旧時代の『異能』は現代の『普通』足るか?   作:しらおりんりん

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遅刻はまずいでしょう。常識的に考えて

「はっ、はっ、はっ」

 

 どれくらい走っているだろうか。既に喉は水を求め、脚は休息を、肺も限界と訴えている。本当なら母の車に乗せてもらい、余裕を持って目的地に辿り着けるはずだった。昨日のショッピングモールで起こった突発的ママ友会で何軒もハシゴした後、ショッピングモールに車を回収しに戻っていれば。

 ごめーん! と謝る母を背に走り、最寄り駅の改札にICカードをタッチしたところまでも良かった。昨日前祝いとかで中学の同級生とゲームセンターで散財したあと、ちゃんとカードにお金を入れていれば。

 今更家に戻ろうとも、最寄駅から家までは結構ある。今日はついてない日だと割り切り目的地まで走ることにしたことが地獄の始まりだった。

 

「はっ、はっ、はぁっ! やばい! 遅れちゃう!」

 

 遅刻。どのシーンにおいても大体は許されず、ペナルティが課される行為。今回の場合、遅刻の原因が寝坊のため許されない側であることは確定している。

 そして、そのペナルティはシチュエーションによっては未来を決定づけてしまう。一分、いや一秒の差で自身の未来が大きく変わってしまう。今日という日はその最たるものであった。

 

「間に、合うかな!? 入試!」

 

 そう、この遅刻しそうな男、真田正人(さなだ まさひと)は高校入試に遅刻しかけている。しかもその高校は倍率300倍、偏差値79を超える超エリート校、そしてなによりプロヒーローへの1番の道とも言われる雄英高校だ。恐らく遅刻したらその時点で不合格だろう。焦る正人は大通りを駆ける。

 

「遅刻は、まずいでしょう、常識的に、考えて!」

 

 朝の通勤ラッシュ帯。近くに駅はないものの、それなりに栄えているここは出社途中の社会人が大勢いる。彼らの邪魔に、自分の邪魔にならないようにルート取りをして抜きさっていく。

 

「あとっ、5分……無理だっ! こうなったら!」

 

 このままでは間に合わないことを悟った正人は裏路地に入り、誰もいないことを確認すると一気にビルの上へと駆け上がる。宙に身体を晒した時には、正仁の腕と足が()()()()()()()()()()()()()()

 

「いけっ!」

 

 正人が叫ぶのと同時に、四肢の大砲から何かが発射される。ビームのように持続的に放たれるエネルギーは、正仁の身体を中空に飛ばした。ビームは出力を上げ、どんどん加速していく。

 正面に目的地である雄英高校をぼんやりとだが確認できた正人は間に合う、そう確信した。その瞬間、視界の端、ほんの一瞬だが正人の目ら道路に泣きそうな男の子を同時に捉えた。

 見間違いを疑うことすらせず、正人は両腕を正面に向け減速、エネルギー量を調節しながらそのまま男の子の目の前に降り立った。

 

「わわっ! なにっ!」

「いきなり上からでびっくりしたかな? どうしたの?」

「ぼ、ぼーるが……ぼくのボールがぁ……」

 

 今にも泣き出しそうな声を出しながら、男の子は車道を指差す。車道の中央分離帯の植え込みに男の子のものだと思われるボールが引っかかっていた。それを確認した正人はちょっと待ってて、と声をかけながら地面を指で触れる。瞬間、ぽん、という音とともに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。立ち上がった正人はしっかりと掴むと男の子に渡した。

 

「それじゃ、気をつけてね。おにーさん、ちょっと急いでるからこれで!」

 

 そういって正人は一目散に試験会場へ走り出す。今の行為で少なくない人目を引いてしまっているため、裏路地に入りまた飛ぶとなると目撃される可能性がある。

 遅刻、という言葉が正人の脳裏を再びよぎったが、仮に試験を受けられず不合格になったとしても、正人は後悔しないだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()ことはできるのだから。が、それはそれとして遅刻はまずいなと思い直し、さらにギアを上げた。

 

「へぇ……」

 

 そんな彼の様子を、偶然にも、同じ方向に向かっている黒塗りの車両から誰かが見ていた。

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