次回からドラゴンやノーマ、アルセナルの事も交えて書いていきます
ただ、表記にR指定を付けるかもしれません
2月26日…雪が降り積もり町を白に染めたこの日を俺は忘れる事はないであろう…
何せこの日は、僕の誕生日であり、
クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~
第五話 『
シュリ―フォークト宅と決別して二年の月日が流れた……
だが、僕の日常に劇的な変化など生れはしなかった。あったとすれば博士の訓練を前よりも真面目に…真剣に取り組むようになった位だろうか?
町人との交流は、生活を維持する最低限なモノで止められ一日の大半を訓練…人を効率良く殺す事を考えながら過ごしている
案の上、以前より殺気たつようになった僕を町人はより一層不気味に思い、町にはいない存在だと暗黙の了解ができるほど浮いた存在に位置付けられてしまった
特に町人に思い入れがある訳ではないが、食料の調達や生活必需品の購入を博士に任せる事になってしまった事だけが心苦しくはある
……だけど、それも後5年
5年後には『ホワイト・リリウム』は完成し、僕の復讐は始まる
博士と共にヒルダちゃんを連れ去り、世界を歪ませた人間に復讐をするのだ
その為の準備は着々と出来上がってきている
セーフティーハウス、武器や燃料の購入ルート、そして『アルセナル』の特定位置
全てが順調に進んでいると言うのに―――
「キャンプ、ですか?」
「あぁ、山籠もりとも言ってもよいがな?」
なぜ今この時期に娯楽を楽しむ必要があるのであろうか!?
顔を歪めながら博士に事の真相を聞き出そうと視線を送るが、帰ってきたのは呆れきった目とタメ息のみであった
「そう不機嫌になるな。今が大事な時期だとは私ですらわかっているさ」
「…ならなんで?」
「良くも悪くも君は目立ち過ぎた。…政府の人間に噂が漏れたのさ」
「……噂?」
『悪魔付き』の事か?…でもそんなオカルトな戯言を政府の人間が真面目に信じる訳でもないし、ここ数年『マナ』は極力使用していないから『マナの扱いが長ける』ことも漏れてはいない筈だけど……
首を傾げながら、博士に目で訴えかけるが又もやタメ息をつかれてしまった
「……この村は殺人鬼を育てている」
「…………はぁ!?」
どういう噂だよ、それ!?
まだ殺してもいないし、そもそも何で僕だと認定されているんだよ!
「たぶん、村の悪餓鬼共の仕業だね?アンタがマネキン人形でサブミッションの練習している所を見られたんだろう」
「……それでも子供の悪戯だろ?」
「アンタの普段の行いを振り返って見ろ。唯一付き合いのあったシュリ―フォークトと縁を切ったんだ。……不気味悪い子供を疑う気持ちが生まれても問題はないだろう」
「うっ!」
た、確かに以前に増して憎悪に満ちた視線を送られるようになったけど、まさかここまで思われるようになったなんて予想外だ
「人気者はつらいねぇ~?」
「…百歩譲って山籠もりする事は理解した。でも博士はどうするんだ?言わば博士は殺人鬼の親だろ?」
博士も一緒に籠るのか?と疑問に浮かんだが、そんな考えは博士の言葉により否定された
「君は馬鹿か?証言をする人間まで消えたら捜索されるだろう。……私は可愛い甥っ子の
「か、可愛いとか気持ち悪い事を言うなよ!」
「照れているのかい?はは!年甲斐もないねぇ~?」
「う、うるさい!明日は早朝から出た方がいいんだろ!僕は寝るぞ!」
「そうだね、そうしろ。…荷造りは私がやっておいてやろう。今後に備えてたっぷりと寝るがいいさ」
「ふん!」
悪態をつきながら、階段の手摺に手をかける
慣れ久しんだモノで灯りが無くとも手摺をたどれば寝室に付く事などわかりきっているのだ
「……おやすみ、博士」
「律儀だねぇ~?おやすみ、アキト」
引き取ってくれてから変わる事のない挨拶は、いつもと同じように返される
そんな当たり前の事が、これからもずっと続く…失ったモノは多くあるがこれだけは変わらないと信じていた
「……精一杯、生きるんだよ。アキト」
そう、信じていたんだ………
◆
「ここで、一泊か……まさに山籠もりだね」
360度、見渡す限り緑のカーテンで埋め尽くされていた
やたら重い荷物のせいで到着は夕方になると思っていたが、早朝に家を出た事が幸いして昼前には、目的の場所へと着く事ができた
博士が言うには荷物にはダンベルや重りなど、筋力トレーニングに必要なモノが入っているそうなので、道中最中でもトレーニングして時間を有効に使えと言う事なのであろうな
………親心ならぬ博士心に僕は涙が出そうです
「って寒ッ!」
心で涙を流していた僕に冬の寒波が突き刺さり、身を震えさせた
「…夕方には雪が降るな。早めにベースキャンプを作っていた方がいいだろう」
思ったら直ぐに実行!
