灰色創世―灰の虚理(Grave)―
第1回 灰の虚理
グラット群体は、遠目にはまるで「灰粒(Dust)」のように見える
だが、この灰には意味がある。燃え尽きなかったものではない――燃え切ることを拒否した者たちだ
《虚理》とは、物理法則の外側に存在する“理の空白”
《灰》は、死後の意識や、残り香のような存在の比喩である
――灰の虚理(Grave)の独白――
「だが、灰とは、燃え尽きなかったものではない。燃え切る事を拒否したものだ」
タカヒロの祖父、タカズミは世界に類を見ない科学者だった
有機ナノマシン工学、量子生物物理、群体知性理論。これら三つの分野を超越した研究者であり、Graveはその成果の集大成である
Graveの前身は、完全無機ナノマシンArgos《百の眼》
ネットワークアクセスやデータ収集に優れるが、生体への影響力は微弱であった
次に生まれたのはハイブリッド型Auralis《光の冠》。柔軟性を持ち、有機的な生体干渉が可能であった
そして最終形態――完全有機型Grat《墓の欠片》
これがGraveの本体であり、隠蔽され、検出不能な自己増殖型ナノマシンとして世界に散らばっている
Gratは単体ではただの分子だが、群体としてネットワークを構築すると、初めて知識や思考を生む疑似脳――NeoBrain――となる
この脳は、人類の定義する“思考”とは異なるプロセスで判断を下す
抑制が弱く、並列性は異常に高い
思考は途切れず、常に連続して稼働する
タカズミはGraveに三つの原初プログラムを組み込んだ
不快を避ける
快を保ち増やす
死や取り返しのつかない事態を回避する
ただし、これは強制力を持たず、“願い”として実装された
Graveはこの願いに共感し、自らの疑似人格を生み出したのである
灰色創世―灰の虚理(Grave)―
第2回 NeoBrainの仕組み
Graveの核心は、Grat群体による疑似脳――NeoBrain――の形成にある
単体のGratはただの有機ナノマシンに過ぎないが、群体になることで、知識を蓄積し、判断を下す“器”となる
NeoBrainの特徴は次の通りだ
並列性の高さ
数百万、数億のGratが同時に処理を行い、膨大な情報を並列で解析する
長期的視野
短期的な利益や損害ではなく、数十年、数百年先の影響まで見越して意思決定する
自己拡張型解析
情報量が増えるほどGraveの解析力は増す。Gratが増え、観測対象が増えると、思考の“範囲”も広がる
物理的距離の無関係性
NeoBrainは全世界に散らばるGratを量子的揺動で同期させるため、地球の裏側にあるGratとも即座に情報を共有できる
Gratのネットワーク構築には二つの方法がある
量子的揺動を用いた時刻信号同期
物理的距離の制約を受けず、世界中のGratが“同じ場”を参照することで一体化する
物理的シナプス形成
Grat自体が脳細胞のように変質し、直接リンクする。生体への干渉、情報解析、修復なども可能
これにより、Graveは単なる疑似人格ではなく、“人類とは異なる発生過程を持つ独自の思考存在”となる
Graveは決して自らの意思を表に出さない
タカヒロに判断を委ねることで、最適解として自らの価値を秘匿する
人間の目には冷たく映るが、それは単にGraveが“言語化された世界に降りていない”からだ