ラーメンが食べたくて 異世界転生ハードモードとんこつ味   作:ぱちぱち

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第93話 俺にラーメンを喰わせろ

 夢を見ている。

 

 

 行きつけのラーメン屋のカウンター席、右から3番目。いつの間にか指定席になった場所に座った俺は、電気を落とした店内で店長と二人、並んでラーメンを啜っていた。

 

 お気に入りのとんこつラーメンチャーハンセット、トッピングはチャーシューマシ。この店のチャーシューは店長が目の前でひもで縛り、特製の機械で作成してくれるものだ。これがまた美味くて、一時期はチャーシュー丼なんてものもあったけど人気過ぎてあっという間にチャーシューが売り切れるためメニューから消えてしまったという逸話まであるほど。

 

 ラーメンが伸びる前に麺を啜り、時たま口直しにチャーハンを食べ、ラーメンを啜る。俺と店長、二人のラーメンを食べる音だけが耳に聞こえてくる。

 

 

『末期だって、診断されたんだよね』

 

 

 ラーメンを食べ終え、店長はそう言った。ここ一年、一気にやせ細った彼の身体は枯れ木のようだった。この店の暖簾をくぐった時にかけられる野太い声も今では囁くようなか細さに変ってしまっている。

 

 スープを飲む。飲み干して、ラーメン器をカウンターの上に置く。

 

 

「片付けますよ。今日はお客さんじゃないんで」

 

『そうかい? ありがとよ、太郎ちゃん』

 

 

 そう言って、店長さんと自分の食べ終わった食器を片していく。厨房に入ると、よく整頓された光景が目に入る。店長が何十年も保ち続けて居たラーメン店の厨房だ。

 

 もうすぐ無くなってしまう光景だ。

 

 

『店を閉めてね。故郷に帰ろうと思うんだ』

 

「そうなんですね」

 

『子供も独り立ちしたし、嫁もな。お父さん、ここまで頑張ったんだから好きにしなよって。言ってくれてね』

 

「いい奥様ですね」

 

『美味いラーメンは作れないけどなぁ。40年も一緒に店をやってたのに』

 

 

 普段とは真逆の光景が少し不思議だった。カウンターに座っている店長を見ながら、俺は皿を洗いながら彼の話に相槌を打った。

 

 

『やり残したことがあったらさ。きっと、今わの際に思っちゃうだろ、ああしていればよかったっ。こうすればよかったって。それを考えたら嫌になってね。なにか忘れた事が無いか、思い出しに行こうと思うんだ』

 

「そうですか……寂しくなりますね」

 

『太郎ちゃん』

 

 

 俺の相槌に被せるように。力強く、店長は言った。

 

 

「もし、やり残したと思えることがあるなら。石にかじりついてでも、泥水を啜ってでも……生きなよ」

 

 

 

 

 やり残したことばかりですよ。店長。

 

 ドクン、と胸の奥で心臓が音を立てる。遠くから誰かに呼ばれている気がして、目を開けてみるとロゼッタの顔が間近にあった。

 

 ああ、こうしてみるとこいつ可愛いなぁ。でも、何故か泣き顔だ。涙は、いい女には似合わない。手を伸ばして涙を拭おうとするも、出来ない。だったら泣くなと口にしようとするも、口からはカヒュゥと空気の音が漏れていく。喉がやられたみたいだ。いや、喉も、かな。

 

 少しずつ、自分の状態を確認していく。視界がおかしい。右側の目はどうやら潰れたかなにかしたかな。右腕は動かない。左手は、先っぽに少しだけ動いている感覚がある。体を起こす事は出来ない。というか腰から下の感覚が無い。

 

 周囲を見渡すと、どこかの家屋の中のようだ。誰かがここまで運んでくれたのだろう。恐らく、ハサウェーさんあたりかな。ドアは開け放たれていて、外の音が聞こえてくる。まだ戦闘中のようだ。誰だろう。この場に居ないザンムが、戦っているのだろうか。

 

 咄嗟に喰らった一撃。当たる直前、何とか信力を振り絞って仏恥義理(ぶっちぎり)で防ごうとしたんだけど、もろとも粉砕された感じだろうなこれは。やっぱりあのサイズにぶん殴られたら死ぬって普通。碌に身動きもできない状況であれ喰らって良く生きてたな俺。ああいや、もうすぐ死にそう。というか、もう半分死んでるのかもしれない。

