旧時代の『異能』は現代の『普通』足るか? 作:しらおりんりん
波紋が広がった個性把握テストを終えた次の日、正人は今日のイベントは何かと期待に胸を膨らませて登校した。だが、午前は率直にいうと普通の学校生活だった。授業を受ける。学食をクラスメイトと駄弁りながら食べる。何のイベントもない午前だった。
雄英といってもヒーロー要素を抜いたらただの偏差値の高い高校なのだ。イベントも毎日起こるわけないし、毎日もあったら疲れるだけだろう。波風の立たない平穏な生活。そういえば、午後の授業は何だったか。置き勉派の正人は何も調べず基本スカスカの鞄を持って登校するため、時間割など把握していない。
ギチギチの机の中を漁るのは嫌だったため、教室に掲示されている時間割を見にいった。そこには『ヒーロー基礎学』と書かれているが、ふと他の曜日はと確認すると同様に午後は全てヒーロー基礎学であった。
「毎日あるじゃん、イベント」
「わーたーしーがー!! 普通にドアからきうおお! 真田少年! チャイムはなっているぞ!」
「あ、すみません」
何も考えていないツケが回ってきて、教室にやってきた先生に正人は素直に頭を下げ謝罪した。頭を上げた目線の先には筋骨隆々の平和の象徴が立っていた。
あのNo.1ヒーローが本当に教師をやっているという事実にクラスは大いに沸いていた。といっても、正人に驚きはない。個性把握テストの時にこちらの様子……特に緑谷を伺っているのに気づいていたからだ。スタスタと自身の席に着席すると、横の席の上鳴が話しかけてきた。
「真田、全然ビックリしてねーじゃん。オールマイトだぜ!?」
「まー確かに凄いな雄英とは思ったけど、非現実感はないなぁ。知ってたから」
「俺は知ってたけど超驚いちまったよ! 真田って結構クールなんだな」
「いやいや、僕は胸の内に熱いパトスを宿してる男だぜ?」
「ホントかよー?」
「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!」
「らしいよ。そこで魅せてあげるよ」
「おーハードル上げるねえ! 楽しみにしてるぜ」
「さぁ! そしてこれが君たちの個性届と要望に沿って作られた
「「「おおおおー!!」」」
クラスメイトは自分専用のコスチュームを身に纏い、自覚する。あぁ、俺たちはヒーローになりにきたんだと。本格的なヒーロー科のスタートに興奮を隠せていないクラスメイト達。それは正人にとっても例外ではない……理由は戦闘訓練が始まるためであるが。
そんな正人もクラスメイトに倣って着替え始めるが、コスチュームの入った箱から出したのはなんと黒の学ランであった。
黒一色の学生服で、首元まできっちり閉じる立ち襟。左胸の金属のボタン一つで腰あたりまでの短めの丈の上着を閉じている。ズボンは細身で、全体的に無駄のない直線的なシルエットをしている……と、一見ただの学ランだが、これは昔存在した呪術師養成学校の制服を模したものである。
本当は自身の術式を鑑みて露出の多い服装が良かったのだが、当主、総司、戴華が絶対これがいいと譲らなかったためこうなった。ただそのままだと自身の身体を変容させた時破けてしまうため、腕から肩、脚から腰、脇腹にボタンで開閉可能なスリットを入れている。
そして、仕上げに首飾りにつけているヘアゴムで後ろ髪を結ぶ。それが正人のコスチュームであった。着替え終わった正人は、同じ時間に着替え終わった緑谷、砂糖と一緒にグラウンドへ向かう。
「真田のコスチュームって中学の時の学ランなのか?」
「いや? 全然違うけど」
「じゃあ何でそれにしたんだ?」
「家族の熱烈な勧めで、かな。でもちゃんと考えてあるよ。ほら、ここにスリット入ってるでしょ」
「真田くんの個性って確か自身の身体を変えることだよね……そうか! スリットを入れることで鋭いものや大きなものに作り替えた時コスチュームが破けることを防いでいるのか! しかも例えば腕なら袖口から肩まで入ってるってことは作り替える部位に制限はないってことなのかな確かに個性把握テスト時は大砲のような砲身に作り替えていたし何かを放出して飛んでいたから邪魔になるのを防いでいるのかあとは髪型も変わってるよねもしかしてまだ何か意図がヘアゴムに秘密が」
「緑谷ー、帰ってこーい」
「よく見てるね。正人ちゃんお口あんぐり。でももう着くからそこまで、ね」
「ご、ごめん!」
「(緑谷くん、個性把握テストの時は結構余裕ないと思ってたけど、よく観察してるなぁ。ずっと視てきたのがわかる。身体付きから努力もしているみたいだね。でも、それだけに個性の制御ができていない歪さが目立つ……君はいったい、何を隠している?)」
「お喋りはここまで! さあ!! 始めようか有精卵共!!!」