呪雄奇譚   作:ぴりもに

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第3話「愛憎・次なる復活」

 

復活し、呪いの力を宿した天草四郎は大阪にある崇禅寺という寺を訪れていた。

 

「ここか……かの細川ガラシャの霊が眠る場所は……」

 

細川ガラシャとは、かの明智光秀の娘にして細川忠興の妻。キリシタン教徒としても知られていた。

ガラシャは慶長5年(1600年)、関ヶ原の戦いにおいて忠興は徳川家康の東軍に与し、上杉討伐へ出陣した。だが、その留守に西軍の石田三成はガラシャを人質に取ろうと屋敷を包囲したが、ガラシャは毅然と拒否し、家老に命じて自分を殺させたとされる。

そしてガラシャの墓はこの大阪・崇禅寺に建てられた。

 

「エロイムエッサイム……この墓に眠りたもう細川ガラシャの御霊に伏して申す……」

 

天草四郎は墓の前で地面に魔法陣を描き、その中に入ってお経のような呪文を唱え始めた。

 

「願わくば、暗き地獄(いんへるの)よりい出て我が前に現れ給う……それなる乙女の身体にその御霊を宿らせ給え……」

 

天草四郎の前には若い女性が横たわっている。だが、この女はすでに死体……ここに向かう道中、自殺して死んだこの女を天草が連れてきたのだ。依代にするために……

 

「ムゥゥゥ……アブロンティタウロン…ウブリキトリロン……」

 

天草はさらに意味のわからない言語の呪文を唱え、印を結ぶ。丑三つ時の夜、ろうそくが風で揺れる中、遺体のはずの女の身体がビクンッと揺れ始めた。

 

「うっ……おおお……!!」

「朽ち果てた遺体よ、眠りから覚めそして今!父の名の元に行う我が要請に答えよ!!エロイムエッサイム!我は求め訴えたり!はぁぁぁぁぁ!!」

 

天草が力を込め、叫び声を上げると女の死体はたちまち立ちあがった。だが、その目は虚ろで死人であることに変わりはないようだ。

 

「……妾の眠りを妨げるのは誰じゃ…」

 

女は虚ろな目で古風な話し方で天草に話しかけてきた。

 

「細川ガラシャ様の霊とお見受け仕る。(これ)は、天草四郎時貞と申す者……」

「何故妾を呼ぶ……?」

「今一度、この世に生まれ変わりたいとの奥方様の悲願……果たしに参った。」

 

天草は印を結んだままガラシャに頭を下げた。すると、ガラシャは大声で笑い始めた。

 

「ほほほほほっ!!なんと夢のような話を……妾はもはや浮世には用はない……」

 

ガラシャはそう言って身を翻らせる。だが、天草はそれは違うと声を上げる

 

「恐れながら……それは(まこと)の御心にはございますまい。」

「……なに?」

「奥方様には、骨噛むほどの無念を抱いて……いまだ冥界を彷徨よっておられるはず……貞淑の誉れ、吉利支丹への信仰とは裏腹に、夫の忠興殿とは修羅の毎日を過ごされたとか……」

 

天草がそう言うと、ガラシャはプルプルと怒りで腕を震わせた。

 

「おのれ、なんたる……!!」

「またその最期も、無本意極まる壮絶な最期であると……」

「黙りゃっ!!」

 

ガラシャは大声を上げ、天草を黙らせる。

 

「何をもってそのような戯言を!!おのれ、その口……引き裂いてくれようか!!」

 

ガラシャは侮辱された怒りをむき出しにし、そのまま天草に襲いかかった。だが、ガラシャの手が魔法陣の中に入った瞬間、青い雷のような衝撃がガラシャの全身に襲いかかる。

 

「くおぉぉぉぉぉ!!」

「静まれよ、奥方様!!これなるはソロモンの輪……冥府を彷徨う者は誰も入ることは叶いませぬ!!御心に正直におなりなされ!!」

 

魔法陣から手を離したガラシャは後ろに下がり、そのまま崩れるように倒れた。

 

「口惜しや……心に秘めた未練を知らるるとは……!いかにも妾はこの世の生を求めていた……美しい花…鳥の囀りは言うに及ばず……女として生きる喜びを抱きしめてきた……!我殿が、我殿が他の女に心を移すまでは!!」

 

