異世界転生したけど勇者じゃない   作:嫉妬憤怒強欲

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新年あけましておめでとうございます。
初のオリジナル作品を投稿してみました。処女作なので、どうか温かい目でお読みください。


プロローグ「転生」

――俺、何のために頑張っていたんだっけ?

 

 失業した。

 

 地元の大学院を卒業し、地元の中小企業に入社してから五年目。

 客先への出張勤務から三週間が経った時、出張先から離席回数が多いというクレームが来ていると会社から連絡がきた。俺に直接の指摘が無くだ。

 丁度その頃肺炎で体調を崩し、病院から処方された薬の副作用でお腹が緩くなってトイレに行く回数が増えてしまったがためで、その事情を会社に説明したが聞き入れてもらえず、出張の強制終了を言い渡された。

 その際に上司から告げられた言葉が、『やっぱりお前、この仕事向いてないよ』だった。

 最初は失敗続きではあったものの、自分なりに頑張ったつもりだった。

 少しでも会社の役に立てるよう、五年も耐えてきた俺の心は、この時一瞬で折れた。

 客先に迷惑をかけたということで処分が下されることになったが、処分を無かったことにする引き換えに、俺は自己都合による退職という形でその会社を辞めることになった。

 

 それから転職活動を続けているが、胸にぽっかり穴が空いた感じだった。

 両親からもう忘れろ、次の仕事を見つければいいと励ましたつもりで言葉を投げてくるが、上司のあの言葉が未だ耳に残っている。

 今までの趣味に興味を抱けず、何をやっても心から楽しめない。

 まるで自分が世間ではなんの価値もない人間に感じ、ただ虚しくなっていくだけ。

  

 ハロワの求人を見ても、自分に向いてそうな仕事が見つからない。

 というより、自分に向いている仕事はなんなのか分からない。見つけたとしても、また切り捨てられるかもしれないという不安が募っていき、自分の将来が見えない。

 

 辛い。

 苦しい。

 陸にいるのにすぐにでも溺れてしまいそうだ。

 いっそこのまま消えてしまいたいと、頭をよぎったのは何回目だろうか。

 そうやって十回目となるハロワへの訪問の時、

 

 ドクン!!

 

「!!?」

 

 突然胸を締めつけられるような尋常じゃない痛みに襲われた。

 あまりの痛みに息ができず、床に倒れこんだ。

 

「――!?――!!?」

 

 近くにいた従業員がもがき苦しむ俺に呼びかけてくるが、耳に入らない。

 

 小6の頃に人食いバクテリアに感染したり、成人を迎えてすぐに急性虫垂炎で盲腸が破れたりと何度も死にかけたことはあったがその度に生き延びて回復した。

 だが今回はそうはいかないと本能的に理解していた。

 

 視界が暗くなっていき、やがて俺の意識は遠のいていった。

 

 

 まるで白昼夢を見ているかのようだ。

 気が付くと、いつの間にか異様な空間にいた。

 辺り一面が真っ暗な、静寂に包まれた水平線。

 黒く塗りつぶされた空に微かに灯る星のような幾つもの光。

 星の海にしてはあまりにも暗すぎて、絶景と呼ぶには程遠い殺風景な光景を、まるで仰向けの体勢で見上げているかのよう。

 そのまま潮に流されているようだが、潮の満ち引きもなく、波の冷たさも感じず、バタつかせる手足の感覚もなく、抵抗する気力もなく、ただ謎の浮遊感に包まれながら流されていく。

 

 それからとても長い時間がたった気がする。

 やがて渦潮のようなものが発生している所に行き着き、そのまま渦の中へと呑まれていった。

 

 

 ゆっくりと、意識が浮上する。

 視界がぼやけ、身体が思うように動かない。

 だが自分の体温は感じる。ということは、俺はまた生き延びたというのか。

 ここは病院だろうか。

 

「――、――」

 

 誰かの声が聞こえる。女性の声だ。看護師が来たのだろうか。

 目を凝らすと顔が見える。

 見知らぬ女性だった。おかしなことに、日本人ではなく白人女性である。

 服装も病院の服ではなく妙に古めかしい。

 それに妙に大きい気がする。

 

「――、――」

 