のんきに準備をして雪が積もる中、テントなんて張りたくもないからな~
持ってきた荷物からテントの骨を取り出し組み立てていく。
事前に博士から作り方を教わっていたので何の苦も無く、組み上げる事ができ、あとはフライシートを被せるだけになったんだが……ここで一つの疑問が生まれた
「……一泊の筈なのに荷物多過ぎだよな?」
一泊し直ぐに下山する予定だと言うのに詰められていた荷物は、一泊どころか一週間はゆうに過ごせるほどのものであった
食料や着替えが多く詰められている事は、十分に理解は出来る
トレーニングの効率を考え、汗で濡れた衣服は病気の元になってしまうし、食料も食べ盛りの事や筋肉を作るのに必要なモノだと理解できるが……量が多すぎる
一つの疑問は更なる疑問を生み、『ダンベル』と書かれた箱を開ける事にした
望みたくはないが…俺の予想が正しければ、この箱の中に『ダンベル』は入っていないだろう………そしてそれが意味する事は―――
「ッ!?……やっぱり」
箱の中に詰められていたのは『ダンベル』ではなく、金塊や重火器、弾薬等といったこれからの生活に必要なモノであった
「重火器等はわかる。一般人が持っていたら怪しまれるモノだからな。しかし、この金塊やキャッシュカードはどう見ても山篭りには必要いものだろう。なぜこんなモノが……ッ!?」
俺の脳裏に悪い予感が走った
今回の案件は、政府の人間が僕と言う人間を確認しにくると言うモノだ
だと言うのに、僕は町から離れ山の中に避難している……今更だが可笑しな話だ
証拠も何もないと言うのに、ただの子供を逮捕や連行するなどありえない。もし、噂を間に受けたモノであれば保護者を含め、子供と一緒に厳重注意するはずだ!
なのに僕をあの家から出した理由……それが僕ではなく、博士にあるとすればッ!
僕は荷物を置き去りにして、走り出した
こんな山の中、よほどのモノ好きでない限り入って来ないと言う事もあったが、
行きと違い背負う荷物が無くなった分、身軽に動く事が出来るが今はもっと速く、もっと速くと焦る気持ちが僕の足を更に速めていた
思い返せば、思い当たる節は前からあった
博士は昨日、僕の事を『守る』と言っていた。本来、そこで言う言葉は『守る』ではなく『証明』や『無実』等といった身の潔白を表す言葉だと言うのに博士はあえて『守る』と言った
それから連想される事など『最初から攻撃の意思がある』と言う事だ!
そして、博士の前職は隔離した島の軍事兵器の技師。
いくら田舎の町だとしても『マナ』と言う万能な情報端末が発展している世界において、情報が全く上がらない事など、国や政府にとってトップシークレットな存在!
……その情報を持った人間を生かしていいモノなのか?…糞ッ!
