もしユメ先輩が居なくなった直後のホシノが現代のアビドスに来たら 作:気弱
## ■ ユメの交換日記
**【1日目:ホシノちゃん、大噴火!】**
ひぃぃん! 今日は本当の意味で「命の危険」を感じたよぉ……。
軽い気持ちで「ホシノちゃんって、意外とちょろいね?」なんて弄ったら、あの子の瞳からスッと光が消えて、一瞬で「戦神」になっちゃった!
まさか、逃げ場のない演習場で2時間もぶっ通しのフルコンタクト模擬戦をさせられるなんて。あの子、本気になると本当にかっこいいけど……今は全身の節々が悲鳴を上げていて、それどころじゃないよぅ。
明日もまた訓練があるなんて……おばさん、もう砂漠の砂になりたい……。
**【2日目:作戦大成功♪】**
作戦は大・成・功! 先生に「おねだり接待デート」をお願いしたら、ホシノちゃん、見る見るうちに機嫌が直っちゃった!
さっき公園のベンチを遠くから覗いたら、先生の肩に頭を預けて「おじさんだけを見てほしいんだもん……」なんて、消え入りそうな声で甘えちゃって。もう! さっきまでの鬼教官はどこに行ったの?
やっぱりホシノちゃんは、先生さえいれば一瞬で解けちゃう、世界一「ちょろい」後輩だね♪
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## ■ シロコ&クロコの手記(共同執筆)
**【1日目:敗北】**
ん。……完全敗北。
ホシノ先輩、本気すぎ。2時間全力で弾丸を叩き込んだけど、マントの端すら掠らない。……これ、本当に同じ人間?
「つよつよコンビなら勝てる」なんて言って、本当にごめんなさい。
ん。クロコ、もう腕が上がらない。おじさん、怖すぎる。トラウマ。
**【2日目:監視報告】**
ん。先生による「高級パンケーキ懐柔作戦」の成功を確認。
さっきまで部室を凍りつかせていた殺気が、一口「あーん」されただけで霧散した。先輩の顔、筋肉が全部溶けてる。
最強の戦士としてのプライドはどこへ行ったの。
ん。クロコの言う通り。ホシノ先輩は先生さえいればいくらでも制御可能。
アビドス最強の盾も、愛する人の前ではただの**『ちょろい乙女』**。ん、私たちの知略の完勝。
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## ■ セリカのバイト日記
**【1日目:最悪の日!】**
なんなのよもう! 弄ってたのはユメ先輩たちなのに、なんで私まで連帯責任で砂漠を走らされなきゃいけないのよ!
ホシノ先輩、怒ると容赦なさすぎ。盾で背中を小突かれながら走るのがあんなに怖いなんて思わなかったわよ!
明日もあんな地獄の特訓が続くなら、私、過労で倒れる前にバイト辞めちゃうからね!
**【2日目:手のひら返し】**
先生とのデートから帰ってきた先輩を見たら、顔がとろけきった幸せそうな「ヘラ顔」になってて、怒るのを忘れて笑いそうになったわ。
あんなに私たちを死ぬ気でシゴき抜いたくせに、先生に頭を撫でられただけであんな顔するなんて。昨日の私の恐怖と筋肉痛を返してほしいわよ!
……まぁ、機嫌が直ったならいいけど。あの先輩、本当、ちょろすぎるわよね。
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## ■ アヤネの対策委員会・活動日誌(特記事項)
**【1日目:戦術的絶望】**
本日の部室は、対策委員会発足以来、最悪の形で幕を閉じました。
ホシノ先輩の逆鱗に触れた瞬間、部室の温度が物理的に下がったのを感じました。
模擬戦での先輩は、まさに「歩く戦術兵器」。私とセリカちゃんは完全に巻き添えで、三回ほど意識が飛びかけました。
先輩を怒らせると、この学校に逃げ場はないということを痛感しました。
**【2日目:観測結果】**
夕暮れの公園にて、ホシノ先輩が先生に対して「私だけを見て」という、普段の先輩からは想像もつかないほど独占欲に満ちた発言をしたことを確認。
その際の先輩の、あまりにも「ガードがゆるゆるな顔」を見た瞬間、私たちの共有無線にユメ先輩の「やっぱりホシノちゃん、ちょろいね」という確信に満ちた呟きが響き渡りました。
尾行班全員、深い溜息とともに、心の底から同意。
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### 【物語:沈黙の鉄槌】
アビドスの部室には、いつものように穏やかで平和な、「凪」のような空気が流れていた。
アヤネは日誌を整理し、セリカはバイトのシフトを確認。ユメ先輩と二人のシロコは、昨日の「ホシノ完全陥落デート」の隠し撮り写真を回し見しては、ヒソヒソと「ちょろい、ちょろい」と肩を揺らして笑い合っていた。
そこへ、ホシノが静かに部室に入ってきた。
