もしユメ先輩が居なくなった直後のホシノが現代のアビドスに来たら   作:気弱

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こちらでリメイクは最後になります


嘘と本物、ココアの甘さ (リメイク)

(前回のあらすじ)

ユメと喧嘩した翌日、いつものように登校したホシノを待っていたのは、先輩の姿がない静まり返った部室だった。

一日、また一日と砂漠を彷徨い、心身ともに限界を迎えていたホシノ。しかし、目を覚ますとそこは見知らぬ天井、そして体は二年の歳月を経た「未来の自分」へと変貌していた。

戸惑う彼女の前に現れたのは、見たこともない後輩たちと、大嫌いなはずの「大人」である先生。

現実を拒絶し自室で眠りについたホシノは、夢の中でフワフワと浮かぶ「未来の自分」と対面する。元の世界に戻る鍵は、この時代の仲間たちと過ごす時間の中にあると告げられるが、その真意は語られないまま。

過去から来たホシノは、失われた時間の中で一体何を見つけるのだろうか。

 

---

 

(先生やみんなを信じて)

 

二年前よりも少しだけ砂の堆積が増えた通学路を歩きながら、ホシノは夢の中で出会った「現在の私」が残した言葉を反芻していた。

未だにあれが自分だとは信じられないような、ひどく緩い話し方。けれど、時折見せる真剣な眼光は、確かに鏡で見慣れた自分の仏頂面と同じ鋭さを秘めていた。

 

……まあ、その話も気にはなっていたが、もう一つ、どうしても納得がいかないことがある。

 

(おじさんにも分からないけど)

 

効果音をつけるなら「ほへー」とでも出てきそうな、締まりのない顔で自分を「おじさん」呼ばわりしていた、あの時の自分。セリカが今の私の行動に違和感を覚えるのは当たり前だ。一体、何がきっかけで自分をそんな風に呼ぶようになってしまったのか。

 

気がつくと、昨日案内された教室の目の前まで来ていた。

 

(ふざけるな! 今の私には遊んでいる時間なんてないんだ!)

 

扉に手をかけようとした瞬間、昨日の刺々しい自分の言葉が脳裏をよぎる。

あの「大人」のことは未だに信じられないし、出会ったばかりの後輩たちもまだ信用したわけではない。けれど、あの時最後に彼女たちが浮かべた表情は、本気で私を心配し、裏切りや打算など微塵も感じられないものだった。

あんな風に突き放しておいて、今更「元の世界に戻りたいから手を貸してほしい」なんて、どの面下げて言えばいいのだろうか。

 

「ん、何してるの」

 

「っ!?…た、確か…砂狼シロコ…?」

 

「ん…あってる」

 

扉の前で固まっていたホシノの横に、いつの間にか網を持った砂狼シロコが立っていた。

自分が死に物狂いで研ぎ澄ませてきた危機感知が、この後輩には全く反応しない。それが何よりも驚きだった。というより、なぜ網を持っているのか。

 

「……シロコ、こそ何してるの? みんな、中で会議みたいなことをしてるんじゃ…」

 

「ん、私はホシノ先輩を捕獲しに行ってた。家まで見に行ったけど、多分すれ違い。網、持ってきて正解だった」

 

「そ、そう……」

普段から数多の「危ないやつ」を相手にしてきたホシノだが、シロコにはそれとは別種の「危うさ」を感じる。私を捕まえるために魚用の網を真顔で持ってくるような感性。……よく見ると、網には確かに「川魚用」と書かれたラベルが貼られたままだ。

 

「ん、とりあえず……中に入ろ。みんな待ってる」

 

「で、でも……昨日あんな風に飛び出して行ったのに、今更戻るなんて虫が良すぎるんじゃ……」

 

「誰だって、理解できないことが起きれば混乱する。あれは仕方のないこと。誰も怒ってない」

 

シロコは淡々とした口調で、迷うホシノの背中をそっと押した。

 

「……今度、銀行強盗に付き合ってくれたら助かるけど」

 

「うん……ん?銀行強盗?」

 

