異世界転生したけど勇者じゃない   作:嫉妬憤怒強欲

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第3話 魔法具店の魔女

 マナ測定を終え、教会を後にした俺達は街道を歩いていた。

 

「父ちゃん、母ちゃん、魔法が使えるなら俺冒険者になれるよな!な!?」

「落ち着けテオ。まだ魔法の適性があると分かっただけだ。冒険者になれるかはテオのこれからの頑張り次第だぞ?」

「そうよ。魔法を使いたいのなら、魔法についてもちゃんと学ばないと」

「えぇ、勉強?」

 

 母と同じ火属性に適性があると判明し気分上々のテオに対し、俺の方は気分下々だった。

 

 俺の魔法適性は、無属性魔法という、魔法使いなら誰でも使える属性魔法(属性自体を持たない魔法であるため属性魔法の枠に入るか疑問)だけだった。

 前世の記憶がある転生者なら、特殊な魔法や複数の属性持ちに開花するだろうと期待していたが………。

 せめてテオと同じ火属性が良かった。

 

「ほら、そう落ち込むなルーク」

 

 教会を出てから口を聞かない俺を見かねたのか、父が俺を慰めの言葉をかけてきた。

 

「俺もモーリッツも魔法適性が無属性でな」

「えっ」

 

 父とモーリッツも魔法適性が無属性だとは知らなかった。

 

「俺達も最初の頃は落ち込んだが、無属性魔法も案外悪いものじゃないって気付いてな。特に『身体強化魔法』は便利だ。畑仕事の時も使えるし」

「でも呪文を詠唱しているところ見たことないよ」

「身体強化は他の魔法と違い、慣れてくれば無詠唱でも発動できるようになるからな」

 

 呪文無しでも発動するのか。戦闘中に舌を噛むようなことが起こらないなら便利だな。

 

「じゃあ他には?」

「え?」

「父さんは他にどんな魔法が使えるの?」

「あっ、いや、えっと…」

 

 ん?急に歯切れが悪くなったな。

 

「…その、実は身体強化魔法しか覚えていないから、他の魔法は使えないんだ」

「あの頃は冒険者稼業に必死だったもの。魔法の勉学に励む余裕なんてなかったから仕方ないわ」

 

 そうか。

 前世の日本と違い、この世界では義務教育がない。あるのは一部の例外を除いて、貴族の様な裕福な家だけ。充実した教育環境が誰にでも平等に与えられるものではない。村で読み書き計算ができる人が極端に少ないのがいい例だ。

 そう考えると、前世は余程環境に恵まれていたわけだ。

 

「まあ、この人が勉強苦手なのもあるけど」

「ちょっアンナ、一言余計だって」

 

 どうやらテオの勉強嫌いは父譲りの様だ。

 

「………ともかくだ。悲観するのはもう少し無属性魔法について知ってからでも良いんじゃないか?」

「…うん。そう、だね」

「良し。そうと決まればギルドの前にあそこにも寄るか」

「そうね。あの人にも顔を出したかったし」

「?母さん、あの人って?どこに行くの?」

「この街で一番魔法に詳しい人のところによ。厳しいけど、悪い人ではないわ」

 

 両親について行って来た道を逸れてしばらく進んでいると、他の建物に比べ、少しボロい感じの小さな店の前に着いた。

 看板には文字の代わりに、剣と長い杖(スタッフ)が交差した絵が描かれている。

 来た道で見かけた店舗の看板も同じように、鍛冶屋ならハンマー、書店なら本といった感じで、店それぞれを象徴する絵が描かれてあった。

 平民はほとんどの人が文字を満足に読めないから、看板は絵が主流なのだろう。

 

「母ちゃん。ここは?」

「さっき話していた人が経営している魔法具店よ」

「魔法具?」

「魔法の力を込めた道具のことよ。魔法使い用の杖だったり、戦士職用の武器や防具だったり、色々な用途に使われるわ」

「なんか凄そう!」

 

