旧時代の『異能』は現代の『普通』足るか? 作:しらおりんりん
呪力で強化した拳で仮想敵の関節部を殴りつける。接触した部位から仮想敵はひしゃげ、数発も喰らうと行動不能になる。1ptの仮想敵はこんなものかと安堵する。
ちなみに仮想敵のポイント量は、周囲の競争相手が破壊するたびにポイントを叫んでいたので1から3ポイントだと把握している。ひとまずの余裕を持った正人は、疾走と破壊を繰り返しながら周囲を見やる。
「(なるほど……ばらつきはあるけど、自信がある理由はわかる)」
流石最高峰、というのが素直な感想だった。試験開始直後焦っていた彼らも、今や己が個性を振り回して仮想敵を行動不能にしている。単純にパワー、溶解、接着……多種多様な個性が、ばらつきはあるものの想定以上の水準で繰り出されている。
そのなかで正仁の目に止まったのは、ぽっちゃり体型の男が持つ個性だった。
「(特に彼。仮想敵がおかしな挙動してるよ。爺ちゃんに聞いた"
"逕庭拳"とは昔、とある呪力を扱うもの──呪術師が使用したといわれる技術である。肉体が生み出す衝撃と呪力が生み出す衝撃のタイミングが一致せず、ワンテンポ遅れて発生するというものである。喰らったものは一回の打撃で二重の衝撃を味わうという。
"逕庭拳"を扱った呪術師は素の身体能力でも増強型個性に勝てるだとか、打撃のスピードが早すぎて呪力がついていけないことによる副産物だとか、本当か嘘かわからない噂が経っていたらしい。
正人の祖父、総司も正人の曽祖母から教えられ、曽祖母も噂程度だったらしいため真偽は定かではない。
閑話休題。
正人の目線の先にはぽっちゃりとした受験者が恐らく3ptの仮想敵に相対していた。多脚多腕であっただろうその仮想敵は残すところ腕一本のみとなっている。仮想敵最後の抵抗を見切り接近した彼は関節を殴り一拍、先ほどより強力な衝撃が仮想敵を襲った。耐えきれなかったのか仮想敵は最後の腕に別れを告げ、自身も活動を停止した。
彼に注目していたが、他の受験者も見たことない個性を惜しみなく披露し、仮想敵を行動不能にしていく。正人は子どものように目を輝かせ、仮想敵を倒すのも忘れ周りをつぶさに観察している。
「ははっ、インスピレーションがどんどん湧いてくる。楽しすぎて、杉になっちゃいそう」
新鮮なインスピレーションは自身の術式にも関係するため、正人は高揚を隠せずにいた。そんな様子の正人を咎めに推定3ptの大型仮想敵が襲いかかる。
腕が鉄球、脚は六角形のキャタピラとなっており、自身を回転させながら突撃してくる。遠心力によって鉄球も速度と威力を増加させているのに加え、鉄球は上下に揺れ動いている。当たればひとたまりもないが、追いつかれれば無慈悲の鉄球が
だが、正人はそれを一瞥すると、呪力で瞬間強化した脚で難なく仮想敵の懐に飛び込む。分厚い装甲に指を2本押し当て、自身の持つ生得術式、その一端を解放する。
「"変幻自在"」
瞬間、電池が切れたかのように仮想敵は動きを停止させた。停止後も慣性で振り回されていた鉄球も地面に落ち、応答しない鉄屑に成り果てた。
「あ、術式使っちゃった。見られてないかな」
さっそく祖父との取り決めを破ってしまい途方に暮れそうになるが、今は人目につきたくないため全力でその場から離れる。裏路地を経由して別区画まで来た正人は、先ほどの失態を忘れることにして再び仮想敵へ立ち向かった。
正人の持つ生得術式、『変容』。その効果は、触れた対象の姿形の変容である。
自身を思い描く姿に変容させる『千変万化』、無機物を思い描く物に変容させる『変幻自在』。いずれもどんな物にでも変容させることができる強力な術式であるが想像力と物質の構成理解が大事であり、完璧なイメージでないとただの観賞用レプリカとなってしまう。
今回使用した変幻自在では、基盤の形を変容させるだけで想像力も何もいらなかったが。