ラーメンが食べたくて 異世界転生ハードモードとんこつ味   作:ぱちぱち

62 / 100
第61話 ラーメンは自由です

 煌びやかな装飾が施された店内で、誰も彼もが彼を見ていた。

 

 

「ラーメンは自由です。どんな食べ方でも許されているけど、そんなラーメンの食べ方にもある種のマナー的なものはあります」

 

「例えば、どんな?」

 

「まずは美味しく素早く食べる事。これが何よりも大事でラーメンの麺はスープに長く浸されると伸びてしまい美味しさが損なわれてしまいます。ラーメンを提供された後はお喋りを止めてまず麺を食べる事に集中しましょう」

 

「なるほど」

 

 

 良く通る彼の言葉が店内に響き渡った瞬間、それまでざわざわとざわめいていた店内が静まり返った。ラーメンレストラン・サニムの麺はこの世界で初のラーメンショップである。この場にいる者達はほぼすべてがサニムでも上流階級に位置する者達で、冬の間にカップラーメンを口にした事がある者ばかりだったがラーメンは新しい食べ物だ。当然、食事の時のマナーめいたものは誰も知らない。

 

 それを知る、実践するという少年に、店内の注目が集まるのは当然の帰結であった。

 

 

「提供されたラーメンはまずスープを一口飲みましょう。スープはラーメンの基礎の基礎。ここにこの店の努力の全てが宿ると言っても過言ではありません。故に、まず一口、スープを口に含み味わってください」

 

「わかった。ほらリリー、スプーンを持って」

 

「うん!」

 

「ちなみに、このスプーンはレンゲと呼ばれるタイプの物です」

 

 

 なるほど、と頷く様に周囲の大人たちは底の深い形状のレンゲを持ち、視線を少年に向けたままスープを口元に運ぶ。

 

 美味い!

 

 口にした瞬間、誰かがそう口にする。だが、同じことをしたほとんどの客はその衝動を耐えて、口を開いた男を非難するように視線を向けた。

 

 そんな周囲の喧噪を意にも介さず、少年の講義めいた話は続く。

 

 

「次に麺の食べ方。一般的なマナーだと行儀が悪く捉えられますが、ラーメンの際は麺を食べるときに啜るのが常識となります。少し見て居てください」

 

 

 そう言って少年は二本の棒のようなものを使ってラーメンの麺を掬い、流れるような動作で口元へと運んでいく。そして、少し息を吹きかけて冷ました後、麺に口を付けた。

 

 ズルズルズル、ズズズ

 

 

 言葉通り、少年は音を立てて麺を食べた。その事実に、またしても周囲にいた客たちは衝撃を覚えた。明らかに作法として音を立てて麺を食べている。これが彼らには理解しがたいものだったのだ。

 

 通常、サニムの上流階級が抑えているマナーとして麺類やスープを飲む場合は音を立てずに食べることが礼儀正しい作法だとされている。サニムだけではない。サニムが所属している都市国家連合でも、隣り合う帝国でも似通ったマナーが存在している。

 

 それを、ラーメンという食べ物は真っ向から否定しているというのだ。

 

 

 ズルズル、ズズズ

 

 

 そしてこの音だ。

 

 何かを啜るという音をこれまで品のないものとしていた彼らにとって、少年がラーメンを啜る音はなんというのだろうか。物を食べている、その事を強く実感させる音に感じたのだ。

 

 彼と同じ宅に座っている壮年の男とその妻子は、少年の作法を見よう見まねで真似してラーメンを食べ始めた。

 

 麺を啜る音が、四重に重なり合っていく。まるで小さな楽団のような響きだ。そして、麺を啜った彼ら彼女らの表情を見れば誰も彼もが至福の表情でラーメンを楽しんでいるのが分かる。

 

 

「……私も」

 

 

 釣られるように、言い訳のように一言を添えて、一人の紳士が麺を掬い口を付ける。ズルズルと慣れない食べ方に苦闘しながら麺を啜り、口の中で噛みしめる。

 

