TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】   作:畑渚

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第6話 ああ、わかった

 あらかた買い物を終えた俺が、帰りのバスを待っているときだった。

 

「……ん?あれは莉子会長?」

 

 向かい側のビルから出てくる会長を見つけた。しかしなんだか様子がおかしい。それに、見覚えのある制服姿ではなく、漆黒のドレス姿だった。少し年にしては大人びすぎている気もする。

 

 そして莉子会長は、俺に気づくこと無く、男に近づく。

 

 男は馴れ馴れしくも会長の腰に手を回し、自分のものだと主張するかのように引き寄せている。会長はいつもどおりニッコリとしているが、口の端が引きつってるようだった。

 そしてそのまま、二人は黒塗りの車に乗り込んでいく。

 

 

 これは何かあるぞ

 

 

 俺の直感がそう囁く。俺はバス停から外れ、タクシー乗り場に走った。

 

「すんません、あの黒の車、追いかけてください」

 

「え?いやそういうのはちょっと」

 

「いいから、お金は出すんで」

 

「はぁ、まあ仕方ないですねぇ」

 

 現金なタクシードライバーで助かった。ごめん紬ちゃん、せっかくのお金だけどタクシー代に消えそうだよ。でもその代わり、

 

「何があるのか絶対突き止める……」

 

 俺は固く決心して、拳を握りしめた。

 

 

<=>

 

 

「お客さん、前の車止まりましたけど」

 

「ありがとう!釣りはとっといて!」

 

 トレーに料金以上を支払って、タクシーから飛び出る。莉子会長もちょうど降りたところだ。

 

 っと危ない、気づかれたかと思った。俺は身を隠しながら、会長の後をつける。

 くそっ、察しがいいな。俺は身を隠す場所を探しながら会長に近づく。

 

「くそっ、ここまでだな」

 

 会長が入っていったのは、会員制のホテルだった。思ったよりいいとこのお嬢さんだったのか?いや、違うか。明らかに隣の男に連れられて入った形だ。

 

「さて、と」

 

 俺は数歩さがって、ホテルの建物全体を視界に映す。

 

――機甲を使えば空を飛んで中を見れるか?

 

「いや、目立ちすぎるな。そんなん騒ぎになる」

 

「なにがだい?」

 

「ひゃっ!」

 

 思わず声を出し後ろを振り返ると、そこには金髪ショートカットの美女が立っていた。

 

「あーえっとぉ」

 

「あれ、もしかして僕を知らない?」

 

「私世の中に疎くってぇ」

 

「そうかい。それで、こんなところでどうしたんだい、お嬢さん」

 

 まるで王子様だな。ならばこちらは――

 

「お母さんとはぐれたの。ここに泊まってたんだけど、私だけじゃ中に入れなくてぇ」

 

 すこしわざとらしいか……?

 

「なるほど、お母様と。わかった、僕に任せてくれ」

 

 そうして王子様は警備員の方へと歩いていき、何言が言葉を交わす。

 

 しばらくして戻ってきた王子様は、親指をぐっと突き出した。

 

「警備員に話を通してきたよ。これでお咎めなく入れるはずだ」

 

「おねえさん、ありがとう」

 

「ふふふ、これも可愛らしい少女のため。あ、お礼を要求するのは申し訳ないが、一つ頼まれてくれないかい?」

 

「えっ何?」

 

「えっとその……着てみてほしい服があって」

 

「なんだそんなことか!全然いいよ!」

 

「本当かい!ああ助かるよ」

 

 たかが服を着るくらいなんだっていうんだ。ホテルに潜入させてもらえるなら安いもんだ。

 

 

<=>

 

 

 前言撤回。ぜんぜん安い対価じゃなかった。

 

 俺は若干げっそりとしながら、パーティホールへと向かっていた。

 

 そんな俺の服装は、ひらひらした少女用のドレスになっていた。

 

 あの王子様、見た目にそぐわず可愛いもの好きだったようで、俺を着せ替え人形にしてはパシャパシャと何枚も写真を撮りやがった。どこにも流出させないようにだけなんとか約束させたが、あんまり思い出したくないな。

 

「とにかく、これなら潜入も捗るってもんだ」

 

 莉子会長のドレス姿を見るに、このホテルで行われるらしいパーティに参加するに違いない。この格好ならそこまで不審がられず近づけるってもんだ。

 

「……っとあぶない」

 

 話し声が聞こえて思わず隠れる。莉子会長の声だ。

 

「ええ……先生のおかげさまで、はい……もちろんこれからも……」

 

 断片的に聞こえてくる会話は、いかに会長が先生と呼ぶ男に従順かを示していた。

 その声は、嫌悪感を押し隠しており、歯切れが悪かった。

 

 

 許せるわけがない。

 

 

 何かを抱えている気はしていたが、こんな身売りのようなことまでしていたとは予想外だ。

 

「しかし……どうする?」

 

 無理やり介入する力はある。警備員が多少いるくらいだ。機甲の力を使えば余裕で制圧できるだろう。

 

 しかし、そうとなると、莉子会長がここまでして守ろうとしているものすら壊してしまいかねない。それは俺の本意ではない。

 

「守るって……難しいもんだな」

 

 騒ぎを立てるのは得策ではない。俺は遠くから、様子を伺うことしかできなかった。

 

