TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】   作:畑渚

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第5話 家庭の味だったり、懐かしの味だったり

「へあ……?」

 

 俺の一日は穏やかな起床から始まる。ブカブカな寝間着を引き釣りながら、リビングへと向かう。

 

「おはようっす、ご飯できたとこっすよ」

 

「おはよう。いい匂いだ」

 

 鼻腔をくすぐるのは炊きたてのご飯の香り。匂いだけで美味しいとわかる。

 

「おはよう、紬」

 

「小春ちゃんもおはようっす」

 

 フライパンで卵をひっくり返す紬ちゃん、上手いな。見事な卵焼きができてる。

 

「すまないっすけど会長を起こしてきてくれるっすか?あの人寝起き悪いんで気をつけるっす」

 

「意外だな。何でもできる優等生みたいな子かと思った」

 

「まあそう見えるっすよね。でも本来の莉子会長は、それこそ意外にポンコツっすよ」

 

「へぇ、そんなもんか」

 

 俺は昨日の記憶を頼りに、莉子会長の部屋へと向かう。

 

 こんこん

 

「莉子会長、朝だぜ~」

 

「……ん」

 

「莉子会長?」

 

 扉に手をかけて一瞬戸惑う。翌々考えたら年頃の女の子の部屋に押しかけるのはよくないかもしれない。

 

「どーしようかなぁ」

 

 しかし、扉は意に反してほんの少しの力で空いてしまった。

 

「り、莉子会長~」

 

「……んん」

 

 ひどい惨状だった。布団は蹴り飛ばされ、パジャマは足に引っかかって半分脱げている。年頃らしい下着が顕になっており、寝ぼけて艷やかな声を出す姿は目に毒だった。

 

「あと5分……いや10分」

 

「会長、起きて!朝ごはんだってよ!」

 

「んーあぁ誰かと思ったら貴方か」

 

 せめて布団だけでも直そうとベッドに近づいたのが運の付きだった。

 

 ぐいっ

 

 ものすごい力でベッドに引き釣りこまれる。

 

「いい抱き心地……あと30分は寝れる……」

 

「モゴモゴ!モゴモゴっ!」

 

 や、柔らか!じゃなくて顔が胸に!い、息が!

 

「モゴモゴ~!」

 

「ああ、いわんこっちゃない」

 

「やっぱりこうなったっすか」

 

 入口に来た二人、やれやれとか言わなくていいからさっさと助けてくれ!

 

「モ、モゴ~~!」

 

 

<=>

 

 

「先程は失礼しました」

 

「いやいや、こっちこそ勝手に部屋に入ってごめん」

 

「……なぜ顔を赤らめてるのですか?」

 

「き、気にしないでくれ」

 

 あの顔に当たったときの感触が忘れられないとは言えない。俺はそっと顔を背けた。

 

「そういや学校生活ってどんなもんなんだ?先生もいないようだし、まさか自習?」

 

「まあそんなところっす。車の免許をとるときを思い出してほしいっす」

 

「じゃあ一括の試験とかがある感じで、過程はともかくそれに受かればいいと」

 

「そうっす。でもそうなると一般人がマグレで入れちゃうっすよね」

 

「確かに。それじゃあ危険だな」

 

「そのために学園があるっす。3年間の学園生活中の実績も、試験内容に加味されるっす」

 

「なるほどな。実務経験的なやつだ」

 

 基本的な法の仕組みは30年じゃそんなに変わってないな。

 

「じゃあ今日はこのあとどうするんだ?」

 

「私はダンジョンに潜るっすよ。昨日はできなかったから、今日は配信するっす!」

 

「私は今月の実績は足りてるから、ラボに籠もる」

 

「ラボ?」

 

「校舎の給湯室っす。小春ちゃんのラボ代わりになってるっす」

 

「へぇ。今度見せてくれよ」

 

「むしろこちらが見せてもらいたいね。ニュースになったあの機甲、興味が湧いて仕方がない」

 

「お、おう。今度な」

 

 へんにいじられないか不安だな。ちょっと気をつけておこう。

 

「それで、莉子会長は?」

 

「私ですか?私は……」

 

 そう言い淀んだ後、はっと時計を見る。

 

「いけない!私、すぐ準備して出ますので。ごちそうさまでした」

 

 そういって嵐のように片付けて洗面所へと駆けていった。

 忙しそうだな。あんまりかまってはもらえなさそうだ。

 

「俺はどうしよっかな」

 

「一緒に来るっすか?でもそれだと配信つけられないっすね……」

 

「いや、いいよ。久々の外を探索してみようかな」

 

「それもそうっすね。楽しんでくださいっす。あ、そうだ」

 

 そういって紬ちゃんは戸棚から大事そうに封筒を取り出す。

 

「お金渡しておくっす。必要な品があれば買ってくるっす」

 

「おお!ありがとうお母さん」

 

「お母さんじゃないっす!」

 

 だって料理つくってくれてお小遣いくれて、どうみたってお母さんじゃないか。

 

 

<=>

 

 

 とりあえずバスにのって都心まで出てみたが……、

 

「都心に行けば行くほど、変わったなぁ」

 

 都心に近くなれば近くなるほど、以前の日本の雰囲気はなく、武器屋!や最強の防具!などファンタジックな店が増えていく。最強の剣と最強の胸当てを売ってる店が向かいにあるとか新しい故事成語作ろうとしてないかこれ。

 

