少し過激な表現がありますのでご注意を…
『アキトへ
アンタがこの手紙を読んでいるって事は、私は殺されて一人でホワイト・リリウムを完成させたってことだろ?…おめでとう君の物語は今この瞬間から始まる
一緒に世界をかき回す事が出来ないのはちょっち面白くはないが……まぁ、許そう
私はね、常々夢で見ていたんだ。世界の恐怖の象徴とされたアキトとそれを傍らで支えるヒルダ譲。私は……その後ろでアンタ達二人の子供を抱く叔母さんさ
だけどそれは夢でしかなかった訳だ。…ただこれは私の夢だ
未来予想図の一片であってアンタの夢ではない
アンタが作り描く夢がどんなモノか地獄で楽しみにしているよ
信愛なる伯母 ツキヨ・ミルキーウェイ
PS 色々と用意したから感謝して敬って使え』
「……色々って気が早すぎるよ、博士」
手紙から眼を放し室内を見渡す
見た目から高級感が溢れ出ているベビーベッドにベビーカー、部屋中を埋め尽くすほどの人形やベビー商品が所狭しと置かれていた
「…博士って親ば、いや違うな。伯母馬鹿だったんだな」
共に過ごして数年…博士の変わった一面が顧みる事ができる部屋であった
俺はいずれ使うか判らない部屋の鍵を閉め煙管に火を入れた
前世でも吸う事のなかったモノであり、博士が良く吸っていたモノと言う事もあり興味はあった
特有の臭いと煙が口の中を侵食し、肺まで至る…
「ゲホッゲホッ!……あ~、なににせよ…ありがたく使わせてもらうよ」
慣れない煙に咽てしまうが、吸う事は辞めなかった
クロスアンジュ天使と竜の輪舞 ~黒百合~
第六話 殺戮武道劇
博士が残して行ったモノは多く、セーフティハウスを始め、ベビー商品は…いらないが、莫大な資金のほか、ブラック・サレナの弾薬や燃料、対人戦に必要な武器と仕入れ先…そして人脈を残してくれていた
ベビー商品は兎も角、人脈は助かる
今、セーフティハウスにあるモノでも数年は戦っていけるが、いずれ底を尽きる
その時、補給先を作れていなければ戦いにすらならないのだからな
煙管を吹かしながらザッと人脈リストを眺める
武器商人や殺し屋、情報屋にベビーシッター等あらゆる人脈の連絡先が書かれており、博士の人付き合いの良さを確認しているようであったが……気になる単語がチラホラと書かれていた
「ヴィルキスの武器師…ヴィルキスの盾…ヴィルキスの旗…いったいヴィルキスってなんだよ」
ヴィルキス……
武器や燃料などの消耗品を扱う商人の横には決まって『ヴィルキスの~』と言う言葉が添えられているのだ
「ヴィルキス……リストから想像するに機動兵器の一種だと推測ができる。しかし、俺のテロリズムにどう使えと?」
博士が残して行ったモノだが、どうも信用ならない。
もしかしたら俺と同じく『世界を壊す事』を目的として作られた集団の隠語なのかもしれないが、極力関わらない方がいいだろう…
「そういえば博士も『ヴィルキスの甲冑師』だったな。差し詰め俺は二代目『ヴィルキスの甲冑師』か……くだらん、手を貸しこっちの尻尾を掴まれたりしたらたまったものではないしな」
博士には悪いが、俺の夢は俺で描かせてもらう
誰にどう言われようが、俺が成すべきことはただ一つ……世界に復讐するだけさ
「そう言う訳だから諦めてくれよ、アレクトラ」
リストにヴィルキスと赤く記載された文字を見るからに彼女が鍵を握っているのは容易にわかる。俺は煙管から火種を取り出すと『アレクトラ』の連絡先だと思われる端末番号を燃やし尽くしたのであった
「これでいい。後は命が続く限り、生命を狩り取り世界を崩壊させるのみ。だが、最初の目標は決めさせて貰おう」
部屋の壁に掲げられた世界地図に俺はナイフを投げさした
「エンデラント連合…貴様が生み出した世界恐怖……特と味わうがいいさ」
俺は黒のバイザーとマントを纏い、博士の遺産であるブラック・サレナに乗り込むのであった
◆
―――半年後
エンデラント連合に悲報が流れるようになった
検疫官の詰所が連続してテロの標的になっていると言うモノであった