ガラシャは語り始めた……忠興は吉利支丹のガラシャを気に入らず、あてつけのように(めかけ)の女を作るようになった。最終的に「いっそイエス様とやらの妻になれ!」と言ったこともある。ガラシャは人知れず泣いた。忠興を愛しているのに、分かってもらえぬ悲しみを、神に話し、いつかこの苦しみが報われると信じて祈った……

 

「なのに、神は我が祈りに答えてくれなんだ……関ヶ原の合戦の折……我が殿は徳川殿の後陣に駆け参らせ、(わらわ)は敵方の人質として取り残された……!」

 

ガラシャの脳裏に浮かぶ燃える屋敷……その屋敷の中、ガラシャ自身は変わらず神に祈りを捧げていた。

そこに1人の侍が駆けつけてきた。

 

『もはやこれまで!!奥方様、お覚悟のほどを!!』

『……神の教えにより、妾は自害はせぬ。』

『ならば殿のお言葉により、この小笠原 少斎(おがさわらしょうさい)……介錯いたす!』

 

その一言に、ガラシャは後ろを振り返る。

 

『なに……!?その言葉はいつのことじゃ!?妾を人質にしたその時か!?では……殿は始めから私を見殺しにするつもりで……』

『何を申せられる!!』

『黙りゃっ!!……武家の妻であれば覚悟はあった……なのに、この仕打ち……!!殺せ、少斎……!!殺してたもれ!!早うこの首を斬れ!!』

『御免っ!!』

 

次の瞬間、ガラシャの首から鮮血が迸る。首を切られたのだ。

好きな人に裏切られた恨み、捨てられた悲しみ……それがガラシャの魂をいまだこの世にしがみつかせている証……だが、それでも……今もガラシャは忠興を愛していた。

 

「……妾を切ったのは恐らく忠興殿の本意ではあるまい……細川の家…家臣のことを考えてのことであろうが……それを知ったとてなんの慰めにもならぬ……無残に断ち切られた命も戻りはせぬ……それ故に、妾は今も冥界を彷徨い続けている……お、おぉ……!!」

 

自身の過去を語ったガラシャはその場で泣き崩れた。その様子を、天草はただただ見守っていた。

 

「忠興殿が忘れられぬ……今一度……あの御方と恋を語り、あの時のようなトキメキを味わいたい……!四郎とやら……そなたにはそれが可能なのか……」

「偽りは申しませぬ。」

 

天草はそう言うと立ち上がり、ソロモンの輪の外に出た。すると天草はガラシャにソロモンの輪の中に入るよう手で促す。

ガラシャはおそるおそる中に入る。さきほどのように雷が流れることはなかった。

中に入ったのを見て、ガラシャは印を結んで念じ始めた。すると、不思議なことが起こった。ガラシャの身体が光に包まれ、醜い死体から一変し、美しく妖艶な女へと姿が変わった。

 

「これは……!?四郎!妾は蘇ったのか!?」

「仰せの通りに。」

 

信じられないといった様子で自身の身体を見るガラシャ。だが、身体の体温、身体を触る手の感触を感じ、蘇ったのだと実感する。

 

「……して、今一度教えてたもれ……妾は美しいか……?」

「何者も寄せ付けぬ美しさでございまする。」

 

天草は仲間を1人得た……天草の野望はまだ止まらない……始まったばかり。

 

──────────────────────

 

「御成、マコト兄ちゃん達との連絡……まだつかない?」

「申し訳ありません、タケル殿……向こうの世界にはケータイが通じないようで……」

 

あれから1週間経ったが、タケルくんは例の「マコト兄ちゃん」とやらに連絡がつかないらしい。

 

「しかし……あれから何も起きないね……」

 

敵は里香子ちゃんを狙っていたようだが、あれから何の音沙汰もない。里香子ちゃんは前と同じ暮らしに戻った。これで安心……でいいのだろうか……

 

「アイツら、まだ何か企んでるんですかね……」

「さぁね……例の天草四郎はどうしているのか……」

 

私とタケルは和室で茶と和菓子を嗜みながらのんびりとしている。この1週間の間、私はこの寺の手伝いなどをしながら過ごしていた。合間にタケルくんに呪力の扱い方を教えたりも……

 

「タケルくん、君の呪力の扱い方は筋がいい。」

「そうですか?夏油さんの教え方がよかったんですよ!」

 

