TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】 作:畑渚
「……来ましたか」
ビーッと鳴り響く警告音に、莉子は立ち上がる。
莉子が担当する地域で門が創造された音だ。そこから無数のモンスター達が攻めてくる。
人員は不足気味だ。莉子の所属していた班も、各地に散らばって援護するはめになっていた。
つまりは、この門を止められるのは莉子1人ということだ。
「ここは私1人で……止めてみせます」
静かに移動し、創造された門の前に立ちふさがる。
良かったと莉子は安堵した。
ここを襲いに来たモンスターたちの質と量を視て、自分が対処できる範疇だと確信したからだ。
「参ります」
刀を抜き放ち、飛びかかってきたモンスターを斬り伏せる。
血を振り払い、すぐに次の対処へと入る。
そこに一切の無駄はない。
いや、あるわけがない。
そこにいるのは、未来を視る剣士なのだから。
まるで水の流れの如く、刃が敵を切り裂く。
「この程度で各地済んでいれば楽なのですが」
そうでないことを莉子は知っている。
すでに各地でフロアボス級のモンスターが出ており、ランク5やランク4構成の部隊が奔走している。
「ここは静かですね」
チン
刀を鞘にしまい、再び精神統一を図る。
辺りのモンスターの死骸が、粒子になって消え始めていた。
ゾクリ
ふとした瞬間、莉子は背筋が凍る思いをして刀を抜き放った。
「……嘘ですよね」
立ち上がっていなければ、今頃その拳に貫かれていただろう。
そこには見覚えのあるリビングアーマーが、しかし見覚えのない紫色の炎を灯しながら立っていた。
瞳の力で未来を視る。
視えるのは数百通りの負ける未来。
しかしその中に一筋、なんとか避けきる未来があった。
莉子は間違えない。
「せめてここで足止めを」
自分にとって、引いては皆のため、最善の未来を選択し続ける。
刀を構え、目の前の敵の全てを見切る。
たとえそれが何時間ともわからぬ持久戦になる可能性があろうと、莉子は止まる気はなかった。
「参ります!」
地面を蹴って、その紫色の機甲へと切りかかった。
<=>
「……なんだって?」
俺は通信機から流れてくる情報を聞き直す。
「だから、現れちゃったっす!セナちゃんと同じリビングアーマーが!」
「俺と同じ!?戦線はどうなってる!?」
「ランク4主体でなんとか時間を伸ばしてる状況っす」
「ランク4で……?」
自惚れじゃないが、ランク5相当の力はあると思う。それをランク4が止められるとは思えない。
「何か特徴的なのはないか?」
「えっと、紫色の炎を纏っているらしいっす」
「紫……マナクリスタルの色だ」
「こうは考えられないっすか?無理やり戦えるように急造したから、オリジナルほどの戦闘力はなかったとかっす」
「急造品だからマナクリスタルのブースト能力を使って、無理に戦わせてるってことか」
的を得ているように思える。それなら、ランク4が対応してくれればなんとかなりそうか。
「でも各地のランク4が足止め状態っす」
「応援部隊はどうした?」
「パンパンな状態で動いてるっす。セナちゃんにも出動依頼来てるっすか?」
「ああ、とてつもない数な。今向かってるところだ」
空を飛び回りながら、各所に連絡をしてまわる。止まっている暇など、到底ありそうにもなかった。
俺達を支えているのは、現状死者ゼロというかすかな希望のみだった。
「っと、現場に着く。紬ちゃんも気を付けてな」
「はいっす、お互い頑張るっす」
通信機が切れると同時に、俺は地面にダイブする。
落下エネルギーののった、致命的な一撃が、リビングアーマーの顔にヒットした。
「現着。これより救助する」
後ろの負傷者たちをかばうように、モンスターとの間に降り立つ。
さぁ、手加減せず行こう。
リビングアーマーの炎が、俺に激怒するかのように妖しく揺らめいた。
<=>
「はー、そろそろかな」
ダンジョンの奥深く、1人きりでネネは前任者の残した椅子でくつろいでいた。
「まったく、外の様子がわからないなんて欠陥じゃないかな」
ダンジョンはいわば要塞のはずだった。しかし今や、各地へ門を使ってモンスターを送り出す輸送艇のようだった。
まるでその使い方が想定されていなかったかのように、ダンジョン管理部分には外の様子を知れる方法がなかった。
唯一あるのは、手元にあるセナのスマートフォンだけだ。
「各地に量産型を散りばめた。まあ大体の実力者はそっちに対応しなきゃならんだろう」
ネネは賢かった。今回の件をただのモンスター襲撃事件で収める気は一切もっていなかった。
「あとは根城から実力者たちが出れば、私の番だ」
ネネは立ち上がって手を宙にかざす。
幾何学模様の魔法陣が周囲に展開され、ネネを包み込む。
手足には頑丈な籠手が
胸部を覆う装甲は薄くしかし見た目に反してどんな刃物も弾く。
脚部には各所にブースターのついた鎧。
「さあ、終焉を与えに行こう」
各所から緋い炎を吹き出しながら、機甲を身にまとったネネは拳を握りしめた。
ダンジョン管理者にだけ与えられる権能を持って、探索者協会を終わらせにいくために。
ネネの目の前の空間が歪む。
新しい門だ。
ためらわずにネネは、その門へと1人で踏み入れた。