 

 それは、不味いな。ああ、とても不味い。

 

 まだやり残したことが一杯あるんだ。妹の白無垢を見なければいけないし、妹の旦那を殴らなきゃいけない。妹の子供を抱き上げて、高い高いをやってあげる夢だってある。そして妹たちとその子供たちと食卓を囲んで、ラーメンを食べるのだ。今、こんなところで死んでいる場合じゃないんだ。俺は今度こそ、妹を幸せにするんだ。

 

 体の中。信力がどこから湧き出てくるかなんて知らないが、きっと体の中のどこかに元となるものがあるんだろう。なら、今この状況。死にかけているこの瞬間にだって、振り絞る事は出来る筈。

 

 ラーメンが食べたい。生存本能の叫びが、俺の思考をその一言で埋め尽くした。

 

 

『ロゼッタ』

 

「タロゥ? タロゥなの?」

 

 

 口からは空気の漏れる音しか出すことが出来ない。だが、それでもいい。見本はアリスと山巨人が見せてくれた。音は信力を乗せられる。そして信力が乗せられるなら、そこに意識を乗せることは出来る。念話とは、本来こういう使い方をするものなのだ。

 

 俺の呼びかけに応えたロゼッタに、視線を向ける。自力では動けない以上、俺の命はロゼッタが握っている。だが、不思議と悪い気はしなかった。初めて会ったあの日から、ロゼッタは俺にとって目標であり、ライバルであり、ビジネスパートナーだった。今は、大事な友人でもある。

 

 ロゼッタになら、命を預けられる。誰かに自分の生殺与奪の権を渡すのは、怖いものだが。案外悪い気はしないものだ。

 

 

『俺に――』

 

 

 死にかけた体の奥底から、どくんどくんと信力が溢れてくるのを感じる。頭の先から足のつま先まで信力が覆いつくしていく。体の周辺を、光を纏った木片のようなものが飛び回っている。あれ、一緒にぶっ叩かれた仏恥義理(ぶっちぎり)の一部かな。光を纏った木片はどんどんと寄り集まっていき、その姿を変え、そしてラーメンになった。

 

 行きつけのラーメン屋が閉まったあの夜。最後に食べたとんこつラーメンと、同じ匂いが鼻をくすぐる。腹の音が鳴り響く。

 

 そうか。店長、力。貸してくれるんですね。

 

 

『俺にラーメンを喰わせろ』

 

 

 なら、一緒に生きましょう。店長。やり残したなんて思えないほどの、冒険を。この世界で。

 




タロゥ(8歳・普人種男) 

生力39 (39.0)UP
信力105 (105.1)UP
知力38 (38.0)
腕力43 (43.0)
速さ39 (38.0)
器用38  (38.0)
魅力39 (39.0)
幸運30  (30.0)UP
体力37 (37.0)


技能
市民 レベル3 (100/100)ー
商人 レベル3 (100/100)ー
狩人 レベル3 (100/100)ー
調理師 レベル3 (100/100)ー
地図士 レベル3 (100/100)ー
薬師  レベル3 (40/100)
我流剣士 レベル4 (100/100)ー
木こり レベル2 (70/100)
楽士 レベル3 (35/100)
教師 レベル3 (38/100)
パチン・コ流戦闘術 レベル5 (100/100)ー
テイマー レベル1 (13/100)
絵師 レベル3 (51/100)
語り部(紙芝居) レベル5 (58/100)
水兵 レベル1 (1/100)
執事 レベル2(49/100)


スキル
夢想具現 レベル3 (1/100)UP
直感 レベル4  (25/100)UP
格闘術 レベル5  (55/100)UP
剣術 レベル5  (100/100)ー
弓術 レベル5  (99/100)
小剣術 レベル5 (99/100)
暗器術 レベル5 (99/100)
斧術  レベル4 (97/100)
飛行術 レベル1 (47/100)
フォークダンス レベル5(40/100)
フォークマスター  レベル0 (40/100)
念話 レベル1 (25/100)UP
女たらし レベル4 (88/100)UP
サニム流マナー レベル2 (3/100)


取得可能スキル
素人○貞 レベル5(100/100)を新スキルの経験値へ変換します。

良い冒険(グッドラック)を!


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