TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】   作:畑渚

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第24話 俺

 扉を開くと、きちんと清掃されたロビーにたどり着く。

 俺は迷わずに受付へと向かい、手続きを済ませる。

 

「3階303号室です」

 

「ありがとう」

 

 案内された通り、階段で3階までゆっくり、しかし少し急いで登る。

 

「……」

 

 303号室は階段からすぐのところにあり、難なく見つけることができた。

 俺は扉の前で少し立ち止まり、そしてノックした。

 

「どうぞ」

 

 部屋の主の許可を得て、俺は一瞬ためらったのちに迷いを捨てて扉を開け放つ。

 

「莉子会長……」

 

「セナさんでしたか。来てくれてありがとうございます」

 

 可動式ベッドを少し立てて座っているのは莉子会長だ。

 他の学園のメンツに頼んで持ってきてもらったのか、机には書類が積み重なっていた。

 

「……どうなんだ、傷の具合は」

 

「あまりよくありませんね。まだ仰向けで寝れないです」

 

「そうか……」

 

「安心してください。傷は塞がっていますし、抜糸の予定も経っています」

 

「いや……その」

 

「傷跡は残っちゃいますけど、小春ちゃんを救うことができた、名誉の勲章ですよ」

 

「まあ……確かにそうかもしれないが」

 

「あ……もしかして」

 

 莉子会長が口に指を当ててにっこり微笑む。

 

「自分のせいじゃないかと思ってるんですか?」

 

「……っ。ああ、そうだ」

 

 あのときの俺は、完全に油断していた。

 もし警戒を解いていなければ、生体センサーを起動して安全を確認していれば、莉子会長に消えない傷がつくことはなかっただろう。

 

「まったく……。ちょっとこっちに来てください」

 

 扉のあたりに立っていた俺は、言われた通りに莉子会長に近づく。

 すると、ボスっと両手で抱きしめられる。病衣特有の匂いと莉子会長の匂いとが混ざり合って鼻をくすぐった。

 

「あなたは十分、私たちを救ってくれています。あなたがヒーローであろうとしていることも、手に届くすべてを救う覚悟を持っていることもわかっています」

 

 莉子会長の両腕の力が強くなった。

 

「今回の件は、あなたが救えなかった事件ではないです。私が、私だからこそ視えた、私だったからこそ救えた話なんです」

 

 俺が黙っていると、莉子会長は言葉を続ける。

 

「セナさんは強い。そこらの探索者じゃ歯が立たないほどに。でもこれだけは覚えておいてください」

 

 莉子会長は俺を抱きしめる腕を解いた。

 

「あなたは完璧ではない。あなただけではない。この世に生を受けて完璧な存在なんていない」

 

 一つ一つの言葉が重みをもって、伝わってくる。

 

「貴方はどうであっても『あなた』でしかない」

 

 莉子会長は、俺の頭を撫でてくる。少し恥ずかしかった。

 

「『あなた』である自分を認めて、貴方自身を愛して、そして称えてください」

 

 莉子会長が優しく微笑む。

 

「ふふふっ、少し説教臭かったですかね」

 

「いや、ありがとう」

 

 俺は心のモヤが取れたような気がした。

 

 俺は『俺』であって、『俺』でない。しかし、そこも含めて、『今の俺』なんだ。

 

 簡単な話だ。それでいいのだ。

 『俺』以外を否定だとか、排斥だとかしなくていい。

 

 そんな『今の俺』だからこそ、アステリア学園の皆と出会えたのだから。

 

「改めてありがとな。おかげで迷いが吹っ切れたよ」

 

「良かったです。部屋に入ってきたときは迷っているようでしたから」

 

「そんなに顔に出てたか?」

 

「ええ。それに、二人も心配していましたよ」

 

「紬ちゃんと小春ちゃんにも筒抜けか。心配かけたな」

 

「美味しいものでも食べてください」

 

「いやいや、莉子会長が退院したときに取っておくさ」

 

「そんな、申し訳ないですよ」

 

「ばかいえ。俺がそうであるように、莉子会長だってアステリア学園の一員なんだ。一蓮托生ってやつだ」

 

「ふふふっ、そうですね。では楽しみにしておきます」

 

「ああ。それじゃあそろそろいくわ」

 

「はい、来てくれてありがとうございました」

 

 莉子会長に別れを告げて部屋を後にする。

 

 きたときより爽やかな気持ちで、俺は階段を降りていった。

 

 

<=>

 

 

――都内某所、朱雀商会会議室

 

 

「止めて。ここね……」

 

 朱音は、会議室のプロジェクターで録画データを見返していた。

 すべてはあのセナという生徒の正体を探るために。

 

「あきらかに編集された痕跡があるわね」

 

 先日の実証試験の録画データは、少し時間が空いてからアステリア学園により提出された。

 生データを提出しろといいたいところだったが、こちらとしての必要とする部分、グレネードの実証試験映像は残っているため、『そうではない目的』があると勘ぐられてしまう。

 

「何を隠しているの……?」

 

「お嬢様、いかがいたしましょうか」

 

「アステリア学園との接触は続けるわ。くれぐれもこっちが勘づいていることは悟られてはだめよ」

 

 それは甘い決断でもあった。

 

「それじゃあ私は行くわ」

 

 朱音が退室したのを確認したのち、社員であり付き人でもある彼はぼやいた。

 

「まったく、朱音お嬢様は甘すぎる。命令さえしてくれればデータハッキングやスパイなど、なんでもできるというのに」

 

 それは、闇の部分だ。朱音はまだ、朱雀商会の闇の部分を知らされていない。そういう意味では仕方のないことなのかもしれない。

 

「この少女……たしかセナと言ったか」

 

 今後の業務に差支えが出ては困る。が、強硬手段はお嬢様の本意ではない。

 

「めんどくさい仕事だ」

 

 彼はそうぼやきながら、会議室の後片付けを始めた。

 




新作書き始めました、隔日投稿ですがよかったら是非そちらもご確認ください
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