この話は、第三者……アンジュとヒルダの独房での話になります
なのでほとんど原作通りで最後が少し違うだけなのであしからず…
特に重要な部分でもないのでサラッと書きました
天使と林檎
〈アルゼナル〉へと帰ってきたアンジュは、帰還早々にジルのボディブローで意識を飛ばされ眼を覚ました時には独房の中……
脱走の厳罰はもちろん、仲間からの罵声を浴びせられたアンジュは去っていく仲間を横目に何時までも裸のままでは不味いと安易で陳腐な毛布を体に巻き付け……隣のベッドに横たわる女性に気がついた
「帰ってきてたんだ……貴女も」
「近寄るな!」
「ッ!」
声を掛けて近づこうと腰を上げたアンジュに女性は…ヒルダは停止の声を上げた
アンジュと違い既に服を着込んでいたので独房に入れられたのが今さっきと言う訳でない事がわかるが、顔の所々に痣や擦り傷が浮かび上がっている事実が独房に入れられてたのが最近だと言う事を語っていた
「何を……されたの?」
「……聞く前に自分から話しな」
少なくともヒルダの態度から〈アルゼナル〉で受けた傷でない事がわかり、一安心するアンジュは自身の首に手をやり、おどけながら口を開いた
「死刑……鞭で叩かれて罵声を浴びせられて首をつられた」
「はぁ?なんだよそれ…」
「……それで貴女は?」
質素なベッドに腰を下ろしヒルダに何が起きたのかを訪ねるアンジュ
アンジュ達を〈アルゼナル〉へ送り届けた片方からはミンチにしたとしか聞いていないので詳しい事は知らない
「50人にボコられた。全員再起不能にしてやったけど」
「ふふふ、随分やられたのね?」
「ふん!」
ヒルダの言い様が、アンジュに対抗して盛られている。もしくは本当にあのテロリストが起こしたのか定かではないが、意地を張るヒルダの態度に思わずアンジュから笑みが零れた。その笑みを見て悟られたと感づいたヒルダはバツが悪そうに体を翻し、寝入いるのであった
◆
「やだ…やだ…ママ!」
簡易的な移住スペースしか整えられていない独房では、やる事が限られ睡眠しか選択の余地が無い二人は、まだ早い時間帯だと言うのに床に付いたのだが……魘されるヒルダの声で自身諸共、二人は眼を覚ます事になった
「珍しい、落ち込んでいるの?」
「はっ!………ママも、私を受け入れてくれると思ってた…駄目だった」
最初はいつも通り強気で返事を返すヒルダであったが、ひとつ息をこぼすと膝を抱えながら心の内を語り始めた
「あれがノーマってことなんだ……外の世界に仲間なんていなかったんだ」
今にも泣きそうな声を絞り出していたヒルダは、反転。心底どうにでもなれといった感じにベッドに仰向けになり両手を伸ばした
「あーあ、なんもなくなっちゃったな……金もない部屋もない生きている理由も……いっそ殺してくんないかな?」
「死ぬのは駄目よ」
「流石は元皇女様、言う事が違うね。希望は捨てずにって?」
自暴自棄になり、『死』を望むような事を口にするヒルダにアンジュは強い口調で止めに入った
予想もしない。いや、アンジュなら口にしろうな言葉を聞けたことにヒルダは笑みを浮かべながら体を起こすが……
「匂うでしょ?死んだら。やめてよ、こんな狭い所で」
やはりアンジュはアンジュであったと呆気に取られるのであった
そんなヒルダを尻目にアンジュは淡々と自身の胸の内を語っていった
「希望?そんなもの本気であると思ってるの?……まったくバカバカしくて笑えてくる。偏見と差別に凝り固まった愚民ども……マナが使えない事がそんなにいけないこと…!?」
一旦、区切りをつけて息を整えたアンジュは先程のヒルダと同じように軽い口調でヒルダに言葉をかける
「世界は腐っているわ……壊しちゃおっか、全部」
「全部、って……」
ヒルダ自身もこの腐った世界に対して憎い気持ちはある。しかし、それを晴らす力はない。だが、同じ立場であるアンジュが壊すと口にすると何故だか本当に出来る様な気がして知らず知らずのうちに口が開いていた
「地上まで何千キロあると思ってんだ」
「長距離稼働できる機体を作ればいいじゃない」
「食料どうすんだ」
「魚なら取り放題でしょ?」
「……資材は?」
「なんとかなるわ」
計画性も明確なビジョンもないアンジュの回答に唖然とするが、心の何処かではコイツなら…と思ってしまう自分がいる事をヒルダは否定できないでいた
「私を虐げ、辱め、陥れるしかできない世界なんて、私から拒否してやる」