吐き出す吐息は白に染まり、手先や頬は冷たくなっていく。口も乾き、額からは大量の汗が滲み出て来ていた。それだけでは終わらず腕や足の至る所に赤い液体が滲み出ており、枝や葉で切った事を物語っていた
だが、その事実が僕は、全力で山を下りきった事を伝えてくれる
先程まで感じなかった痛みに耐えながら博士の所を目指す……
この先の橋を渡れば…この先の林を抜ければ……
やっとの思いで、ログハウスの面影が見える所まで辿り着き博士の安否を確認しようとしたが――――
「ッ!」
息を飲んだ
朝までは変わりない姿をしていたログハウスが、今ではガラスが割れ、所々破損している事が遠目から見てわかるほど破壊されていたのだ
焦る気持ちを必死に押さえつけながら、家に駆けより玄関扉を蹴り破った
「なっ!?」
悪い予感は的中してしまった
なんとか役割を果たしている扉を蹴破った先には、血液と白濁液で体を染める博士が裸で倒れていたのだ
「は、博士っ!」
服に液体が着く事など気にしていられないとばかりに、博士を抱きかかえた
辛うじて息はあるが、腹部から溢れ出る大量の血液が一刻の猶予が無い事を語りかけている。そして同じく性行為特有の臭いと液体が激しい怒りと悲しみを湧きあがらせて、僕の顔をくしゃくしゃに変化させたが―――
「ふ、どうしたアキト?…泣きそうな顔をして…男前な面が台無しだよ?」
博士は、そっと僕の頬に手を添えて笑みを浮かべてきたのだ
僕は博士の手を握りしめた、なるべく平然を保とうとするが、虫が囁く程度の声しかでなかった
「…やっぱり嘘だったんだね、僕を巻き込ませない為の」
「ふふ、気付いたか……ミスルギ皇国…いや、どこの国かわからないが私の研究を邪険にしたらしいな?マナ信仰の妨げになると判断したんだろう」
「なんなんだよそれ……そんな勝手なことが…」
思わず顔を伏せてしまった
…博士は何も悪い事なんてしてはいない……むしろ、世界がより過ごしやすい世界になる為に尽力していたと言うのにあんまりじゃないか…
「もとよりいつかは狙われる命だとわかっていたさ。まぁ…あいつ等の玩具にされたのは腹が立つがねぇ」
本当にその事だけが許せないのか、苦虫を潰した様な顔をして僕が握る手とは反対の白濁液がこびれ着いた手を睨み付けていた
「……病院に行こう、まだ助かる」
「無駄さ、血を流し過ぎてしまっている」
「…なら俺が治すっ!『マナ』のひかっ!?」
ここ数年の鍛錬のおかげで『マナ』の扱いは最早、国一番。博士からは世界最強とまで言われている。…無くなった血液は増やす事は出来ないけど、傷を治せばもう減る事はない!
後は、輸血でもなんでも血液を増やす事さえ出来れば!
僕は一筋の希望を辿り寄せる為、博士の腹部に『マナ』を集中させようとしたが、博士の手によって治癒の手を遮られてしまった
「なんで止めるんだよ!?」
「プライドの問題さ。もし生き延びられたとしても奴らに凌辱された事実は変わらない。……奴らに遊ばれたこの体で、のうのう生きる事を許せないのさ、私は」
プライド。
そんな自尊心なんて捨てて、『生きたい』と言って欲しかった
博士ともっと一緒にエネルギー研究をしたいし、訓練もしたい。もっと一緒に議論を交わしたいし、一緒にヒルダちゃんを助けにも行きたいッ!
……僕はもっと博士と一緒に生きたかった。だけど、博士の意思は変わる事はないだろう
始めて『幸福』と感じられるモノを与えてくれた恩師が『逝ってしまう』と思うと、自然と僕の瞳から一筋の雫が流れ落ち、博士の頬を濡らした
「はは、私の為に泣いてくれるのかい?嬉しいねェ…そうだ、欲しいモノがあるんだがいいかい?」
「ッ!あぁ!なんでも言ってくれ!直ぐに持ってくる!」
暴漢のせいでズタボロにされた室内だが、きっと見つけてみせる!
そう意気込み一歩踏み出そうとしたが、またもや博士の手によって遮られてしまった
僕の顔は不思議さでいっぱいになって情けない顔になっているんだろうな、それが証拠に博士の顔は満面の笑みを浮かべているのだから
「すぐそこにあるさ」
「えっ?ど、どこに?」
「そこさ、そこ」
辺りを見渡すが、博士が欲しがるようなモノは転がっていなかった
まだ気付かないのか、とこぼす博士に申し訳なくなったが、見当たらないモノは見当たらない。体を動かすのはキツイとは思うが、博士が欲しいモノを指差して貰う事にしたが……
「…え?」
博士の指は真っ直ぐに僕に向いていた
「アンタの童貞をくれないか?」
思考が停止した。
博士が何を言っているのかわからなかった。僕に博士を抱けと?残りわずかな命の博士を、親同然だとも思っている博士を性の対象として抱けと?いや、無理でしょ!
