ラーメンが食べたくて 異世界転生ハードモードとんこつ味 作:ぱちぱち
神聖歴582年 春の始め月 3日
商業都市サニムは城壁の内側にある内町の商業区に、最近オープンしたばかりの小洒落たカフェがある。カフェの名前はマロチャ。異国風のお茶をウリにしていて、この店でしか飲めない甘くまろやかなグリーンティーはサニムの富裕層、特に女性にかなり受けがいい。
店主はイールィス家で長年メイドをしていた初老の女性であり、イールィス家の次期当主であるロゼッタの命によりこの店舗を経営している。つまりイールィス家の紐付きな訳だが、逆にイールィス家が裏に居るからこそ品質が保証されている、と利用する客も多い。
そんな最近話題のマロチャの一番奥。VIPしか利用できない個室の中で、二人の少女はにらみ合っていた。
全くの無言で、無表情のまま。かれこれ20分ほどの時間、二人はにらみ合っていた。
「…………」
「…………」
一つ目の三点リーダーの主はロゼッタ・イールィス。この店舗の発案者であり実質的なオーナーである。商業都市サニムを支配する5大商家の一角、イールィス家の長女であり、次期当主として内外に名を知られ始めている少女だ。
それに対するのはネネという少女だ。父親はサニムに属する狩人たちの長、森番のジジであり、猫人種と普人種のハーフである彼女は最近トレードマークだと言っている赤い皮帽子を右手で弄りながらロゼッタと視線を重ねている。
二人は絶対に目を逸らさない。逸らしたら負けだと思っているからだ。二人は絶対に自分から言葉を言わない。先に口を開いたほうが負けだとなんとなく思っているからだ。
不毛。ただただその言葉で締めくくるべき二人の行動だが、彼女たちには彼女たちなりの理があってこの行動を取っている。
故にこのままでは何分、何時間とにらみ合うだけで終わってしまうのだが、その前に個室のドアがガチャリを開くことで二人の不毛な時間は終わりを告げた。
「……何をなされているのですか?」
「いらっしゃいまし、リリアーナ様」
「歓迎するわよ、泥棒猫2号」
「泥棒猫1号さん、余り汚い言葉は使わない方がよろしいわよ。育ちが出てしまいますもの」
にらみ合う二人の姿に思わずリリアーナ――パチン・コ流の道場ではリリィと呼ばれる少女がそう尋ねると、立て板に水とばかりに二人の少女は互いに悪口を言い合い始めた。帰りたい。思わずそう思ってしまったリリィだが、ここで帰ればどれだけの不利に見舞われるか分かった物ではない。この二人は、ここぞとばかりに自分に無理難題を吹っかけてくるだろう。
目の前の罵りあいでそれを肌で感じ取り、リリィは彼女たちと同じテーブルに座った。
「止めましょう。不毛すぎる」
「そうね。私たちが争ってる意味ないもの」
「ようやく終わった……」
ロゼッタとネネの罵り合いはリリィが到着してからまた30分ほど続いたが、店主がお茶のおかわりを入れに来た際に正気になったロゼッタがそう口にすると、釣られるように正気に返ったネネも合意。これにて1時間以上に渡って続けられたロゼッタとネネの争いは終わりを告げる。
罵り合う二人を眺めるだけという拷問みたいな時間を過ごしていたリリィが安堵の吐息を漏らすが、まだ本題は始まってすらいない。
「こほん。本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。折角の席ですので本来ならば歓談を交えて親交を深めたい所ですが……貴女達相手では今更ですわね」
「まぁ、仲良くお茶飲む関係じゃないからね。少なくともうちとアンタは。そっちの子はあんまり話したことないからどーでもいい」
「私も同意見だ。ロゼッタ様、時間は有限だ。さっさと本題に入りましょう」
仕切りなおすように咳ばらいをしたロゼッタが、今日の会の主催としてあいさつを述べるとそれを受けたネネとリリィがそう返した。これも当然だろう。この場に居る3名は仲良しこよしという関係ではない。むしろその逆で、互いにとある男の隣に立つことを競い合い、争い合っている間柄なのだから。
二人の言葉にロゼッタはまぁ当然という風な表情で頷きを返し、口を湿らせるために入れ替えたばかりのお茶を口にする。タロゥ曰くマッチャという品種のお茶にはちみつをたっぷり入れたグリーンティーの風味を楽しみながらのどを潤し、ロゼッタは口を開いた。
「まず、事実だけ。タロゥと帝国の第二皇女、アクエリア様の婚約ですが、サニム議会はこれを拒めません。サニム議会の構成員を親に持つお二人もそれは理解してますわね?」