「ん、みんな。ホシノ先輩を連れてきたよ」

 

聞き間違いであってほしい言葉を耳にしたが、考える間もなく扉が開かれた。

 

「よ、良かった……! もう来ないんじゃないかって、本当に心配しましたよ~!」

ノノミが駆け寄り、安心したように顔を綻ばせる。

 

「そ、そうよ! またホシノ先輩がどこかへ居なくなるんじゃないかって……!」

セリカも強気な口調を崩さないが、その瞳には明らかな安堵の色があった。

 

「でも、来てくださって嬉しいです、ホシノ先輩!」

アヤネが丁寧にお辞儀をし、その奥で「先生」が穏やかに微笑む。

 

「おかえり、ホシノ」

 

「……ありがと」

 

ぎこちなく、絞り出すような返声。自分がいかに「信じること」に飢えていたかを、その温かな空気の中で思い知らされる。

 

「ん、ホシノ先輩がぎこちなく笑ってる」

シロコがじっとホシノの顔を覗き込む。

 

「あはは……確かに、なんだか初々しいというか、見慣れない笑顔ですね」

ノノミが楽しそうに笑う。

 

「わ、私、そんなに変な笑い方してる……?」

自分の頬をぺたぺたと触り、ホシノは顔を赤らめる。普段から表情が豊かとは言えない自分だが、そこまで指摘されると流石にショックだ。

 

「よし、ホシノも来たことだし……会議を始めよう。題材は、これからどうやってホシノを元の場所へ送り届けるか、だ」

 

「あ、私のセリフ……!」

「ごめん、アヤネ。つい先走りすぎたかな」

「もー!」

ぷんぷんと怒るアヤネに、場が和む。ホシノは少し気恥ずかしくなりながらも、気になっていたことを切り出した。

 

「えっと……昨日は混乱してて、みんなの名前くらいしか聞けなかったから。学年とか役割とか、改めて教えてほしいかな」

 

「そういえば、昨日は本当に簡単な挨拶だけだったもんね」

 

「ん、それなら私から。砂狼シロコ、2年。戦闘と、銀行強盗のプランニング担当」

 

「……やっぱり銀行強盗は聞き間違いじゃなかったんだ。プランニングって……」

 

「ナンバーは2号、コードネームはブルー」

 

「待ってください! お金は盗んでませんし、あれは一回きりのっ、不可抗力なんですから!」

 

セリカが必死にフォローを入れる。どうやら過去に、書類を回収するために銀行の地下金庫を強襲したらしい。……そんな「事情」がある学校、この砂漠のどこにあるというのか。

 

「次は私ですね♪2年の十六夜ノノミです!覆面水着団では3号、クリスティーナだお♣」

「ノノミ先輩までふざけないでください! あと、今その覆面を被らないで!」

どこから取り出したのか、グリーンの覆面を被ってポーズを決めるノノミ。ホシノの胃が、ストレスでキリキリと痛み始めた。

 

「ア、アヤネ……あなたは?」

 

「私は奥空アヤネ、1年の書記です。ちなみに『覆面水着強盗団』という名称は私が名付けました」

 

「……セリカ、あなたはまともだよね?」

 

「……一応、このグループの中では私が一番良心的だと思ってるわ」

 

深く、深いため息を吐き出す。

「ホシノ先輩がこんなに真面目なのは嬉しいけど、なんだか複雑だわ……」と零すセリカの肩を、ホシノは思わず労わるように叩きたくなった。

 

それからホシノは、自分を「先輩」と呼び、敬意を払ってくれる後輩たちに、改めて向き直った。

「シロコ……先輩、とノノミ……先輩。さっきから思っていたんだけど、二人はなんでそんなにノリノリなんですか」

 

「あはは、先輩はなくていいですよー?」

ノノミがニコニコと笑う。

 

「いえ……私はまだ1年ですし、年上の方にはちゃんと、先輩、と言わせてもらいます。それが礼儀ですから」

 

「ん、私は、先輩、って呼ばれたい(ふんす)」

シロコがなぜか鼻息を荒くして頷く。

 