………僕は生まれて初めて怪我人を殴りたいと思った
そんな僕の気持ちに博士も気付いたのか、苦笑いと共に訂正を入れてきたが、どっちにしろ僕の思考を停止させるものであった
「別に性行為をしろっと言っている訳ではない。…アキト、君の殺人童貞をくれと言っているんだ」
「ッ!?」
「アンタは
……最後の最後まで博士節は健在か。
大量殺人を偉大な功績ってどう考えても可笑しいだろう
「偉大なる殺人鬼、いやテロリストか?…まぁ、どちらでもいいか。その偉人が最初に手にかけたのは私、『ツキヨ・ミルキーウェイ』だった。だが、忘れてはならない。彼の行動は『愛』があるが故の行動だったと言う事に…」
「…なんだよ、それ」
「アンタの物語の序曲さ………さぁ、やってくれ」
徐に僕は握っていた博士の手を放し、そのまま首元へ持っていき幼い子供が出せるであろう最大の力で首元を占めた
「う、が…くっ……ッ!………」
だが、子供が全力で首を絞めた所で成人した大人の息の根を止めるのには時間がかかる
最初は、うめき声をあげていた博士であったが、漏れる声を聴くたびに顔が崩れる僕を見てからは逆に声を殺そうと、自分で呼吸を止めて僕の『初めて』の手助けすらしてくれた
…本人が望んだから殺す。そこに『愛』があるのか?と聞かれればYESとも言えるしNOとも言えない微妙な答えが出てくると僕は思う
例えば体が動かず『死』を待つだけの人を哀れに思い殺す
例えば死んだ恋人に会う為に殺してくれと言われ殺す
二つとも人を『愛』しているからこその行動だが、果たしてそれは本当の『愛』なのか?
『死』を待つ人間は実は、自分の寿命が尽きる前に治療の兆しが表れるのを望んでいたのかもしれない。殺してくれと言われた人間は、実は殺人対象に恋焦がれていたのかもしれない
一方的な『愛』や片思いの『愛』は時に、『呪』となって残された人間に残り続けるだろう
そして博士も同じだ
殺してくれと僕に頼んだのは、僕を『愛』しているからだろう
僕の宿命を理解し、過酷な道しか歩むことしかできない僕を『愛』し支え育て、命の灯が尽きる今この瞬間ですら力を添えてくれている
彼女に育てられ『愛』して接してくれる暖かな気持ちを言葉で言い表すなら『幸福な時間』といえるだろう。…初めての感情、初めて味わう気持ち、とても嫌いになれない全てを包んでくれるモノであった
しかし…デミウルダスは言っていた。僕に『幸福』などはないと…
ならば、この『幸福』ではない『愛』は何と表せばいいのだろうか?
『幸福』がない『愛』それは即ち―――
ふっと顔を上げれば、博士は閉じていく瞼とは別に声無く、口が動いている
なにか最後に伝えたいのか、何を言いたいのか見逃さないと必死に読み取る
ツキヨ・ミルキーウェイが最後に残した言葉は……
『アキト…大好きだったよ…ありが――――』
「ッ!うぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
コクリと横に倒れる博士の頭が彼女の『死』を伝えてくる
そして、その瞬間―――『幸福ない愛』は『呪』へと変化した
屍へとなった恩師を抱きしめながら俺は天に向かって叫ぶ
彼女が『呪』をくれた事により俺は本当の意味で、自分の使命を実感する事が出来たのだ
「我が主であるデミウルゴスッ!僕は…俺は力を求めるっ!この腐った世界を!破壊する力を俺にくれぇ!」
ヒルダを救う時には何にも起きなかった呼びかけだが、今度は違った。
激しい地響きと共に床が崩れ、地下から一機のロボットが這い上がってきたのだ
全長8m級の白く分厚い装甲を身にまとったパラメイル。
生前、博士が完成までに5年の月日がかかると言っていた機体が何事も無いように起動し僕を見下ろしていた
名前は確か……
「…ホワイト・リリウム」
『我が眷属にして愚かな人間よ』
「ッ!?」
無機質なロボットから前世で聞いた事のある、あの重く威厳を感じさせる声が聴覚を刺激する
「……デミウルダス、なのか?」
『是。契約に基づき貴公に力を授けよう。だが、『力』に似合うだけの『贄』を我に寄越すのだ』
贄
前世で世界を救う為にも必要だったモノ。前世では333の男と333の女の血が必要であったけど、今回はそんなモノを用意している時間なんてない。だとしたら、俺が捧げられる最大なモノを捧げるしか『力』を得る事は出来ないだろう
俺が捧げられる最大なモノ…この世界で俺の一番のモノは―――
「―――をくれてやる」
『……』
「俺はッ!