 それじゃあこの店ではその魔法具を売っている店なのか。

 増々ファンタジーっぽくなってきたぞ。

 

「この店は冒険者がよく使う店でな。俺達が冒険者だった頃よく世話になったんだ。あの頃と何も変わっていない」

 

 父が懐かしむような表情で扉を開き、俺達はその後に続く。

 

「あっ……い、いらっしゃいませ」

 

 質素ながらも小奇麗な店内に入ると、カウンターに水色の髪をした眼鏡の少女がいた。歳は俺と同じくらいで、読書をしていたのか手元に分厚い本がある。

 

「ヘルダーさんに用があって」

「は、はい。少しお待ちを」

 

 少しおどおどした感じのその少女は奥に行く。

 しばらくすると腰を曲げた老婆が現れた。黒いローブを羽織っていて、毒のスープを作る魔女に見える。

 

「…おや。誰かと思ったら懐かしい顔が来たね」

「お久しぶりヘルダーさん。お変わりありませんか?」

「ふん、人を年寄り扱いするんじゃないよひよっこが」

「辛辣なのは相変わらずだな」

 

 会話から察するに、この老婆が例の人のようだ。

 

「で、そこにいる小っこいのはあんたらの子かい?」

「はい。息子のテオドールとルークです。ほら二人共挨拶」

「俺はテオ。よろしく!」

「初めまして弟のルークです」

「ふん、兄弟で性格は違うようだね。長男のガサツは父親、次男の礼儀正しさは母親譲りといったところかい。引き継いだ魔法の才は逆みたいだけど」

「え……」

 

 なんで分かったんだ。

 

「あたしくらいの魔法使いになるとね。相手がどの程度のもんか一目見ただけでわかるんだよ」

 

 見ただけでわかるって……どんだけぇ?

 なんにしても話が早い。

 店の奥へと案内され、応接室(?)のようなスペースで両親は老婆ヘルダーにここに来た経緯を説明した。

 

「……成程ね。久しぶりにあたしのとこに顔を出しに来たと思ったら、いじけてる子供のためだったのかい」

「あの、別にいじけてるわけじゃ………」

「どうせ地味な無属性魔法なんかより、威力の高い属性魔法の方が良かったとか思ってるんだろ?これだから最近の若いモンは」

 

 見透かされてたか。

 

「地味だからって侮っちゃいかんよ。なにせ五百年前に勇者をこの世界に召喚したのも無属性魔法らしいからね」

「「「「えっ!?」」」」

 

 勇者召喚が無属性魔法!?

 

「そうだったのですか?」

「そうらしいね。どっかの天才が神代の時代の技術を再現したとか、戦争のごたごたで勇者召喚に関する文献は殆どが消えちまい、残った術式は聖教会が独占しちまっているとか……とにかくはっきりした情報が少ないから、あたしも詳しくは知らないけど」

 

 聖教会が勇者召喚の術式を独占か………そういえばファンタジー小説で神官とか魔法使いが王宮で勇者召喚の儀式を行う展開はよくあった。異世界から強者を呼び出す魔法を乱用されないように、権威のある側が秘匿しているとも捉えられる。

 

「勇者召喚魔法についてはさっぱりだけど、かなりの上位魔法なのは確かだよ」

 

 まあそうか。異世界にいる人間をこちら側に召喚することができる程だからな。

 あくまでもそれだけが例外という可能性もあるが。

 

「確かに無属性魔法は威力面では属性魔法に劣るがね。今話した勇者召喚みたいな事もできる。無属性魔法には無属性魔法なりの強みがあるってことだ。さて、お前さんはこの話を聞いても無属性魔法は地味だから嫌って言うかい?」

「それは………」

 

 まだ一歩踏み出せないでいる俺を見かねてか、ヘルダーは「ああ、そうそう」とわざとらしく話を切り出してきた。

 

「無属性魔法は誰でも使える魔法って言われているけどね、誰も彼もが極めているわけじゃないんだよ」

「?どういう意味ですか?」

「理由はいくつもあるよ。お前さんみたいにいじけて極めようともしなかったり、属性魔法の習得に傾倒して無属性魔法の方は疎かになったり、属性魔法よりも緻密なマナの制御が要求されたり……後は認識と意識の問題だね」

 

 認識と意識?

