ただ推しを救うために紡ぐ糸   作:ティファールは邪道

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プロローグ:突然の拡声器

参京院教育学園中等部…放課後の教室

 

西日が窓から差し込み、オレンジ色の光が生徒たちの机を照らしている。野球部の練習の声が、遠くから聞こえてくる

 

「っつーか、最近なんか面白い映画観たか…?」

 

「ん~?どうした突然?」

 

隣の席の健太が、スマホでゲームをしながら気怠げに尋ねてきた。

 

主人公である悠人(ゆうと)は、窓の外を眺めていた視線を健太に戻す

 

「いやさ?最近映画みてないなぁって思って…でもなんか面白そうな映画やってないみたいだからいっそのことおまえのおすすめ見ようかなって」

 

そう言いながら、見ていたスマホで映画のスケジュールを見せる健太

 

…確かに、健太が好きそうなものはなかった

 

「成る程…最近じゃないので良いなら、前に観た『スパイダーマン』シリーズは結構面白かったぞ?」

 

「へえ、どんな話なんだ?お前、そんなタイトルの映画、どこで観たんだよ?」

 

健太がそれを聞いて、興味を示す。

悠人は、特に気に留めることなく、軽く説明する

 

「ニューヨークが舞台で、特殊な蜘蛛に噛まれた主人公が蜘蛛の能力を得て活躍する話」

 

悠人が話し終えると、健太は顎に手を当てて、真顔で唸った

 

「なあ、悠人。お前、それ本当に映画で観たのか?」

 

「?ああ、もちろん。何時見たか覚えてないけど、結構面白かったぞ?」

 

健太はそう言うと、慣れた手つきでスマホを操作し始めた

 

「よし、ちょっとググってみるわ。『スパイダーマン』…っと」

 

数秒後、健太はスマホを見つめたまま、完全に動きを止めた

 

「……悠人。おい、マジで言ってるのか?『スパイダーマン』なんて映画、存在しないぞ?…漫画ならあるけど」

 

悠人が身を乗り出すと、健太は検索結果が表示されたスマホの画面を突き出してきた。健太が検索窓に打ち込んだ「スパイダーマン」というキーワードに対し、表示されたのは同じ題名のコミック…

 

それも、日本に進出してないからか、英語版だけだった

 

「ほらな?コミックはあるけど映画化されてないって…おまえ多分、何かと勘違いしてないか?」

 

-まぁ、面白そうだけど

 

スマホの画面を見つめながら、悠人の頭に疑問が浮かんだ

 

「(おかしいな。そんな馬鹿な。世界中で知らない奴はいないくらいの超有名コンテンツだぞ?…まさか、俺の勘違いか?いや、こんなにも鮮明に覚えているのに?)…じゃあ、俺の勘違いか…?」

 

その時だった

 

-ガツンッ!

 

急に後頭部を殴られたような激しい痛みが悠人を襲った。視界が急速に歪み、教室の輪郭がぼやける

 

「っ…う…」

 

同時に、胃の底からせり上がってくるような強烈な吐き気と、立っている処か座っていることすらも辛く感じるほどの激しい目眩が悠人を襲った…

机に手をつくが、その手が震えて力が入らない

 

「あ、同じ作者の作品で映画化されてるやつあるな…これ見よ…って悠人、どうした!?」

 

作品を物色していた健太が驚いて声を上げる

 

悠人は、健太の心配そうな顔が二重に見え始めたのを感じた

 

「っ…悪ぃ、ちょっと…気持ち、悪い…」

 

机に突っ伏そうとした、その瞬間、全身から力が抜け、悠人はそのまま椅子から床へと崩れ落ちた

 

-ガタン!

 

と大きな音が教室に響く

 

「悠人!おい、しっかりしろ!」

 

「先生呼んでくる!ってスマホあるんだから先に119が正解なのかっ!?」

 

健太の慌てた声と、教室にいた他のクラスメイトの声も、遠くの、水の中にいるかのようにくぐもって聞こえる…

悠人の意識は、急速に白く霞んでいく

 

「(ああ、だめだ…意識が、遠くなる…)」

 

最後に残された僅かな意識の中で、何かの記憶が、閃光のように頭を駆け抜けた

 

―あ、そうだ……俺、転生したんじゃん……―

 

そう頭に浮かんだのを最後に、悠人の意識は完全に闇に包まれた…

健太たちの焦燥に満ちた声は、もう彼には届いていなかった…

 

 

 

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