TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】   作:畑渚

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第36話 2人で抜け出して

  ステージでは名前も知らぬ学生バンドがギターをかき鳴らし、屋台の客引きの声がいびつなハーモニーとなって響き渡る。

 

 学外対抗戦のもう一つのメインイベント、後夜祭の開始だ。

 

「お、セナちゃんじゃねえか!オマケしとくよ」

 

「おお、あんがとな!」

 

「セナちゃんだ!写真撮ってください!」

 

「おお、いいぞ」

 

「セナちゃん」

 

「セナちゃん」

 

 ランク5との激闘は、思っていたよりも俺の知名度に貢献してくれているようだった。

 

 が、しかし

 

「これじゃ休まらねえな」

 

 犬も歩けば棒に当たる。俺も歩けばファンにあたる。

 

 ファンを疎ましく思う気持ちはない。むしろ嬉しいし、有名人になったようで気分は悪くない。

 

 しかし、俺も人の精神を持つ身。疲労というものはやってくる。

 

「……ちょっと離れるか」

 

 俺はおまけしてもらった屋台の料理を抱えながら、校舎裏の人目につかないところに移動した。

 

 まさかこんな形で先日の皇の気持ちを知ることになるとはな……。

 

 

<=>

 

 

 校舎裏は、思っていたとおりに人が少なかった。

 そこで俺は思わぬ人物に遭遇する。

 

「莉子会長?」

 

「セナさん、どうしてここに」

 

「こっちのセリフだ。後夜祭楽しまないでいいのか?」

 

「元よりこういった類の催しは苦手でして」

 

「そ、そうか」

 

「セナさんは?」

 

「声掛けられまくって疲れたんだよ。だから休憩だ」

 

 俺は莉子会長の隣に座り込んで、抱えてきた屋台の料理を頬張り始めた。

 

「よかったら手伝ってくれ。1人じゃ食い切れそうにない」

 

「ふふふ、そうですね。ではお言葉に甘えて」

 

 しばらく、静かな校舎裏に咀嚼音のみが響いた。

 

「……セナさん」

 

「どうしたんだ、改まって」

 

「1つ聞きたいのですが」

 

「おう、なんだ?」

 

「私に何か隠してませんか」

 

「んぶっ!」

 

 食べ物が喉につっかえて咳き込む。慌てて飲み物を飲み干して難を逃れた。

 

「隠してるってなにをだ」

 

「わかりません。なにか重要なことを……」

 

「な、なにもねえよ!」

 

「隠そうって言うんですね」

 

 莉子会長はニコリとほほ笑み、正面からこっちを見つめる。そして……

 

「隠していることは私に関すること……ですね」

 

「なっ!?」

 

「私の、個人的な、家族の、いえ姉の……」

 

「待て待て待て!なんだいったい」

 

 脳内を読み取る異能にでも目覚めたのか!?

 

「姉に……会っている……!」

 

 莉子会長はそういって目を見開いた。

 

 見開いた……目……目!

 

「もしかして莉子会長」

 

「はい」

 

「未来の俺の反応を『視ながら』高速で尋問した?」

 

「……はい」

 

「おいおい、そんな使い方ありかよ」

 

「なぜ私が先生に重宝されていたかわかりましたか?」

 

「チートすぎる……」

 

「デメリットもありますよ。例えば訓練されたスパイには効きません。反応してもらえませんから」

 

「にしてもだろ……」

 

「これを使ったのはセナさんが何が何でも言わないと決めていると思ったからです」

 

「すまん。全部話すよ」

 

「ありがとうございます」

 

 そうして俺は、先日会った莉子会長似のモンスターについて、事細かに説明した。

 

 

<=>

 

 

「なるほど」

 

「これが俺の知ってる全てだ」

 

「セナさんが隠そうとした気持ちもわかります

す」

 

 莉子会長は髪の毛を耳にかけて微笑んだ。

 

「私の姉は死んだのですね」

 

「ああ、そして、俺のようにモンスター側として生を受けている」

 

「ふふふ、滑稽ですね」

 

「なにがだ?」

 

「私です。私は死人のために……戻ってこない人のために戻る場所を死守していたなんて」

 

「それは違う!」

 

 つい声を荒げてしまう。しかし、そうではないのだ。

 

「莉子会長が頑張ったおかげで、紬ちゃんと小春ちゃんは帰るべき場所を持てているし、俺だって!」

 

「そうですか……」

 

「そうなんだよ!」

 

 莉子会長の手を取って、俺は勢いのままに言葉を繋げる。

 

「何も間違ったことなんてないんだ!莉子会長があきらめなかったからアステリア学園は存続し続けたし、だからこそ俺と莉子会長が出会えた!無駄なことなんて何もなかったんだよ!」

 

「そう……かもしれませんが」

 

「そして俺だからこそ、莉子会長のお姉さんの存在を知ることができた」

 

 俺はすくりとたちあがり、手をさしのべる。

 

「そんなに悩んでるんだったら、付いてきてくれないか」

 

「……?いったいどこへ」

 

「ダンジョンだ」

 

 不安げに出された手を取り、莉子会長を無理やり立たせる。

 

「行こう!お姉さんに会いに」

 

 俺たちは後夜祭を抜け出して、2人きりでダンジョンに向かって駆け出した。

 

 

<=>

 

 

 不快に感じる湿り気が、肌を撫ぜる。

 

 ダンジョンの中で、俺たちは手当たり次第前に進んでいた。

 

 低層のモンスターなど、俺たちの敵ではない。ワンパンで吹き飛ばして先に進む。

 

「おい、見てるんだろ!出てこい!」

 

 何十分そうして進んだのだろうか。

 

 洞窟を包む空気が、変わった。

 

「……っ!」

 

 莉子会長が刀を構え直す。どうやら莉子会長も、辺りの雰囲気に気がついたようだ。

 

「……ここか」

 

 進んでいた道が突然行き止まりに変わる。

 

 いや、ただの行き止まりではない。

 時空が歪んだかのような、門と似ているゲートが出来ている。

 

「行くぞ……」

 

「……はい」

 

 俺たちははぐれないように手を繋いで、ゲートをくぐり抜けた。

 

「やぁ、待ってたよ」

 

 俺と瓜二つのヤツが、椅子をキィと軋ませながら、こちらを振り向いた。

 

「ふわぁぁ。ごめんね、寝ててさ。君が入ってきたのに気づくまですやすやだったよ」

 

「急に押しかけてきて悪かったな」

 

「いいよ。君との仲だし。それで、何用だい?あまり部外者を連れてくるのは関心しないよ」

 

「部外者ってわけでもねえだろ」

 

 俺は腕を組んで、ヤツに言い放った。

 

「莉子会長のお姉さん、いるんだろ。出してくれ」

 

「彼女が嫌がっていても?」

 

「ああ。必要なことなんだ。これから一歩を踏み出すために」

 

「……わかった。出てきなよ」

 

 すると部屋の奥の方。暗闇で見えなかった方から、メイド服を着た1人の人影が現れた。

 

「……ひさしぶりね、莉子」

 

「姉さん……!」

 

 そう呼ばれると、その存在は悲しそうに笑みを浮かべた。

 

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