 

「お前さん、『身体強化魔法』は知っているかい?」

「あっ、はい。戦士が使う初級魔法で、マナを全身に覆うことで身体能力が向上するとか」

「それから?」

「あとは……武器や防具の強化に応用できる、慣れてくれば無詠唱でも発動できるようになるということしか」

「じゃあ、どうしてマナを全身に覆ったらそんなことができるのか説明はできるかい?」

「えっ……いえ、そこまでは。マナは生命エネルギーだから、全身にマナを通すことで肉体が活性化しているとかそういうのじゃ……?」

「ふん、ひよっこの子にしちゃ良い線いってるね」

「じゃあ……」

「けどハズレだよ」

 

 違うんかい。

 身体強化魔法が使える父に目を向けると、知らないと言わんばかりに首を横に振る。

 いや、知らんのかい。

 

「身体強化魔法、身体強化魔法言ってるけどね。それが正式名称じゃないよ」

「えっ、違うんですか?」

「本来は『強化魔法』って名前でね。マナを通して対象の特性を引き上げる魔法(・・・・・・・・・・・・・)なんだ」

「特性を引き上げる?」

「人や物にはそれぞれ特徴があるだろ。剣なら斬る。盾なら防ぐ。人なら走る、殴る、蹴るだったり。通常それらの能力の上限は物理的な制約で決まっている」

 

 まあそうか。筋肉の無いガリガリが人を殴り殺せる程の威力を出せる訳ないし、その逆も然り。

 

「けどね、強化はそれらにマナを加えることで、本来の性質を残しつつも、それらの性質を一時的に引き上げることが可能なんだ。剣やナイフみたいな刃物はより切れやすく、盾ならより硬く、足の速い奴ならより速く、腕力がある奴はより強い腕力を、みたいな感じにね」

 

 なにかのゲームで似たような話を聞いたことがあるような無いような………。

 

「?えっと………実際は鈍の剣なのに、振ったら名剣並みの切れ味が出せるようになるって感じですか?剣そのものが名剣に変化するとかそういうわけじゃなく?」

「ああ、その認識で合っているよ。変化させるのはあくまでも切れ味とか強度とか腕力とか、物が発揮する効果だけだ。物質そのものを物理的に変化させるのは別の魔法になる」

 

 まだチンプンカンプンだが、本来は攻撃力が10しかないゲームのアバターが、携帯しているアイテムの効果で+20上昇させることができるのと同じ感覚なのだろう。

 あまり深く考えすぎると頭がこんがらがってくる。

 父とテオなんて理解が追いついていないのか頭から煙を上げていた。

 

「で、強化させる対象の中で一番簡単なのが自身の肉体だ。体内のマナを自分の全身に通すのは、自分以外に流すよりも簡単だからね。言い方を変えれば、マナを物や他人に通すのはかなり困難だ。そういう理由もあって、大抵の奴は強化の対象を自分の肉体だけに留めちまい、いつしか『強化魔法』は『身体強化魔法』って呼ばれるようになっちまったんだ」

「それじゃあ父さんの説明は…」

「誤った認識の方だね。前に口酸っぱく説明したはずなんだが………」

「い、いや…子供には難しいだろうなと、分かりやすい方を選んだまでで――」

「口答えするんじゃないよひよっこ。単純にお前さん自身もよくわかっていないだけだろうが。それで子供に間違った知識を教えちまうなんて、だからお前さんはひよっこ止まりなんだよ」

「うっ……面目ない」

「へ、ヘルダーさん。流石にそれは言い過ぎじゃ」

「お前さんもお前さんだよ。誤った認識が魔法にどんな影響を与えるか忘れたわけじゃないだろ?」

「うっ」

 

 ヘルダーにじろりと睨まれ、父と母は叱られた子供のようにしょんぼりと縮こまる。

 二人共この人には頭が上がらないようだ。

 