 

 そうしてしばらく見ていると、会場から男と共に会長が出ていく。俺はあとを追いかけながら聞き耳を立てた。

 

「あの、先生」

 

「まあまあ、良いではないかたまには」

 

「……っ」

 

 男がぐいっと会長の腰に手を当てる。明らかに嫌がってるだろうが。

 

「拒否するというのであれば貴様の学校は……」

 

「せ、先生。私は構いませんよ」

 

 まずいな。このままだとそのままホテルの一室に入りかねん。

 

 都合よく、廊下には警備員もいる。俺が演じきれれば、騒ぎにならずに離脱できるだろう。

 

 俺は自分の中に幼女を宿す。俺は幼女俺は幼女俺は幼女。大丈夫、あの王子様みたいな人も騙し通せたんだ。自信を持て、俺!

 

 一本道の廊下に差し掛かった瞬間、俺は男めがけて走り込む。

 

 

 ドンっ

 

 

「うわぁ!」

 

「きゃあっ!」

 

 体格差があるにもかかわらず、俺と男は衝突して両方後ろに転がる。やべ、ちょっと力加減ミスったかも。

 

「なんでここにっ」

 

「しーっ!」

 

 俺はジェスチャーで会長に合図を送る。

 

「うわーーん、いたいよーーー!」

 

 俺は幼女幼女。幼女なのでおとこのひとにぶつかっていたいよぉ。

 

「だ、大丈夫?」

 

「お姉ちゃーん!いたいよぉ!」

 

「……っ、先生すみません。この子も連れて行っても?怪我の様子を見たいです」

 

「えっあ、ああ」

 

 まだ幼女に突き飛ばされた事実が受け入れられないのか、男は目を白黒させていた。

 

 

 演技は上々の出来だ。潜入成功。

 

 

<=>

 

 

 最上階のスイートルーム。そのシャワールームで俺は会長に脱がされていた。

 

 いや別にやましいことはないぞ!?怪我の具合を見るという口実のもと、あの男のそばから離れて二人きりで話したかっただけだ。

 

「それで、どうして貴方がここにいるんですか」

 

「そりゃもう、つけて来たに決まってるだろ」

 

「なぜつけて来たのか聞いているんです。ここは……あなたのようなのがいていい場所じゃない」

 

「まあどうみたって上流階級の集まりって感じだったもんな」

 

 子供だからという深層心理で警戒されなかったが、明らかに身分不相応の場所だった。それに、あの男のことを会長は先生と呼ぶ。つまりは、政治家といったところだろう。

 

「それで、どうしてあの男の言いなりになってるんだ?」

 

「……先生は、私たちに必要な存在なんです」

 

「私たち?ってことは紬ちゃんや小春ちゃんも含まれてるのか?」

 

「……はい」

 

「そうか、アステリア学園の問題なのか」

 

「……そうです」

 

「教えてくれ、一体、どんな問題を抱えてるんだ?」

 

「それは……」

 

「言ってくれ、頼む。俺だってもう、一生徒なんだぞ」

 

「……はぁ」

 

 莉子会長は観念したかのようにため息をついた。

 

「アステリア学園は、廃校の危機に瀕しています」

 

 なるほど、やはりそうだったのか。

 

 俺の率直な感想はそれだった。

 

 

<=>

 

 

 ダンジョン探索者養成校として国に認可されるには、主に3つの条件をクリアする必要があるらしい。

 

 まずは生徒数。最低5人の生徒からなる1クラス以上が存在すること。

 

 つぎに校舎。修練に必要な環境が整っていること。

 

 最後に、実績。ダンジョンへの探索実績や、校外対抗戦での成績があること。

 

 ちなみに、今のアステリア学園で満たせているものは一つもない。

 一つもないのに現在存続できているのは、会長が付き従っていたあの男が監査を回さないようにしているからだという。

 

 つまりは、学校の存続を餌に会長にあんなことやこんなことを要求しているいけ好かないやつなのだ。

 

「でもどうして、そこまでアステリア学園にこだわるんだ?転入が限られてるとかか?」

 

「……それは、私のエゴです」

 

「聞かせてくれ。俺から首を突っ込んだんだ。墓穴まで一緒に行ってやる」

 

「私には、優秀な姉がいました」

 

「いました?何かあったのか」

 

「ええ、2年前。彼女はダンジョン内での大規模災害によって……」

 

「そうか……」

 

「いえ、亡くなったとは限りません。ダンジョンの奥深くで生きている可能性だって……、すみません」

 

「あやまんなよ」

 

 俺は莉子会長の頭に手を置く。そのままポンポンと叩いて整った髪をくしゃくしゃにする。

 

「さあここに一つ選択肢がある」

 

 その手を下ろして、俺は会長に手を差し伸べる。

 

「これが大船となるか、それとも沈むだけの泥舟かは正直賭けだ。どうする?あの男の船に縛られたままでいるか、その縄を食い破ってこっちの船に乗るかだ」

 

「……っ」

 

「判断は早くしてくれよ。でないと、俺の我慢が効きそうにない」

 

「……します」

 

「ん?なんだって?」

 

「おねがいします......!私たちの場所を、私たちの手で……!」

 

「ああ、わかった」

 

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