「まあ、変わらないものもあるけどな」

 

 路地裏に入ってみれば、古めかしい町並みがそこにはまだ存在していた。 

 時代に逆行しているかのようなネオン風のOPENの文字。俺は生前行きつけだった店に帰ってきていた。

 

カランカラン

 

 ドアベルの音で、カウンターに座って新聞を広げていたおっさんがこっちをジロリと見る。まるで舐め回すかのように頭の天辺からつま先まで見られる。

 

「あんたのような嬢ちゃんの来る店じゃねえ。帰んな」

 

 突き放すような冷たい言葉を無視して、俺は注文を頼む。

 

「半チャーハンネギ増し、それとミニ餃子とメン薄め硬め」

 

「……そこに座んな」

 

 店主はしかめっ面をしながら、厨房へ入っていく。

 しばらくすると、いつものあの味がテーブルに並ぶ。

 

「そうそう、これだよこれ。いただきまーす」

 

 伸びないうちにラーメンを啜る。歯ごたえのある麺が、スープと絡み合い味覚に直撃する。ここってこだわりのある自家製麺だからか、麺自体を味わえるんだよな。

 チャーハンは胡椒と醤油の香りがするタイプで、少し見た目は黒目だ。しかしこの味付けが絶品で、油の量もくどくなくて食べやすい。まさに箸が進むチャーハンだ。

 餃子?ここまできて言うまでもないだろう。噛んだ瞬間に肉の旨味が弾けて、口から溢れ出しそうになるくらいだ。

 

「おやじ、勘定!」

 

 相変わらず安いなおい。でも30年前と変わらない味に俺は安心感を覚えていた。

 

「もっと愛想あればいいのになぁ」

 

「……余計なお世話だ」

 

「そんじゃ、おいしかったよ、ごちそうさま」

 

 俺は思わずスキップしそうになりながら、店から出る。

 

 さて、買い物にでも行ってみるか。

 

 晴れやかな気持ちになって、俺は路地裏から本通りへと向かった。

 

 

<=>

 

 

 彼が去った背中をみて、店主はゆっくりと椅子に座り直す。

 

 若い頃に無理をして始めた店は、ゆっくりと衰退の一途を辿っていた。

 

「はぁ……」

 

 店主は、先程の少女を思い出してため息をついた。

 

 見た目は銀髪の少女で、店主自身の娘よりも幼く見える。

 しかし、あのおどけた口調と、そして何より注文の内容……。忘れるはずもなかった。

 

 店主がこの街に店を開いてからというもの、毎週のように、雨の日も風の日も通ってくれた青年の姿を垣間見たのだった。

 

「俺も年かね……」

 

 彼が来なくなってから、すでに30年の月日が流れていた。そして30年前にあったことといえば、第一次ダンジョン事変だ。彼の身に何があったのかは察するまでもない。

 

「ふぅ。洗い物しないと」

 

 よっこいせと立ち上がる彼の背中に、再びドアベルの音が鳴り響く。

 

「……お父さん」

 

「なんだ、今日は来客が多いな」

 

「お客さんが来てたんだ。……よかった」

 

「何の用でこんなところまで来たんだ」

 

「べつに家なんだからいつ来たっていいでしょう?それに、今日は近くで用事もあったから」

 

「……なにか食うか?」

 

「じゃあチャーハンで。お父さんのチャーハンが一番好き」

 

「……ふっ。わかった」

 

 無表情な彼の口元が、ふっと和らいだ。

 

「ああそうだ……、おかえり、莉子」

 

「ただいま、お父さん」

 

 

<=>

 

 

「わ、わぁ」

 

 俺は思わず声を上げる。

 

 目の前に広がるのは、色とりどりで装飾のついた布切れたちの世界。

 

「お客様、お目が高い!これはあの人気ブランドの最新作でして」

 

「きっとお似合いですよ。ああお人形さんみたい」

 

「よかったらモデルの仕事に興味はありませんか?サンプルとして何点か差し上げても構いませんよ」

 

 わ、わぁ

 

 美人な店員たちに囲まれて、俺は逃げ場を失ってしまっていた。

 

「あの、俺!そういうの結構なんで!」

 

「まあまあそう言わずに。それにお客様のサイズ頃から大事にケアすることが大事でして~」

 

「いやほんとに!間に合ってますんで!」

 

 そう、今俺は、女性用の下着店の店員に囲まれていた。

 

 最初は出来心だった。ふと目に入るところに店があったもんだから、この身体だと必要になるのかなとフラフラ近づいてしまった。

 

 だが実態は恐ろしいところだった……。

 

 売り場のお姉さんたちにちやほやされ、気がつけば店の奥に誘導されていた。

 逃げ場を塞ぐかのように陣取られた俺は、この身体持ち前の動体視力を発動させる。

 

「見えた、隙の糸!」

 

「あ、お客様~!」

 

「ははは、三十六計逃げるに如かず!」

 

 俺は走るようにして、その場から逃げたのだった。

 

 

 

 

「ふぅ、あぶないところだった」

 

 俺は額の汗を拭って、そして上の方向を見た。

 

「おう嬢ちゃん、何が危ないって?」

 

「俺達の筋肉に興味があるのかい?将来有望だねぇ」

 

「ちょっと奥で運動しないかい?なぁに、初回は体験無料だよ」

 

「ジムとかも間に合ってますぅ~!」

 

 俺は再び逃げることになったのだった。

 

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