツはつまらなさそうに頬に手を当てた。

 

「人間ってやつは本当に慎重過ぎて困るよ。これじゃあせっかく用意した深層が日の目を見るのは100年後くらいだよ」

 

「クリアされそうにないってことか」

 

「そうだよ。だから君の役目がくるのもずいぶん後になりそうだ」

 

「役目?拒否したらどうするんだ」

 

「拒否?できないさ。君は僕の創造物なんだから」

 

 急に辺りが冷える。プレッシャーを感じ、重力が何倍にもなったかのように感じる。

 俺は我慢できずに、膝をついた。

 

「おお、良かった。ほんとに効いた」

 

「くそ、身体が重い……」

 

「君は想定以上に強い個体に仕上がったから、コレが効くか不安だったんだよ」

 

 プレッシャーが軽くなる。

 俺は土埃を払いながら立ち上がった。もう先程までの重力は感じない。

 

「俺に何をさせるつもりだ」

 

「何……?いや、何も」

 

「なんだって?」

 

「何もないよ。今の君に望むことなんて。せいぜい外で楽しく過ごすと良いさ」

 

「戻ってこいとかないのか」

 

「戻ってきたところでね、君のホームは今やこんな深層にあるわけだし。ここに人間がくることなんてないからね」

 

「じゃあ何のために俺をここに迷い込ませたんだ」

 

「うーん、バグの確認、あるいはメンテナンスって言葉があってるかな」

 

「俺はバグだと?」

 

「そうさ。もともと自我を形成させるためにいくつかの欠片を混ぜて作ったんだけどね。その一つがこんなにも強く表に現れるのは想定外だったのさ」

 

「確かに……」

 

 記憶が複数ある。性格も元の通りではない。でも、主人格がどの記憶かといえば、『俺』だと断定できる。

 

「それで、俺に問題はあるのか?」

 

「見たところなさそうだねぇ。奇跡といってもいい」

 

「奇跡?」

 

「『君』を便宜上主人格と呼ぶが、主人格の不安定な部分を支え合うように他の人格たちが手を添えている、といった状況かな」

 

「たしかにそれは奇跡だな」

 

 もし人格の中に、『俺』以上に主張がでかいやつがいたら、俺はこうなってなかったということだろう。そう考えると、とてつもないバランス感覚で今が成り立っている気がした。

 

「じゃあ僕は帰るから」

 

「帰る?ダンジョン内で生活できるのか?」

 

「……ダンジョンモンスターの中では君が異常なんだよ。普通のモンスターはダンジョン外で長時間いると」

 

「いると……?」

 

「マナが足りなくなって溶け出す。君はヒトのパーツが多いから適応したのかもね」

 

「溶けるって……」

 

「もちろん僕も、外で生活できない」

 

「だけどコーラとか……」

 

「ああ、あれは買い出しに行かせてるんだ。君と同じような、外での活動に多少耐性のある個体にね」

 

 なるほど。買い出し程度なら問題ないのか。

 

 あれ?というとなんだ?

 

「ハク……あの牙門がテイムしてる狼モンスターは何なんだ」

 

「あれかい?あれは『もうダンジョンモンスターではない』。テイムした人のマナを喰らって生きる新たなモンスターさ」

 

「ちょっとまて、というと、もし悪意を持ったテイム能力者が現れたら」

 

「そのときはきっと、東京の町にモンスターが何食わぬ顔で降り立つだろうね」

 

 恐ろしい話だ。牙門が思考だけはまともで助かった。

 

「話は以上にしよう。またなにかあったらダンジョン内から呼んでくれ」

 

「お、おい!」

 

「ふわぁ、もう眠いのになんだい」

 

「変遷だ、変遷に巻き込まれた人間はどうなるんだ?」

 

「ああ、そんなことか」

 

 あくびをしながら、ヤツは答える。

 

「ダンジョンの意思に呑まれるか、あるいは君のようにモンスターパーツとして欠片が吐き出されるかだね」

 

「そんな……」

 

「それじゃあ、またね」

 

 ヤツの周りの空間が歪み、そして姿が跡形もなく消えた。

 

 残されたのはモンスターの残骸と、未だに動けない俺だった。

 

「……帰るか」

 

 しばらくして、重い足を無理やり動かし始める。

 

 『俺』が帰るべき、ダンジョンの外、アステリア学園に向けて。

 

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