私の魔法? 時間の巻き戻しだよ、死ぬけどね。   作:小魔神

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第1話

 放課後の屋上は、変わらない光景をしていた。

 ひび割れたコンクリート。錆の浮いたフェンス。遠くで車の音と、街のざわめきが混じり合っている。

 

 見慣れているはずの場所なのに、胸の奥にわずかな空白がある。

 何かが抜け落ちている感覚。

 

 それが意味することを、私はよく知っていた。

 ――時間が、戻っている。

 どこで死んだのか。

 何に殺されたのか。

 それは一切思い出せない。

 それでも、結果だけは揺るがない。

 

「死んだ」

 

 声に出すと、事実として輪郭を持つ。

 

 フェンスにもたれていた小柄な魔法少女が、静かにこちらを向いた。

 相棒のアイだ。細い体躯に、無駄のない立ち姿。

 その視線には、私よりずっと多くの時間が積み重なっている。

 

「今回は十六秒も生きてた」

 

 数字が即座に出てくるあたり、彼女が覚えている側なのだと嫌でも分かる。

 私の魔法は時間溯行、発動条件は私が死ぬこと。死ぬと強制的に特定の日時まで時間が巻き戻る。ただ私は時間が巻き戻ったことは分かっても記憶は引き継げない。

 そんな中でアイだけは記憶を引き継ぐことができる。理由は不明だけどね。

 

「それって長いの?」

 

 軽口のつもりで言うと、アイは一瞬だけ視線を逸らした。

 

「前回より三秒短い」

 

「縮んでるじゃん」

 

「最初よりは、ずっと長い」

 

 その言葉の意味を、私は正確には理解できない。

 比較対象となる“最初”を、私は知らないからだ。

 それでも、アイの声の奥に、長い積み重ねがあることだけは伝わってくる。

 

 ◆

 

 警報が鳴り始める。

 

 空気が微かに震え、現実が歪む前兆が肌を撫でる。アイはもう、次の戦闘に意識を切り替えていた。

 

「駅前。TYPE-F」

 

「また厄介そうなのが来たね」

 

「即死系」

 

「……最悪」

 

 私は肩をすくめるが、内心では妙に落ち着いている。怖いはずなのに、恐怖が追いつかない。

 それも、何度も繰り返している証拠なのかもしれない。もっとも自分じゃその自覚はまるでないのだけど。

 

「アズミは、前に出ない」

 

 アイの声は低く、はっきりしていた。

 

「今回も?」

 

「今回も」

 

 断定。反論の余地はないようだ。

 理由を聞こうとして、やめる。

 その答えを知っているのは、覚えている側だけだ。

 

 ◆

 

 駅前は、異様な静けさに包まれていた。

 人払いの終わった交差点。止まった信号。広告モニターは黒く沈黙している。その中央で、空間が歪んでいた。

 

 TYPE-F。

 

 形は人型に近いが、輪郭が定まらない。

 視線を合わせようとすると、焦点がずれて気分が悪くなる。

 

「視線、固定しないで」

 

 アイが、私の半歩前に立つ。

 小柄な背中が、自然と盾になる位置だった。

 

「分かってる」

 

 言葉とは裏腹に、心臓が少しだけ速く打つ。

 TYPE-Fが動く。空間が、音もなく削られた。

 

 私たちは同時に動く。説明はない。

 それでも、動きは噛み合う。

 ――初めての戦いのはずなのに、体が迷わない。

 その事実が、少しだけ怖かった。

 

 一体アイは何回この戦いを繰り返しているんだろう?

 

 そんなことを考えた瞬間、嫌な予感が走った。TYPE-Fの周囲で、空気が不自然に揺らぐ。何かが“発動した”のは分かる。でも、何が起きているのかは分からない。

 

「来る」

 

 アイの声が短く落ちた。

 次の瞬間、足元に黒い文様が浮かび上がる。

 

「……なに、これ」

 

 意味は読めない。そもそも文字かどうかも怪しい。ただ、本能的に分かる。

 ――触ったらまずい。

 

「動かないで」

 

 アイの声が、即座に重なる。私は反射的に動きを止める。足元の文様が、ゆっくりと薄れていく。心臓が、遅れて跳ね上がった。

 

「今の……」

 

「呪い」

 

 アイは短く言った。

 

「TYPE-Fの魔法。踏んでたら、終わってた」

 

「即死?」

 

「うん」

 

 私は息を吐く。

 

「分かりづらすぎない?」

 

「だから厄介」

 

 TYPE-Fが、再び動く。今度は、少し離れた位置に文様が浮かぶ。

 どこが安全で、どこが危険なのか、私には判断がつかない。

 

「右に三歩」

 

 アイの指示。

 私は言われた通りに動く。

 直後、さっきまで立っていた場所に黒い刻印が浮かび上がった。

 

「……今のも?」

 

「うん」

 

「危な」

 

 心臓がうるさい。

 怖い。

 それでもアイの声だけを頼りに動く。それが、私の戦い方だ。

 

 ◆

 

 でも、失敗する。

 足元に浮かんだ刻印に、気づくのが遅れた。

 

「アズミッ」

 

 名前を呼ばれた時には、もう遅い。

 冷たさが、足首から一気に広がる。

 痛みはない。

 抵抗する暇もない。

 ただ、力が抜ける。

 

 ◆

 

 放課後の屋上。ひび割れたコンクリート。錆の浮いたフェンス遠くの車の音。変わらない光景。

 

「……死んだ」

 

 理由は分からない。何も覚えていない。

 フェンスの前に立つ小柄な魔法少女が、こちらを見る。

 

「うん」

 

 それだけ。

 だって覚えているのは、彼女だけだから。

 

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