雷神は見届ける。少女達の行く末を 作:nalnalnalnal
「安心しろ。そういう時期は誰にでもあると聞いた」
「ちょっと色々勘違いし過ぎじゃない!?」
「じゃその摩訶不思議な格好はなんだよ」
「いや、それはねぇ……?」
呪力もない世界で一種の術師とも捉えられる格好をしているならそう判断するしかねぇだろ。
テレビやネットで見たが、漫画やアニメのキャラクターのなりきり、自分の欲を満たすという行為が広がっている。つまりはコイツもそういう事だ。
「──ん? 何だその穴?」
「──えっ、あなた結界が見えるの!?」
「は? 結界?」
「あっいや……」
俺が指差した方向には何もない空中に気色の悪い柄の穴が浮遊している。結界? 随分と役作りに専念してるじゃねぇか。乗れという事なのかコレは。そういうキャラクターって訳かよ。
……いやだとしてもおかしいよな。帳や結界術の類とも思えねぇ。
「──か、鹿紫雲君! とりあえず説明は……えっと、後にするから、ここで待ってて!」
「いやどこに行く気だよ」
「それはその……あ、後で説明するから!」
「──は?」
挙動不審な動きをしていたと思ったら、突然俺にそう言い残して巴は浮遊している穴へと入り込んだ──は?
どうなってやがる。ハリボテでもねぇ。アイツの姿がこの穴の中に吸い込まれた……手品でもねぇ。
結界と言っていたが……まさか本当に結界術の一種なのか? 術式も呪力も刻まれているが、呪力を探知する能力だけが失われていた……? いや、違うな。
巴の身体が穴の中に入り込んだ──やはり結界術と見て良いのか。死滅回游時のような
巴は『見える』だと抜かしていた……つまりは結界が見える事が前提条件。だが入り込んだところで何がある? 死滅回游のように術式の剥奪も有り得ねぇ……
「──よし。入るか」
ウダウダ考えるのも面倒だ。正体が何かは自分で暴いてやるよ。どうせ巴もまともに説明する気は無さそうだったしな。
思い立ったら吉日──結界に手を伸ばすと、巴同様中に入り込む。やはり俺は条件を満たしている……問題は無さそうだ。
思い切って助走をつけて結界の中へと俺は入り込む。そして──
「……なんじゃこりゃ」
結界内へと侵入したのだが──そこには混沌と称して良い異界が広がっていた。夕暮れ時であったのに薄暗く、地面は砂場だ。
結界ではなく領域展開……? 外部からな侵入は容易いから可能性としては無きにしも非ずだが、必中効果が付与された術式が飛んで来ない。領域の可能性はナシだ。
「──お?」
砂場に降り立ち、立ち止まって考えていると──前方から何かが向かって来る。その姿は──まさしく呪霊と称してもいい異形の怪物。
だが小型……雑魚だな。マジでどうなってんだ? 結界術かと思ったら呪霊……モドキが出てきやがるし。幻覚でも見せられているのか俺は。
だが──何だこの感覚は。目の前には本来この世界じゃ有り得ない光景が広がっているんだ。この現象の正体を暴いたり巴に問い詰める必要もある。
だが、今はそんな事はどうでもよく感じてしまう。迫り来る呪霊モドキを見て俺は何を感じている?
この感覚は──
『適度に楽しむ
『今は機嫌がいい。頼むから興を削ぐなよ』
ああ、そうか──
久しく感じておらず、冷め切ったも同然だと考えていた──だが、この湧き上がるような熱い思いは──まさしく高揚だ。
「おい……あんまワクワクさせんなよ」
夢でも幻覚でもいい。自分の力を試してみたい。宿儺が俺に説いた事を、俺がどう受け止めているのかを再確認する為にも──
コイツを潰す。俺を殺そうとしてるんだからなぁ! 果たしてコイツが呪力効率が全盛期に及ばない肉体で戦り合える程の奴か……ショボイ見た目だから期待はしてねぇが、確かめさせて貰うぜ。
奴が俺の懐に入り込んだ瞬間に、土手っ腹に本気の打撃を叩き込み──風穴が空いた瞬間と同時にそのまま片手で上半身を引きちぎる。
小さな悲鳴を上げながら地面に崩れ落ちる呪霊モドキ……何だ。予想以上に雑魚だったな。当然防御に回す呪力もないし、反転術式なんざ使えやしねぇか。
崩れ落ちた身体の節々はそのまま消滅する……やはり呪霊なのか?