「……でもなぜかな。シロコ先輩、には、先輩、をつけないほうがいい気がしてきた…」

 

「ん!?(ガーン)」

 

「そして、私がシャーレから来た先生だよ」

「あ、はい」

「私だけ冷たくないかい……?」

 

大人は嫌い。特に、こんなに気さくな風を装う大人は、いつ裏切るか分かったものではないから。

 

自己紹介を終えたホシノは、夢の中の「未来の自分」が言っていたことをみんなに伝えた。

「先生やみんなを信じて、ここでやるべきことを学ぶのが近道だ」という不可解な助言を。

 

「んー、ホシノは何を考えてるんだろう」

 

「また厄介事を持ってきましたね……三度目ですよ……」

 

「ん、また独断」

 

「せめて私たちに相談してほしかったですね!」

 

「これは書記に降格のままが良かったのでしょうか……でも生徒会長はしたくないですし……」

 

「……私、3年生になってるのに書記に降格されかけたの?」

 

「ま、まあ色々あったのよ、色々……」

セリカが遠い目をする。

 

「ん、でも一つ分かったことがある。今のホシノ先輩が私たちと仲良くなることが、元の世界に戻る鍵だと思う」

 

「そうだね。でも、シロコたちはともかく、私とも……か」

 

「……」

 

「さ、先は長そうだね、ホシノ」

 

先生を見据えるホシノの視線には、未だに不信感の棘が混じっている。セリカがその様子を心配そうに見守っていた。

結局、どうすれば「仲良くなった」ことになるのか、明確な答えは出なかったが、今日のところは解散することになった。

 

「よし、今日はこれくらいにして。みんなでこの後柴関ラーメンを食べに行くわよ!」

セリカが元気よく提案した。

 

「わー! いいですね! ホシノ先輩……ちょっとややこしいですが、歓迎会として行きましょうよ!」

ノノミが目を輝かせる。

「ん、賛成。ラーメン、食べたい」

 

「えっ、いや、でも……私、お金なんて持ってないし」

 

「いいのよ! 今日は私がみんなの分、奢ってあげるから!」

セリカが胸を叩く。シロコに至っては、見えない尻尾が揺れているのではないかというほど嬉しそうだった。

 

---

 

案内されたのは、砂漠の隅にひっそりと佇む屋台「芝関ラーメン」だった。 漂ってくる濃厚な豚骨の香りに、ホシノの腹虫が盛大に鳴り響く。

 

(ぐううう)

 

「!? ///」

 

「ん、先輩のお腹も『早く食べさせろ』って言ってる」

 

「ち、違いますから! ///」

 

「顔が真っ赤! 可愛いー!」

 

ノノミがすかさずホシノを抱き寄せ、その豊かな胸に顔を埋めさせる。窒息しそうな柔らかさの中で、ホシノは「2年経っても自分の発育が変わっていない」という残酷な現実に打ちのめされた。

 

「お、みんな来たかい。ホシノちゃん、今日はいつも通りでいいのか?」 顔に傷跡のある、柴犬の大将が威勢よく声をかける。

 

「あ、今日はホシノ先輩にメニューを選ばせてあげてください」

 

「ほほう、珍しいな。ホシノちゃん、何にする?」 手渡されたメニューを凝視する。ユメ先輩に付き合って食べるのはいつも質素な食事か、精々ファミレス。屋台のラーメンなんて、今のホシノには宝石箱のように見えた。

 

「そ、それじゃあ……豚骨ラーメン。大盛りで」

 

「……え!? 大盛り!?」 大将の目が飛び出さんばかりに見開かれた。 「あの『おじさんは少なめでいいよー』が口癖のホシノちゃんが、大盛りだって!?」

 

「は、はい……多分、足りないので」

 

戸惑いながらも頷くと、大将は「そうかそうか!」と破顔して腕を振るった。

 

出された器は、まさに「特盛」だった。溢れんばかりのチャーシュー、煮卵が六個、コーンに海苔、メンマ。大将のサービス精神が爆発している。

 

