TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?【完結】   作:畑渚

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第9話 鎧通し

「出たか」

 

「出たっすね」

 

 ダンジョンを進んだ俺たちの前にモンスターが立ち塞がる。

 

 青い半透明の身体、揺れ動く核。

 つまりは、スライムというやつだ。

 

「紬ちゃん、復習させてくれ。スライムの倒し方は?」

 

「スライムは物理攻撃に対して非常に堅牢な体制を持ってるっす。衝撃を与える系の武器はまず効かないと思ってたほうがいいっすね」

 

「拳じゃ難しいか」

 

「まぁ、その常識は先日私の目の前で覆されたっすけどね」

 

「小春ちゃん製の手甲といえど、物理耐性無視できるとは考えないほうがいいな。正攻法で倒すにはどうするんだっけ?」

 

「スライムの正攻法は、揺れ動く核を見定めて、守りが薄い部分に移動した瞬間に正確に核を穿つっす」

 

「弱点を見定めるって点は問題ないんだがな」

 

 この身体に備わっている戦闘本能は、今も揺れ動いているスライムの核を正確に捉えている。

 

「手甲でどうやって穿つか、だな」

 

 かちゃかちゃと手甲を鳴らしながら、スライムの前にでる。

 

「まあ、いったんやってみるか」

 

 本能の赴くままに、拳を構える。成るように成れ、だ。

 

 地面を蹴り、スライムに急接近。振りかぶった拳を核に狙いを定めて振り抜く。

 

 

 ぼよん

 

 

「うえっ」

 

 鈍い感触。スライムの感触は柔らかい泥のようで、以前倒したときのように弾け飛ぶようなことはなかった。

 

<さすがにね>

<スライムワンパンはむりだよなぁ>

<武器相性が悪いよ武器が>

 

「さすがに厳しいっすね……。衝撃吸収能力を上回れないっす」

 

「これ工業に応用できたら革命起きそうだけどな」

 

「無理っす。核を失ったモンスターはいずれ虚空に消える運命にあるっすから」

 

「まあそんなことは置いといてだ」

 

 スライムごときに苦戦しているようじゃ、ランク5なんて夢のまた夢だ。

 

「私の武器使うっすか?」

 

「いや、俺だけの力でやらせてくれ」

 

 再び拳を構え直す。地を蹴り、スライムに急接近した。

 

「うぉぉぉ!」

 

 がむしゃらに打撃を打ち込みまくる。スライムの鈍い感触がくせになりそうだ。

 

「ダメっす!そうすると余計に核を守ろうとするっす!」

 

 スライムが蠢き、より核を守ろうと身体を寄せ始める。そこが狙い目だ。

 

「よっ!漫画でしか見たことない芸当!鎧通し!」

 

 男児なら誰しもが憧れる、武術の到達点。

 硬い鎧や肉を『通す』かのように、打撃を内部の骨まで届かせる技。

 

「なるほどっす!防御のためにある程度固まったからこそ、鎧通しが通るっす!」

 

「いっけぇぇぇ!」

 

 明らかに固くなったスライムに、渾身の拳が突き刺さる。

 

 衝撃を打ち付けるのではなく、その肉壁を通すかのように『伝える』。

 

 

 どぱっ

 

 

 スライムが弾ける。核にヒビが入り、構成している身体を維持できなくなっている。

 

「終わりだ」

 

 核が露出してしまえば、トドメを刺すのは簡単だ。

 俺は足でスライムの核を踏み抜いた。

 

<うぉぉぉぉぉ>

<鎧通しでスライム倒せるなんて聞いたことねぇぞ!?>

<そもそも鎧通しできる人がいない定期>

 

 コメント欄の喧騒を眺めながら、俺は自分の手をぐーぱーと握りなおす。

 

 すっかりこの身体のスペックに頼り切ってしまうことに慣れてしまった。

 しかしこの万能感、癖になる。ダンジョンに入ってからいつもよりさらに良いコンディションになっている気がする。ここらへんは小春ちゃんに聞いてみても良いかもしれない。

 