「……魔法使いには『マナ総量』、『マナ操作』、『魔法適性』の三つが重要って言われてるけどね。もっと重要なものがある。それは想像力(イメージ)だ」

「想像力?」

「全ての魔法はね、起こしたい現象を頭の中に鮮明に描いたものが現実に発現する力だ。逆を言えばイメージが曖昧なものは魔法として実現できない。どうせ自分にはこれができないと思っていればば本当にできないようにね。無属性魔法も例外じゃないよ」

 

 なんか前世で似たような体験があったな。

 大学受験や仕事で自信を失くしかけた時とか。

 

「とどのつまり、魔法の力の源は”不可能を可能に出来ると信じる意志の強さ”だ」

 

 意志の、強さ。

 

「それを鍛えれば凄い魔法が使えるようになるんですか?」

「さあね?それはお前さんの努力次第だよ」

 

 俺の努力次第か。確かにそうだな。何事も自己責任だ。

 

「もう一度聞くよ。お前さんはこの話を聞いても無属性魔法は地味だから嫌って言うかい?」

 

 そう言ってニヤリと笑うヘルダーに、俺は「いいえ」と応えた。

 こんな話を聞かされて、興味が湧いてこないはずが無い。

 

「無属性魔法について、もっと教えてください」

「ふっ、お前さん運が良かったね。この街で無属性魔法に詳しい魔法使いは、このあたし以外他にいないよ」

 

 

♢♢

 

 オルスタの地下深くに張り巡らされている地下通路。

 長く人の手入れがされていないためかところどころの壁が朽ち、鼠たちが行きかう。

 日の光が一切届かない真っ暗闇の中、壁の一角にある部屋に灯りが灯っていた。

 光源は壁に埋め込まれている魔石からで、魔石から発せられる朧げな赤い光が部屋を照らし、部屋内に佇む人物の存在を露わにした。

 その人物は黒いローブで全身を覆い隠し、覗く顔も僅かに口元が見える程度で全てを知る事はできない。

 

『それは確かか?』

「はい、間違いないかと」

 

 ローブの人物は、手に持つ水晶から声が響いてきた声の質問に答えた。

 

「勇者の素養を持つ者が現れました。それもこの世界の住民に」

『そうか…………世界の因果と言うやつか。あの戦いから五百年という長い歳月が流れたというのに、よもやまた余の行く手を阻もうというのか』

「ですが、以前とは色々と状況が異なります。人族側は未だこちらの動きに気付いていないようです。それに新しい勇者はまだ子供でまだ力をつけていない状態です。今なら始末することも容易いと思いますが………」

『なんだ。申せ』

「はっ、すぐには始末せず、例の物を引っ張りだすのに利用できないかと」

『城の宝物庫で厳重に管理されている忌々しい太古の遺物(アーティファクト)か。あれによって余と余の軍勢がどのような目に遭ったか、貴様が知らないはずがない』

「存じていますとも。ですので、新しい勇者がアレを完全に使いこなす前に対処するのです。その為の策があります」

『…聞こう』

 

 ローブの人物の説明がしばらく続き、声の主は静かに聞いている。

 

「―――ということですが如何でしょうか?」

『………いいだろう。貴様の案を作戦に組み込む』

 

 ローブの奥で、口の端がにぃと引きあがった。  

 

『ただし、誘導の役割は貴様がやれ。しくじった場合の責は発案者である当人が負うべきだからな』

「かしこまりました。引き続き王国での潜伏を。今後の諸々の手回しはそのように」

『くれぐれも悟られてはならんぞ。特にあの魔女には。その時困るのは貴様だけだ』

「肝に銘じます。それでは、来るべき時にまた――」

 

 

 魔石の灯りが吹き消された蠟燭の火のようにフッと消え、ローブの人物の姿が暗闇の中へと溶けて消えた。

 

 

「―――魔王様」

 

 




魔法の設定については色んなところのをリスペクトしてオマージュしました。


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