石をさがしてた。
いつものところ。植え込みのちかく。
ここは、音がたくさんある。車の音。足の音。話し声。
でも、石を見てると、音が遠くなる。
光だけが、近い。
小さい石を、ひとつ。
指でつまむ。つめたい。
でも、つめたいのがいい。
つめたさが、ちゃんとあるから。
ひかるやつ。
黒いの。白いの。
ちょっと緑っぽいの。
並べる。
ならべると、落ちつく。
落ちつくと、息ができる。
……そのとき、声がした。
「なにしてるの?」
声が、まっすぐ。
でも、こわくない。
大きくない。
せかされない。
わたしは、すぐ言葉が出ない。
言葉は、出す前に、形を作らないといけない。
形ができないまま出すと、ぼろぼろになる。
だから、少しだけ待つ。
「……石が、綺麗だから……あつめてる」
言った。
言えた。
それだけで、ちょっと疲れる。
でも、相手は変な顔をしなかった。
やわらかな言葉。
笑わなかった。
「へんな趣味」って言わなかった。
しゃがんでくれた。
目の高さが、近くなった。
近いのに、こわくない。
「どれが一番好き?」
好き。
その言葉が、嬉しかった。
"好き"って聞かれることが、あまりない。
わたしの"好き"は、いつも小さくて、細かくて、説明がむずかしいから。
聞かれても、うまく言えなくて、だんだん言わなくなる。
でも今日は、聞かれた。
ちゃんと、待ってくれる。
わたしは、指を出した。
緑っぽいの。
ひかり方がやさしい石。
「素敵なセンスね、光できらめいて綺麗だわ」
……綺麗。
わたしが、綺麗って思ったものを、同じように"綺麗"って言った。
胸の中が、すーっとした。
水で洗ったみたいに、変なざらざらが消えた。
(……あ、いま、いっしょ)
そんなふうに思った。
石を見てる時間が、ひとりじゃなくなった。
わたしの手の中が、わたしだけの世界じゃなくなった。
名前を聞かれた。
名前を言った。
たかまつ、ともり。
相手は、びっくりした顔をしなかった。
でも、ちょっとだけ、息が止まったみたいだった。
そのあと、ちゃんと笑ってくれた。
「燈って呼んでいい?」
呼んでいい。
呼んでほしい、って思った。
でもそれを言うと、重いかもしれない。
だから、ちいさく。
「……うん」
「石集めるの、楽しい?」
楽しい。
楽しい。
ほんとうに。
でも、ひとりだと、ちょっと。
ちょっとだけ、むずかしい。
たのしいのに、苦しい。
たのしいほど、ひとりが分かる。
「……たのしい。……でも、ひとりだと、ちょっと……」
言ったら、胸がきゅっとなった。
言ってしまった。
言ってしまったのに、相手は困らなかった。
いやな顔をしなかった。
「そっか」って言ってくれた。
その"そっか"が、やさしかった。
立ち上がる。
帰るんだ、ってわかった。
本当は、言いたかった。
"帰らないで"って。
でも、それは言えない。
こわい。
言ったら、嫌われるかもしれない。
困らせるかもしれない。
そう思うと、言葉が出ない。
だから、別の言葉を待った。
「また、ここで石集めてる?」
"また"。
また、って言った。
また、って。
約束みたいで、約束じゃない。
でも、わたしには、約束みたいに聞こえた。
「……たぶん」
たぶん。
たぶんは、逃げ道。
逃げ道がないと、言葉がこわれる。
だから、たぶん。
「じゃあ、またね。燈」
「……またね」
言えた。
言えたのに、胸が熱い。
熱いのが、こわい。
でも、いやじゃない。
相手が歩き出す。
背中が遠くなる。
わたしの指先が、ちょっとだけ浮いた。
手をふる、まではできない。
でも、何かをしたかった。
"いまのは夢じゃない"って、確かめたかった。
ひとりになる。
でも、さっきまでのひとりと違う。
石を、掌でころがす。
さっき選んだ緑の石。
ひかり方が、やさしい。
(……つぎ、ほかのも、見せたい)
そう思った。
だれかに、見せたいって思った。
(……わたし、友だち、できたのかもしれない)
友だち。
深い、とか、浅い、とか。
よく分からない。
でも、わたしが宝物にしてたもの、宝物みたいに扱ってくれた。
それだけで、胸の中が洗われた。
街の音が、少しやわらかくなった。
帰り道。
わたしは石を落とさないように、掌をぎゅっとした。
ぎゅっとすると、安心した。
手の中に、今日のことが残ってるみたいだった。
(……また、会えるかな)
たぶん。
うん。
たぶん、会える。