死亡者は半年で150人を超え、殺害方法も多種多様……
詰所事態を爆破される事もあれば、拳銃だと思われるモノで一人一人、頭を撃ち抜かれるものまであった。もっとも酷いモノでは四肢を切り落とされ、更には性器具を切り落とす拷問と言うべきモノまで受けた死体もあった
当初、犯人は直ぐに捕まると思われていたが半年の間、犯行が行われていると言うのに犯人の尻尾を掴む事が出来ないでいた。身体的特徴も判明している、と言うのにだ
十代前半の全身黒を纏った男―――とある村で『悪魔』と呼ばれていた少年、アキト・ミルキーウェイだと
しかし、ここまでの情報がありながら明確な手掛かりは掴めないでいた
彼の両親や仲の良かった人物、さらには町人全員に事情聴取しても帰ってくる言葉はみんな同じで―――
『アキトたる人物は知らない。記憶にない』
と言うモノであり、町で何か決め事をしていたかのように、全ての人が首を横に振る姿は災いの手がコチラヘ向くのを恐れているかのようであった
証拠は、『マナ』の力で動く防犯カメラが捉えた機体的に拷問を繰り返す漆黒の殺人鬼の姿と何故か置き捨てられる黒百合の花のみ
顔写真も声も捉える事の出来ない不自然さは、次第に彼が本当の悪魔だと言われるようになっていき……ついには―――
――――黒百合の悪魔
とまで呼ばれるようになったのであった
◆
―――辺境の検疫官詰所
取りあえず『ノーマ』の捕獲を優先にと作られた小さな詰所に3人の大人が何かを恐れるかのように身を震えさせていた
「おいおい、ジャック、マイケル、キース。何をそんなに震えてんだよ?」
「今は夏ですよ?いくら雨が降っていようと、その顔の白さは以上です」
同僚の検疫官が3人に声をかけるが、3人からの返答はなかった
「もしかして黒百合の野郎に殺された元同僚の事を思ってんのか?」
黒百合……その言葉に3人はぎょっと表情を変え、目玉がくり出るほど目を見開き辺りを警戒し始めたのだ
「確か……ジョセフ支部長にシロウ検疫官視、後はロイスさんでしたよね?」
「そうだな。……ジョセフは子供が生まれたばかりだと言うのに気の毒だったな」
しみじみと昔の同僚の事を思いだす二人と違って、3人は気が気ではなかった
そんな3人の様子に、呆れたとばかりにタメ息をこぼすが、震える3人の内の一人、ジョージがやっとの思いで口を開いた
「……俺達は怒らせてはいけないモノを怒らせてしまったんだ。ただ言われた通り殺害だけしていれば良かったんだ」
殺害と言う言葉に、眉を顰める二人であったが、心当たりがあるのか直ぐに表情が元に戻った
「あれですか?先輩達が左官される原因になった『ノーマ』の過剰暴行についてですか?」
「おいおい、それこそ正当防衛だろ?俺はお前達の上司として、あの判定だって納得いかないんだぞ!」
「連行に反抗した『ノーマ』が暴走、止む負えなくその場で排除した。……確かに正当防衛に適ってますよね?」
全くだ!と言わんばかりに首を縦に振る上司を尻目にジョージは言葉を続ける
「そ、それは違う…抵抗はされたが、俺達は『ノーマ遊び』をしちまったんだ」
「「ッ!?」」
『ノーマ遊び』と聞いて二人の表情は、今度は戻らなかった
「あの…『ノーマ遊び』って抵抗する『ノーマ』を屈服させる為の行為の一つで……ようは強姦ですよね?」
「あ、あぁ…俺もジョセフもシロウもロイスも!そこにいる二人だってヤリまくった!……それがいけなかったんだ。素直に連行しておけば…」
「せ、先輩……」
裏で行われていた事実に、軽蔑の目を向けようとした後輩であったが、そんな暗い雰囲気を払拭させるかのように上司の笑い声が鳴り響いた
「はははっ!若気の至りってやつだな!『ノーマ遊び』?上等だよ!実は言えなかったが俺の童貞は『ノーマ』で卒業したんだぜ!むしろ、『ノーマ』と言う存在が俺の役に立った事に感謝すべきだぜ!」
あっけらかんと暴露話を披露した上司に、部屋にいた5人は呆れ口をあけてしまった