この世界にとって『マナ』は最大の財産であり、『マナ』を持たないモノは『ノーマ』と言う化け物の扱いを受けてしまう。だからこそ!俺は『マナ』を捧げる
人から化け物に落ちようとも俺には成し遂げなくてはならない事があるのだから!
俺の言葉に答える様にホワイト・リリウムの目が赤く光る。……一瞬の眩暈と脱力感から足元がふらつくが俺は倒れる訳にはいかない!
足に喝を入れホワイト・リリウムを睨み付けた
『…確かに受け取った。貴公は人間ではなくなった。が、多大なる力を得た』
再びホワイト・リリウムの目が発光する。しかし、眩暈や脱力感に襲われる事はなかった
だが、心の隅に鍵をかけられた様な薄い束縛感を感じられ、そして目の前に佇むホワイト・リリウムに変化が現れ始めたのだ
「色が…黒く…」
白い絵の具に異色を入れ色に変化を与えるが如く、純白は段々と堕ちていき全身を漆黒のボディに染め上げたのだ
『貴公と虚ろな機械人形に我が力を与えん。貴公が機械人形と一つになる事で、かの人形は『機神』へと昇格する』
言う事はもうないとばかりに、無人である筈の『パラメイル』が、膝を折り俺と目が合うように屈んだ
侵食前と変わらない赤い眼はガラス玉の様に澄んでいたが、その瞳の奥には前世で契約したデミウルゴスがありのままの姿で此方を見つめ――
『我が眷属よ。我に命を捧げるのだ!』
―――と伝えてきている様であった
「あぁ、わかっている。666666の命だけじゃなく世界そのものをお前に貢いでやるさ!」
俺の言葉に応じる様にコックピットがある胸部が解放される。俺は迷う事なく搭乗し『パラメイル』の心臓に本当の意味で命を埋め込んでいく
見慣れない装置や操縦席に戸惑うと思っていたが…この『パラメイル』の動かし方や最善の戦闘方法がコイツを最初から知っていたのかの様に理解できる。…これがデミウルダスの言っていた『力』なのか?
イメージに浮かんだ手つきで動力やスラスターを確認していく
博士は未完と言っていたが、デミウルダスの『力』を宿した事によりシステム全てが『オールグリーン』、問題などないとばかりに開戦の時を今かと待ち続けていた
「…これが俺の宿命。今日から始まるんだ俺の…ッ!?」
いざ、動力に火を灯し飛び立とうと操縦桿に触れようとしたが、隣に置かれた綺麗にラッピングされた箱に目が言ってしまう
なんてことのない普通の箱、悪魔に身を売った俺にはもはや何の興味も惹かれるモノではないはずなのだが……
『Happy Birthday to Akito』
箱に添えられたカードが俺の手を、心を止めた
焦る気持ちを落ち着かせながら箱に手を伸ばし、丁寧に包みを剥し箱を開ける
箱の中には二通の手紙と一本の煙管と煙草の葉が納められていた
「……12の子供に煙管とか流石だよ、博士」
意図無く地面に寝かせた博士をメインモニターに映しだす
これが最後…この地を飛び立った時、俺は殺人鬼として完全に己が心に仮面を被るだろう…だから―――
「今までありがとうございました。貴女から貰った『呪』は決して忘れません。俺はこれから外道に堕ちます。人から軽蔑され恐怖され憎悪にされるかもしれませんが…俺が死んだ時、貴女だけは笑顔で迎えてください」
―――最後の『弱み』を吐かせてください
「…………」
操縦桿を握る。伝わってくる機械特有の冷たさが俺の中にも浸透してくるようであった
「……ホワイト・リリウム。いや、違うな」
機体色も黒に変わりホワイトとは言えない、それに俺には『白百合』は似合わない
俺に似合うのは―――
「…ブラック・サレナ、行くぞっ!」
―――『黒百合』だろう
今宵、悪魔と契約しせし復讐者が『愛』と『呪い』を冠する『機神』を翔り世界へと戦火を広げるため、飛び立つのであった