今年もよろしくお願いします
一年と言う時間はあっという間に過ぎていく…
春の生命の息吹を感じ、夏の暑さに汗をかき、秋に実りを味わい、冬の寒さで体を震えさせた。
この世界では前世では失われた『四季』と言うモノを感じる事ができ、僕は心を震わせた事は真新しい出来事だ。…その世に二度目の生をうけて新しく感じる事の出来る体感を大切にしたいと思う……
「休憩終わりッ!休んで体が冷えただろう?マラソンして来い、全力で一周」
「…まだ5分ありますよ。…それに一周ってどこをですか?」
「村だ」
「…reality?」
「MURADA」
「…はぁ~」
ただ付け加えるとしたら『四季』を体感すると同じく、日に日に過酷になっていく『訓練』と言う名の拷問で季節の訪れを感じる様になってしまったのは悲しい事である…
……ヒルダちゃんが連れ去らわれて3年、僕は10回目の冬を味わっていた
クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~
第四話 現実逃亡
「自分がやらないからって無茶ぶりは辞めてほしいよ」
「ふふ…ミルキーウェイ博士らしいわね?」
鬼畜だよ!?冬のマラソン大会から逃亡を計った僕は、潜伏先として選んだのはヒルダちゃん……シュリ―フォークト宅だった
年月は心の傷を癒すのに十分な時間をくれ、まだ表情に影があるけど、僕が訪れると笑顔を浮かべ迎え入れてくれる。…以前に比べ顔色がよくなったおばちゃんに僕も笑顔を浮かべて話し続けた
「友達の話を参考にして作ったって言っているけど…その友達は鬼か化物だね。秋の腹筋祭をやった時なんか一日中起き上がる事も出来なかったよ」
「あらあら…ふふふ…」
そもそも博士に友達なんているのか?『アルゼナル』で働いていたって言うけど、今の堕落した生活を見る限りでは友達のほぼ全員が幻滅するような生活をしているんだぞ?
……きっと友達だと思っていたのは博士だけなんだろうな
若干、いや大いに失礼な事を考えていたらピンポイントで噂の人物からマナ通信がかかってきた
内容は『後10分で帰って来なかったら冬の氷彫刻祭を開催する』―――
……危ない香りしかしない。博士の事だから耐久力をあげる訓練と言い、僕を氷漬けにするんだろうな~
真冬の外で氷に包まれる。……死亡フラグしか存在しないな
結論は早く、博士からのメールを読み終わって直ぐに僕は席を立った
「あらアキト君、トイレ?」
「違います…博士から呼び出しがあって厳守しなくては僕の未来が無いと感じました。なので名残惜しいですが…帰ります」
「そう…また来て頂戴ね?」
「はい、必ず…」
傷ついた心を本当の意味で癒す事は出来ないとわかっているけど、せめて僕が尋ねる事によって塞げる事があるのであれば僕は喜んでシュリ―フォークト宅を訪ねよう……最近では博士からの虐待と言う訓練の避難場所となっているが…そこはギブ&テイクでお願いします
足取り重く帰路につくが、何故だろう?
馴染み深い森を抜けた先には見慣れた我が家と、それと同じ位大きい氷の塊が鎮座しているのは僕の目の錯覚であろうか?
「ん?あぁ、帰って来たか冬の氷彫刻祭を開催するぞ」
「……まだ十分経っていませんよ?」
「私がルールであり時間だ…さぁ始めるぞ!まずは氷を削れ!素手で!」
「……やっぱりフラグだったよ」
風が肌を突き刺す真冬に僕は腕を捲りながらため息を付くのであった
しかし冬の寒さに凍えると言う事は力を貯める事と同義だと僕は考える。次の季節『春』の為に、新たな生命を生み出す力を貯める為に、まさにそれは蕗の薹の様に寒さに耐え春に芽生む、僕も三度の冬を耐え成長し『春』にまた成長する為の力を貯めるのだ
しかし、僕は知らなかった…
生命の息吹と言うモノは時に残酷な程に人を変えてしまう事を……
◆
「博士、ヒルダちゃんの家に行ってくるね」
「うむ、今日の訓練は夕方からだ。遅れないように……なんだ、その花束は?」
もはや恒例になったシュリ―フォークト宅への訪問であったが、今日は一味変わっていた
博士が疑問視にあげていたように僕の手には春ならではの花束が抱えられているのだ
「今日は、おばさんから呼ばれたんだ」
「ほぅ…アキトが勝手に逃げ込んでいるのではなくあちら側からの招待か?」
「逃げ込んでないですよ……かれこれ3年とちょっと通っているけどお呼ばれされるのは初めてだし……昨日のマナ通信で声に張りがあったから良い事でもあったんじゃないかなって」
「ふむ…君の事だ、大方予想は出来ているのではないか?」
試す様な視線を僕に送ってくる博士であるが、博士の言う通り僕にはある程度予想は出来ていた
