旧時代の『異能』は現代の『普通』足るか? 作:しらおりんりん
1/6 技にダブルクォーテーション
既に待機している他受験生にバレないように、そっと溶け込むように参加できた正人は、改めて試験会場を見る。具体的な大きさわからないがら試験会場の外であること、ここからでは両端が見えないことを踏まえ一つ分はあるかもしれない、それくらい大きな試験会場であった。
会場内はそれこそ現代の街といった風貌で、雑多な建物がひしめくコンクリートジャングルであった。周りで雑談をしている競争相手もこの試験会場に驚いているようだ。だが、そんな雄英のトンデモさを味わい気圧されている人はいない。むしろ自身の力を魅せてやるというものばかりだ。
「(ワクワク半分、ドキドキ半分かな)」
正人はあくまで冷静に周囲の様子を伺っていたが、内心は冷静とは真逆の感情を抱いていた。一方はこの状況で笑みを浮かべている
正人はヒーローになる上で、訓練相手である祖父と事前に話し合っていた。
「爺ちゃん、知られないことが人助けに繋がるってどういうこと?」
「ふむ、それは具体例を挙げて説明した方がいいな。エンデヴァーなんかがいい例だろう。彼が凶悪な敵の対峙した際、民衆は何を思うかわかるか?」
「エンデヴァー来た! これで勝つる!」
「そうだな。その確信はどこから来た?」
「そりゃ今までの実績じゃない?」
「それも正解。だが、もう一つある。象徴となる必殺技の存在だ」
「あー、なるほど。確かに、"赫灼熱拳"が出たら勝ちだと思うね。つまりそういう必殺技を編み出せってこと? でも最初の知られないことが〜ってやつに矛盾してるよね」
「要点はそこだ。確かに、象徴となる必殺技は必要だ。だが、知られているということは対策もされるということだ。プロヒーローは活動範囲を決めていると聞く。対策してどうにかなるレベルのプロヒーローであれば、悪事における弊害はなくなるようなものだ。だから実力を隠すことも必要だと俺は思う。学生のうちは何事も全力でとはいうが、学生のうちでこそ秘めていれば誰にも知られない。そのことが活きる場面もあるだろう」
「……うん、わかった。しばらくは身体強化だけで様子見ようかな」
「まぁ、それで今度の実技試験落ちたら元の子もないがな」
「それはそう。やばそうだったら全然
自身に宿る力の使い方を教えてくれた祖父との会話を思い出していると、周りが焦ったように走り出していた。
どうやら思い出に浸っている間に試験は開始したようだ。開始の合図が小さすぎると思ったが、考えているとますます遅れをとってしまう。せっかくのチャンスを不意にするわけにはいかない、と心の中で呟き、ぱしんと両頬を手のひらで打ち意識を切り替える。
「よし、やるか」
呼吸を整え、意識を内側に向ける。全身にエネルギー……
幾度も行った訓練のおかげで、淀みなく呪力が全身に行き渡り、正人の身体の強度を一段階引き上げる。とはいえ、出力は抑えている。祖父との約束どおり、どのくらいの制限で戦うかを見極める必要があるからだ。
身体強化を終えた正人は走り出すと、地面を踏みしめた感触がわずかに変わる。意識していなければ、ただ運動能力が高いだけに見える程度だ。
「……これくらいで、やっていこうか」
視線を巡らせる。遠くで瓦礫が崩れる音がした。すでに誰かが仮想敵と交戦しているのだろう。それに遅れまいと、正人も駆け出していった。