もしユメ先輩が居なくなった直後のホシノが現代のアビドスに来たら 作:気弱
深夜のアビドス高等学校、教室。 並べられた布団の上で、パジャマ姿の6人が車座になっていた。先生は「宿直室にいるから、何かあったら呼んでね」と気を利かせて席を外しており、今は女子だけの時間だ。
「……ん。そういえば、ずっと気になってたんだけど」 ふと、クロコが手元のココアを見つめながら切り出した。 「ホシノ先輩。先輩って、自分で『おじさん』って言う時、いつもちょっと恥ずかしがってるよね」
その一言に、隣でポテトチップスを食べていたセリカが「あ! やっぱり!?」と身を乗り出した。
「やっぱりそう思う!? 私も薄々、無理してるなーって思ってたのよ!」 「わわっ、ちょ、ちょっと二人とも!?///」
ホシノが慌てて防衛体制に入るが、逃げ場はない。
「だって、私の知ってるホシノ先輩はもっと……こう、堂々と自分をおじさんだって言い切ってた。でも、ここの先輩は『おじさんはね……』って言う前に、一瞬だけ『うっ』て顔をする」 「それは……! その、冷静になると女子高生が自分をおじさんって呼ぶのは、社会的にも倫理的にもハードルが高いというか……!!」
必死に弁明するホシノだが、ここで最強の爆弾が投下される。
「ふふっ、でもクロコちゃん、知ってる?」 ユメ先輩が、悪戯っぽく目を輝かせながらクロコの肩を抱いた。 「ホシノちゃんが『おじさん〜』って甘えた声を出す時、大抵は先生と二人きりで話してる時なんだよー?」
「ユ、ユユユメ先輩!? 何を言って……!!///」 「えっ、そうなの!?」とアヤネとノノミまで身を乗り出す。
「そうそう! 先生の前だと、すぐ『おじさんはもう疲れちゃったよ〜』とか言っちゃって。あれ、無意識に甘えてるんだよね、ホシノちゃん?」 「ち、ちが……! あれは、先生なら許してくれるっていうか、その、つい口が滑るだけで……!」
ホシノは真っ赤になって毛布を頭まで被り、芋虫のように固まってしまった。
「……ん。やっぱり。先生の前だと、一番『素』になってるんだね」 クロコが少しだけ意地悪そうに、けれど温かく微笑む。
「……ホシノ先輩。先生、まだ起きてるかな? 今行って『おじさん、怖くて眠れないよ〜』って言ってみたら?」 「セ、セリカちゃんまで!? もういい、おじさん寝る! 絶交だー!!」
「あはは! ほら、また自分で『おじさん』って言った!」 「あ――――っ!! もう!!」
夜の教室に、ホシノの悲鳴に近い叫びと、みんなの楽しそうな笑い声が響き渡る。 地獄のような孤独を歩んできたクロコにとって、この「誰かをからかって笑い合う」という何気ない時間が、何よりも贅沢で、何よりも温かい奇跡だった。
「……みんな、後で覚えてなさいよぉ……///」
毛布の中から聞こえるホシノの小さな声。 それを聞きながら、クロコは隣にいるシロコと手を繋ぎ、初めて安心して深い眠りへと落ちていった。