AllyMyGO!!!!!!   作:猫七瀬猫八

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独白、燈

石をさがしてた。

いつものところ。植え込みのちかく。

ここは、音がたくさんある。車の音。足の音。話し声。

でも、石を見てると、音が遠くなる。

光だけが、近い。

 

小さい石を、ひとつ。

指でつまむ。つめたい。

でも、つめたいのがいい。

つめたさが、ちゃんとあるから。

 

ひかるやつ。

黒いの。白いの。

ちょっと緑っぽいの。

並べる。

ならべると、落ちつく。

落ちつくと、息ができる。

 

……そのとき、声がした。

 

「なにしてるの?」

 

声が、まっすぐ。

でも、こわくない。

大きくない。

せかされない。

 

わたしは、すぐ言葉が出ない。

言葉は、出す前に、形を作らないといけない。

形ができないまま出すと、ぼろぼろになる。

だから、少しだけ待つ。

 

「……石が、綺麗だから……あつめてる」

 

言った。

言えた。

それだけで、ちょっと疲れる。

でも、相手は変な顔をしなかった。

やわらかな言葉。

笑わなかった。

「へんな趣味」って言わなかった。

 

しゃがんでくれた。

目の高さが、近くなった。

近いのに、こわくない。

 

「どれが一番好き?」

 

好き。

その言葉が、嬉しかった。

"好き"って聞かれることが、あまりない。

わたしの"好き"は、いつも小さくて、細かくて、説明がむずかしいから。

聞かれても、うまく言えなくて、だんだん言わなくなる。

 

でも今日は、聞かれた。

ちゃんと、待ってくれる。

 

わたしは、指を出した。

緑っぽいの。

ひかり方がやさしい石。

 

「素敵なセンスね、光できらめいて綺麗だわ」

 

……綺麗。

わたしが、綺麗って思ったものを、同じように"綺麗"って言った。

胸の中が、すーっとした。

水で洗ったみたいに、変なざらざらが消えた。

 

(……あ、いま、いっしょ)

 

そんなふうに思った。

石を見てる時間が、ひとりじゃなくなった。

わたしの手の中が、わたしだけの世界じゃなくなった。

 

名前を聞かれた。

名前を言った。

たかまつ、ともり。

 

相手は、びっくりした顔をしなかった。

でも、ちょっとだけ、息が止まったみたいだった。

そのあと、ちゃんと笑ってくれた。

 

「燈って呼んでいい?」

 

呼んでいい。

呼んでほしい、って思った。

でもそれを言うと、重いかもしれない。

だから、ちいさく。

 

「……うん」

 

「石集めるの、楽しい?」

 

楽しい。

楽しい。

ほんとうに。

 

でも、ひとりだと、ちょっと。

ちょっとだけ、むずかしい。

たのしいのに、苦しい。

たのしいほど、ひとりが分かる。

 

「……たのしい。……でも、ひとりだと、ちょっと……」

 

言ったら、胸がきゅっとなった。

言ってしまった。

言ってしまったのに、相手は困らなかった。

いやな顔をしなかった。

「そっか」って言ってくれた。

その"そっか"が、やさしかった。

 

立ち上がる。

帰るんだ、ってわかった。

 

本当は、言いたかった。

"帰らないで"って。

でも、それは言えない。

こわい。

言ったら、嫌われるかもしれない。

困らせるかもしれない。

そう思うと、言葉が出ない。

 

だから、別の言葉を待った。

 

「また、ここで石集めてる?」

 

"また"。

また、って言った。

また、って。

 

約束みたいで、約束じゃない。

でも、わたしには、約束みたいに聞こえた。

 

「……たぶん」

 

たぶん。

たぶんは、逃げ道。

逃げ道がないと、言葉がこわれる。

だから、たぶん。

 

「じゃあ、またね。燈」

 

「……またね」

 

言えた。

言えたのに、胸が熱い。

熱いのが、こわい。

でも、いやじゃない。

 

相手が歩き出す。

背中が遠くなる。

 

わたしの指先が、ちょっとだけ浮いた。

手をふる、まではできない。

でも、何かをしたかった。

"いまのは夢じゃない"って、確かめたかった。

 

ひとりになる。

でも、さっきまでのひとりと違う。

 

石を、掌でころがす。

さっき選んだ緑の石。

ひかり方が、やさしい。

 

(……つぎ、ほかのも、見せたい)

 

そう思った。

だれかに、見せたいって思った。

 

(……わたし、友だち、できたのかもしれない)

 

友だち。

深い、とか、浅い、とか。

よく分からない。

でも、わたしが宝物にしてたもの、宝物みたいに扱ってくれた。

 

それだけで、胸の中が洗われた。

街の音が、少しやわらかくなった。

 

帰り道。

わたしは石を落とさないように、掌をぎゅっとした。

 

ぎゅっとすると、安心した。

手の中に、今日のことが残ってるみたいだった。

 

(……また、会えるかな)

 

たぶん。

うん。

たぶん、会える。

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