「世界に『ノーマ』だと言う存在は居てはならないんだよ!それが『人間様』の役に立っただけだ!虫けら以下の存在をどう扱おうがしったこっちゃねぇ!なんなら今から『ノーマ遊び』でもしに行くか?……ルル、お前たしか童貞だったよな?卒業式といこうぜ!」
「なっ!なんで知っているんで―――『Prrrrrr Prrrrrr』――――もう!こちら第3検疫官詰所です。――――はい、場所は?―――人数は?―――年齢は?―――わかりました。直ぐに向かいます」
話の腰を折るようにかかって来たマナ通信に5人は常時置かれた拳銃と検棒に手を伸ばし電話の内容に耳を傾けた
「…ルル、『ノーマ』か?」
「はい、3丁目のパン屋からで20代前半の女型の『ノーマ』が周囲を徘徊しているそうです!」
「はっ!本当に卒業式になりそうだな!最近溜まっていたんだ!張り切って行く――ガハッ!?」ドサッ…
「せ、先輩!―――バァンッ!!!………」ドサッ…
いざ、出動の為に扉を開場した上司の背から一瞬、一本の刃が飛び出すと瞬く間の内に消え、血を吹き出しながら倒れ崩れた
何が起こったのか解らないのまま、崩れ落ちた上司に近づこうとしたルルは、激しい発砲音を最後に上司と同じく崩れ落ちこの世を去ったのであった
わずか10秒も経たない間に起った出来事に3人は、身を固まらせたが、外の暗闇から突如現れた黒づくめの男に腰を抜かしてしまう
目元を隠す黒いバイザー、黒いマントで身を包み、どこかあの村で見た少年の面影を映し出す姿、そう……危惧していたモノが自身の命を狩りにきたのだ
「く、く、く、黒百合の―――バァン!!バァン!!……え?」
自分の顔に降りかかる血吹雪を不思議に思い顔を横に向けると先程まで一緒に震えていた2人の頭に風穴が空いており、力なく倒れ伏していたのだ
「ジョージ・トリトンだな?貴様の命を狩らせてもらう」
「な、な、なに―――バァン!!ぐあぁぁぁぁぁ!」
言葉を遮る様に撃たれた鉛玉はジョージの手に突き刺さり持っていた拳銃ごと撃ち抜いた
「貴様で最後だ。思う存分、撃たせてもらう」
「お、俺は悪く 「黙れ」ッ!マナの光よ!ッ!?うがぁぁぁ!」
撃ち抜かれた手を必死に抑えながら、免罪を問うジョージ。しかし、復讐者は耳を傾けないまま足に銃口を向けた
これ以上の苦痛は避けたい、必死の思いで『マナの障壁』を展開するが、ガラスが割れる様な音と共に鉛玉はジョージの足を貫いた
「な、なんで!?」
足を撃たれ崩れ落ちるジョージの髪を掴み、表を上げさせジョージに拳銃を見せる復讐者
「コイツの弾は特別性でな?俺の血が塗られている。コイツの前では『マナの加護』など紙に等しい」
「ッ!?」
ありえない事実に痛みを忘れ、驚きを露わにするが復讐者の返答は拳銃による頭部の殴打であった
「グガァッ!?」
「普通の『ノーマ』の血では意味がない。いや、まだ生きている『ノーマ』の生血なら効果はあるかもしれないが……まぁ、今から死ぬお前には関係ない事だな」
陸にあげられた魚の如く、ビタビタとのた打ち回るジョージに復讐者は冷たい視線を送りながらジョージに問う
「貴様は、博士に何発打ち込んだ?」
「ぐぇぇはぁはぁ…う、撃ったのはジョセフだ!俺じゃ―――バァンッ!!ぎゃぁぁぁ!」
「鉛玉じゃねぇよ。テメェの汚い白い種の方だよ」
「ッ!?」
「……博士と同じように液体塗れにさせてもらうぞ?赤い液体の、な?」
「~~~ッ!!!」
降り注ぐ雨は室内で行われている残酷な出来事の音や悲鳴を全てかき消し、周辺の建物にその事実を隠ぺいした
長く長く…雨は降り注ぎ、あがることなく降り注いだ
そして雨が止んだ翌日の朝、詰所から一つの影が出てくる
「……7時間と42分、結構粘った方だな。でも、これで私怨で命を狩るのは終わりだ」
そう呟くと復讐者は誰に見られる事無く、その場から消え去ったのであった
後日、連絡が途絶えた事を不思議に思った同僚が訪ねた際、真っ赤に染められた室内に横たわる肉片の上に黒百合が置かれているのを発見するのであった
今回は必要だった話なのでクロスアンジュはあまり関係ないです
次回から原作と絡んでいきます