もしユメ先輩が居なくなった直後のホシノが現代のアビドスに来たら 作:気弱
言い訳がネタ切れして開き直ってよホシノ
アビドス対策委員会の部室は、ささやかな祝祭の熱気に包まれていた。
仕事が一段落したことを祝して開かれた、ささやかな打ち上げ。机の上には色とりどりのスナック菓子が広げられ、ユメ先輩が「奮発しちゃった!」と笑いながら買ってきた、ノンアルコールのフルーツカクテルが並んでいた。
「……んー。これ、甘くて美味しいねぇ……」
ホシノはいつもの脱力した笑みを浮かべ、喉を鳴らしてその瓶を一気に空けた。
しかし、運命のいたずらか。その瓶の中には、一本だけ本物の「果実酒」が混ざり込んでいた。
数分後。
「……あれ。ホシノちゃん、顔が赤いよ? 暑いかな?」
ユメ先輩が異変に気づいた時には、すべてが手遅れだった。
ホシノはフラフラと、吸い寄せられるように立ち上がる。そして、端の方で静かに書類を整理していた先生の背中に、後ろから「ぎゅっ」と深い抱擁を見舞った。
「わっ!? ホ、ホシノ? 急にどうしたんだい?」
「……せんせぇ……。せんせー、だいしゅき……」
部室に激震が走った。アヤネの持っていた資料がバラバラと床に散らばる。
「ちょ、ホシノ先輩!? 何を言って……え、待って、この瓶! アルコールが入ってるじゃない!」
セリカが絶叫に近い声を上げるが、酔いの回ったホシノには届かない。彼女は先生の背中に、すりすりと猫のように顔を擦り寄せ、熱い吐息を漏らした。
「……せんせー。おじさんね、……ううん、おじさんじゃないの。……ホシノね、先生に、もっと見てほしいの……」
「先生……。私のこと、生徒じゃなくて……一人の女の子として、好きって言って……?」
「っ……!?!?/////」
あの、鉄壁の鈍感さを誇った先生の顔が、瞬時に沸騰した。
背中越しに伝わるホシノの体温。ふわりと漂う甘い果実の香り。そして何より、普段の余裕が完全に消え去った、蕩けるような甘え声。
「ホ、ホシノ……落ち着くんだ、君は酔って——」
「……やだ。……答えてくれるまで、離さない。……先生の……バカ……大好き……」
ホシノは先生の首筋に細い腕を回すと、とろりとした瞳で先生をじっと見つめ、そのまま力尽きたように先生の膝の上へと崩れ落ちた。
完全にノックアウトされたのは、先生の方だった。耳まで真っ赤にして、震える手でホシノを支える先生。その姿を、後輩たちは口をあんぐりと開けて眺めていた。
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**翌朝**
「う、うへへ……。おはよう、みんな……。なんだか昨日は、変な夢を見た気がするねぇ……」
ホシノは割れるような頭を押さえながら、おぼつかない足取りで部室に現れた。
「ホシノ先輩……。本当に、何も覚えてないんですか?」
アヤネの憐れみすら含んだ視線に、ホシノは首を傾げる。
「え? 何かしたっけ? 美味しいジュースを飲んで寝ちゃった記憶しかないんだけど」
そこへ、タイミング悪く先生がやってきた。
先生はホシノの姿を視界に入れた瞬間、ガバッと露骨に顔を逸らし、ぎこちなく挨拶をした。
「お、おはよう……ホ、ホシノ。……あー、今日も……いい天気だね」
「? 先生、どうしたのさ。顔、赤いよ?」
ホシノが顔を覗き込もうとすると、先生は「ちょっと急用を!」と言い残し、脱兎のごとく部室から逃げ去っていった。
「えぇ……。先生、どうしちゃったんだろう」
不思議そうにするホシノの背後で、クロコがぽつりと呟いた。
「……ん。先輩。自覚はないと思うけど……昨日、先生を殺しかけたよ」
「えっ!? おじさん、そんな物騒なことしたの!?」
何も知らないホシノと、あの日以来、ホシノを直視できなくなった先生。二人の関係は、ホシノが忘れてしまった「一晩の過ち」のせいで、より一層カオスな方向へと加速していく。
「おーい、先生! 待ってよぉ、なんで逃げるのさー!」
廊下を逃げる先生と、パタパタと追いかけるホシノ。先生の脳裏には、あの甘い囁きと柔らかな感触が呪いのようにこびり付いて離れない。
ついに角に追い詰められた先生。ホシノがその服の裾をぎゅっと掴む。
「……ねぇ、先生。嫌われちゃった……?」
不安げな上目遣いに、先生の理性が限界を迎える。
「……っ、嫌いなわけないだろう! むしろ逆だよ! 昨日の君があまりにも……あー、もう!」
先生は真っ赤になって宿直室へ逃げ込み、鍵を閉めてしまった。
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部室に戻り、ぐったりとソファに沈むホシノ。
その様子を、ユメ先輩と後輩たちがニヤニヤとした顔で取り囲んでいる。
「……ん。ホシノ先輩。本当に、一文字も覚えてないの?」
クロコがタブレットを操作しながら、事実を突きつける準備を始めた。
「全然。なんかふわふわして……気づいたら朝だったよ」
「そう……。じゃあ、これを見るのが一番早いかもね」
クロコが再生ボタンを押したのは、あの日、ユメ先輩が面白半分で回していた動画だった。
映像の中のホシノは、先生の背中にしがみつき、とろけそうな顔をしていた。
『動画のホシノ: 「せんせぇ……。おじさんじゃなくて、ホシノね……一人の女の子として……好きって言って……?」』
「………………」
部室が静まり返る。
「…………これ、誰?」
「ホシノちゃんだよ♪ ちなみにその後、先生の耳を甘噛みしようとして引き剥がされたんだよねー」
ユメ先輩が特大の爆弾を投下した。
「あ…………あぁ…………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?////」
ホシノの悲鳴が響き渡った。彼女は顔を真っ赤に染め、シュラフの中に飛び込むと、激しくのたうち回った。
「死ぬ! おじさん今すぐ死ぬ! 砂漠に一万メートルくらい深く埋めてぇぇぇ!!」
「ん。無理。先生、バッチリ記憶してるから。一秒残らず」
「わあああああああ!! 聞きたくないー!!」
「でもホシノ先輩。おかげで先生、先輩を完全に『異性』として意識し始めちゃいましたよ?」
ノノミのその一言に、シュラフの中の暴動がピタッと止まる。
(意識、してる? ……あの、鈍感な先生が、私を……?)
恥ずかしさで死にそうなのに、胸の奥がほんの少しだけ、熱を持つ。
アビドスの砂漠に、本当の意味での「春」が来るには、もう少しだけ時間がかかりそうだった。
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