TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな? 作:畑渚
「ちっ後で絶望を見せてから殺そうと思ったのに」
「はっ、慢心したなネネ」
俺は立ち上がった拍子に転がり落ちそうになった、紫色の液体の入ったアンプルを手に取る。
小春ちゃんがよく使っている印がついてることから、コレが小春ちゃんからの贈り物だと理解した。
パキ
アンプルの先をへし折り、中身の液体を飲み干す。
薬の信頼性?小春ちゃん製ってので十分だろ。
「お?これは」
身体の底から力が湧いてくる。溢れ出しそうな衝動が、機甲の隙間から青白い光となって吹き出す。
「なぜその力を……」
「ダンジョンはどこまでも純真で平等だ。お前だけに与えられた力なんてないってことだよ」
緋い炎と青白い炎。二極の炎を纏った機甲が相対する。
「セナさん……」
「莉子会長、下がっててくれ。あとは俺に任せてくれないか」
「……わかりました。でももし危なければ割って入りますからね」
「そんなことさせないさ」
ブースターを点火させ、ネネに急接近する。
「くっ」
「怖いか?自分と同等の存在が」
「私は……!ダンジョンの意思で創られた!」
「まだ言うか」
なりふり構わない拳を、俺は軽くはねのける。
「なら大人として、そして姉としてわからせないとなっ!」
拳が頬にクリーンヒットする。機甲にダメージはないように見えるが、中身はそうはいかない。
「がはっ」
ネネが身体をバウンドさせて地面に墜落する。
俺は回復する時間を与えず、すぐそばに降り立つ。
「バカな!そんな!私、私は!」
「黙れ。お前と俺の間に言葉なんて不要だ」
「そうだ、私の傘下にならないか」
「世迷言を」
「ダンジョンだけじゃない。この力があれば私たちは世界をも」
「バカなこと言うなぁ」
俺は頭をポリポリと掻きながら、ネネの胸に足を乗せる。
「世界は自由で不特定だから、綺麗なんじゃないか」
「そんなわけ――」
「ああ、反論はいらない」
俺は思い切り足で踏み抜いた。
「あっが、ごぼ」
「さよならだ、ネネ」
核が破壊されたモンスターと同じく、ネネの身体が粒子になって消えていく。
「う……恨むぞ……」
「ああ、地獄でまた会おう」
最後まで恨み節の抜けないやつだった。
「か……勝ったんですか」
「ああ、莉子会長」
緊張の糸が切れたのか、莉子会長が崩れるように座り込む。
「大丈夫か」
「ええ、私は」
紬ちゃんも動けずにいるし、小春ちゃんも痛みにうずくまっている。
「莉子会長。あとは任せていいか?」
「セナさん?戦いはもう終わったはずでは」
「ああ、戦いはもう終わりだ」
俺はネネが出てきた門の先を見つめる。
「でも、ケジメがまだついてないからな」
「何を……」
拳を握りしめて、俺は言葉を絞り出す。
「ダンジョンを……潰す」
「なっ、そんなことが可能なんですか」
「ネネを倒したことで管理権限が移ったんだ。だからわかる」
「しかし、それは……」
言い淀む莉子会長のこともわかる。ダンジョンは害であると共に、ここ数十年の日本の躍進を支えてきた資源でもある。
「わかってくれ莉子会長」
管理者になった今だからわかる。
ダンジョンは生物だ。そしてダンジョンにとって外の世界は、敵だ。
敵性意識がある以上、第2第3のネネが生まれる日はそう遠くない。
俺は、その非情なシステムを壊す宿命にある。
「ダメです……といっても貴方は拒否するのでしょう」
「……すまない」
「貴方はいつもそうです。こちらの言う事なんて聞かずに、自分の思うがままに」
「自由が俺のモットーだからな」
「自由……。ふふ、そうですね。あなたはいつも自由でした」
莉子会長の瞳がきらりと光る。
「その自由を捨てようと言うのです。どれほどの覚悟か」
「はは、莉子会長にはお見通しか」
ダンジョンの核を壊した瞬間。ダンジョンの崩落は始まる。
中にいる者への配慮など一切ない、破壊のみがそこにある。
「本当に……それしか道がないのでしょうか」
「ああ」
「小春さんであれば、破壊できる兵器を作れるかもしれません。紬さんであれば、有識者たちを募って組織を作ることだってできるかもしれません。私だって……」
「もういい、莉子会長」
「だって……だって!あなたも死ぬんですよ!」
「いいんだ。それで」
ダンジョンで生まれたこの人生、ダンジョンで終えるのが花形というものだ。
「じゃあな、もう行くよ。これ以上いると、情に流されそうだ」
「……」
「じゃあな、莉子会長。そしてアステリア学園。いい場所だった」
「今まで……ありがとうございました……」
「ふっ、感謝を言わなきゃなのは俺のほうさ」
門を通る間際で、俺は振り返って莉子会長に、そしてアステリア学園の皆に言う。
「ありがとう!楽しい人生だったぜ」
そう言い捨てて、返事も聞かぬまま門へと身を投じた。
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ダンジョンはいつもと変わらず、いやな湿っぽさが肌にまとわりつくようだった。
モンスターの姿は見えない。ネネのやつはどうやら、今持てる最大戦力で戦いに出たらしい。
「変に温存とかしてなくて良かったぜ」
正直、薬によるブーストが切れかかっているのを感じた。良くてあと一撃繰り出せるかくらいだろう。
「急げ……」
ブースターを最大出力に固定し、ダンジョンの奥へ奥へと飛び続ける。
しばらくすると、見慣れた空間がでてきた。ナナセと会った、モニターだらけのあの空間だ。
そして今の俺の本能が、その先の部屋の存在に警鐘を鳴らしていた。
「そこなんだな」
地面を踏みしめて、自分の足でその部屋へとたどり着いた。
そこは白い壁に包まれた、奇妙な空間だった。
蛍光灯などは無いのに、どこかが淡く光を発しており、視覚に困ることはない。
そしてその真ん中に、筒状の装置がぽつんと置かれている。
そこには胎児のような、小さな生命が培養されていた。
まるでホルマリン漬けの標本のようだが、しっかりと鼓動している。
俺に流れ込んできた知識によると、これこそが、ダンジョンの核だった。
「はは、最後は赤子殺しか。こりゃ本格的に天国に行けねえな」
一度死んだ身でこういうのも、なんだか奇妙な話なんだが。
「じゃあ、やりますか」
地面を踏みしめ、拳に炎を纏わせる。
「じゃあな、ダンジョン」
振り抜かれた拳は、まごうことなく、胎児の核を貫いた。
ダンジョンの崩壊が始まる。
次回、最終話