もしユメ先輩が居なくなった直後のホシノが現代のアビドスに来たら   作:気弱

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茜色の境界線、その先にある明日

アビドス高等学校、対策委員会室。

 

放課後の部室には、いつもと変わらない空気が流れていた。窓の外から聞こえる遠い銃声。砂嵐が建物を叩く微かな音。それらすべてが、ホシノにとっては守り抜きたい大切な「日常」の断片だった。

 

「うへぇ……今日も平和だねぇ……」

 

ソファに寝転び、だらしなく手足を伸ばしながら呟く。それは何の意味もない独り言――少なくとも、そう装っていた。

 

「平和ならいいことです。仕事が捗りますから」とアヤネが書類から目を離さずに言い、シロコも「ん。……平和」と小さく頷く。ホシノは曖昧に笑って、シミの浮いた天井を見つめた。

 

(先生、今日は来ないのかなー……)

 

ぽろりと零れたその思考に呼応するように、ドアが開いた。

 

「みんな、お疲れ様」

 

聞き慣れた温かい声。それだけで、ホシノの胸の奥が跳ねた。

「せんせー!」とノノミが明るく手を振り、アヤネが丁寧に頭を下げる。ホシノは一瞬だけ息を止め、何事もなかったかのように笑った。

 

「おつかれ~。相変わらず忙しそうだねぇ」

「うん、少しね。ホシノは……今日もゆっくりしてるかな?」

「うへへ、私はいつも通りだよ~」

 

軽口、冗談。何も変わらないやり取り。けれど、先生がすぐ隣に腰を下ろした瞬間、ホシノの視界がぐっと狭くなった。妙に意識してしまう、肩が触れそうなほどの距離。

やがて、先生が立ち上がる。「じゃあ、今日はここまでにしようか」

 

いつも通りの別れ。ドアが閉まり、足音が遠ざかる。一人になった部室の静寂を噛み締めていたホシノを、かつてないほどの焦燥感が襲った。一人の時間が好きだったはずの自分が、今は猛烈に「独り」を拒んでいた。

 

「……ああ、やっぱり。昨日のは勘違いじゃない」

 

自嘲気味に呟く。私は、先生のことが――好きで好きで、たまらないんだ。

 

気がつくと、ホシノは部室を飛び出していた。夕焼けに染まる廊下を、なりふり構わず駆け抜ける。

 

「先生!」

 

教員室のドアを勢いよく開ける。驚いて振り向く先生の元へ、肩で息をしながら歩み寄った。

 

「ホシノ? どうしたんだい?」

 

「はぁ……はぁ……っ……」

呼吸が荒い。心臓が痛いほどに脈打つ。いつもの自分ならあり得ないほど乱れた鼓動。先生は何も言わず、ホシノが息を整えるのを静かに待ってくれる。その優しさが、今は何よりも苦しく、そして愛おしかった。

 

「先生……あのね……おじさ……わた……し……」

「うん、どうしたんだい」

 

落ち着かせてくれるような穏やかな声。ホシノは拳を握りしめ、真っ直ぐに顔を上げた。

 

「……私、先生のことが好きなの。先生としてじゃなくて……一人の男の人として」

 

言えた。

溢れ出す想いを、堰を切ったように言葉にする。

 

「危ない時、必ず前に出てくれるところ。私が怠けてても、見捨てないでいてくれるところ。……私が私でいていいって、教えてくれた。だから……先生がいないと、もう落ち着かなくなっちゃった」

 

視界が滲んだ。先生は静かに歩み寄り、ホシノを優しく包み込むように抱きしめた。

「……ありがとう、ホシノ。そう思ってくれるのは、正直……すごく嬉しいよ」

 

けれど、先生はホシノの肩に手を置き、少しだけ距離を取った。

「でもね、ホシノ。今の私は、君の先生だ」

 

胸が、きゅっと締め付けられた。拒絶されたと思い、逃げるように視線を逸らしたその時。

 

「ごめん。言葉が足りなかった」

先生が慌ててホシノの手を掴んだ。「ホシノは学生で、私は先生だ。だから――告白の『返事』は、“今は”できない」

 

「……“今は”、ね」

 

ようやく、ホシノの脳が言葉の真意を理解した。顔が火が出るほど赤くなり、羞恥心と安堵が同時に爆発する。

「もー! おじさんの初恋が散ったと思ったじゃん!」

 

ホシノは先生のネクタイを乱暴に掴み、ぐっと自分の方へ引き寄せた。

「それじゃあ……今は、これで勘弁してあげます」

 

背伸びをして、軽く、唇を重ねる。

驚きに目を見開く先生を置き去りにして、ホシノは逃げ出すように教員室を後にした。

 

---

 

翌日。部室のソファで、ホシノは消え入りそうな声で打ち明けた。

「……実は、私。先生のこと、一人の男の人として好きになっちゃったんだよね……」

 

一瞬の静寂。それを打ち破ったのは、仲間のため息だった。

「ん。……バレバレ」とクロコが呆れ、「ん。私でも分かるのに」とシロコが続く。「青春ですね~♪」とノノミが微笑む。

 

「それで!? いつ告白するの!?」と詰め寄るセリカに対し、ホシノは顔を覆って白状した。

「……き、昨日……してきたよ。勢いで、チューまでしちゃった」

 

「「「「「はぁぁぁぁぁっ!?」」」」」

 

全員からの絶叫に近いツッコミが響いた。ホシノは真っ赤な顔で、卒業まで待つ約束をしたことを途切れ途切れに話した。

 

「ん。隙あり。そのまま襲えばよかったのに」「ん。既成事実つくろう。銀行より確実」と物騒なことを囁くシロコとクロコ。「ホ、ホシノちゃんが大人に……っ」と感極まって顔を真っ赤にするユメ先輩。

 

そこへ、何も知らない先生がひょっこりと顔を出した。

「おはよう。なんだか楽しそうだね」

 

その瞬間、全員の視線が鋭い猟犬のように先生に突き刺さった。

 

「あ、先生! 責任取ってくださいよ!」

「先生! 昨日ホシノちゃんに何したんですかー!」

「な!? ホシノ、あれ言っちゃったのかい!?」

 

質問攻めに遭い、助けを求めるように自分を見る先生。ホシノはソファに深く沈み、いたずらっぽく、けれど慈愛に満ちた瞳で静かに微笑んだ。騒がしい、けれど愛おしい、いつもの放課後。

 

その中心で、ホシノの新しい日常は、昨日よりも少しだけ色鮮やかに続いていく




これにてこのお話は完結とさせてもらいます!!今までコメント、お気に入りなどをして下さった方本当にありがとうございます!!

次回何を書こうか迷ってますが
ウマ娘×ホシノのクロスオーバー
ホシノテラーと対策委員会の日常(原作)
先生が大好きすぎるみんな
みたいなのは考えてます
この世界のホシノと先生の続き(未定)
ユメ、クロコを含む対策委員会でのリゾート開発(先生に告白する前のお話)でのドタバダコメディ「この可能性が高い」
のどれかを予定してます

もし、次に出すことがありましたらその時もよろしくお願いします!
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