もしユメ先輩が居なくなった直後のホシノが現代のアビドスに来たら   作:気弱

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女子力頂上決戦!お弁当パニック

放課後のアビドス対策委員会室は、嵐の前のような熱を帯びていた。

 

「ん。私の方が女子力は高い。弱い方の私は、黙って後ろに引っ込んでて」

「ん。それは聞き捨てならない。私の方が、実戦でも乙女力でも数段上」

 

火花を散らして睨み合うのは、シロコとクロコ。瓜二つの少女たちが放つプレッシャーに、部室の空気はピリピリと震えている。

事の起こりは、セリカが漏らした「やっぱり女子力が高い人って素敵よね。将来の備えとしてもさ」という何気ない一言だった。それが、二人の「自分こそが最強の乙女である」という譲れないプライドに火をつけてしまったのだ。

 

「あー……二人とも、どうしたのさ。お昼寝の邪魔になるくらい怖い顔して」

 

のんびりした声と共に、ホシノが部室のドアを開ける。その瞬間、二人が鋭い勢いで同時に振り向いた。

 

「ん。ホシノ先輩。ちょうどいいところに。判定をお願い」

クロコが真剣な表情でホシノの肩をガシッと掴む。

「ん。ホシノ先輩が心から満足する料理を作れた方が、女子力が高いことにする。……異議なし?」

「ん。望むところ。逃げないでよ、私」

 

「え、ええっ!? なんで私……!? ちょっと待ってよ、私はただソファでゴロゴロしに——」

ホシノの困惑を置き去りにして、二人のシロコは疾風のごとく部室を飛び出し、買い出しへと消えていった。

 

---

 

数十分後。嵐のように先に帰還したのはシロコだった。

「ん。ホシノ先輩、食べて。……私の、自信作」

少しだけ耳を赤くしながら、差し出された小さなお弁当箱。ホシノが恐る恐る蓋を開けると、そこには宝石箱のような光景が広がっていた。

 

色とりどりの野菜、丁寧に切り込みを入れられた愛らしいタコさんウインナー。整然と並ぶおかずたちは、まさに「女の子らしい可憐なお弁当」そのものだった。

 

「わあ……! シロコちゃん、こんなに料理上手だったの!?」

「盛り付けのセンスも抜群じゃない!」

アヤネとセリカが思わず感嘆の声を漏らす。

 

「うへ〜、凄いねぇ……。ユメ先輩、この才能を少しは分けてもらったらどうかなぁ?」

ホシノが隣で「わぁ美味しそう! 私も食べたいな!」と無邪気に喜ぶユメに、少しだけ哀れみの視線を向けた。

「ひぃーん! ホシノちゃんが酷い! 私だってやる気になれば……おにぎりくらいは握れるもん!」

 

ホシノが一口運ぶ。それは、彼女の好みを完璧に把握した、優しくも深い味わいだった。

「う、うまい……。味付けが絶妙だよ。シロコちゃん、やるなぁ」

 

しかし、アヤネがふと不安そうに呟いた。

「でも、あちらのクロコ先輩は……過酷な環境にいたと聞きますし。お料理、大丈夫でしょうか? サバイバル飯とか出てきたりしませんか?」

 

---

 

その不安を切り裂くように、部室のドアが開いた。

「ん。待たせた。真打ち登場。格の違いを見せてあげる」

クロコが、王者の風格を漂わせながら現れた。手にあるのはシロコと同じサイズの弁当箱。

 

ホシノがその蓋を開けた瞬間——部室が静止した。

 

「…………っ!!」

ホシノが硬直する。中を覗き込んだ全員が、言葉を失った。

そこには、ご飯と海苔、そして鮮やかな食材を駆使して精密に描かれた、巨大で最高にキュートな**「クジラ」のキャラ弁**が鎮座していた。おかずの一品一品まで、クジラの尻尾や潮吹きをモチーフにするという、狂気的なまでのこだわり。

 

「なっ……クジラ……!? 私も挑戦しようとしたのに、難しくて諦めた領域に……っ!」

シロコがこれまでにないほど悔しそうに拳を震わせる。

 

「ん。経験の差。長く生きていれば、ホシノ先輩を喜ばせるツボは嫌でも覚える。……指が勝手に動いた」

クロコが勝ち誇る。ホシノは目を輝かせて、クジラのヒレ部分を愛おしそうに口に運んだ。

「……っ! 味も、私の大好きな、ちょっと濃いめでご飯が進む味付け……! クロコちゃん、これは一本取られたよ……!」

 

クロコは頬を染めてドヤ顔を加速させる。

 

「ん。当然。私の方が、ホシノ先輩を愛してる期間が長い」

 

「ま、待って! 次はスイーツで勝負!」

シロコが食い下がるが、クロコは冷徹に言い放った。

「ん。無駄な抵抗。次はパンだけじゃなく、料理も教官(先生)にマンツーマンで教えてもらう。そうすれば、私の女子力はキヴォトスの頂点に立つ」

 

「あー……。結局、二人とも先生にアピールしたいだけなんじゃ……」

セリカが呆れる中、ホシノは夢中でクジラ弁当を頬張っていた。

 

「もー! ホシノちゃんばっかりずるい! 私も一口もちょうだい!」

ユメ先輩がクジラの尻尾を狙って箸を伸ばそうとした瞬間、クロコが素早く、かつ無慈悲に弁当箱をガードした。

 

「ん。これはホシノ先輩専用。……女子力の足りない先輩は、あっちでセリカに『失敗しない野菜の切り方』でも教わって」

「ひぃぃん! クロコちゃんまで酷いよぉ!!」

 

結局、勝負は「ホシノの胃袋と愛を完全に掴んだ」クロコの勝利に終わった。

しかし、負けず嫌いに火がついたシロコが、翌朝から「新作のクジラキャラ弁」を毎朝叩きつけ、ホシノが朝から豪華すぎる弁当に嬉しい悲鳴を上げ続けることになるのを、今の彼女はまだ知らない。

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