「…………アンタ、なんであんなの連れてきたのよ」
「勝手についてきた。それ以上でも以下でもなく、婚約云々も相手側が言い出したこと。帝国とサニムの力関係を考えても私には選択肢すら与えられませんでした」
ネネの恨みが籠った言葉に、ロゼッタは心底から心外だという表情で答えた。サニムは都市国家連合の一構成都市であり、また都市国家連合の中でも有数の栄えた都市である。その発言力や影響力は決して軽くはないのだが、ムリーナスト帝国はそれ単体で都市国家連合全体に匹敵する国力の大国である。
当然、その大国の皇女であるアクエリアの言葉は重い。
「私は」
その事はロゼッタも重々承知している。
「貴女達なら、まだ諦められた。同じサニムで生まれ育った、タロゥを知っている貴女達ならまだ諦められたわ。タロゥは凄い男よ。なんの教育も受けていない孤児の子供が、たった一年で英才教育を受けていた私を超えてしまって。私、落ち込んでしまった事もあったけど。でも、ずぅっと頑張ってるタロゥを見続けて、どんどん好きになっていって。周りの評価もどんどん上がって、お父様もタロゥなら私の婿として海軍を任せられるって。本人は縛られるのを嫌がってるから家の事は私が受け持てば良いって。そう思ってたの」
「アンタ、思ってたより重いわね」
「今年9歳の男に12歳の娘が向ける感情じゃないですよ」
ロゼッタの言葉に茶化すようにネネとリリィが口を挟む。だが、二人の口調にも心底バカにするような雰囲気はない。どちらも似たような事を考えていると、自覚しているからだ。
「うちもまぁ、同意見。タロゥはバカだしおっちょこちょいだけど、すごく頭も良いし強いしカッコいい。毎日一緒に森を歩く時のタロゥの横顔はいくらでも見てられる。知ってる? タロゥは街中じゃなくて外に居る時の方がね、目がキラキラしてるの。魔獣王ガランと相対した時のタロゥはうちを庇いながら一歩もガランにひかなかったの。あの時、うちはもうこの人のお嫁になるしかないって感じた。それに知らない事を知ったり見た時のタロゥはね、とっても可愛いんだよ。だからタロゥは冒険をするべきなんだ。お父様は確かに森番って高位の役人だけど、元々うちの家はあくまでも狩人頭の一家だし。家は長男のお兄が跡を継ぐからうちは自由だからタロゥが10歳になって一人前になったら一緒に外でも冒険する。その筈だった」
「貴女も人の事言えないじゃない」
「森番殿の娘さん。こういう方だったんですね」
ネネの言葉にロゼッタとリリィがそう返すと、ネネはふふんと自慢げにいつも被っている帽子の端を弄り始めた。それがタロゥからプレゼントされた装飾品だと知っているロゼッタは顔を顰めて、そしてある事を思い出す。
自分はタロゥのファーストキスを奪っている。たかが帽子の一つくらいどうだというのだ。そう心の中でマウントを取り返したロゼッタは勝者の笑みを浮かべてネネに視線を返す。
その視線に含まれた意味合いにネネが嫌な予感を覚えて追及しようとすると、すっとこれまで話を聞いていたリリィが手を上げた。
「ところで、この場はただ惚気合いを言い合うためだけの場という事でしょうか。それでは余りに不毛だと思うのでそろそろ話を進めるべきでは」
「そうね。でも話を進める前に貴女もタロゥをどう思っているのか言いなさい」
「一人だけ逃げられると思ってる?」
「あえっ。いえ、そんなつもりは」
「ほら。とっとと吐きなさい。道場であんだけタロゥタロゥ言ってたらバレバレですわよ?」
「へー。パチン・コ流の道場で。この娘はどんな事してるの?」
「タロゥ相手に毎日毎日組手を強請って、それが終わったら指導を強請って。周りの取り巻きたちが居なければ一日中タロゥとくっついてるのではないかしら」
「ろ、ろ、ろ、ロゼッタ様も道場では同じではありませんか! 道場にいる間は常にタロゥ指導員に指導を求めて!」
「私は元々タロゥの紹介で道場に入ったのだもの。指導員であるタロゥが私の指導をするのは当然ですわ」
リリィの言葉にロゼッタとネネが座った眼でそう答える。うろたえるリリィだが、同門でもあるロゼッタには彼女が道場でどのような態度でタロゥに接しているのか全部バレており、言い逃れる事も難しい。
せめてもの反撃を、とリリィも道場でのロゼッタの行動を口にするが、ロゼッタにとってはそれは当然の事であったため特に悪びれもなく言い返される結果となる。
二人の会話を聞いたネネは危機感を募らせた。道場の中でそんなアオハル展開が広がっているとは想像していなかったためだ。
