TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】   作:畑渚

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第29話 前夜祭

 正門に戻ってくると、すでに前夜祭が始まっていた。

 

 どこかの学校のバンドの演奏が、会場に鳴り響いていた。

 

「はぁ、青春だなぁ」

 

 小春ちゃんも紬ちゃんもいない。今は1人の時間だった。

 

「まあいいや、屋台でも見てみるか」

 

 なけなしのお小遣いを握りしめ、俺は屋台が集まっている方へ足を向けた。

 

「おっ?」

 

 屋台の中で一つ、見知った顔があった。

 

「あ~!セナだ!」

 

「由希じゃねえか。元気してたか?」

 

「元気も元気よ!ささ、よかったら買ってって」

 

 ランク3昇格試験で一緒だった由希が屋台の店番をしていた。

 というか焼きそばか。たしかに鉄板なメニューだが、重いな。

 

 まあいいか

 

「一つくれ」

 

「あいよ!」

 

 麺が鉄板に乗り、ヘラによって踊る。

 ソースをかけ、一部が鉄板の上で弾けて、芳醇な香りをあたりに撒き散らす。

 

「焼きそばだ~」

 

「私も買おうかな」

 

 屋台の最高の宣伝材料。それは匂いだ。

 

 同時に炒めていた具材とまぜあわせ、プラスチックの容器に盛り付ける。

 紅生姜を乗せ彩りを足す。割り箸とともに輪ゴムでくくりつければ、やきそばの完成だ。

 

「くぅ、良い商売してんな」

 

「セナのところは何も出さなかったの?」

 

「ああ、うちは人手不足でな。でもやっぱ見てると出したかったと思うぜ」

 

「残念だね。でもまた次回があるよ」

 

 学外対抗戦は、不定期開催とは言っているものの大体毎年この時期に開催される。

 

「そうか、来年もあるか」

 

「楽しみにしてるね」

 

 元気に手を降る由希に別れを告げて、焼きそば屋台を後にする。

 

 焼きそばを片手にうきうきで、座れるところを探す。

 

「おい、あの子」

 

「焼きそば?いいなぁ」

 

 しかしすれ違うたびに二度見されては、なにやらゴニョゴニョと話される。

 もしかして、意図せずして宣伝効果になってしまっている?

 

 計ったな由希ちゃん

 

「っと、あそこなら座れそうだな」

 

 会場の端の方に、ベンチを見つけた。俺はそこめがけて歩いていく。

 

 しかし、あと数歩のところで、先客が腰を下ろしてしまった。

 

「あ、あんたは」

 

「……ん?」

 

 そこには、いつぞやの見知った顔。

 

 莉子会長をホテルから救い出したときに世話になったあの金髪美女が、両手に満載の料理を抱えて座り込んでいた。

 

 

<=>

 

 

「……」

 

「あ、あのときはありがとな」

 

「ああ、ホテルでのあれかい」

 

「おかげでなんとかなった。そのことすら伝えられてなかったからな」

 

 あのときは焦っていたから、どこの誰だっていうのを聞きそびれていた。

 

「見たところ、君も休めるところを探していたのだろう、隣でよければ座るかい?」

 

「お、おう。じゃあお邪魔しようかな」

 

 ベンチは女2人で座るには十分すぎるほどに広かった。俺は邪魔にならないように端の方に座った。

 

「……」

 

「……」

 

 気まずい静寂が俺達の間を流れる。

 

「冷える前に食べた方がいいんじゃないかい」

 

「ああ、そうだな」

 

 輪ゴムを外し、焼きそばをすすり始める。

 ソースが唇についたので、舌でペロリと舐め取る。

 

 うん、美味いな。

 

「そっちは食べないのか?」

 

「私は一端休憩」

 

 どうやら相当疲れてるようだ。

 

「よかったら食べてくれないかい。貰い物なんだが、1人じゃ消費しきれそうにない」

 

「いいのか!」

 

「ああ、どうぞ」

 

 いくつか気になっていた屋台のメニューが眼前にならぶ。棚からぼたもちってやつだ。ラッキー。

 

「君は……まったく」

 

「ん?なんだ?」

 

「なんでもないよ。ほら、あまり急いでいると喉につまるよ」

 

「面倒見がいいんだな」

 

「まあ、もう3年生というのもあるし」

 

 彼女は夜空を見上げて言葉を続けた。

 

「私は守る側だからね」

 

「なんだそりゃ」

 

 俺は頬張る手を止めずに、そう答えた。

 

「じゃあ、今度は俺が助ける番だな」

 

「え?どういうことだい」

 

「言った通りさ。もし何かあったら俺に頼ってくれ。なんでもいい。その障害を俺が殴り飛ばしてやる」

 

 拳を突き出しながらそういった。

 俺は今でこそこんな姿だが、中身はれっきとしたおじさんだ。精神的に年下である女の子の悩む姿に、庇護欲が刺激されたとでも言うべきだろうか。

 

「はははっ」

 

「なんだ、何がおかしい」

 

「おかしいだろう。食べ物で頬を膨らませた少女が頼ってくれなんて」

 

「あのな、俺は本気で」

 

「わかってる。悪かったよ」

 

「ああそうだ、俺はアステリア学園のセナだ」

 

「……知っているさ」

 

「知ってる?」

 

 こう見えて配信とか見る性格なのだろうか。

 まあ悪い気はしない。

 

「ありがとう、肩の荷が少し降りたよ」

 

 彼女はすくっと立ち上がった。

 

「そろそろいかないと。あとは好きにしていいからね」

 

「あっおい」

 

「また会おう!」

 

 そういって小走りで去っていく彼女の後ろ姿を、俺は見ていることしかできなかった。

 

「……また聞きそびれた」

 

 名前も学校も知らない。

 

 でも顔は知っている。

 

 そんな歪な関係は、すぐに終りを迎えることになった。

 

 

<=>

 

 

 前夜祭に勤しむ面々とは裏腹に、1台の黒いタクシーが会場の前に到着する。

 

 降りてきたのは莉子だ。トランクから大きめのスーツケースを下ろしてもらい、会場の方へと向き直る。

 

「ようこそ、朱雀学園へ」

 

「朱音さん。お世話になります」

 

 莉子は今回出場こそしないものの、学園の皆のサポートと応援のために駆けつけていた。

 そんな莉子も、アステリア学園の面々と同じく対抗戦期間中はここの寮にお邪魔することになっていた。

 

「話もほどほどに。まずは荷物を置きにいきましょうか」

 

「ええ、お願いします」

 

 朱音の案内で莉子は会場を進んでいく。

 

 そんな時だった。

 

「……莉子?」

 

「……どうしてあなたがここに」

 

「本当に偶然さ。他意はないよ」

 

「……急いでますので」

 

 莉子はその影を避けるように、先へ急ごうとした。

 しかしその影は莉子の腕を掴んだ。

 

「真里……姉の件では本当に」

 

「……もう済んだことですので」

 

「いやでも私は……!」

 

「皇さん」

 

 莉子はようやく、目の前の金髪の女性の名を呼んだ。

 

「もう済んだことですので、気にしないでください」

 

「……」

 

 手を離し立ち尽くす皇に軽く一礼し、側を通り抜けていく。

 

「はあ、最悪な気分」

 

 莉子は隣の朱音にすら聞こえないように、そう呟いた。

 

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