「……っ!セナちゃん、逃げるっす」

 

「逃げる?どういうことだ?」

 

「ダンジョンの変遷が始まる兆候があったっすよ」

 

「変遷?」

 

「詳しいことはあとっす。配信もここで終わるっすよ」

 

<えー>

<まあ仕方ないよな>

<おつかれ~>

 

 カメラの電源が落ちる。ここからはオフレコだ。

 

「変遷ってのがなんなのかだけ教えてくれ。何をそんなに焦ってる?」

 

 紬ちゃんの様子が明らかにおかしい。額には汗が滲んでいるし、最大限に集中して道を選んで地上へと向かっている気配から、ただならぬ予感がした。

 

「詳しくはあとで教えるっす。変遷とはダンジョンのリセットタイムのことっす」

 

「リセットタイム?」

 

「その時間中に中にいるモノすべてを一度飲み込み、何事もなかったかのようにリセットする、ダンジョンの自浄作用のようなものっす」

 

「つまりそれに巻き込まれるとやばいから急いでるわけか」

 

「そうっす。人間が巻き込まれた場合……行方不明となるっす」

 

「待ってくれ、ダンジョンで行方不明?最近聞いた話だな」

 

「……莉子会長のお姉さんも、この変遷に巻き込まれたと言われてるっす」

 

「そっか、会長の……」

 

 ぐっと言葉を飲み込む。そうか、変遷とはそれほど危険なものなんだな。

 

「よかったっす、もうすぐ出口っすよ」

 

「何事もなくてよかった」

 

 俺達は、いそいで門を通った。

 

 

<=>

 

 

「ですから!」

 

 門を通り抜けた先で最初に聞こえたのは、涙ぐみながらそう叫ぶ女の子の声だった。

 門兵にしがみつきながら、何かを必死に訴えている。

 

「何かあったっすかね」

 

「ああ、心配だな」

 

 俺達は邪魔にはならない程度の距離で聞き耳を立てることにした。

 

「お願いします!友達がまだ、まだ中に残っているんです!」

 

「だから何度も言わせるな。私たちの任務は門の防衛であって、救助はできない」

 

「そんな……じゃあ私だけでも!」

 

「バカな真似はよせ!変遷に巻き込まれたらどうなるかわからないんだぞ!」

 

「お願いします!通してください!通して!あの子が!」

 

 静かな空間に、必死な声が響き渡る。だが、どの探索者も眼を向けようとしない。

 

 彼らとて、自分の命が大事だ。助けに行くという選択肢をとれる者はいない。

 

 

 

 

 

「紬ちゃん、荷物頼めるか」

 

「へっ?もしかして行く気っすか?」

 

「あたりまえだ」

 

「ダメっす、絶対ダメっすよ!」

 

「俺なら、そのダンジョンの変遷とやらにも耐えられるかもしれない」

 

「あくまで可能性の話じゃないっすか!」

 

「でも可能性があるんだったら、試してみる価値はあるだろ」

 

 俺は荷物を紬ちゃんに押し付けて、物陰に隠れる。

 

「来い!」

 

 虚空に幾何学模様が浮かび上がり、魔法陣が腕にまとわりつく。

 数秒もすれば、機甲に身を包んだ、少女とは思えないリビングアーマーの化け物が完成だ。

 

「ゔゔ、ああ」

 

「ひ、ひぃ!?リビングアーマー!?」

 

「おい!どこから現れた!」

 

「警戒態勢、警戒態勢!」

 

 女の子の元に降り立ち、声を男らしく機械らしく調整する。

 

「仲間の、位置と容姿は」

 

「ひぃ、殺さないで!」

 

「……、仲間の、位置と容姿は」

 

「殺さないで……えっ?」

 

 時間がない、手短に質問だけを繰り返す。

 

「位置は3層の三叉路付近……容姿?赤髪で二つ結び」

 

「わかった」

 

 これ以上の問答はいらない。

 俺はブースターを吹かして門へと飛び込んだ。

 

 変遷とやらがどんなものかしらないが、人1人くらい救ってみせる。

 

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