ま、まぁ。ほとんど毎日うちはタロゥと仕事してるけどね。心の中でマウントを取り返した後、ネネは努めて冷静に笑顔を作り上げてリリィに向かって口を開く。
「それで実際の所。タロゥの事はどう思ってる? もしどうも思ってないならこの場にはもういらないから、帰っても良い」
「う。うー…………タロゥ指導員の事は。その、お慕いしています…………」
「もっと赤裸々に。なんでそうなって今はどう思っているのかまで口にしなさいな」
「ああああああ! はい! お慕いしてます! 初めて組手をした時、圧倒的な差を感じて! 同世代の男の子相手にこんなに差が付けられてるなんて思わされたのは初めてで気になって! 手加減してもらってようやく互角なんて屈辱で! でも、そんなに強い男の子が身近にいる事にドキドキしたんです! 大会で初めて重りなしの、本気で戦うタロゥ指導員に一蹴された時に思い知らされたんです! ああ、私はこの人に勝てないって! でもそれがすっごくドキドキするんです! 圧倒的に強い同世代の男の子の存在が! 私がどれだけ頑張っても覆さない差のある男の子と戦って敗北を刻まれると胸がキュンキュンするんです!!! これで良いですか!!!!!?」
「…………お、おう。ちょっとロゼッタ」
「この子、私が思った以上に凄い子でしたわ」
詰められてついに内心を口にしたリリィに、残りの二人は想像と違ったベクトルの衝撃をぶつけられて戸惑った。これそのまま話を進めて良いのかと互いに視線で相談を交わし、まぁ、とはいえこれから目を離すのも怖いな。と結論を付けた後、ロゼッタはこほん、と咳ばらいを一つした。それで変わる空気でも無かったが。
「ま、まぁ。これで全員が本当に真剣にタロゥの事を思っているのは確認できましたわ。そしてこの3名ならば協力する事も出来る。どこかの皇女と違ってタロゥをサニムから取り上げようとはしないでしょうし」
「……うちは冒険者としてタロゥと一緒に行動するけど。サニムは故郷であるのは変わらないし」
「私は7姉妹の末娘ですので自由が利きますが、サニムから積極的に離れようとも思いません。まぁ、留学する可能性もありますが」
「それは私も同じですわ。そもそもその皇女とやらも元々は都市国家連合の首都、カルデラへの留学が目的でサニムを訪れたようですの」
「元々って事は今は違うって事?」
「いいえ。目的が変わったというよりは追加されたと言うべきでしょうね」
そこまで口にして、ロゼッタの言葉にネネとリリィが耳を傾ける姿勢なのを確認した後。ロゼッタは、この会合の本当の意味の趣旨を語る。
「皇女のカルデラ留学にタロゥが巻き込まれようとしています。それゆえ、お二人にも私と一緒に、カルデラに留学して頂きたいのです。タロゥの、サニムに対する重しの一つとして」
そう言ってロゼッタは、温くなったグリーンティーを飲み干した。
ロゼッタ・イールィス
12歳 普人種 女
生力18 (18.6)
信力28 (28.6)
知力31 (31.9)
腕力15 (15.5)
速さ16 (16.1)
器用20 (20.1)
魅力37 (37.3)
幸運11 (11.0)
体力18(18.3)
技能
市民 レベル7 (72/100)
商人 レベル4 (36/100)
パチン・コ流戦闘術 レベル0(37/100)
スキル
パチン・コ流格闘術 レベル0(37/100)
パチン・コ流武器術 レベル0(37/100)
ネネ
13歳 猫人種ハーフ 女
生力20 (20.7)
信力15 (15.6)
知力28 (28.1)
腕力16 (16.3)
速さ26 (26.3)
器用34 (34.0)
魅力29 (29.8)
幸運3 (3.0)
体力26(26.3)
技能
市民 レベル4(32/100)
狩人 レベル1(11/100)
薬師 レベル4 (10/100)
スキル
直感 レベル0 (38/100)
精密動作 レベル1(68/100)
薬学 レベル4(10/100)
リリィ
9歳 普人種 女
生力21 (21.6)
信力18 (18.9)
知力24 (24.0)
腕力20 (20.3)
速さ23(23.2)
器用28 (28.1)
魅力21 (21.4)
幸運2 (2.0)
体力19(19.3)
技能
市民 レベル5 (12/100)
商人 レベル2 (21/100)
パチン・コ流戦闘術 レベル1(56/100)
スキル
パチン・コ流格闘術 レベル1(56/100)
パチン・コ流武器術 レベル1(56/100)
更新の励みになるのでフォロー・☆評価よろしくお願いします!