「今日はセリカの奢りだから、そんなに迷惑は……」

 

「いいのよ。大将はね、お腹を空かせた生徒を見捨てるのが嫌いなだけ。余ってた具材を『たまたま』乗せただけなんだから。ね、大将?」

 

「おうよ! 腹が減っては戦も学校もできないからな!」

 

ホシノは割り箸を割り、スープを一口。 「……んんっ!」 濃厚な旨味が五臓六腑に染み渡る。熱々の麺を啜れば、空っぽだった心まで温まっていくようだった。

 

「お、いい食べっぷりだ」 大将の声に顔を上げると、後輩たちがまるで弟や妹を見守るような、慈愛に満ちた目で自分を見ていた。

 

「うっ……の、伸びますよ! みんなも早く食べてください! //」 顔に上る熱を湯気のせいにして、ホシノは再びラーメンに向き直った。

 

その後湯気の向こう側で、セリカはこの店でアルバイトをしていることや、かつて店舗が爆発に巻き込まれた災難など、驚くような話をいくつも聞かせてくれた。あまりにも波瀾万丈な後輩たちの日常に、ホシノはただ圧倒されるばかりだった。

 

「ん、セリカご馳走様。また明日ね」

 

「セリカちゃん、ご馳走様でした! 本当に美味しかったです」

 

「ご馳走様でした〜♪ 今日はとっても贅沢な気分になれました」

 

シロコ、アヤネ、ノノミがそれぞれ満足げに声をかける。

 

「ふふ、気に入ってくれて良かったわ。みんな、また明日ね!」

 

セリカは少し誇らしげに笑い、仲間に手を振った。

ラーメンを食べ終えた一行は、夜の帳が下りた砂漠の街を揃って歩き出す。一人、また一人と角を曲がってそれぞれの帰路に就き、最後に残ったのはホシノとセリカの二人だけだった。

 

「セリカ、今日は本当にありがとうございました。……その、奢ってもらってばかりで」

 

ホシノが少し縮こまりながら礼を言うと、セリカは快活に笑って首を振った。

 

「いいのよ! これから気苦労が増える者同士、仲良くしたいしね」

 

「あはは……私はこれから気苦労が増えることが確定してるんですね」

 

苦笑いするしかない。今日一日接しただけでも、あの個性溢れるメンバーを統率するのは並大抵のことではないと察しがついた。まだ彼女たちのことを深く知っているわけではないが、誰もが何かしらのトラブルを引き寄せそうな危うさを持っている。特に、無表情で銀行強盗を提案してきたシロコ先輩などは、最も警戒すべき筆頭だろう。

 

ホシノが先の多難な日々に頭を悩ませていると、不意に温かいものが手に触れた。セリカが近くの自販機で買ったばかりの、缶入りのココアだった。

 

「え? いいの?」

 

「うん。それに、ちょっとお話したかったしね」

 

「話……?」

 

ホシノは受け取った缶の温もりを掌で確かめた。冷え込む夜の空気の中で、その熱はひどく優しく感じられた。

 

「ホシノ先輩は……先生のこと、正直どう思ってますか?」

 

セリカの問いに、ホシノは視線を落とした。偽らざる本音を吐き出すように、静かに、けれど拒絶を込めた声で答える。

 

「……正直に言えば、嫌いです。私の知る大人はみんな、自分の欲のためなら平気で子供を利用する。いつ裏切られるか、いつ後ろから刺されるか分かったものじゃない。信用なんて、できるはずがないんです」

 

ユメ先輩の顔が脳裏をよぎる。お人好しな彼女は、これまでに何度も悪徳企業の甘い言葉に騙され、詐欺に遭ってきた。そのたびにホシノが血眼になって救い出しに行ったが、助けを求める声そのものが罠だったことなど、アビドスでは日常茶飯事だった。

さっきのラーメン屋の大将のような善意の人もいるのだろう。だが、教育や学校運営に関わる立場の大人が、一切の裏もなく動いているとは到底信じられなかった。

 

「そうよね。私もね、先生が初めてここに来た時は、これっぽっちも信用してなかったし、むしろ大嫌いだったのよ」

 