「なんだそれ」
独房の小さな窓から窺える
「ぶっこわしてやるわ、こんなムカつく世界」
「……いいねぇ。協力してやってもいいよ?」
「そう…なら協力してもらおうかしら?」
「あぁん?随分、素直じゃねぇか?」
「アンタが協力してくれるならアイツも付いてくるわ。……アイツ、テロリスト何でしょ?物資とか食料の問題は解決したようなモノじゃない」
アンジュらしからぬ言い様に首を傾げるヒルダであったがアンジュが口にした人物が誰を示しているのか気付くと顔を伏せながら否定する
「アイツ……アキトの事か?……ダメだよ、アイツは私に協力してくれないさ」
「……え?」
アイツ…アキトとヒルダの関係は既に、わかっていたのだが、思い人を信じれいない様な言葉にアンジュは声にだして驚いた
「アンタには言ってなかったね?アイツ……アキトとは幼馴染なんだよ。賢くて『マナ』の扱いに長けてて凛々しくて……こんな私を『ノーマ』だと差別しない、大切な幼馴染で……私は何度も救われたよ」
「………」
「故郷にはアキトも一緒に行ったんだ……だけど検疫官にボコられ眼が覚めたらここだった。……私、アキトに捨てられたんだよ。……一緒に暮らそうって言ってくれた人に」
「ヒルダ…あんた…」
いまのアンジュは、無性に苦いモノを飲みたくなっていたに違いない
前にテロリストから聞いた言葉と同じ様な言葉が返ってきたのだから……こんなにも自覚なしで通じ合った二人を見ていると無性にイライラとしてくるのだ
「ふん!笑いたかったら笑え「なに惚気てるのよ?やめてよね。…自慢にしかなっていないわよ?」んなっ!てめぇ!話聞いてなかったのかよ!」
そして爆発した
反論してくるヒルダを睨み付けなんで私がこんなことを…と思いながらも。なんで私が人の恋時に口を出さなきゃいけないのよ…と思いながらも言葉を紡ぐのであった
「……今のアンタと同じことをアイツは言っていたわよ?ヒルダは幼馴染で救ってくれた人物だって」
「え!?」
驚くヒルダを尻目にアンジュは手で顔を仰ぎながら自身の推測を口にする
「アイツ……貴女を捨てた訳じゃない、〈アルゼナル〉なら安全だから預けたんじゃないかしら?貴方もパラメイル没収されたんでしょ?」
「あ、あぁ…」
アンジュの迫力に押され、ただ返事しか返す事の出来ないヒルダに更に言葉を投げつける
「出撃しなくていいのならドラゴンと戦って死ぬこともないし、『ノーマ』にとって〈アルゼナル〉は偏見も差別にも合わない安全な場所じゃない」
「………」
「あんた仲間がいないって言っておきながら、貴女の事を思っていてくれる人がいる……生きる意味なんてアイツと探せばいいじゃない」
「アキトが、私を……」
「幼馴染…恋人なんでしょ?アイツの事は貴女が一番知っているんじゃないの?」
アキトの事を知っているのは貴女だと言われヒルダは眼を見開いた
母親の事で頭が回らなくなっていたが、冷静に考えればあの真面目で一途な青年が恋人に何も言わずに別れる筈がないと知っていたのだ
アンジュが言う様に何かしらの理由があって私の目の前に消えた。そして全てが終わったあかつきにはまた私を迎えに来てくれると根拠もなく信じられる気持ちがあったのだ
そう思うと自然と口元が緩んでにやけてしまう。
私はアキトに捨てられていないと信じる事ができるのだから……
「っち!愛しているって言ってたわよ?……愛されてるわね、ヒルダ?」
「なッ!うっせ!……そういう事は本人から直接聞くもんだろ!」
人の惚気は他人を苛立せる。独房と言う小さな空間を強制的に惚気の場に変えられたアンジュは苛立ちを隠しきれずに舌打ちと共に毒を吐いた。……決して哀れな抵抗をしたかった訳ではない
「なら次に会った時に自分で聞きなさいよ」
「~~~ッ!寝る!もう話しかけんな!」
「はいはい……」
アンジュに弄られ顔を真っ赤に染めたヒルダは、これ以上顔を見られまいと毛布に包まりアンジュに背を向けるのであった
背中越しにアンジュのクスクスと言った小さく笑う声が聞こえるのが、無性に腹が立つがこれだけは言っておかなくてはいけない気がして………ヒルダはアンジュに声を掛けた
「なぁ……アンジュ」
「……なによ」
「………………………………ありがとう」
「……それだけ?ならいいわ、おやすみ」
今宵、〈アルゼナル〉の独房で二人の女性が少しだけ仲良くなったのであった