いくらひさしく付き合っているとはいえ、僕は赤の他人であり町一番の嫌われ者。そんな僕にまで伝えたい朗報とは一つしかないであろう
博士の問に答えないまま、僕は片手をあげて家を後にした
ヒルダちゃんの家まで結構距離があると言うのに僕の気持ちが早っているのかあっという間に家前までたどり着いた
僕の予想が正しければおばさんは、安静にしていた方が良い時期の筈……ちゃんとした知識はないけど〈したて〉の時が一番危ないと聞いた時があるからな
相手の事を考え不謹慎だとは承知しながらも玄関の裏手…テラスの方へ周り、窓を叩いた
事前に訪ねる主旨を伝えていなかったら完璧に不審者なのだが、相手も直ぐに訪問者が僕だと理解し、硝子扉を開け招き入れてくれた
「いらっしゃい、アキト君」
「お邪魔します、おばさん。それとご懐妊おめでとうございます」
招き入れられて直ぐに花束を渡した
愛おしそうに腹部を摩る姿や部屋に置かれた赤ちゃんグッズが最早確定と言っていいほどの証拠になっているだろう
「あら、やっぱり気づいてたのね?うふふ、そうなの」
「立ち話も身体に障ります。お茶は……僕が入れても構わないですか?」
「お客さんに悪いわ……でも、お願いしようかしら?」
「はい、よろこんで」
三年も通っているんだ、お茶の在処や茶菓子の置いてある所なんて既に把握している
ポットに水を入れ、火にかける。お湯が沸くまで少し時間がかかるので、その間に茶菓子を見繕っておこう
「ご主人は…お仕事で?」
「えぇ、生まれてくる子供の為にも働くんだ!って言ってね?夜遅くまで頑張って貰っているわ。……まぁ、私の我が儘を言わせて貰えればもう少し家にいて欲しいのだけど」
「はは、父親の意地っていうものなんじゃないですか?ヒルダちゃんの時もそうだったんでしょ?」
「え、えぇ…そう、ね」
ん?どうも歯切れが悪いな?
……仕方ないのか?いまから10年前の事だから記憶が曖昧なのかも知れないし、言ってはなんだがおばさんは高齢出産になる。いくら見た目が若くても二度目の出産に不安があるんだろう
「不安、はありますよね?でも大丈夫ですよ。またヒルダちゃんみたいな元気なお子さんを生む事が出来ますよ」
「ッ!」
「……おばさん?」
……なぜ今のタイミングで驚くんだ?
僕は純粋に励ましているだけだと言うのに…どうも嫌な予感がする…
僕の言葉に口を閉ざしてしまったおばさんであったg、お湯が沸いた事を知らせる音が彼女の口を開かせた
「アキト君…お湯、沸いたわよ?」
「え、あぁ、はい。」
おばさんに言われるがまま、カップを温める為にお湯を注ぎこむ
そして、少なくなったお湯に水を入れ再度、火にかけた
「ねぇ、アキト君…」
「はい」
「……ヒルダの事は忘れましょう」
「…………え」
いま…なんて…?
「主人とも話した事なの。ヒルダはいない、生れてもいない―――違うわね、いま
愛おしそうに膨らんだ腹部に声を掛けながら撫でるおばさんが、悪鬼のように見えた
ヒルダちゃんがいない?そんな…そんな事を考えていいモノなのか!?
「お、おばさん、何を言っているんだよ!?ヒルダちゃんは!ヒルダちゃんは貴女の娘だろ!」
「違うわ!私の娘はこの子だけよ!」
「そんな事あるかッ!貴女がヒルダちゃんを「アキト君!」ッ!」
再びお湯が沸いた音が部屋に鳴り響くが、今はそんな事に構っていられるほど僕は余裕がなかった
「私を…私達を…あの悪夢から解放させてよ…もうあんな事が起きるのは嫌なの」
「………」
「そ、そうよ!アキト君には生れてくるヒルダのお兄ちゃんになって欲しいわ!この子もきっとお兄ちゃんを欲しがるわ!なんならこの子とけっ「黙れッ!」あ、アキト君?」
もう感情を抑える事は出来なかった
おばさん……彼女が言うにはヒルダちゃんと言う人物を無かった事にしとって言う事だ
一緒に『おとぎ話』を話した事もアップルパイを食べた事も、収穫祭を楽しんだ事も……守るって約束した事も!
そんな…そんな事出来る筈がないだろうッ!
「……火、止めておきます。冷めない内に飲んでください」
「…アキト君?」
「それと…今までありがとうございました。もう…訪ねる事は無いと思います」
「アキト君!?」
「元気なお子さんを産んでくださいね?…サヨナラ」
「アキト君!」
彼女に呼ばれている事など無視し、僕はシュリ―フォークト宅を後にした
楽しい事や嬉しい事、一緒にいられる幸せを沢山くれた居場所を僕は捨てたのだ
それが、自己勝手で迷惑な行為だと言う事は重々承知しているが、もう……『至福な時』を味わう事の出来た、あの頃には戻れないと現実を突きつけられているようで心が苦しかった……
「なんで…なんで、わかってくれないのよ……アキト、くん」
最近やっと作者は『ネギま』を全巻買い直しました
これでネギまが書ける!