だが──この程度じゃねぇだろ?
「──来たな」
この結界は取り込んだ奴を殺す為のもの……この雑魚一匹では不可能だ。潰した奴が消滅したと同時に、俺の周囲に同様の奇妙な形をした奴らが現れる。
だがどいつもコイツも似たような奴ばっかり。単体じゃ倒せねぇから数で襲おうってか? 馬鹿め。雑魚が幾ら群がっても雑魚なのには変わりねぇよ!
そして──この結界の親玉がどこかに居る筈だ。この雑魚共がこんな広大な結界を作り出せる訳がねぇ。丁度良い。コイツらに案内役を頼むか。
「連れてけよ。オマエらの親玉のところにな!!」
刹那──雑魚共が俺に一斉に襲いかかって来る。まぁそうなるよな。一匹ぐらいは残してやるが、手加減なんざしねぇよ。手始めに真っ先に距離を詰めて来た奴を殴り飛ばしてその周りの奴を一掃する。
残った奴らの頭を鷲掴みにし、まだ群がる奴らへと次々と投げ飛ばす。この程度の衝撃ですら耐えられねぇのか……弱いな。
「──ん? おいおい、どこに行こうってんだ?」
一匹だけ残った奴が突然どこかへと逃げ出す。俺の殺す為に親玉のところに導いてやがるな? 多少は骨があると良いんだがな。
よちよちと逃げていく奴の後を追って行くと、雰囲気が変わるのを感じた。
そして──見つけた。雑魚と比べて遥かに巨大な身体の呪霊モドキと……それと戦っている巴マミを。
あーそうじゃねぇか! アイツの存在を完全に忘れていた。だが、アイツ、呪力じゃなくて何を使っている? 一瞬だけでも理解出来た奴の戦闘スタイル──リボンによる拘束+無数の銃による弾幕。だが、どこから銃やリボンを生成している? 構築の術式……ではない筈。それならば別の決定打になり得るものを生成すればいい話だ。一体何の力を──
──おっと違うな。巴の戦闘に呆けている場合じゃねぇ。奴も気にはなるが、せっかく親玉と対峙出来たんだ。ここは俺が戦るしかねぇだろうが!
「おい巴!! どいてろ!!」
「──えっえっ鹿紫雲君!? 何でここに……というかどうやってここまで来たの!?」
「んな事後回しだろ! 俺に戦らせろ!!」
「えっちょ、ちょっとな、何を言ってるの!? だ、ダメよ!! 危険過ぎるわ!!」
ゴチャゴチャ抜かす巴の静止を無視して俺は呪霊モドキ大へと駆け出す。巴は無視されたショックなのか分からんが固まっている。丁度いい。邪魔されなきゃ俺は満足だ。久々の戦闘──巴みたいな人間には挑むつもりはねぇが、こんな人外なら良いだろ。
「ガッカリさせんなよ!!」
呪霊モドキ大の腹部へと跳躍し、本気の打撃をまずは一撃ぶち込み、それを皮切りに更に早く何度も何度も殴る。先刻の雑魚とは違い連打を受けても僅かに凹む程度にしかならない。良い硬さだ。多少は骨があるみてぇだな。
『×*++〜☆!、!!!?』
「おっと……」
リボンによる拘束が打撃と共に解かれたコイツは怒号をあげながら巨大な握り拳による打撃を俺に叩き込もうとする──だが喰らってやる程優しくねぇんだ。俺も同様に奴の打撃を打撃で返す。力勝負に敗けたのは──奴の方だ。
後ろによろけた瞬間に奴の巨腕を掴み、真反対へと投げ飛ばす。
『+<<☆++!!!!!』
「しゃらくせぇ!!」
地面に倒れ込んだ奴は跳躍した俺に目から無数の砂の棘を飛ばすが、全て真正面から叩き落とす。完全に隙が出来た奴の腹に踵落としをかまし、更に再度打撃を繰り出す。
「もう十分溜まったろ!!」
一旦距離を取ると同時に奴が巨体を起こし立ち上がるが、もう遅ぇ──俺は奴の腹部に向かって呪力特性による電撃を放つ。
一秒にも満たない速度で奴の腹部に電撃が命中し、巨大な風穴が空く。まぁ、これで終わりだろ。
打撃と共に俺の電気の同等の性質を持つ呪力を分離させ、奴の身体にプラス電荷を移動。そして俺自身の身体に蓄えたマイナス電荷を地面への放電をキャンセルしながら奴へと誘導する──電気の速度についていける奴なんざ居ねぇ……完全な必中攻撃だ。