まだ呪力を教えたばかりだが、タケルくんはもう呪力を身体に纏うレベルにまで達している。たった1週間でここまでいけた人は初めてだ。だが、惜しむらくは……呪力を扱える総量が少ないこと。呪力は人間の負の感情がエネルギーだが、怒りや悲しみを爆発させた分だけ呪力を多く放出できる……のだが、タケルくんは恐らく、人を恨んだことがないんだろうな……そのせいで呪力総量が少ない。

 

「まぁ、おいおい次のステップに進もうね。」

「はい!」

 

それでも、タケルくんの才能は素晴らしい……これからゆっくり

呪力の扱い方を教えていけばいい……

そう思っていると、修行僧の1人…シブヤが私達のところに来た。

 

「タケルさん、お客さんが来てます。この前の……里香子さん。」

「里香子さんが?」

 

何かあったのかと思い、私達は客間へ向かった。そこには里香子ちゃんと、見知らぬ男が隣に座っていた。見たところ、里香子ちゃんと同じくらいだが……その男の顔を見た瞬間、私は頭にある男の顔を思い浮かべた。

 

(灰原……!!?)

 

灰原雄……かつて、とある任務で殉職してしまった、私の後輩……その男に顔が似ていた。

 

「この人、同級生の佐原雄輝くん。」

「雄輝です!よろしくお願いします!」

 

ハツラツとした笑顔で挨拶をする雄輝……この笑顔、ますます灰原に似ている……だが、声には出さずに私も笑顔で返す。

 

「私は夏油傑。」

「俺は天空寺タケル。でも、里香子さん…今日はどうしたの?お友達を紹介しに来たの?」

「実は……」

 

里香子ちゃんがここに雄輝を連れてきた理由を話そうとすると、雄輝は立ち上がってタケルくんに掴みかかった。

 

「あ、あの!タケルさんって幽霊になったことがあるって本当ですか!?」

「えっ、うん…そうだけど……」

「俺、高校大学でオカルト研究サークルに入ってるんです!それで、化け物と戦う幽霊の噂を聞いたんです!」

「それが……俺ってこと?」

 

雄輝はアイドルを見るような目でタケルくんを見ている。それから質問攻めにする。

 

「ゴーストになった時、どんな感じでした!?変身の仕組みは!?怪物はどんな奴でした!?チュパカブラ?エイリアン!?」

「え、えーっと……」

 

タケルくんは明らかに困っている様子だ。まぁ、それもしかたない。ここは私が助け舟になろう。私はタケルくんと雄輝の間に入る。

 

「今日は何のようかな。タケルくんにインタビューかい?」

 

雄輝はハッと我に帰り、カバンからあるものを取り出した。それはどうやらレポートのようだった。

 

「これ、俺が今まとめてる研究レポートなんですけど……1週間前、静岡の佐野美術館で窓ガラスが全て割れるっていう事件が起きたんです。特に被害がひどかったのが……かの本多忠勝が使っていたとされる槍『蜻蛉切(とんぼぎり)』があった部屋だそうです。」

「本多忠勝?それって、徳川家康についてた人だよね!」

 

タケルくんは嬉々として偉人録を取り出し、ページを開いた。

本多忠勝……徳川軍でもっとも忠義の厚い侍であり、「戦国最強」の異名を持つ。そして蜻蛉切は、彼の最強の武器であり長さが6mはあり、刃先に止まった蜻蛉が真っ二つに割れたことからその名前がついた。

 

「後、これは眉唾なんですけど……その蜻蛉切があった部屋から奇妙な話し声が聞こえてきたそうです。でも、監視カメラには誰も映ってなくて……声だけが聞こえていたそうで……」

 

雄輝から情報を聞いたタケルくんと私は、互いに顔を見合わせた。

 

「もしかして……」

「天草四郎の仕業かもしれないね。見に行ってみよう……まだ何か残ってるかもしれない。」

 

私達はさっそく現場を見るため、静岡へと向かった。

 

 

────────────────────────

 

「ズズズ……ふーっ、落ち着くねぇ……」

 

静岡についた私達は、古民家カフェで名産の静岡茶を飲みながら一息ついていた。

 

