もしユメ先輩が居なくなった直後のホシノが現代のアビドスに来たら   作:気弱

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アビドス極秘会議:二人の砂狼シロコと、禁断の質量分析

ホシノが「私、ちょっと屋上の様子(昼寝スポットの状況)を見てくるよ〜」と、のんびりした足取りで部室を出てから数分。

 

いつもなら平穏な時間が流れるはずの部室で、銃のメンテナンスキットを広げていたクロコが、金属音を立てて突如その手を止めた。

 

「ん。……私、ずっと気になっていたことがある」

 

その声の低さに、書類を整理していたアヤネが手を止め、眼鏡のブリッジを押し上げた。

「あれ? 今日はクロコさんの方からですか。珍しいですね、どうしたんですか?」

 

「ん。……私は、こことは違う『絶望の未来』から来た。それはみんな、もう受け入れてくれているよね」

クロコが真剣な眼差しで全員を見渡す。セリカもノノミも、突然始まったシリアスな空気に居住まいを正した。

 

「ん。あの時は本当に驚いたけど、今はもう一人の私だと思ってる」

隣に座るシロコが静かに同調する。クロコは一つ頷き、重い唇を開いた。

 

「ん。ありがとう。……それで、ずっと今のホシノ先輩を観察していた。私の知っている『ホシノ先輩』とは、多くが違っている。自分を『おじさん』と呼ぶのは先生の前や茶化す時だけだし、何より、空を見上げてユメ先輩を探すような……あの悲痛な瞳をしていない」

 

「そ、それって、私が今ここに居るから……だよね?」

ユメ先輩がおずおずと尋ねる。自分の不在がもたらした未来の悲劇を断片的に聞くのは、やはり彼女にとっても胸が痛むことだった。

 

「ん。そう。……でも、一つだけ。どうしても納得がいかない『共通点』がある」

クロコの瞳が、獲物を狙うかのように鋭く細められた。

 

「共通点……? 1年生のままの性格とか、そういうこと?」

セリカが不思議そうに首を傾げると、クロコは無慈悲なまでに断言した。

 

「ん。違う。……これだけ環境が改善され、睡眠と栄養が足りているはずなのに、身長と胸の大きさが私の知る未来と寸分違わず『小さい』こと」

 

「「「「!?!?」」」」

 

部室の空気が一瞬で凍りついた。ユメ先輩さえも「えっ、そこ!?」と声を裏返らせる。

 

「ん。……私も同意」

シロコが追い打ちをかけるように、自分の胸元に手を当て、次にホシノが座っていた椅子を冷徹に分析した。

「ん。ホシノ先輩は、私よりも……成長した未来の私(クロコ)と比べても、圧倒的に質量が足りない。……ん。これはもう、ストレスの問題じゃない。アビドスの七不思議。あるいは、神に定められた『仕様(固定済み)』」

 

「ちょ、ちょっとお二人とも!? あまりそういうデリケートな話は……!」

ノノミが慌てて制止に入る。ホシノにとって「発育」の話題は、触れれば即座に砂漠送りにされる禁忌のボタンであることを、彼女たちは身をもって知っているのだ。

 

「ん。大丈夫。……私とシロコなら、もう先輩に後ろを取られない。二人のシロコが揃えば、死角はない。最強」

クロコが立ち上がり、シロコと背中合わせになる。未来と現在、二人の天才的な戦闘能力を持つ狼が揃えば、確かに理論上は無敵に見えた。

 

「ん。先輩は『小さい』。それを認め、受け入れることで、新たな境地が開ける。私たちはただ、真実を——」

 

「…………うへ。真実、ねぇ?」

 

背筋が凍りつくような、甘く低い声が部室に響き渡った。

 

扉の隙間から、ホシノが顔を出していた。いや、顔の半分は影に沈み、露出した片方の瞳だけが、深淵のような冷たい光を放っている。

 

「「「「「ひっ……!?」」」」」

 

「ありゃりゃ。私のいない間に、随分と失礼な『学会発表』が行われていたみたいだねぇ? 二人のシロコちゃん……最強、なんだって?」

 

ホシノがゆっくりと、一歩踏み出す。足音は一切しない。ただ、物理的な圧力が跳ね上がり、アヤネやセリカは呼吸が苦しくなるほどのプレッシャーを感じた。

 

「私の『気にしてること』をバカにしても、二人なら逃げ切れる。……そう言ったのは、どこのどなたかなー?」

 

「ん。……先輩。これは、生物学的な事実の——」

「ん。……客観的な、指摘——」

 

二人のシロコが、本能的な恐怖から銃に手を伸ばそうとした——その瞬間、視界からホシノの姿が消えた。

 

「……甘いよ」

 

「「えっ……!?」」

 

次の瞬間、二人のシロコは自分たちの後頭部に、柔らかい、けれど万力のような強さの手が添えられていることに気づいた。ホシノは二人のシロコの間に音もなく割って入り、そのまま逃さぬように頭をガッチリとホールドしていた。

 

「……質量はなくても、重力はあるんだよ!!」

 

「「ふぎゃっ!?!?」」

 

ドォォォン!! と部室が揺れた。

ホシノはそのまま、抵抗する隙も与えず、二人を部室中央の特大ふかふかソファへと叩きつけた。いや、叩きつけたというよりは、「ソファの隙間に二人を折りたたんで詰め込んだ」という方が正しい。

 

「ん……ぐ……。体が……重い……動かない……」

「ん……。本当に、物理法則……無視してる……」

 

二人のシロコは、ホシノの小柄な体からは想像もできないほどの圧倒的な「重圧」に押さえつけられ、ソファのクッションの間に完全に埋没した。

 

「うへへ〜。最強の狼ちゃんたちも、まだまだ私の本気には勝てなかったねぇ。さーて、二人は私への失礼な発表会をしてたことを反省するまで、このまま『人間クッション』になってもらおうかな♪」

 

ホシノはニコニコと(けれど目は笑わずに)二人の背中の上にどっかりと腰を下ろした。

 

「あははー! ホシノちゃん、やっぱり怒らせると一番怖いねぇ♪ 二人のシロコちゃん、南無南無……」

ユメ先輩がお茶をすすりながら、遠くから哀悼の意を表す。

 

「……ん。まいりました。ホシノ先輩、最大重量……」

「……ん。撤回。先輩は、大きい(威圧感が)。だから、許して……」

 

結局、二人のシロコはその後数時間、ホシノが満足してお昼寝を終えるまで、ソファの一部として機能し続けることを余儀なくされたのである。




シロコ達は反省しない…ホシノなら合気道上手そう
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