 一人、また一人とラーメンにフォークを入れる人々は、最初は恐る恐る。やがてはっきりと音を立てて、麺を啜り始めた。

 

 

 ズルズル、ズズズ ズズズ、ズルズル ズルズルズル

 

 

 やがて店内には麺をすする音と、誰かの呼吸音と、水を飲む音だけが広がっていく。

 

 言葉はいらない。ただ楽しめばいいのだ。それを食べる姿で教えてくれた少年に敬意を抱きながら、この夜ラーメンレストラン『イールィスの食卓』を訪れた客たちは至福の時間を過ごした。

 

 

 

 

 いやー。大満足のラーメンだった。思わずスープまで飲み干しちゃったよ。この世界初の製品版ラーメン、その最初の客になれるなんてラーメン好きにはたまらないシチュエーションだった。

 

 一緒に連れてきたのがコーケンさん家族だったのも良かったね。プレオープンだって聞いてたのに、他のお客さん達は明らかに偉そうな人とその家族って感じの人たちばっかりだったから。相当気合入れてお客さん呼んだんだろうね。

 

 これが孤児院の子供たちだったら大騒ぎして折角プレオープンを台無しにしてたかもしれない。いや、あいつらならやる(確信)

 

 まぁ起きなかった悲劇についてあーだこーだ考えても意味はない。重要なのは来たかもしれない未来じゃなくて、今現在だ。

 

 

「スープは飲み切れないならそのまま残しても大丈夫ですよ」

 

「そ、そうか。タロゥが飲み切っていたから、続くべきかと思ったんだが」

 

「スープを飲み切るのは料理人への感謝を伝えるという意味合いもありますが、好みの差はありますから。無理はしないでラーメンを楽しむのが一番です」

 

 

 ちょっと大きめの声でそう言うと、明らかに安堵したような声音のため息が周囲から聞こえてくる。周囲が探る様にこっちを見てるのは分かってたからね。こうやって声を大きくしておけば周囲の人たちも無理はしないだろう。

 

 ラーメンのスープは塩気が強いから、ご老人とかが多い今日のお客さんだと飲み切るまで頑張らせるのはね。高血圧的な意味合いで流石にちょっと危ないかもしれない。

 

 さて、美味しいラーメンも食べたし周囲に居る知り合いからウザ絡みされそうだからさっさと帰るか。隣の卓に座ってるロゼッタがなんかコーケンさんとリリーちゃんを睨んでるし。

 

 あ、そこのスタッフさん。シェフに大変美味だったとお伝えください。これチップです。

 




タロゥ(7歳・普人種男) 

生力27 (27.0)
信力98 (98.4)UP
知力26 (26.0)
腕力32 (31.0)
速さ26 (26.0)
器用28  (28.0)
魅力27 (27.0)
幸運18  (18.0)
体力30 (30.0)


技能
市民 レベル3 (100/100)ー
商人 レベル3 (51/100)
狩人 レベル3 (82/100)
調理師 レベル3 (100/100)ー
地図士 レベル2 (35/100)
薬師  レベル1 (95/100)
我流剣士 レベル3 (13/100)
木こり レベル2 (45/100)
楽士 レベル2 (3/100)
教師 レベル1 (50/100)UP
パチン・コ流戦闘術 レベル3 (2/100)
テイマー レベル0 (35/100)
絵師 レベル2 (45/100)
語り部(紙芝居) レベル4 (35/100)


スキル
夢想具現 レベル2 (72/100)
直感 レベル2  (60/100)
格闘術 レベル1  (78/100)
剣術 レベル3  (90/100)
弓術 レベル2  (28/100)
小剣術 レベル2 (28/100)
暗器術 レベル2 (28/100)
斧術  レベル1 (20/100)
フォークダンス レベル5(35/100)
フォークマスター  レベル0 (35/100)
念話 レベル0 (35/100)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。