「嘘……」
巴が呆気に取られている間に、呪霊モドキ大は身体を維持出来ずに雑魚同様消滅する──それと同時に俺達が侵入した結界も消え、元の世界へと戻される。
やはり親玉が形成した結界か。まぁ、雑魚共と比べたら多少はやった方だろ。精々東京で戦り合ったパンダ程度だな。
「──で、説明してくれんのか?」
「あっえっそ、そうだったわね……でもそれなら、あ、あなたの事も聞かせてくれるのよね……? 一体何者なの……?」
「そーだな。隠し事はナシだ」
この世界に存在する呪力以外の力を知れるなら説明ぐらいしてやるよ。それに、巴も骨のある奴だと分かったしな。断る理由はねぇだろ。
「そ、それじゃあ、私の家に行きましょうか」
……あー……長くなりそうだなコレ。
***
「美味ぇなコレ」
「ほんと? お気に召したようでなによりだわ」
「オマエ普段からこんなんばっか食ってんのか? 太るぞ」
「ふとっ……!?」
「んな事いいからさっさと聞かせろよ。オマエの力について」
巴の家に招かれて渋々来てやったが、中々美味いチーズケーキを提供されたのだけは高評価だな。甘いもんは然程食わねぇからな。
何故一人分以上のケーキがあるのかはこの際聞いておかないが。コイツは見た目に反して大食漢なのか?
「……そ、そうね。隠し事はナシだものね」
「話すわ。私の力──魔法少女について」
***
「成程ねぇ……」
俺は巴からこの世界に存在する術師に似た者達──魔法少女について話を聞いた。
魔法少女──キュゥべぇという一種の愛玩動物と契約を交わし、世界に災厄を振り撒く異形の怪物──魔女と戦う運命を課せられる少女共の事らしい。
契約時には、少女側から一つ叶えたい願いを伝え、愛玩動物側が願いを叶え、新たな使命を少女に課す。という流れだ。
与えられた力は、身体能力の向上や他の魔法少女や魔女の探知、各々の固有の魔法を駆使して戦う事等……殆ど術師じゃねぇか。
巴のリボンや銃も巴の固有の魔法を応用して作っているのか。マジで術式と似たような感じなのな。
魔法少女は術師、魔女は呪霊、魔力は呪力──愛玩動物はコガネのようなマスコット的存在に見えるが、契約と聞けば羂索にも通ずるところはあるなと感じる。羂索に似ているのなら余程の性悪になるがな。
「裏とかねぇのかよ? そんな生涯契約まがいの事してんだから」
「裏というか、慣れるまでは本当に死ぬ気で努力しないと簡単に命を落とす世界なのよ。普段からも常に気を張っておかないといけないから、勉強と両立も中々難しいわ」
「まぁそれもそうか……んじゃあ次は俺だな」
「そうね、そこが一番気になるのよ……魔法少女でもないのに魔女と戦えるのなんて聞いた事がないもの」
「──それはボクも気になるところだね」
「ん?」
俺が満を持して呪力について話そうと来た時──謎の人の言葉を喋る白い動物が現れる。
何だコイツ──って、このタイミングで現れたって事は……愛玩動物か。
「オマエが愛玩動物か」
「そう呼ばれるのは初めてだね。それにボクが見える男の子も初めてだ」
「魔法少女じゃなければオマエは見えないって事か?」
「もしくはその素質がある子達がボクを視認する事が出来るよ。だからボク個人としてもキミには興味があるんだ」
コガネとは違ってガチで愛玩動物って感じだな。毛深いし猫のようだが、神出鬼没な奴だな……どこから入って来たんだコイツ。
「良いぜ。話してやる。俺の力──呪力をな」
***
「……」
「ふむ……キミは何故その呪力や術式というものが刻まれたのかは分かるのかい?」
「んなの知らねーよ。それこそオマエらみてぇな奴らが何か画策したとしか思えねぇんだよ」