「ほんとですねぇ……今日はこっちに泊まりになりますかねぇ……ご飯どうします?」

「静岡おでん、冨士宮やきそば、うなぎ、茶そば……静岡の名産は色々あるからねぇ……迷うねぇ……」

 

お茶と羊羹に嗜なんでいると、一緒についてきた雄輝と里香子ちゃんが口を挟んできた。

 

「こんなとこでゆっくりしてていいんですか?」

「早くいきましょうよ!」

「慌てない慌てない。まだ時間はあるんだし、ゆっくり進んで……」

 

今日は旅行気分でゆっくり美術館に行こうと思った次の瞬間、遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。一つだけではなく多くの悲鳴が。

 

「なんだ……?もしかして眼魔!?」

「行こう!」

 

私達は急いで会計を済ませて悲鳴が聞こえた方へすぐさま直行した。

現場につくと、そこではすでに眼魔達が人々を襲っていた。

甲冑を装備し、右手に剣、左手に盾を持った甲冑眼魔と、ガンマンのような出で立ちに左腕がマシンガンになったマシンガン眼魔……それに大量の眼魔コマンド。

 

「やっぱり眼魔が……!」

「やるぞ、タケルくん!」

 

私とタケルくんはすぐさま腰にドライバーを出現させ、アイコンを装填する。

 

《アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!》

『変身!!』

 

同時に叫び、私達はレバーを引いた。

 

《レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!!》

《闇の力!悪い奴ら!》

 

黒いスーツの上にパーカーが装備されて変身完了。

 

「おお〜〜〜!!あれが仮面ライダー……都市伝説の通りだ!!」

 

ついてきていた雄輝は興奮した様子で変身した私達を写真に撮っていた。それにかまわず、私達は眼魔達に向かって行こうとした。

だが次の瞬間、眼魔達は一斉に左右に別れてその場に跪いた。まるで誰かを出迎える道を作るように……

 

「忠勝様!」

「予定通り、仮面ライダーをおびき寄せました!」

 

眼魔達の言葉に、私達は耳を疑った。「忠勝」……たしかにそう言った。

すると、奥の方からズシン、ズシンと力強い足音が聞こえてくる。現れたのは、甲冑を着ながらも筋骨隆々なことが分かる身体つきに高い身長の鎧武者だった。

 

「ごくろうであった、眼魔達……」

「まさか……!!」

 

男は持っていた長い槍をブンブン振り回すと、柄の部分を地面に突き立てる。

 

「本多平八郎忠勝っ!!ここにありっ!!」

 

男の叫びがこだまし、大気を揺らす。

 

「この日ノ本を守る貴殿らの勇姿っ!示してみせよっ!!おおおおおおっ!!!」

 

忠勝の雄叫びが轟くと同時に変化が起きた。忠勝が黒い光に包まれたかと思うと、忠勝は武者の鎧と鹿のような兜が融合したような怪人へと変貌を遂げた。

 

「本多忠勝が、怪人に……!?」

「推して参る……!!」

 

忠勝の槍がこちらに向けられる。私達は混乱した。徳川の忠義の士が何故……と思いながら。だが、向こうは待ってくれなかった。忠勝の蜻蛉切が私達に向かって伸びた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




じゅじゅさんぽ「戦国最強」

「本多忠勝かぁ……俺、よく知らないんだけど、『戦国最強』ってどんだけ強いの?」
「ググれよ……」

質問してくる虎杖の言葉に、自分で調べろと思いながらもスマホで調べ始める伏黒。

「えーっと……箇条書きにするとこんな感じだな。」

・長さ6mの槍を自在に扱う
・57回による出陣の中で、一度も傷を負わなかった
・姉川の戦いで劣勢の中、単独で敵陣に切り込み形勢を逆転させた
・一言坂の戦いでは徳川家康が武田信玄に敗走する際、殿(しんがり)を務め、武田軍の追撃を食い止めて家康を救う

「…………その人、ホントに人間?」
「俺も自信なくなってきた……所謂フィジカルギフテッドなのかもな……」

偉人の逸話は盛られていることがあるため、真実……とは言えないが、それもまた歴史の面白さの一つなのだ。

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魔界転生本編だとガラシャの次に仲間になるのは宮本武蔵なのですが、武蔵はすでにゴースト側にいるため、誰を代わりにするか考えたところ強さも名声も申し分ない本多忠勝に決まりました。

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