 女性は何かしゃべりながら俺に近づいてきて――両手で抱き上げた。

 おかしい。俺の体格は一般的な成人男性の水準より上、約180cmにある。

 それを両手で軽々と抱きかかえ、こちらを覗き込むこの外人女性は一体何者なのか。

 

「あー、うあー」

 

 半ばパニックになりつつも、俺はこの外人女性に英会話でコンタクトを試みたが、口から出てきたのは、うめき声ともあえぎ声とも判別のつかない音だった。

 

 あれ?おかしいな。もう一度。

 

「だぁ、あうぅ、だっ!」

 

 駄目だ。上手く発音できない。

 口を動かしてみる。動きはするが呂律が回らない。

 いつか見たネットの情報から、心臓から脳へ飛んだ血栓が原因で起こる「心原性脳梗塞」の可能性を疑った。

 だがその時、視界の端に自分の手が見えた。

 

 え?

 えっ、えっ、ちょっと待て。

 首がまともに動かないが、視線だけは動かせた。

 半ばパニックになりつつも、自分の手をよく確認する。

 小さい。

 驚くほど小さい。

 まるで赤ん坊のような小ぶりな手である。

 

 

 えっ、ひょっとして俺……

 

「あうえええぇぇ!?(赤ん坊になってる!?)」

「――?――?」

 

 どういうこと?

 これってあれか?

 俺、死んで転生しちゃったの?

 

 いやいやいやいやいや。

 流石に飛躍しすぎだろ。流行りのネット小説じゃあるまいし。

 

 きっと夢か何かだろ。

 

 何だか急に眠くなってきた。

 強烈な眠気に抵えず、温かい感触に包まれながら眠りについた。

 

 

♢♢

 

 夢じゃなかった。

 どうやら俺の身に起こっていることは全て現実のようだ。

 最初は何を言っているのか解らなかった言語も、時間と共になんとなく理解できるようになってきた。

 親らしい人物から話し掛けられる内容で、“ルーク”という単語が多い。

 どうやらそれが俺の新しい名前のようだ。

 

 ちなみに転生先は地球ではなく、ネット小説でよくあるような異世界だった。

 異世界だという根拠はいくつもある。

 まず、周りの文明レベルが地球に比べるとあまりにも低いのだ。

 前世であったテレビや電子レンジ、冷蔵庫といった家電製品が見当たらないし、食器や家具なんかも陶器ではなく粗末な木製だ。

 照明もLEDではなく、ロウソクやオイルランプを中心に使っている。

 

 文明がもたらした便利な道具である文明の利器が一つも見当たらない。

 完全に産業革命以前の中世ヨーロッパぐらいのレベルだ。

 

 ここまでなら転生先の家が特殊で、電気が通っていないという可能性もあるだろうが、俺は見た。

 

 板張りの窓から見えた外の景色。無数の星が輝く夜空に月が二つ浮かんでいるのが見えた。

 更に、母親が暖炉に火を着ける際、火打石を使うのではなく、何も持っていない手から小さな火を出したのだ。

 

 魔法。

 その時、その言葉が頭をよぎった。

 

 地球では魔法は空想の産物。オカルトの部類だ。

 “魔法が有ること“は、ここが地球ではないと思わせるのに十分だった。

 

 魔法が有る世界に、前世の記憶を持ったまま転生。

 

 いきついた結論に、戸惑いと同時に興奮を隠し切れなかった。

 自分が死んだ事に思うところが無いわけではない。恋人がいた訳でもないし、趣味もマンガとラノベを読む事とアニメを観る事だけ。両親を置いて先に逝ってしまったことは心残りだが、失業して将来について常に不安を抱いていた。

 死んでしまった事は少し悲しいが仕方ない。

 

 まだこの世界について分からないところがあるがそれは追々わかるだろう。

 

 俺はこの世界で生きていくことを決めた。

 

「はーいルーク、あーん」

「ばぶぅ♪」

 

 母親が持って来てくれたスープを頂く。

 そして、お腹が一杯になった所でまたしても意識が遠くなっていく。

 どんなに興奮していても、赤ん坊の体では睡魔に対抗する事は出来なかった。

 

 




去年、失業しました。今でも苦しく、傷ついた自分の気持ちを文章にしました。
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