「セリカが……?」

 

意外な言葉にホシノが顔を上げると、セリカは自嘲気味に笑いながら自身のココアを一口飲んだ。

 

「そうよ。先生は私たちと違って戦う力なんて全くないし、銃弾一発で死んじゃう。それなのに、あの人が指揮を執るだけで私たちの実力は数倍にも伸びる。……それがなんだか、自分たちの意志を乗っ取られるみたいで、無性に気に入らなかったのよね」

 

困ったように笑いかけるセリカの瞳には、かつての自分と同じ拒絶の記憶が宿っていた。同類だったのだ。なら、なぜ。

 

「でも、どうして今はそんなに信じられるの……?」

 

「その後にね……私、ヘルメット団に誘拐されたのよ」

 

「誘拐!?」

 

ホシノの手が、思わず銃のグリップに伸びそうになる。

 

「ええ。下手したら、どこかに売り飛ばされてたかもしれない。本当に危ないところだったの」

 

ヘルメット団。どの時代でも変わらず跳梁跋扈する、野蛮な連中。そんな輩にこの健気な後輩が怖い思いをさせられたのだと思うと、ホシノの内側で静かな怒りが燃え上がった。今すぐ、当時の連中を一人残らず叩き潰してやりたいという衝動に駆られる。

 

「それで……どうなったんですか?」

 

「先生やみんなが、必死になって助けに来てくれたわ。先生なんて、私の携帯のGPSをサーチしてまで居場所を突き止めたんだから。……まあ、若干プライバシー的にどうなのって事案な気もするけどね」

 

「確かに、別の犯罪の香りがしますけど……」

 

「あはは! ちゃんと、あの時だけだって約束させたわよ。でもね、私たちだけじゃ絶対に苦戦したはずの戦車を、先生の的確な指示のおかげで、誰も怪我をすることなく壊滅させることができた。……あれは、信じざるを得なかったわ」

 

ホシノは沈黙した。戦車を無傷で制圧するなど、単なる武勇伝では片付けられない。戦いの本質を理解し、一歩間違えば命を落とす大人が、教え子のために最前線で神経を削った証左だ。

 

「だからね、私が言いたいのは……今は無理でも、少しずつ先生を信じてみてほしいなって。私、何でも疑って、みんなの意見を突っぱねて、結局一人で行動して誘拐されたでしょ? ……あの時のこと、今でも後悔してるし、みんなに申し訳ないと思ってるから」

 

セリカは遠くの夜空を見つめ、寂しげに微笑んだ。

 

「……あ、もうこんな時間! 明日は早朝からバイトもあるし、帰らなきゃ。じゃあね、ホシノ先輩。また明日!」

 

「う、うん……また」

 

小走りに去っていくセリカの背中を見送り、彼女の姿が完全に闇に溶けるまで、ホシノはその場を動けなかった。

「何でも疑って、みんなの意見を突っぱねる」か。

 

(奇跡なんて起きっこないですよ、先輩)

(夢物語もいい加減にしてください!)

 

耳の奥で、かつての自分の叫びがリフレインする。今ならわかる。あれは正しい意見だったかもしれないが、大切な人の心を最も深く傷つける言葉だったのだ。あんな風に突き放さなければ、もっと違う未来があったのではないか。もっとユメ先輩と笑い合って過ごせたのではないか。

 

後悔の重みに足が止まる。ふと、心の中に一つの大きな疑問が浮かび上がった。

 

「……そういえば、聞きそびれてた」

 

今の私(未来の自分)がこんなにたくさんの後輩に囲まれて、楽しそうに笑っているのなら。

なら、ユメ先輩は今、何をしているのだろうか。

 

きっとこの先の未来で、二人は仲直りをして、先輩は今もどのかで「ふわふわ」と笑いながら呑気に過ごしているに違いない。

「今度、みんなに紹介してもらわないとね」

 

そんな微かな希望を胸に、ホシノは冷え始めたココアを飲み干し、帰路へと一歩を踏み出した。

 

(続く)

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