いつもなら「うへ〜、今日も疲れちゃったよ〜」とソファにダイブするはずの彼女が、今日はなぜか、音もなく出口のドアに鍵をかけた。
**カチャリ。**
その小さな金属音が、宣告のように響く。
「「「「「!?」」」」」
全員の背中に、嫌な汗が伝う。
ホシノはゆっくりと振り返った。その顔には、最高に「眩しい笑顔」が浮かんでいたが、瞳の奥には昨日の地獄の訓練時と同じ、深淵のような冷徹な光が宿っていた。
「……ねぇ、みんな。最近の私のこと、どう思ってるのかなー?って気になってさ」
ホシノは手に持っていたタブレットを、机にコトンと置いた。画面には、彼女たちが厳重にパスワードをかけていたはずの日記データが、ご丁寧に全ページ展開されている。
「日記なら、私のこと**『ちょろい』**って何回書いても許されると思った……?♪」
「……あ」
アヤネが顔を真っ白にして、絶叫を飲み込む。
ユメ先輩の笑顔がひきつり、二人のシロコは反射的に窓から脱出しようとしたが、そこには既に巨大な盾が突き立てられ、退路は物理的に断たれていた。
「問答無用。……さあ、みんな。演習場へ行こうか。……あ、逃げようとしたら、今度は容赦なく『気絶した後も』続けるから、覚悟してね♪」
「「「「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!!」」」」」
アビドスの校舎に、昨日を遥かに上回る絶望の叫び声が響き渡った。ホシノの「秘密」を覗き見た代償は、彼女たちの想像を絶する「永遠に続くかのような筋肉痛」という形で支払われることになったのである。
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**一週間後。**
アビドスの演習場には、真っ白に燃え尽きて地面に転がる五人の抜け殻があった。
「はぁ……はぁ……。……私、もう、お嫁に行けない体になっちゃった……」
セリカが虚空を見つめながら力なく呟く。
「ん……。指一本、自分の意志で動かない。筋肉が、別の生き物に改造されたみたい……」
スタミナ自慢のシロコたちですら、砂に顔を埋めたまま、もはや死体のように動かない。
そこへ、一週間の特訓を終えて肌も艶々、心なしか以前より活き活きとしているホシノが、キンキンに冷えた水筒を持って歩み寄ってきた。
「はい、みんなお疲れ様! 一週間、よく頑張ったねぇ。これに懲りたら、おじさんのことをあんまり弄らないことだね」
ホシノはいつものように穏やかに笑いながら、みんなに水を配る。だが、その笑顔の裏にある圧倒的な「力」と「執念」を、今や全員が細胞レベルで理解していた。
「……ねぇ、みんな。最後にちょっと聞きたいんだけどさ」
ホシノがふと思い出したように、小首をかしげて尋ねた。
「次は、誰が私を『ちょろい』って言うのかなー?♪」
「「「「「…………っ!!!」」」」」
その瞬間、ボロボロだったはずの五人が、まるでスプリングが弾けたような速さで起き上がり、完璧な姿勢で正座した。
「い、いいえ! ホシノ先輩は、アビドスの誇る、冷徹かつ最強無比の守護神です!!」
アヤネが血を吐くような思いで絶叫する。
「ん。ホシノ先輩、鉄の女。チョロさ……マイナス。……鋼よりも硬い」
シロコとクロコが必死に目を逸らしながら、感情を消した棒読みで追従する。
「あはは……。ホシノちゃん、もう勘弁してよぉ……。私は、ホシノちゃんが世界で一番怖いって、魂に刻み込んだからさぁ……」
ユメ先輩ですら、涙目で両手を上げて降参のポーズをとった。
「うへ〜、それは良かった。……あ、そうだ。アヤネちゃん、部室に新しい『校則』を貼っておいてくれる?」
「こ、校則……ですか?」
ホシノが差し出した紙には、可愛らしいクジラのイラストと共に、威圧感溢れる筆致でこう記されていた。
> **【アビドス高校・新校則(追加分)】**
> 1. 私を『ちょろい』と呼ぶことは、砂漠への永住(埋没)を意味する。
> 2. 私が先生と二人でいる時は、半径100メートル以内への立ち入りを禁ずる。
> 3. 日記には、指紋認証と虹彩認証、および物理的な鍵をかけること。
>
>
「……これ、絶対守ってよね? 破ったら……分かってるよね?」
「「「「「はい! 喜んで!!!」」」」」
夕暮れの砂漠に、五人の決死の返事がいっせいに響き渡った。
こうして、ホシノの「チョロさ」はアビドスの公式な禁忌となり、彼女の乙女な秘密は(建前上は)永遠に守られることになったのである。
……もっとも、その数分後。
先生が部室に現れ、ホシノの頭を優しく撫でながら「今日も頑張ったね」と微笑んだ瞬間、ホシノが「うへへ〜、先生ぇ〜……♪」と一瞬でとろけ顔になったのを見て、全員が同時に**(……やっぱり、ちょろい)**と確信したものの、今度こそ誰一人として、それを口にしたり日記に書いたりすることは、二度となかったという。