俺の呪力と術式について一応は説明した。が、俺が元々居た世界について話してねぇ。俺自身もよく理解出来ていないのもあるが、単純に長ったるい説明なんざお断りだ。
この愛玩動物は巴以上に知的というか、羂索ぽさは割とある。だから面倒なんだよ……事ある毎に質問される俺の気にもなれよ。
完全な突然変異の出所不明の力──という定義付けになってしまったが、まぁ元々そんなもんだから別に構わんだろ。
別に悪用されようがどうでもいい。その場合は全員返り討ちにすりゃいい話だ。
だがこの愛玩動物は結局なんなんだ? 人間でもねぇし、呪霊でもねぇだろ。式神ではない筈だが、
それこそ『全ての事象に適応出来る身体を寄越せ』なんて願ったら手に入ってしまうんだろ? コイツらもコイツらで出所不明の力じゃねぇのか。
戦闘向きではなさそうだが……深く関わるのは御免だね。胡散臭くてありゃしねぇよ。
「ボクとしてはキミ自身に果てしない興味がある。キミの呪力は魔法少女とは違いグリーフシードで回復する必要もないんだろう?」
「あー……巴がさっき使ってたヤツか。まぁ時間が経てば回復はするが、面倒だから付き纏われるのは御免だ」
魔法少女は魔女が落とすグリーフシードという品を使用して魔力を回復するらしいが、呪力と比べると遥かに効率が終わってるな。それに加えて縄張り争いもあるってんだろ? もう少し効率よく出来なかったのかよ。魔力が切れた場合はどうなるんだって話だ。
だがまぁ、力を試せる相手が出来たのは好都合だ。魔法少女より戦り甲斐がある。殺しなんざするつもりは今は毛頭ねぇからな。
「んじゃあ、俺はそろそろ帰らせて貰う。言っとくが、付き纏うんじゃねーぞ愛玩動物」
「キミはそう望むのなら仕方がないね」
どうせ隣の家だしな。今日の筋トレをしてねぇんだ。
てか巴が先刻から全く話さんが……魔法少女はこの世界では浮世離れした存在なのだから、呪力なんざ聞いたとて多少は受け入れられる筈だろう。何を固まっている。
「──ね、ねぇ鹿紫雲君!!」
「何だ大声出して……」
かと言ったら突然立ち上がるわ何なんだ。骨があるのは良いが、苦手なのには変わりねぇな……
「わ、私と一緒に組んでみない!?」
「……はぁ?」
いきなり何を言っているんだコイツ。
「いや、その、ね? 鹿紫雲君多分だけど魔女と戦おうとしてるわよね?」
「まーそうだな」
「で、でもね? 鹿紫雲君は結界を見る事は出来ても反応を探知する事は出来ないでしょ?」
「……あー成程。だからオマエが探知するから組もうって訳か」
「そういう事! どうかしら? あなたにとっても悪くない提案だと思うのだけれど……」
ふむ……確かに俺は魔力の探知が不可能。つまり呪力がこの世界に形を変えて適応している訳ではなくそのままの姿で俺に刻まれている訳だ。だから別物の魔力を探知出来ない。視認出来る意味も分からんが、別物ではあるが似通っているから……で通る話なのか?
まぁそういう事にしておくが。
組む……か。以前じゃ秤とは宿儺と戦り合わせる事を条件に一時的に奴らについたが、そういう名目が無い上での他者との協力関係を結んだ事は無いな。
生き方を変える──戦闘だけを好み生きた以前の俺だが、他者と関わる事は必ずしも嫌いではなかった。
巴も例外ではない。苦手ではあるが、コイツは魔法少女という骨のある存在だ。やけに躍起になっているのは気になるが、意外とアリなのかもしれねぇな。他者と高め合う──以前の俺ならば強者を屠り、それで関係が途切れたが、今回は変えてみるか。
だが戦う事も当然忘れられない──あの高揚は俺がこの世界でも生まれながらにして持ち得たものだ。いつかは飽きるかもしれんがな……ま、そういうもんだろ。
巴とも一度手合わせをしてみてぇしな……ここは乗ってやるか。
「いいぜ。その提案乗った」
こうして俺は巴マミと協力関係を結ぶ事になった。
ちなみにマミさんとカッシーは同い年。